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箱庭の王様  作者: 山司
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第3章 ルベスタリア盆地 1

第3章

ルベスタリア盆地 1





▪️▪️▪️▪️





修行を開始して3ヶ月が経った。


今日は水曜日、“建築の日”だ。


ポーションを使った訓練はとても効率的で、僕はぐんぐん成長している。

規則正しい生活も始め、日々の訓練スケジュールと1週間のローテーションスケジュールも組んでいた。


月曜日と火曜日は“訓練の日”、水曜日は“建築の日”、木曜日は“勉強の日”で、金曜日と土曜日はまた“訓練の日”、そして日曜日は“自由の日”だ。


“訓練の日”は、剣術だけで無く魔導具を使い熟す訓練も並行して行っている。

剣術も普通の剣術だけで無く、双剣術や大剣術、短剣術に刀術なんかも訓練している。

完全記憶ポーションのおかげで、技の習得が凄まじく早いからだ。


“勉強の日”は、魔導具の知識の他に、建築学や経営学、人心掌握術なんかを中心に勉強している。


“自由の日”は、大体、身体を休める為にゆっくり風呂に入ったり、勉強とは関係無い、マンガや小説などの物語を読んで過ごしている。



そして、“建築の日”は、僕が唯一小屋から外に出る日だ。


勉強の日に、建築学を学びつつ、小屋の周囲の建築をしている。

小屋は既に小屋では無く、シェルターだ。

外から見ると真四角なコンクリートの建物になっている。


入り口もたった1ヶ所で、掌紋センサーと網膜センサーのロックが掛かっていて、周囲も全て隈無く防犯カメラで見張っている。


中に入ると半球状の“イモータルウォール”で出来たドームが5つ。

もちろん、4つはダミーだ。


建物内も防犯カメラで全て監視して、ドームの扉も声紋センサーとカードキーのロックが掛かっている。


最後に小屋へと入るのも、暗証番号と合言葉、指紋センサーをクリアしないと入れない様にしている。


と、ここまでは小屋の秘密を守る為のモノだ。

実用と安全重視で作っている。


しかし、僕が今行っているのは、将来の為半分、趣味半分の、“お城の建築”だ。


どれほど先の事になるかは分からないが、将来此処に国を作る為の準備と云う意味合いと、建築の勉強をする内に面白くなり、実用性だけで無く建物としての美しさも求めてみたくなったのだ。


其れに、此処に人を連れて来るのも予定よりも早くなる可能性が高い。

本当なら、何年も掛かると思っていた自身の強化がポーションのおかげで途轍もなく早く、何十年も掛けて街を作って行くつもりだったが魔導具の性能が凄まじい為、数年で出来てしまいそうだからだ。


元々は防衛力重視の砦の様な防衛都市を考えていたが、今では、防衛力と生活の利便性、街並みの美しさ迄考えて作って行こうと思えるくらいの余裕がある。


どれくらい建築工事が早いかと云うと、小屋の生活フロアである地下1階の上部は地下12mと云う結構深い所に有ったのだが、僕は小屋の東西南北1kmをその地下12m迄全て掘り起こし“イモータルウォール”で囲い、コンクリートと衝撃吸収素材を1m毎にミルフィーユ状にしながら積み重ねて地上と同じ高さ迄にして、その上に“イモータルウォール”を敷き詰めて基礎を作り、更に小屋のシェルターがスッポリ収まる地上10m迄同じ様に高床基礎を作った。


この2km四方の高床基礎工事が実質12日で出来たのだ。

もちろん、僕1人でだ。


多分普通の家なんて、1日に何軒も建てられるだろう。

僕が住んでた侯爵家の屋敷だって1日あれば建てられると思う。


その証拠に僕は今日1日で、高床基礎をくり抜いて、4カ所の地下牢と4ヶ所の地下室、ついでに2km四方の外周に30mの城壁と西側に城門まで作った。


一仕事終えた僕は、本日完成した城門の上に腰掛けて、沈み行く夕陽を眺めていた…………



「…………寒いと思ったら雪か…………

まだ、10月なのに雪が降るなんて、此処は王国よりも凄く北なんだろうな…………


そう言えば、夏もそんなに暑く無かったな。

毎年夏はコレがキツいのに、大丈夫だったし…………」



僕はそう言ってズボンを少しズラす。

其処には、父上と兄上に誓いを立てた貞操帯が有った。


幸いに此処の風呂には水圧と微細な泡で全身の汚れを隈無く落としてくれる魔導具がある。

そのおかげで、ずっと付けている貞操帯の中も辛うじて洗えているが、やはり半年以上キチンと洗っていない事で若干臭う。


更に僕は今、ポーションで五感能力を上げている為、一度気にすると、どうしても気になって来た。



「今迄は、毎日外して貰って身体もコレも洗ってたけど、ずっと付けっぱなしだもんなぁ…………

でも、父上と兄上と契約したし、せめて兄上が亡くなる迄は約束は守りたいなぁ〜…………


…………いや、待てよ?

僕は確か、『父上と兄上の許可無く子種を残さない』って契約したんであって、『貞操帯を外さない』って契約じゃ無いよな?


だったら、他に人間が居ない此処なら外したって良いか。



…………いや、そもそも、子種を残さなければ良いんだから、避妊が出来る魔導具が有れば、もしかして、僕は夢にまで見た童貞卒業が出来るんじゃないだろうか?!


そうだよ!!其れなら約束を破って無いし!!


直ぐに探しに行こう!!」



僕は粉雪の降る中、駆け抜けた!!

今迄で1番速く走れたんじゃないかと思う!!


自分で付けた各セキュリティにもどかしい思いをし、地下5階迄のエレベーターにイライラしながらもドキドキし、「避妊の魔導具は、きっと生活用品だよな!!生活の必需品だったりするよな!!」と、言いながら、生活用品用の倉庫で、パネルを操作する。


「無かったらどうしよう……。いや、無かったら雑貨か薬品の方なだけだ!!」


と、勇気を持って検索を掛ける。


「……………………人間の3大欲求は、どんなに文明が進んでも変わらないんだな…………」


パネルには、多種多様な避妊魔導具が有った。

命を預ける剣よりも種類が豊富だった…………





▪️▪️▪️▪️





僕は悩んでいた…………


この世のモノとは思えない、最高の魔導具を手に入れてしまったからだ…………


昨日、生活用品用の魔導具倉庫で、僕は運命の出会いをしてしまった。

其れは、左右の小指に着ける1対の指輪だ。


その指輪は人類の夢、そのものと言っても良い程の代物だった…………




ーーーー無敵の指輪タイプBーーーー


・避妊効果100%

・勃起時の膨張力、硬化力、感度上昇。

・射精後、即再充填。※個人差が有ります。


ーーーーーーーーーー




まさに最強の魔導具、“無敵の指輪タイプB”!!!!


昨夜は、同じく生活用品用の魔導具倉庫で見つけたお一人様用魔導具の数々と、書庫で集めた崇高な本の数々を寝室に持って行き、躊躇い無く愛用の貞操帯を切り裂いて、“無敵の指輪タイプB”の性能調査をしっかりとしっかりと行った。


もちろん僕はお一人様なので、避妊に関しては確認出来なかったが、他の能力が説明通りだったのだから大丈夫に違い無い!!



だからこそ、僕は悩んでいた…………




「……………………此れは、大幅な計画の修正が必要だ…………


僕は何十年もこんな所に篭っている訳には行かない…………


少しでも早く、娼館を目指さなくては…………


でも、安全の確保を疎かには出来ないし…………」



僕は10歳の時に、短い人生と貞操帯を担保に、自由を手に入れた。

そう思っていた。


だけど、違った。

13歳のあの日に僕は痛い程気付かされた。


僕が手に入れたのは、僅かな自由と途轍も無い不自由だったと…………


10歳の僕は知らなかったのだ。

そして、13歳の僕は知ってしまった。


「性欲って、ヤバい」と…………


朝の目覚めと共に感じた、夢で見た快感とベトベトの不快感によって…………



其れからの欲求不満の日々は、其れはもう大変だった。

幾らメイド達にセクハラを繰り返しても、欲求不満は募る一方だった。


其れを何とか抑えられたのは、15歳で成人して、酒とギャンブルを覚えたからだ。

酒の酊酩とギャンブルの興奮で紛らわせていたのだ。


因みに、僕はギャンブルがめっぽう強い。

毎日遊んで暮らしていたが、僕は成人して以降、全てギャンブルで稼いだお金で余裕で賄っていて、下位の貴族家の財産よりも多いくらいの貯金が有ったくらいだ。



まあ、つまり……


「僕は一刻も早く娼館に行きたい!!」


と、云う事だ。





▪️▪️▪️▪️





…………あれから3ヶ月、僕はほぼ以前の修行生活に戻っていた…………


あの日、僕は1日掛けて、ルベスタリア盆地南部の調査を優先して、僕の生まれ育った王国 デラトリ王国の東隣りにある国 オオマー王国を目指す計画を立てた。


山脈越えや砂漠越えも必要な道程の為、準備する物資も大量だし、移動距離も非常に長い。

かなりの長旅だ。


其れに、娼館が有るくらいの大きな街となると、オオマー王国の王都を目指す事になる。


オオマー王国には子供の頃に行った事はあるが、詳しい訳では無い。

しかし、デラトリ王国と似た様な国政だと聞いた事があったので、娼館もあるに違い無いと考え目指す事にした。

間違ってもデラトリ王国に行く訳には行かない。


侯爵家の放蕩息子として僕は少し有名だし、万が一知り合いにでも出会って、父上に僕が生きていた事を知られる訳にはいかないからだ。


まあ、そんな訳で計画を立てて、翌日には先ずルベスタリア盆地南部の山脈の手前迄の調査をしようと準備をして、翌々日、意気揚々と出発しようとして、即挫けた…………




小屋から出て、シェルターから出ると、外は一面銀世界だったのだ…………

僕の腰くらい迄、雪が積もっていた…………


雪の中、旅をするなど自殺行為だ。

まあ、多分不老不死の所為で死なないだろうが、寒さで凍える辛さを味わう事に変わりは無い。

其れに、前日に立てた計画の何倍も移動時間が掛かるだろう。


僕は春まで待つと云う選択しか出来なかった…………




なので仕方なく、修行の日々に戻ったのだ。

ただ、このままでは完全に雪に埋もれて外に出られなくなるので、月曜日、火曜日、水曜日を当面“建築の日”にして、早めにお城を完成させる事にした。


先ずはシェルター周辺の雪を退かし、不壊不朽の板“イモータルウォール”を使って、高さ300mの塔を建てて中にエレベーターの魔導具を設置した。

此れは後々、僕のプライベートスペースの隠し部屋からしか小屋に入れない様になる設計だ。

僕のプライベートスペースはお城の40階から50階迄で、このエレベーターの出口が44階になる。


此処まで巨大なお城にする理由は、最悪お城に籠城する様な事態になった場合でもお城の中だけで自給自足が出来る様に、お城の中に、農場や牧場、生け簀なんかも作ろうとしているからだ。


此れは別に僕の夢物語で行った設計ではない。

古代魔導文明時代の空中都市で、実際に行われていたのだ。

その為の魔導具もちゃんと揃っている。



そして、隠しエレベーターが出来てからは先ずしっかりとシェルターの上を“イモータルウォール”で塞いで1階から順に作って行った。

と言っても、最初はお城の骨組みとも云える“イモータルウォール”で作った箱を組み立て行く積み木の様な工事だ。


“イモータルウォール”を中身の重さをゼロにする鞄“ゼログラビティバック”に大量に詰め込んでは、地上300mのエレベーター出口から放り投げる。

此れを何度も繰り返して、資材が十分になったら相棒の“エアーバイク”に乗って飛び降りる。

“イモータルウォール”で設計図に沿って箱を作り、積み重ねて行く。


その日の作業が終わったら、“ゼログラビティバック”に“ゼログラビティバック”と“エアーバイク”を入れて、隠しエレベーターの建設用に取り付けた300m続く梯子を登って小屋に帰る。


除雪と建築の繰り返しで思った以上に時間が掛かったが、翌週の水曜日には、地上50階建て高さ320mの積み木の城が出来上がった。




次の日は勉強の日だったが、僕はお城の設計のやり直しをする事にした。


今週の月曜日、訓練の日と自由の日を挟んで外に出た僕は絶句した。

城壁内は全て除雪していたのに、何と2mくらい雪が積もっていたのだ。


雪がこんなにも積もるとは思わなかった。

其れもまだ、11月なのだ。此れからもっと冬が厳しくなる。


“イモータルウォール”の部分はどんなに雪が積もっても平気だろうが、其れ以外の場所や窓や扉はそうは行かない。


雪対策、其れも豪雪への対策が必要だ。


僕は先ず雪国の建物と古代魔導文明の空中都市の建物について学ぶ所から始めた。

雪国の建物は当然だが、空中都市の建物を学ぶ理由は、雲の中に突っ込む可能性のある空中都市の建物なら、あらゆる気象に対応出来る構造になっているのでは無いかと思ったからだ。


この予想は当たっている部分も有り、外れている部分も有った。


当たっていた部分は、窓と扉に関して、“インバイラブルウィンドウ”と“インバイラブルドアー”と云う魔導具が有り、この魔導具は、鍵を掛けると“イモータルウォール”の様に絶対に壊れないと云う効果がある。

“イモータルウォール”との違いは、鍵を開ければ開閉と云う動きが出来る事と取り外しが可能な事だ。

鍵を掛ければ壊れない上に取り外しも出来ない様にその場に固定される。


そして、外れていた部分は、気象に対して建物には何も対策が無かった事だ。

ただ、対策が無かったのは建物に対してだ。

気象に対する対策は、空中都市の方に有った。

“不可侵領域結界柱”と云う魔導具で、雨風に雷、魔法に隕石迄防ぐと云う優れモノだ。


但し、このままでは使えなかった。


この魔導具は、四方に設置して球状のバリアを張るのだ。

そのまま設置してしまうと地面を抉り、出入りも出来ない。


実験の結果、“イモータルウォール”はこのバリアも越えられない事が分かったので、当初予定していたお城の周囲の堀を四角形から円形にして、その堀の底を“イモータルウォール”で作る事にして、バリアのサイズ調整の為に、城壁内に“不可侵領域結界柱”設置用の塔を建てる事にした。


“不可侵領域結界柱”は、正方形の頂点になる様に設置すると、その対角線距離の2倍の直径の球状のバリアを張る。

城壁は一辺が2km、お城は1番広い1階から5階が一辺が1kmある正方形だ。

バリア用の塔はお城の各頂点から200mの所に建てて、周囲の堀は直径5km深さ20m、出入りは西の門から続く橋のみだ。


イメージは湖に浮かぶ巨大なお城だ。


堀の底面には、バリアの内と外とで水が行き来出来る様に“イモータルウォール”で水路も作るが、人間どころか小魚くらいしか通れない薄い設計だ。


ついでに、今後の城下町の建設に役立つ様に、北西の川から大規模な水路を引いて、南東に抜ける様にしようと考えている。

因みに、南東側は山脈の手前にでもでっかい穴を空けて大きな池にしてその後は自然に任せるつもりだ。


このルベスタリア盆地は、北西に大きな湖があり、北西から南西に向けて川があるだけだ。

これだけ大雪が降っても、僕が来た春先には辺り一面草原だったので、かなり標高の高い水捌けの良い土地なのだろう。


こうして、水路計画迄を立てて、その後、お城の屋根の傾斜や梁の補強のデザインを修正して、その日は終わった。



そして、3ヶ月経った今、とうとう湖に浮かぶ巨大なお城が、見た目は完成した。

因みに、“不可侵領域結界柱”の外は5mの積雪だ。

此れは城下町にも“不可侵領域結界柱”を設置しないと生活は無理だ。


雪解けと共に直ぐにでも南部の探索を始めようかと思っていたのに、先ずは、雪対策をしなければおちおち出掛けられない様だ…………





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