第11章 賢者の子孫 3
第11章
賢者の子孫 3
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副会長室にて、エンペラーオーガリフレクションインスタントを倒した僕達Aチームは、そのまま100階の探索を続けていた。
連戦になると3人にはキツそうだったので、会長室、専務室、常務室を避けて、先に〇〇部長室や〇〇室長室を潰して行って魔物とは出会わないまま…………
「……さて、残すところ、会長室、専務室、常務室の3つだけだけど、3人とも大丈夫かな?」
「はい。また強い魔物が居るかもしれないって事ですよね」
「そうだね、特に会長室は。
気付いてるかな?」
「会長室だけ、特に広いですよね」
「其れに、この100階は四角いです」
「そう、此処は四角い。
と、云う事は丸い筈の最上階があって、そこに他より広い会長室から行ける可能性が高い。
会長室に居るか、その上の階に居るか。
ただ、上の階に居て、今度は難しそうなら僕が戦うから、その時は、この階のエレベーターホールまで退避してね」
「「「了解しました!!」」」
さて、先ずは、常務室…………
異常なし。
続いて、専務室…………
異常なし。
では、会長室…………
何も居ないが、奥へと続く扉が有る…………
3人へと振り返る。
頷く3人に頷き返して、奥の扉へと向かって…………
ガチャガチャ…………
ガチャガチャ…………
さすがに鍵くらいは掛けてあったか…………
「多分、カードタイプの鍵みたいだから、ちょっと探してみよう。
扉は木製みたいだから、斬れなくもないけど出来れば普通に開けたいから」
「「「了解しました!!」」」
と、云う訳で、鍵を探そう。
隠し扉な訳じゃ無いから、普段使いで使えるところだと思うんだけど…………
机周りに、ソファー周り、クローゼットの上着のポケットや、秘書室の机も探したが見つからない…………
「ううん…………
やっぱり、会長が持ってて、どっかに行っちゃったのかな…………」
「そうなると、探しようが無いですね…………」
「やっぱり、扉を破るしかありませんかね…………」
「そうだね。何処かにスペアが隠してあったりすれば良いんだけど…………」
「…………スペアを……隠して?………!!!!」
僕は、クワっと大きな鏡の横の大きな肖像画を見る!!
スペアが有るなら、パターン的に、あそこだ!!
勢い込んで、肖像画を捲るが…………
『さすがに、毎回此処ではないか…………』
そう思って、肖像画を戻して、ふと、隣の鏡も捲ってみると…………
『やっぱり、自分大好きかよ!!』
鏡の裏に隠しポケット、そこからゴールドのカードキーが現れた!!
『これからは、みんなにも肖像画と鏡はとりあえず捲って貰おう』と、思いながら、カードキーを奥の扉へ。
カシュンッ……
と音がして、扉がゆっくりと自動で開いて行く。
扉の奥には、絨毯が敷き詰められて、装飾の美しい螺旋階段だけがあった。
注意しながら、螺旋階段を登って行く。
すると、目の前には美しい庭園が有った。
高い天井の空間に美しく咲き乱れる花々。
中央と、向かって左右の端にはティースペースがあり、優雅な花に囲まれたティータイム。
朝日や夕日を見ながら、其れに照らされる花々を見ながらの憩いの時間を摂る為だけに、完璧に配置されているだろう素晴らしい空中庭園だ。
「凄い…………」
「綺麗…………」
「夢の世界みたい…………」
呟く3人の少女達はうっとりと庭園を見詰めている。
普段なら、好きにさせてあげたいところだが、今日の僕は先生役なので、ちゃんと注意しないといけない。
「そうだね、とても美しいね。
此処が街中なら、このまま見てても良いんだけど……」
「は!!すいません!!集中します!!」
「申し訳ありません、直ぐに」
「索敵を!!」
「うん、索敵と観察もね。
気付く事は無いかな?」
「…………もしかして、天井が低いですか?」
「良く気付いたね、イーブレット。
そう、外から見た外観よりも天井が低い。
そして、この階は恐らく、上の階を隠す為のカモフラージュだ。
周囲の壁のレリーフや壁画、装飾の入った柱なんかは、この空中庭園をガラス張りにしなかった事のカモフラージュ。
天井の照明やスポットライトも、天井をガラス張りにしなかった事と天井へと目を向けさせない為のカモフラージュだろう。
つまり、この上には此処までして隠したい何かが在る」
「こんなに凄いお庭がカモフラージュ?!」
「此処までして隠してるモノって…………」
「さて、問題だ。
何処からどうやって上の階に行くかな?」
「隠し階段?
それなら、何処かの壁に細工があるかも!!」
「残念、外れだ」
「え?!ノッディード様は見つけたんですか?」
「うん、見つけたよ。
でも、キミ達の視力だと、もっと近付かないと見えないだろうけどね」
まあ、本当は視力と凄メガネパワーで見つけたんだけど。
「視力…………。天井ですか?」
「ジアンヌ、正解。
因みに、何処が怪しいと思う?」
「…………屋根の有るティースペースの上の天井に仕掛けがあるんでしょうか?」
「凄いよ、名推理だ。
そう、東側のティースペースの上の天井に、カードキーを差し込む穴が有る。
それも継ぎ目に隠す感じで。
多分、ティースペースの屋根の上から“エアーバイク”で上昇して入る感じなんだろうね。
と、云う訳で、上の階には僕1人で行って来るから、3人はこの辺でお留守番をしててよ」
「ええっと、荷台に乗せて頂く訳には…………」
「いやいや、もちろん乗れるけど、僕の相棒は僕専用だから、もしもの時に、キミ達だけを逃す事が出来ないからダメだよ。
3人は大人しく、この階段付近で待っておく事。
もしも、魔物が降りて来たら、どんなに弱そうな魔物でも撤退して、下の階のみんなと合流するんだよ」
「…………分かり、ました……」
「「……はい……」」
3人は渋々といった感じではあったが頷いた。
Sランクを倒しても慢心していない様で何よりだ。
僕は“ウィフィー”で、ぴょんぴょんっとジャンプして、先程手に入れたゴールドカードキーを鍵穴に突っ込む。
また、カシュンッ……。っと音がして、天井の一部が上に開いて行く。
ゆっくりと、開いた穴から上階へと入って行く…………
そして…………
「此処は!!!!
…………なんだろう?」
この階も下の庭園同様に、丸々ワンフロアワンルームの様ではあるが、天井まで10m以上あった庭園と違って、3mくらいの高さだ。
中は幾つもの円柱状の機械が立ち並んでいて、中央辺りに天井から幾つもの機械アームがぶら下ったエリアが在る。
その機械アームの下には広い作業台の様なモノが3つ並んでいるのだが、その内の1つ、中央の作業台の前に、1体の魔物が待ち構えて居た…………
「…………ジャッジメントオーガ?
最上階にしては、ちょっと、しょぼいな。
何か特殊な能力が有るのか?」
ジャッジメントオーガは良く居るAランクの魔物だ。
多種多様な魔法を使い、さまざまな武器を使い熟す危険な魔物だが、魔都 ウニウンの中央部付近では比較的メジャーな魔物だ。
昨日もB級代理官の子達3人で倒していた。
その、ジャッジメントオーガが僕に気付いて閉じていた目を開くと、そのまま、驚愕の目になる!!
「!!ニンゲン、ナノカ?
ドウヤッテ、ココニ、ハイッテキタ?」
「!!喋った?!オーガが喋った!!」
「アア、シャベル、バケモノハ、オソロシイ、ダロウガ、キガイヲ、クワエル、ツモリハナイ。
ヨケレバ、スコシ、ハナシヲ、シナイカ?」
「ええっと、其れって長くなりそう?」
「キミサエ、ヨケレバ、ユックリトハナシタイ、トコロデハ、アルガ…………」
「分かった。
だったら、少しみんなに事情を説明して戻って来るよ。
ついでにお茶でも持って来よう、何か希望はある?」
「…………デキレバ、アッサムノミルクティーヲ…………」
「アッサムティーは今は無いかも。
ちょっと、聞いてみるよ。
じゃあ、少し待ってて」
僕はそう言って、階下へと降りて行った…………
アッサムティー、有りました!!
ミルクも、有りました!!
探索時の休憩用の、魔導具ティーポットと金属製のカップが少し味気無いが仕方がない。
僕は空中庭園で待つ、3人と合流すると、他のBチームとCチームとも合流してから事情を説明した。
昼食も兼ねて、全員で空中庭園に戻って来て、僕は1人でジャッジメントオーガとの対談に向かい、僕が降りて来るまでは、みんなには空中庭園で待って居て貰う事にした。
S級代理官のみんなは僕を心配して着いて来たがったが、幾ら相手がオーガとは言え、待たせて置いて大勢で戻って来るのはマナー違反だ。
なので、1人でジャッジメントオーガの待つ最上階に戻った。
「お待たせ。
キミは運が良いね、アッサムティーもミルクも有ったよ。
ちょっと、待ってて」
「オオ、ソレハ、アリガタイ」
僕が戻って来て、安心した様な表情だったジャッジメントオーガが、ミルクティーの事を聞いて凶悪な笑みを見せる。まあ、オーガだから。
「お待たせ、どうぞ。
ちょっと、カップが味気無くて、小さいかもしれないけど」
「イヤ、キヅカイ、カンシャスル。
………………ウ、ウマイ…………ウ、ウゥ…………」
ジャッジメントオーガはミルクティーを一口飲むと、目に大粒の涙を溜め込んでから、ホロホロと泣き出した…………
「…………スマナイ、モウ、コウチャヲ、ノメルヒハ、ニドトコナイト、オモッテ、イタノダ…………」
「そう、喜んで貰えて良かったよ。
もし、機会が有れば、今度、僕の知っている1番のスペシャリストを紹介するよ。
そう言えば、自己紹介がまだだったね。
僕は、ノッディード。
ノッディード・ルベスタリアだ」
「!!ルベスタリア?!」
「うん。でも、僕は魔導帝国ルベスタリアの王家の血縁者じゃあ無いよ。
魔導帝国ルベスタリアの王都空中都市が墜落して出来た、ルベスタリア盆地に新たに僕が作った国の国王なんだ」
「オウトルベスタリアノ、ツイラクアトチニ、アラタニデキタ、マッタクベツノ、クニト、イウコトカ?」
「そう、まだ建国3年目の新しい国なんだ。
国の名前も、魔導帝国じゃなくて、ルベスタリア王国だから。
ところで、キミはなんて呼べば良い?」
「シツレイシタ、ワタシハ、アエルゲイン。
シッテイルカ、ワカラナイガ、ケンジャ アエルゴイヌ ノ、シソンデ、アエルゴイヌノ、ツクッタ、“アエルエンタープライズ”ノ、カイチョウヲ、シテイタ」
「賢者 アエルゴイヌ?!
三賢者の1人、全能の賢者、アエルゴイヌ?」
「ノッディードヘイカハ、ハクシキノ、ヨウダナ。
ソノ、ケンジャ アエルゴイヌダ」
「なるほど、凄い商会の会長だったんだね。
じゃあ、アエルゲイン。
先ずはどうしてキミだけが話せるのかと、人間である僕に襲って来ないのかから、先に聞いても良いかな?」
「アア、ソレハ、ココニアル、ソウチト、センゾカラ、サズカッタ、マホウノ、オカゲダ…………」
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“サードストライク”、其れは、巨大隕石の衝突による天変地異と共に、大きな災いを齎した。
地球上の魔素が大量に増えて、魔力となったのだ。
この影響で、魔獣は更に凶悪に、ドラゴンは理性を失い暴れ回り、魔導士達は魔物と云う怪物になった……
“サードストライク”の襲来が近付いた時、賢者 アエルゴイヌの子孫で、アエルエンタープライズの会長をして居たアエルゲインは、隕石衝突の衝撃に備えて従業員達をこのビルに避難させていた。
このビルは本部ビルで、工場を内包している為、他の店舗よりも遥かに頑丈だったからだ。
“サードストライク”の衝撃は凄まじく、途轍も無い地震が襲った。
地震が治まり、窓の外に降りしきる黒い雨を眺めていると、ふと、気付いた。
窓ガラスに映る自分の額からツノが、口からキバが、伸びている事に!!
慌てて、触ってみれば、確かに在る。
アエルゲインは、慌てて、最上階の施設へとやって来た。
避難させた中には、自分の家族も居る。
理由は分からないが、自分の内側から、無性に人間を喰らいたいと云う衝動が沸き起こって来る。
こんな状態で、家族に会えば、自分は何をするか分からない。
『何とかしなくては』、この一心で、アエルゲインは装置を起動させた。
この装置の機能は3つ。
魔導具の解析、魔導具の複製、魔法の解析だ。
アエルゲインは自身に起きている変化を『強化魔法の1種では無いか?』と考えて、自分の身体に魔法の解析を掛けたのだ。
そして、其れは正解だった。
“魔素増幅の魔法”、“魔素吸収の魔法”、“凶暴化の魔法”、“凶悪化の魔法”、“理性崩壊の魔法”、“身体変化の魔法”、“身体硬化の魔法”…………
幾つもの、其れらの魔法は、“人間を怪物に進化させる魔法”だった…………
アエルゲインは直ぐに魔導具の複製機能で、精神を安定させる魔導具や精神攻撃魔法を防ぐ魔導具などを作って、何とか凶悪化や、理性の崩壊は免れた。
そうなると、心配なのは家族や従業員達だ。
しかし、自分は怪物になってしまった。
突然現れた怪物を殺そうと襲い掛かって来る事も考えられる。
なので、しっかりと防備を固めてから、下の様子を見に行った…………
地獄だった…………
何処もかしこも血に染まり、自分と同じ様な姿の怪物が跋扈していた…………
その怪物達もお互い殺し合っている…………
そこでアエルゲインは見付けてしまった。
自分の左手に食い込んだ指輪と揃いの指輪を嵌めた左手を…………
アエルゲインは、その左手を持って、最上階へと駆け戻った。
装置に有る全ての回復魔導具やポーションを作り出し、妻の左手に使った…………
やめておけば良かった…………
どうやっても、死者は生き返りはしない。
もちろん、アエルゲインも知っている。
しかし、そうせずには居られない程、動転していたのだ。
…………その所為で、妻の肉体は、死の直前の姿に蘇った…………
…………蘇ってしまった…………
人間の妻は、肘から先だけだった。
其れ以外は自分と同じ怪物になってしまっていたのだ…………
アエルゲインは、己の愚かな行いを悔いて泣き叫び続けた…………
その日から、数百年、アエルゲインは今も、妻の肉体を元の姿に戻して弔う為だけに生きていると云う…………




