第13章 千人の移民 2
第13章
千人の移民 2
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9月30日に出発した“エヴィエイションクルーザー”の艦隊は、日付けが変わった10月1日の深夜に、新たなルベスタリア王国民1,000人を連れて帰って来た。
ルベスタリア暦3年10月1日をもって、ルベスタリア王国の人口は1,674人。
たった1人から始まったルベスタリア王国は、僅か3年で、人口1,000人を突破したのだ。
もちろん、まだまだ此れからだが、僕にとっては感慨深い夜となった…………
其れから、1ヶ月、秋の移民でやって来た者達は、日々学校での勉強に勤しみ、春の移民でやって来た者達は、殆どの者が学校を卒業して各所で働いている。
3階農業階、4階畜産階だけで無く、1階の商業階、2階の工業階、5階の水産階も僅かづつの人員ではあっても人が働き始めて、商業階が動き出した事で、学校の大食堂だけで無く、各自での自炊も出来る様になった。
1階商業階には一般家庭用のマンションも有り、無担保無金利でのローンも組める様にしてあるので、そちらに住み始める者も僅かにいる。
因みに、こちらに住む者が僅かなのは、代理官の試験に合格して、代理官宿舎に住む者が非常に多いからだ。
そして、王城内だけで無く、王都西部の国営牧場、エアポートタワー、アエルエンタープライズにも人員の配置を行う事が出来た。
B級代理官の地獄の面接を頑張った甲斐も有る。
なので、現在のS級代理官のみんなの配置は、ティニーマとレアストマーセの法律担当は変わらず。此処は最重要教育なので、絶対に緩めない。
学校にはイデティカを校長として残し、役所もサウシーズが変わらずで役職は所長になっている。
3、4、5階の農業、畜産、水産階と国営牧場はディティカが管理して、1、2階の商業、工業階はネクジェーが管理している。
そして、エアポートと軍部をペアクーレとリティラが担当して、バスターミナルとアエルエンタープライズをティニーマとグレーヴェが担当している。
ペアクーレ、リティラ、ティニーマ、グレーヴェの4人はまだ人数の少ない場所なので、管理と云うよりほぼ実務だ。
来年のA級代理官試験まではこの体制で行く予定だ。
そんなある日の事だった。
事件が起きたのは…………
「だから、言ってんだろうが!!
ソイツが先に誘って来たんだよ!!
其れに、ちゃんと、カネだって払ったっつてんだろうが!!
離せってんだ、偉そうなクソガキどもが!!」
イデティカからの緊急の呼び出しを受けて、僕が学校へとやって来ると、リティラとルーツニアスに取り押さえられた男が喚き散らしていた。
男の名前はゴノード、19歳。
春の移民でやって来た、僕が手術耐久レースで助けた者の1人だ。
このゴノードは、性格に問題が有るが、狼弾会のメンバーへと必死に助けを求めていた事から狼弾会のファイルでは、B判定にいた男で、四肢の壊死する病も重篤な状態だった為に、春の移民で連れて来ていた。
しかし、学校での勉強も真剣に取り組んでおらず、仕事もサボりがちで、食堂の食事にも文句を言い、歳下の成人や代理官すら見下す様な発言をしていると報告を受けていた男だった。
僕としては、せっかく助けた命なので、秋の移民達が落ち着くのを待ってから、見せしめに利用しようと思っていたのだが、其れが良く無かった…………
此処に来る迄に、あらましを聞いたところ、このゴノードは、秋の移民達がまだ、此処の生活に慣れて居ないのを良い事に、少女の1人を騙して部屋に連れ込んで強姦をしたらしい。
今朝、一時宿泊階の廊下で蹲っていたその少女が発見されて、校長のイデティカに報告が来たそうだ。
イデティカは直ぐに指示を出して軍部へと連絡に行かせて、自分は僕を探しに来た。
そして、軍部から来たリティラとルーツニアスが何食わぬ顔で登校して来たゴノードを取り押さえたそうだ。
学校前では喚き散らしているゴノードを地面へと抑え付けるリティラとルーツニアスから少し離れて、ペアクーレが被害に遭った少女ツナフォーテを守る様に様子を見ていて、ツナフォーテは怯えながらペアクーレの陰に隠れて震えている。
その状況を遠巻きに学校の生徒や教育係の代理官達が大勢見ていた。
僕はツカツカとゴノードの方に歩いて行くと、尚もギャーギャー言っているゴノードの頭を踏み付けた。
「!!んが、ぐご?!」
「おはよう、ゴノード。
キミの言葉は聞くに堪えないから、地面でも咥えて静かに聞いててね。
リティラ、ルーツニアス、離して良いよ。
コレはキミ達が触れるに値しないモノだからね」
「はい」
「了解しました」
リティラとルーツニアスは直ぐにゴノードを離すと埃を払って、ペアクーレのところに歩いて行く。
僕の言葉を聞いたからか、2人は揃ってハンカチで手を拭いていた。
「ゴノード、キミは授業態度が余り良く無かった様だから知らないのかもしれないが、ルベスタリア王国では学生の間は恋愛も禁止だ。
だから、例え夫婦でも、別々の部屋に住んで貰っている。
つまり、彼女ツナフォーテが誘ったとか、お金を払ったとかは言い訳にはならない。
まあ、その言い訳も全て嘘の様だから、言い訳になるかどうか以前の問題だけどね。
此れもちゃんと授業で習っている筈だけど、僕やS級代理官には、嘘は通じないんだよ」
僕に踏み付けられて、逃げようともがき、とうとう僕の足を殴り始めて、リティラ達の表情が険しくなるが、僕はそのままピクリとも動かさない。
「僕は、このルベスタリア王国を全ての国民が幸福に暮らせる国にしたいと思っているけど、国民以外はどうでも良いんだ。
敵対者には容赦しないし、国民足り得ない犯罪者にも容赦はしない。
ゴノード、キミの最も重い罪はツナフォーテを傷付けた事だ。
其れは、彼女の心も含めてね。
そして、次に重い罪は、ツナフォーテのルベスタリア王国への信頼を貶めた事だ。
このルベスタリア王国へ来た者はみんな、辛く苦しい日々を幸福で明るい未来へと変えて行く為に移り住んで来た。
しかし、キミはツナフォーテのその想いも踏み付けた。
このルベスタリア王国にも、不幸や悲しみが有ると思わせて、感じさせてしまった。
其れは、ひいては、ルベスタリア王国全国民への裏切りでもある。
そして、キミの代理官達への暴言も授業で習っている筈だね。
その行為は、国家叛逆罪だ。
ああ、ついでに、さっきから僕を殴っている事もね」
そこ迄言ってから、僕はゴノードの頭から足を下ろす。
ゴノードはガバッと起き上がって、逃げようとするが、もちろん逃がさない。
襟首を掴んで持ち上げる。
「何が、罪だ!!
ただのお坊ちゃんの王様ごっこのくせに!!」
ゴノードは掴んだ腕や僕の身体を殴ったり蹴ったりしているが、まあ、全く効かない。
「まあ、お坊ちゃん育ちは認めるけど、王様はごっこじゃ無いよ」
「けっ!!今迄だって、真面目に勉強しろだの、一生懸命働けだの言って、オレが幾らサボろうが、何にも出来なかったクセしやがって!!
何が、国家叛逆罪だ!!
殺せるモンなら殺してみやがれ!!」
「アッハッハ…………
ゴノード、キミは本当に不真面目だったんだね」
「な、何がおかしいってんだ!!」
「国家叛逆罪の罰に、死刑なんて無いよ」
「なに、だったら…………」
「…………国家叛逆罪に、死刑なんて、そんな生ヌルい罰がある訳無いだろう?」
「ひっひぃ!!」
笑顔で教えてあげた僕にゴノードは悲鳴を上げる。
「とは言え、先ずは強姦罪だ。
ペアクーレ」
僕が声を掛けるとペアクーレが頷いてツナフォーテと小声で話し始める。
そして、「100回です」と、答えた。
僕がSランクハンターでもある事でも思い出しているのか、怯え始めたゴノードはガタガタと震え始めた。
「そうか、たった100回か。
良かったね、ゴノード。ツナフォーテが優しい子で。
国家叛逆罪の事すら知らない、不真面目なゴノードは、強姦罪の罰も知らないよね?
強姦罪の罰は、被害者の希望する回数、死なない様にナイフで刺す事だ」
僕はそう言うと、ベルトから、常時持っている“トラッキングナイフ”を抜いて、ゴノードの太ももを突き刺す。
「此れも1回だし……」
「いでぇ!!」
引き抜いて、同じ場所をもう一度、刺して中でグリグリする。
「此れも1回だ」
「ぎゃあああああ!!!!」
「おっと、今のはただの説明だから、回数には含まれないよ?
じゃあ、1回目!!」
「ぎゃあああああ!!!!」
「2回目!!」
「や、やめ!!ぎゃあああああ!!!!」
「3回目!!」
「た、頼む!!やめ!!ぎゃあああああ!!!!」
そのまま、何度も何度も刺しては捻じ込む事を繰り返す。
叫び続ける、ゴノードを見るに堪えられなくなった周囲に居た子供達が恐怖に怯え泣きながら学校に入って行こうとするのを、リティラが止めた。
大人の学生も、僕の姿に怯えている者も多そうだが、まあ、此れも必要なデモンストレーションだ。
そして、子供達を止めたリティラが、子供達に言って聞かせる。
「……みなさん、ノッド様は神様の如く、優しく慈悲深い方です。
しかし、同時に神様の如く、罪を許さず、厳しい罰を与えられる方です。
確かに、あの罪人の苦しむ様は、恐怖を感じるモノかもしれません。
ですが、目を背けてはいけません。
あの罪人の姿を忘れず、貴方達自身が、絶対に罪を犯さない戒めにしなくてはいけません。
そして、ノッド様のお姿も忘れてはいけません。
普段は、誰よりもお優しいノッド様が、罪人にとってはどれほど恐ろしい存在になってしまうのか。
そして、このお姿こそが、私達の見えないところで、ノッド様が私達を守って下さっているお姿だと云う事を忘れてはいけません」
リティラは子供達を諭す様に言いながら、周囲の大人の学生達にも聞こえる様に話す。
もちろん、リティラの計算だろう。
S級代理官のみんなは人心掌握術もキチンと勉強している。
そして、泣いてしまっていた子供達の頭を優しく撫でると、ゆっくりと顔を僕の方に向かせて行く。
子供達が全員、僕の方に向きを変えてから、リティラはゆっくりと地面に両膝をついて、祈る様に両手を胸の前で組むとリティラ自身も真っ直ぐに僕の方を見る。
子供達も真似をして行き、膝を着いて手を組み始めると、周囲の大人達も同じ様にし始めた。
まさに罪人を裁く、審判の神に祈る光景の様だ。
子供達には背中しか見えないし、大人達も全員が僕の方を見ているので分からないだろうが、リティラの顔には、『褒めて下さい!!』と書いてあるが…………
そして、計算高く、イデティカが何処からとも無く取り出したビデオの魔導具で録画しているが…………
まあ、デモンストレーションの公開処刑なので、ちょうど良いだろう。
そうこうしている内に、100回目を迎えた。
ゴノードは叫び過ぎて声も枯れ、乾いた呻き声しか発さなくなっている。
「……じゃあ、ゴノード。
次はツナフォーテの信頼を失わせてしまった罪だけど、僕がせっかく治してあげたのに、犯罪に使ったキミのその両腕と、ツナフォーテの苦しむ姿を見たであろう、その両目を貰おうか」
「がががあああああ!!!!」
ドサッドサッ…………
地面に無造作に落ちる両腕と、血の涙を流す両目。
その両目と腕を無くした肩口に、ゆっくりと“トラッキングナイフ”を腰に戻してから、ポーチから、止血薬を取り出して掛けて行く。
以前の前ウルフバレット逮捕時の教訓を活かした、痛み止め能力の無い止血薬だ。
「……ゴノード、聞こえてるかな?
最後にキミの国家叛逆罪についてだけど、もちろん、さっきも言った通り殺さないよ。
キミは5歳までは両親と貧しいながらも幸せに暮らしていたそうだね?
だから、キミの記憶を今日から5歳まで消して、5歳児の状態でアルアックス王国のスラム街に帰してあげるよ。
両腕も両目もついでに両親も突然失った子供になって、あのスラム街で暮らすと良い。
ちゃんと、直ぐには死なない様に、しばらく監視も付けておくよ。
しっかりと、生き地獄を苦しんでから、本当の地獄に行くと良い」
ゴノードは、もう声も出ず、「あうあう……」言いながら必死に首を振る。
「残念だけど、もう遅いよ、ゴノード。
ちゃんと、このルベスタリア王国に来た時に心を入れ替えて真面目に生きていれば、幸福な人生を送れたのに、愚かにも犯罪を犯してしまったキミには、生まれて来た事を限界まで後悔して死んで行くしか、選択肢は無いんだよ。
ルーツニアス、ゴノードを連行して」
「はい、了解しました!!」
ルーツニアスは、僕が「触れるに値しない」と、言ったからか、触らない様にしながらゴノードを縛り上げて、ひこずって行った。
その様子を見送ってから、僕はゆっくりと被害者のツナフォーテの下に行く。
ツナフォーテも周囲に合わせてか、膝を着いて手を組んで此方を見ていたので、優しくその組んだ手を取って、ゆっくりと立たせる。
そして、僕はツナフォーテにしっかりと頭を下げた。
「ツナフォーテ、本当に申し訳無い事をした。
僕が救うに値しない、あのゴノードを助けてしまったばかりに、キミを大いに傷付けてしまった。
心からお詫びする。
この通りだ」
「!!ノ、ノッディード陛下、あ、頭を上げて下さい!!
陛下のせいじゃ無いです、悪いのはあの男で、わ、私も、不用心だった私も悪かったんです」
「いや、このルベスタリア王国に於いて、騙された者は何一つ悪く無い。
不用心だった事も、人を信じた事も、キミは何一つ悪く無い。
悪いのは、犯罪を犯したゴノードと、犯罪を起こしてしまったルベスタリア王国の国王たる僕にある。
本当にすまなかった」
「いいえ、その、本当に、ええっと。
あ、頭を上げて下さい、お願いします……」
「許して貰えるだろうか?
もう一度、ルベスタリア王国を信じて貰えるだろうか?」
「はい、はい!!
もちろんです。
許しますし、信じますから、お願いですから頭を上げて下さい」
「ありがとう……」
僕はゆっくりと頭を上げて、申し訳無い気持ちと共に笑って見せた。
ツナフォーテも、やっと落ち着いたのか、ゆっくり呼吸を整えている。
「ペアクーレ、ツナフォーテのアフターケアをお願い。
全て許可するから、最大限の便宜を図ってあげて。
イデティカ、授業の遅れの修正と、事件の経緯を纏めてサウシーズに回しておいて」
「任せて」
「はい、分かりました」
これにて、一件落着だと思っていたのだが…………
「…………ツナフォーテ、コレは一体どう云う事かな?」
「ええっと…………
ペアクーレ様が、『イヤな男に穢された心の傷は、イイ男に抱いて貰って癒すのが1番良い』と、仰られて、その、ルベスタリア王国が学生の間は恋愛禁止だからでは無くて、アルアックス王国に居た頃から、えっと、恋人も好きになった人も居なくて、その…………」
まあ、ペアクーレの差し金だろうとは思ったが、コレは間違いなく、S級代理官のみんながグルだろう…………
そうで無ければツナフォーテが僕の寝室に居る訳が無い。
確かに、ツナフォーテと似た様な境遇だった娘も居るから、みんながそう言うなら、男の僕よりは、ツナフォーテの心情を汲んであげられているのかもしれないが、今、ツナフォーテが言った様に、ルベスタリア王国は学生は恋愛禁止だ。
其れを国王の僕が違える訳にはいかないんだよねぇ〜……
「……ツナフォーテ、大体の事情は分かったけど、国王の僕が学生恋愛禁止の法律を破る訳にはいかないから、キミがもしも、どうしても不安なら、今夜は一晩中抱き締めて眠ってあげるよ」
「…………お願い、しても良い、でしょうか?…………」
「ああ、分かった。
おいで…………
…………ツナフォーテ、僕はキミに対して責任がある。
だから、キミが望むなら、学校を卒業後に特例で僕の庇護下に入って貰っても良い。
でも、もし、キミがこのルベスタリア王国への希望をまだ失わずに居てくれるなら、A級代理官を目指してくれないかな?
そうすれば、僕は必ずキミをS級に指名する。
その時こそ、本当に僕のモノになってくれないかな?」
「あの、私は、S級の方々みたいに特別じゃ無いですし、その、美人じゃ無いですし…………」
「S級代理官のみんなが特別なのは、僕に対しての気持ちだけだよ。
元々、みんな、アルアックス王国で普通に暮らしてた、いや、寧ろ、ツナフォーテよりも辛い状況で暮らしてた娘達だよ。
彼女達がキミ達に特別に映るくらいに成長してくれたのは、僕と出会った後からだよ。
だから、キミも頑張れば、その特別になれる。
まあ、その前に、他の誰かがキミの心を射止めちゃうかもしれないけどね」
「いえ、そんな、ノッディード陛下以上の男性なんて、居ませんし…………」
「其れは、光栄だね。
そうそう、一応言っておくけど、ツナフォーテもとっても可愛いから、見た目だってみんなに負けて無いよ。
僕は今、すっごく我慢してるんだからね」
「え?!そんな、私なんて…………
その、ノッディード陛下なら、ちょっと怖いですけど…………」
「其れ以上言っちゃダメだからね。
僕はルベスタリア王国の王様なんだから」
「あ!!ご、ごめんなさい!!
王様が法律を破っちゃダメでしたよね。
…………私、頑張ってみます。
A級代理官、目指してみます!!」
「嬉しいよ、楽しみにしてるね」
そのまま、しばらく話しをして、宣言通り、抱き合うだけで眠った。
本当だよ?
翌朝、ツナフォーテも一緒にみんなで朝食を摂って、その後はペアクーレに引き継いだ。
僕が出る前に、ツナフォーテはみんなに掻っ攫われて行ったが、その日の夜に、僕はみんなから喝采を浴びたので、正しい判断だったようだ…………




