第13章 千人の移民 1
第13章
千人の移民 1
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9月に入り代理官試験が行われた。
今回は特例で、9月1日にC級代理官試験が行われ、其れに合格した者は、即9月8日のB級代理官試験も受ける事が出来る様にした。
此れは、この後、行われる秋の移民1,000人を受け入れる為の管理者、教育者を増やす為の特別処置だ。
そして、この作戦は、僕を面接地獄へと叩き落とした…………
予想外だったのだ…………
こんなにいっぱい合格するなんて…………
現在、ルベスタリア王国民は、僕とナエラーク、アエルゲインを入れても、674人しか居ない。
なのに、C級代理官の合格者は277人も居て、更に今回の合格者と前回のリベンジ者を合わせて、B級代理官の合格者が106人も居たのだ。
C級代理官の面接は、ほぼ、嘘や誤魔化しが無いかを見極めるモノなので、1人当たりも直ぐだし、時間も無いので纏めて行ったが、B級代理官の面接はキチンと本人を知る必要があるので、結構長い。
其れを106人も行ったので、面接だけで1週間掛かり、合格発表は翌週だった…………
此処まで人数が多くなったのは、僕が63時間ぶっ続け手術を行った事と、女王鬼を倒して四肢が壊死する病気の原因を取り除いた事、トドメで、再発防止の状態異常回復ポーションを全国民と家畜に迄与えた事で、僕への崇拝が、昨年やって来た子供達同様に神様レベルになったのが理由だ。
僕的には嬉しい誤算ではあったが、面接はしんどかった…………
僕が不老不死じゃ無かったら、10歳くらいは老け込んでいたかもしれない。
一応、元々C級代理官だった35人と、元勇者パーティーの6人は全員が合格してくれた。
ワルトルットゥ達に関しては、女王鬼討伐会議に参加して、考え方を改めて行ってくれたのが大きいと思う。
合格発表がされてからは、また、慌ただしい日が続いた。
各代理官への教育だ。
今回の代理官試験前の学校の卒業試験は、残念ながら全員が合格とは行かず、まだ在学中の者も居る。
なので、学校も並行して行わねばならず、人手不足を補う為にも僕も教育に参加していた。
因みに今回は戦闘面での教育や装備選びも、“エヴィエイションクルーザー”の運転訓練も行っていない。
此れから冬になるので、1,000人の移民への教育をしながら、春に向けてゆっくりやって行く予定だ。
「…………と、云う訳でB級代理官はC級代理官に比べて、かなりの国家機密を知って、尚且つ、利用する権限が有ると言う事だね」
僕の前には30人の生徒が座っている。
みんな、配られたばかりの、B級代理官用のセキュリティパネルを見ながら、真剣に聞いている。
代理官には1人1人、セキュリティパネルが配布されるが、そのパネルは代理官のランク毎になっていて、与えられる権限についても個人毎の設定と代理官のランクによる設定が入っている。
現在、僕はB級代理官共通の内容とこのクラスの共通の内容を説明している感じだ。
このクラスは、一応、軍部、若しくは、オールマイティーに動いて貰う予定のメンバーを集めたクラスだ。
元々居た15人のB級代理官と同じ様な位置付けになる。
ナエラークにも会っちゃうメンバーだ。
僕の説明終了と共に、シュパッと、元勇者パーティー、聖騎士ハートルシューの手が上がる。
「はい、ハートルシュー」
「はい!!軍部の中に憲兵としての任務がある事は知っていましたが、今のB級代理官の権限で言えば、B級代理官の憲兵には、逮捕後、即、罪状の判決を行う事が出来ると云う事だと思います。
その場合、もちろん被害者も加害者もお互いの言い分が有り、特に加害者であれば、虚偽の発言もあるかと思います。
その、虚偽かどうかの判断も、自分達B級代理官が行っても良いのでしょうか?」
「いいよ、絶対に虚偽だって自信がある時は。
ただ、自信が無い時には、僕かS級代理官、来年合格者が出ればA級代理官の誰かを呼んでね」
「その、例えば酒場での喧嘩の仲裁の様な内容だったとしてもでしょうか?」
「そうだね、必要ならいい加減な判断をせず呼んでくれていいよ。
但し、僕達を呼ぶなら、前以て、本人達に呼んでも良いか聞いてね。
そして、確認して欲しい。
『僕やS級代理官のみんなには、嘘を見抜く能力が有る。
そして、僕達が嘘を見抜いたら、どんな小さな事件でも、国家叛逆罪になるけど其れでも良いのか?って。』
代理官のキミ達は、全員が僕の代理だ。
つまり、B級代理官のハートルシューに嘘を吐いたと云う事は僕に嘘を吐いたと云う事だ。
其れは、ルベスタリア王国では立派な国家叛逆罪になる。
ルベスタリア王国 憲法 第2条は?」
「“全てのルベスタリア王国民は、国王及び国家への叛逆は絶対に赦されない。計画や行動はおろか発言や思想すら認められない。”です!!」
「そう、ハートルシューは知っているだろうけど、僕は敵対者には一切の容赦はしないよ。
不老不死の僕にとって、死ねば全て赦されるなんて、甘い考えは無いからね」
「…………だからこその、“極刑”では無く、“絶対に赦されない”なのですね……」
「そう云う事だね。
と、云う訳で、みんなも嘘を認めない国家にして行く為にも頑張ってね。
他に質問はあるかい?
……はい、ワルトルットゥ」
「はい!!
先程のお話しでは、来年のA級代理官試験に合格した者も、嘘を見抜ける必要があると思いますが、そういった魔導具が有って、誰でも嘘が見抜ける様になると云う事でしょうか?」
「いいや、今のところそんな魔導具は無いよ。
B級代理官には、特別に訓練が予定されている事は聞いてるよね?
A級代理官にも、同じ様に特別な訓練が有る。
その訓練の結果、嘘も見抜ける様になるんだ。
一応言っておくけど、別に危ない怪しげな訓練じゃ無いからね」
「…………其れはつまり、普段から嘘が見抜ける様になると云う事ですか……」
「そうそう、だから、ワルトルットゥがナンパした女性が実は既婚者だったって云うのも見抜けちゃうから、安心だね。
だから、頑張ってA級になってね」
「はい!!必ず!!」
…………力強いな、ワルトルットゥ………
本当に、ナンパした女性が既婚者で、トラブルでもあったんだろうか…………
聖女キルシュシュが、「動機が不純です。ワルトルットゥは相応しくありません」と、言っているが、まあ、僕はワルトルットゥ側の人間なので、その動機でもOKだけどね。
そして、新たに手が上がる。
今回のC級B級連続試験に続けて合格した、1人、ブリングシオンだ。
彼は境遇的にも僕への忠誠心が非常に高い。
彼は妻と娘の3人暮らしだったが、先ず妻が四肢が壊死する病気になった。
そして、次は娘が病気になって、最後に自分も病気になった。
ブリングシオン自身は左手から発症したが、片腕になった事で仕事を失い、食べて行く事も出来なくなっていたところを狼弾会からの支援で何とか生き延びた。
しかし、娘の病状が悪化して行き、限界が近付いて居た時に、僕が3人纏めて救ったのだ。
その時には既に、ブリングシオン本人もかなり病気が進行していて、激痛の疾る壊死した足をひこずって、妻と娘を看病している状態だった。
手術後の経過を見ていた時に、
「何度も何度も、一緒に死のうかと思ったけど、諦めなくて本当に良かった……」
と、涙を流して語っていた。
そんな、ブリングシオンの質問は、
「同じ代理官同士でトラブルが起きた場合はどうすれば良いでしょうか?」
と、云うモノだった。
確かに、こんなに一気に同格の者が現れたら、上下関係作りが難航する可能性も十分あり得る、良い質問だ。
「良い質問だね。
先ずは当たり前だけど、しっかりと話し合う事だ。
其れも、代理官の優先順位、僕、国、国民、自分の順をしっかりと踏まえて、どちらが正しいかをしっかり議論する。
其れでも、話しが平行線なら、話し合う人数を増やす。
此れも、順序が有る。
先ずは、同じ職務に就く同格の代理官、次に別の職務に就く同格の代理官、其れでもまだ揉めたら、上位の代理官だ。
上位の代理官の決定は絶対だから、其れ以上の揉め事は認めない。
因みに、恋愛についてや夫婦間のトラブル以外の殴り合いでの解決は禁止だから」
「了解致しました。ありがとうございます」
納得して、席に座るブリングシオン。
しかし、此処で手を上げるウィオローフ。
彼も家族ごと助けた非常に忠誠心が高い男だが、彼は恐妻家だ。
因みに、直ぐ横に座っているウィキャリーがその恐妻なのだが、彼女も非常に忠誠心が高いので、一緒にB級代理官に合格している。
見た目は、全くそんな風には見えない気立ての良さそうなウィキャリーだが、怒った時には絶対に逆らえないティニーマの様な威圧感と、黄金の右を持っているらしい…………
そして、ウィオローフの質問は…………
「夫婦間のトラブルは、ルベスタリア王国でも拳で解決してしまうんですか?」
だった…………
ウィオローフ、泣きそうだ…………
僕はゆっくりと進んで行き、ウィオローフの肩に優しく手を置く。
「ウィオローフ、安心して良いよ。
キミは此れからのルベスタリア王国に必要な人材だ。
だから、もし、折られちゃったら、遠慮無く怪我回復ポーションを使って良いからね」
「……ええっと、ノッディード陛下、其れって…………」
「あのね、ウィオローフ。
ウィキャリーはキミを心から愛している。
病に苦しむキミへの献身が其れを何よりも物語っているでしょう?」
「はい………、その……、妻の愛情は疑ってはいないのですが…………」
「そうだね、疑う余地も無いよね。
そして、ウィキャリーの愛情表現がキミの喰らっている拳だ」
「え?!愛情……表現?……。肋骨が折れるのが?」
「そうだよ、ウィキャリーは今でもキミに愛を全て言葉にするのが恥ずかしいんだ。
だから、恥ずかしさの裏返しで、ちょっとだけ、手が出ちゃうんだよ。
大丈夫、キミはこんなにも愛されているんだから、打撲や骨折なんて些細な事さ。
良く考えてごらん、もしも、ウィキャリーの拳がキミに向かなくなったら、キミは寧ろ不安になってしまうんじゃないかい?
ウィキャリーの愛が他の誰かに向いてしまったんじゃないかって…………」
「…………そう、かもしれません…………」
「分かってくれたみたいだね。
どうしてもって云う時は言ってね、ちゃんと手術してあげるから」
「え?」
「じゃあ、時間も良い頃合いだから、今日は此処までにしよう」
「「「ありがとうございました」」」
横目でチラッと見たウィキャリーの表情は少し恥ずかしそうだったので、僕の適当に言ったウィオローフへの慰めは以外と当たっていたのかもしれない。




