第11章 賢者の子孫 5
第11章
賢者の子孫 5
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賢者 アエルゴイヌの子孫、ジャッジメントオーガ アエルゲインと出会って10日余り、今日はとうとうアエルゲインが久遠の空の女王 ナエラーク ファースト エタニティスカイと初の会合を果たす日だ。
アエルゲインと会った翌日から、アエルエンタープライズ本部ビルの魔物の掃討を行い、ビルの戸締まりをしっかりと行って、一旦、ルベスタリア王国に帰って来た。
本部ビルが在った場所は中央区のほぼ中心だ。
通常であれば滅多にハンターがやって来る場所では無いし、直ぐ側に魔都 ウニウンの中枢が在るのでみんな其方に行って近隣のビルは余り探索される事は無い。
しかし、現在魔都 ウニウンの中心部は極端に魔物の少ない異常事態となっている為、万が一、他のハンターが大勢やって来てアエルエンタープライズ本部ビルに無断侵入されては堪らない。
なので、しっかりしっかりと戸締まりをした訳だ。
そして、ルベスタリア王国に戻って早々に東部工業区を作ってから、アエルエンタープライズ本部ビルの設置場所を準備して、ビルの入れ物の箱を作って、魔都 ウニウンに戻った。
東部工業区は北部エアポートと全く同じ雪だるまにしたので、代理官のみんなにも手伝って貰ってあっと云う間に完成したので、慌ただしくはあっても無理の無いペースで戻る事が出来た。
アエルエンタープライズ本部ビルへの再訪の際には、“ハイスツゥレージセカンド”ではなく、“ミグレーション1番艦”で向かって、箱を被せてから屋上に着陸して、屋上ハッチから、ぶった斬ったアエルゲインを引っ張り出して、“ミグレーション1番艦”に乗せてから回復した。
もちろん、ちゃんと麻酔をしてから斬ったよ?
忘れてないよ?
そして、ビルの掘り返しは来週からにして、先ずはアエルゲインをナエラークと会わせてあげる事にしたのだ。
「ナエラーク、久しぶり。
リティラから聞いてると思うけど紹介するよ、新しくルベスタリア王国民になった、アエルゲインだ。
ジャッジメントオーガだけど、ちゃんと話しが通じるから」
「『ファーストドラゴン』ナエラークサマ、アエルゲイント、モウシマス。
オミシリ、オキヲ」
「うむ、リティラから聞いている。
本当に、暴れないし、話しも出来るのだな」
「ハイ、ソセン、ケンジャ アエルゴイヌ ノ、ノコシテ、クレタ、マドウグト、チノ、オカゲデ、ジガヲ、ウシナワズニ、スミマシタ」
「賢者 アエルゴイヌか。
私も名前は知っている。
“ラーニング•プラクティスのアエルゴイヌ”だな。
歴史上初の魔法のコピーが出来たと云う」
「ハイ、『ファーストドラゴン』サマニ、シッテイタダケテ、イルコト、コウエイ、デス」
「そうか。
そして、アエルゲインは、魔物となって死んだ妻の身体を元の人間の身体に戻して弔ってやりたいと望んでいると聞いているが、既にノッディードから聞いていると思うが、私は魔物が生まれる前に、此処に囚われている。
なので、魔物については、一からの研究となるだろうが、其れは分かっているのだな?」
「ハイ、ワタシデハ、デキナカッタ、ハッソウヤ、モッテイナイ、チシキデ、ゴキョウリョク、イタダケレバ」
「あい、分かった。
正直言って、死者の蘇生は不可能だし、魔物を人間に戻す場合も、自我が崩壊していれば難しいだろうと思っていたが、肉体だけならば、可能性がある。
上手く行けば、其方の肉体も元に戻せるだろう」
「ゴキョウリョク、カンシャ、シマス」
「ねぇ、ナエラーク。
姿を変える事が出来る魔法が作れたらさ、ナエラークも変身して、そこから出られないかな?」
「…………其れは難しいだろうな。
この檻の隙間は私の魔核よりも小さい。
魔核を小さくする事は恐らく出来ないからな。
其れよりも、“イモータルウォール”を切断する術を見付ける方がまだ、可能性があるだろう」
「そっか…………
せめて、接合部分をバラせる方法が見付かれば良いんだけどね…………」
「まあ、其方は気長に考えよう。
私は今はリティラやノッディード達が来てくれるので、退屈はしていないしな。
強いて言えば、私はもう少し、ノッディードが逢いに来てくれたら嬉しいぞ」
「ごめんね、ナエラーク。
来年の冬には、もう少し時間が出来る様になるから、そうしたら、今よりは逢いに来れるよ。
もうちょっと、待っててね」
「ああ、移民計画の事は分かっている。
ノッディードの思い描く、志しの高い目標もな。
私とノッディードの間には悠久の時が在る、わがままは言わんよ。
ちょっとだけ、寂しいだけだ」
言葉通り、寂しそうにするナエラークに手招きして、そっと鼻先を撫でる。
少しくすぐったそうにしながらも、ナエラークは嬉しそうだ。
そんな様子をみんなが微笑まし気に見ている。
ナエラークがちょっと、甘えん坊なのはみんな知っているし、ナエラークは此処でしか僕達に会えないから、此処に来た時はいつもナエラークが優先だ。
「オオ…………
セカイサイキョウ、サイコノ、イキトシ、イケルモノ、スベテノ、チョウテンタル、『ファーストドラゴン』サマト、ココマデ、ココロヲ、カヨワセテ、オラレル、トハ…………」
僕達の様子を見ていた、アエルゲインは、怖い顔で感涙していた…………
ナエラークの檻の周囲は現在、防音の壁で囲って機械類の音が入り難くしてある。
どうしても、“飛行ユニット”製造機械への順路だけは塞げ無いが、其れ以外は機械の音が入って来難く、ナエラークの声が外に出難い様にしてある。
其れと共に、この部屋はナエラークとリティラの趣味に沿った、お姫様っぽい部屋の装いになっていて、横にはキッチンやトイレなんかすら準備されて、此処で一日中ゆっくりナエラークと話せる様になっている。
僕は一日中此処に居た事は無いが、リティラやサウシーズ、ハンジーズは何度か一日中居たらしい。
ただ、せっかく作った部屋なのに申し訳無いが、今日は壁の一部を壊して改造だ。
普通の扉では、今後アエルゲインが出入り出来ないからだ。
とは言え、何処に、どう設置するか決まれば、作業事態は秒単位の話しだ。
あっという間に、扉が着いて、一旦、その場を後にする。
次は地下4階、此処は元々は隠し宝物庫だった。
とりあえず放置していたのだが、今日から此処はアエルゲインの部屋兼研究室だ。
とはいえ、現在はまだ何も無い。
一応、ウルフバレット モルツェンに伝書鳩の魔導具で頼んで、身長3m以上のジャッジメントオーガでも使える、ベッドに机、椅子やティーセットなんかを作って貰えないか、職人を当たって貰っている。
まあ、無理なら僕が冬になったら作るしか無いだろう。
因みに、この地下4階には排水設備などを増設する事も出来ず、シャワーやお風呂を使ったら、吸水の魔導具で水を集めて、地下1階まで捨てに行かないといけない不便な場所ではあるが、このエアポートタワーの地下用エレベーターは、ナエラークが出入り出来る様に作られていて大型な為、アエルゲインが身体を斬らなくても使えるので、この場所を部屋にしたのだ。
とりあえず、今日は藁と布で作った簡易ベッドと、ただの金属の箱の簡易机を置いて、シャワー室を用意した。
シャワー室はシャワーの魔導具では無く、農業用の散水の魔導具を使ったモノだ。
服もサイズがある訳も無く、ただ、大きな布を巻いただけではあるが、まあ、丸出しよりは全然良い。
其れらを整えてから、再度ナエラークのところに戻って、今後、どういった研究をして行って、どんなモノや資料が必要になって行くかの話し合いを行った。
アエルゲインは、アエルエンタープライズ本部最上階の魔導具、“ラーニング•プラクティス”の情報パネルとアーカイブを持って来ており、暫くはその内容をナエラークと擦り合わせて行って、僕達には回復魔法や身体強化、状態異常の魔導具なんかが、新たに見つかったら教えて欲しいとの事だった。
魔法の歴史を万単位の年月見てきたナエラークと、古代魔導文明時代の最新情報を集める大商会の会長だったアエルゲインの2人が知らない魔法や魔導具が早々見つかる筈も無い。
一応は、了承して、ふと気付く。
僕の腰に在る刀。
この“天地鳴動”の情報なら、2人も知らないのではないかと…………
僕には仕組みは分からないが、“天地鳴動”は複数の属性の魔法を同時に使う事が出来る。
この技術が解析されれば、今までとは違うアプローチが出来る様になるかもしれない。
“天地鳴動”に関しては、賢者 ラノイツロバーの書いた書物に記載されているが、未使用だった事から、技術的には広まっていない可能性が高いと思ったのだ。
そして、其れは正解だった。
2人ともやはり非常に博識で、“天地鳴動”の存在は知っていた。
今回の研究に使えるかは別として、是非直ぐに解析させて欲しいとの要望があった。
なので、結局、準備したアエルゲインの部屋は今夜だけ使って、明日の夜には、また、アエルゲインをぶった斬って、アエルエンタープライズ本部ビルに連れて帰る事になってしまった…………
まあ、アエルゲイン本人としては、麻酔のお陰で痛く無いし、別に良いのだろうが、今度からはぶった斬った後の、血や肉片の掃除は自分でやらせようと思った…………
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ルベスタリア暦3年4月24日
かつて、古代魔導文明時代、世界でも5本の指に入る巨大魔導具商会だった、賢者 アエルゴイヌが立ち上げた、アエルエンタープライズは、数百年の時を経て、僕のルベスタリア王国で今日、復活を遂げた。
王都ルベスタリアの東部工業区に無事移設されたアエルエンタープライズ本部ビルは、アエルエンタープライズビルと僅かに改名して、全ての魔導具製造機械の状態も元商会長アエルゲインによって確認された。
アエルエンタープライズビルは、元々は水回りの魔導具工場だろうと考えて、ルベスタリア王国への移設を計画したのだが、実は生活に必要なあらゆる魔導具が製造されており、武器すらも僅かに作られていた。
なので、僕の探していたモノの1つ。
“イモータルウォール”の製造も勿論されていて、今後の建築に大いに役立ってくれるだろう。
そして、冷蔵庫や照明なんかの生活必需品魔導具も潤沢に製造ラインが有った。
ビルは、1階のエントランスフロアから上の2階から95階迄は全て魔導具工場で、96階が事務フロア、97階が管理フロア、98、99階が研究フロア、100階が幹部フロアとなって居て、40,000㎡の94段重ね、実に376万㎡もの巨大工場だった。
もちろん、このアエルエンタープライズビルの所有者も僕で、新商会長も僕だ。
暫くは、僕の移民計画で使う事になるが、その後は、商会として営利目的の運営を行って行く予定だ。
此れからは、一般の雇用も作って行く必要が有る。
そして、螺旋階段の上の空中庭園と、賢者 アエルゴイヌの遺産、魔導具や魔法の解析、複製が出来る魔導具、“ラーニング•プラクティス”は、エアポートタワーの上部に移設した。
空中庭園部分には実は多くの隠し機能が有り、万が一の時に、ビルから分離して、他国に逃れられる仕組みが用意されていたのだ。
此れを使って、分離させた空中庭園を、エアポートタワーのビル上部に柱を伸ばして設置したのだ。
エアポートタワーの高さが480mで、周囲の壁の高さが500mなので、屋上の四方に20mの柱を立ててその上に設置したので、高さ500m幅300mの壁の上部左側に50m飛び出した感じで、直径200mの円盤が乗っかっている感じだ。
そして、工場部分の屋上からビル部分の屋上に向けて、大型エレベーターを設置して、ビル屋上と空中庭園の間の空間を部屋にし、アエルゲインの研究室兼私室にした。
その後、その研究室と空中庭園上部の“ラーニング•プラクティス”との間に空中庭園の外観を損わない様に工夫しながら、魔導具を設置して行き、研究室で“ラーニング•プラクティス”をモニター出来る様に改造した。
アエルゲインはさすが元アエルエンタープライズ商会長、そして、賢者 アエルゴイヌの子孫だけの事は有り、僕では決まった形での取り付けしか出来なかった防犯カメラの魔導具も、“ラーニング•プラクティス”も、研究室から遠隔操作出来る仕組みに変えて行った。
此れで、アエルゲインの研究準備は万端だ。
研究室から大型エレベーターで工場部分の屋上へ行き、そこから“エヴィエイションクルーザー”搬出用のリフトで工場内へ、更にもう一度、大型エレベーターに乗って地下に行けば、一度もぶった斬られる事なく、ナエラークに会いに行ける。
まあ、地下4階に作った部屋は完全に無駄になったが、屋上なら排水設備に限らず、色々と今後も改造可能なので、無駄だった地下4階は我慢しよう…………
因みに、この建設案を出したのもアエルゲインで、地下4階に部屋を作って無駄にさせた事を仕切りに謝っていた。
まあ、無駄になったが、良いだろう。
無駄になったが…………
せめて、空中庭園の取り外しは先に教えて欲しかったが…………
そんな訳で、アエルゲインに色々としてあげた訳だが、ちゃんと打算的な理由も有る。
其れは、アエルゲインが間違いなく、現代では最高の魔導具製作者だからだ。
そもそも、魔法が使えない今の人類には、基本魔導具は作れない。
しかし、隣国アルアックス王国の人工魔導具の様に、新たに生み出して行く術を確立していこうとされている。
だが、アエルゲインは、アエルゲインと“ラーニング•プラクティス”は、そんなモノでは無い。
“ラーニング•プラクティス”によって、魔導具をコピーして作りだし、新たな魔導具すら生み出す事も既に可能なのだ!!
残念ながら、何もかもとは行かない事が、僕の“天地鳴動”で証明されてしまったが、其れでも、凄まじい技術が手に入った。
更にアエルゲインの知識も素晴らしい。
魔都 ウニウンで僕が発見した“エアーバス”すら運べる大型エレベーターだが、なんと、アエルゲインが分解してくれて、持ち帰って来れたのだ。
僕は、ビルなどと同様に引っこ抜いて来る気でいたのだが、魔導具の正しい知識と経験を持ったアエルゲインは、正しい方法で運送出来る様にバラしてくれたのだ。
ついでに、今後、もしも、其処迄大きなエレベーターが必要になったら、アエルエンタープライズビルの工場の設定を変更して製作すら出来ると言う…………
ルベスタリア王国は、元々、僕が受け継いだ、賢者 ウィーセマーの遺産で魔導具に困る事の無い国ではあったが、更に進化して、魔導具が溢れる国へと発展したと言えるだろう。
アエルゲインは、それほどのモノを齎してくれた人材だったのだ!!
こうして、今回の魔都 ウニウン探索の目的、建材用魔導具工場、生活用魔導具工場、超大型エレベーターを僅か1ヶ月余りで一気に手に入れ、魔都 ウニウン探索の目的は、残すところ、あと1つとなったのだった…………




