第10章 勇者の敗北 5
第10章
勇者の敗北 5
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勇者パーティー達と話しをしてから3日後、手術をした者達も回復したので、今回の移民者全員を集めて、簡単な挨拶をした。
治療を受けた者、昨年の狼弾会からの食事の支援が僕からの物だったと知り、命を救われたと言う者など、まるで、神様の様な崇められ様ではあったが、其処にトドメで、「僕は不老不死だよ」と言って、勇者と聖女が揃って、「本当だよ」と言ったので、更に神様の様に崇められた。
そして、その日の夜には王都アルアックスに向けて出発し、翌日にはハンターギルドで、僕は晴れてSランクハンターとなった。
今回は前以てアポイントを入れて於いて、話しはギルドマスター室で行ったので、特に騒がれる事も無く、ハンターギルドを出た。
一応、狼弾会に行って、勇者パーティーを含む重傷病者達が全員無事に回復した事を伝えて、大勢の移民がスラムから消えた事に対して変な噂が立っていないか確認したが、問題無かった様だ。
狼弾会のおかげで、移民探しも物資購入も必要が無くなってしまったので、僕はする事が無い訳だが、3日間はこの王都で過ごす予定だ。
其れと言うのも、3日後の3月21日に、大規模な闇オークションが行われる予定だからだ。
今迄は、ワイドラック山脈の雪解け迄は、王都アルアックスに来る事が出来なかったので、参加は出来ないモノと考えていたが、今年は、“エヴィエイションクルーザー”のお陰で随分と早く来る事が出来たので、参加する事にしたのだ。
もしかしたら、掘り出し物が有るかもしれない。
僕には強い味方の、凄メガネが居るので、真贋はもちろん、壊れていないかも直ぐに分かる。
オークション迄は毎晩娼館に入り浸るつもりだが、昼間は暇だ。
何か変わったモノでも無いかと、魔導具店を見に、相棒の“エアーバイク”“ウィフィー”で向かっていたところ、身なりの良い執事の様な男性に声を掛けられた。
「あの、もしや、貴方はAランクハンターのノッディード…………」
僕は全く聞こえない振りをして、そのまま通り過ぎる。
僕はこれから魔導具店に行くので非常に忙しいからだ。
「特に面白いモノは無いなぁ〜…」
と、魔導具店を出たところに、先程の執事っぽい人物が待って居た。
3、40代くらいの結構しっかりした体格の男性で、後ろにハンターっぽい3人組が一緒に居た。
「あの、貴方様は、ノッディード・ルベスタリア卿でしょうか?Aランクハンターの」
「いいえ、僕はAランクハンターでは無いので人違いでしょう。
其れでは…………」
「あ、いえ。怪しい者ではありません。
私は隣国のナノマガン王国、ヴィルダールテ公爵家にお仕えする執事でシュバルツと申します。
ノッディード様の事は、ハンターギルドアルアックス支部のギルドマスターから伺っただけで、決して詮索する様なつもりは御座いませんので、どうか、お話しだけでも!!」
ギルドマスター ルーゲット、口軽過ぎだろ?
まあ、口止めもしなかったけど…………
「……ヴィルダールテと云う事は、キルシュシュの実家ですか?
この度は、ご愁傷様でしたが、僕はボスとの戦いには同行しなかったので、詳しくは知りませんよ?」
嘘では無い。
勇者パーティーが壊滅して、公爵令嬢が僕に攫われたのだ。
ご愁傷様で有っているだろう。
そして、戦闘の内容を詳しく知らないのも事実だ。
「!!やはり、キルシュシュお嬢様をご存知なのですね!!
しかし、『ご愁傷様』とは、もしや、キルシュシュお嬢様の身に何があったかご存知なのですか?」
「え?其れを知ったから来られたんじゃないんですか?
勇者パーティーが、キルシュシュ1人を残して壊滅したって聞いて来られたんだと思ったんですけど?」
「はい、その噂がナノマガン王国に流れて来たので、確認の為に慌ててやって来た次第です」
「ああ、噂を聞いたから来たんですか。
僕はてっきり、勇者パーティー壊滅の真相を確認しに来たのかと思ってました。
勇者パーティー壊滅は本当ですよ、僕も彼らの痛ましい姿を見ましたから」
「其れで、お嬢様は今何処に?」
「ナノマガン王国の方に向けて出発した筈ですよ。
ホテルに“エアーバス”も無くなっていましたし」
此れももちろん、嘘では無い。
キルシュシュが向かった“方角は”ナノマガン王国の方だからだ。
「ナノマガン王国にお嬢様は戻って来られていません。
私達は、勇者パーティーが此処アルアックス迄来たルートと全く同じルートで来ましたが、其れらしい“エアーバス”は見掛けていません」
「ええっと、其れを僕に言われても……」
「お嬢様がお泊まりのホテルで、お嬢様が貴方に人目も憚らず泣き付いていたと聞きました」
「ええ、そうですね。
僕は以前、魔都 ウニウンで勇者パーティーと少しの間、一緒に行動して居たんです。
なので、キルシュシュが公爵令嬢だと云う話しも聞いていました。
勇者パーティーは、とても強いパーティーでしたから、なかなか他のハンターとの接点も無かったんでしょう。
だから、勇者パーティー壊滅の話しを聞いて駆け付けた、知り合いの僕に会って、ずっと我慢していたモノが溢れてしまったんだと思います。
その後、パーティー解散の手続きや、葬儀屋の事を教えました。
彼女は、『故郷に眠らせてあげたい』と言っていましたよ」
此れももちろん本当の事だ。
一晩は、少しの間だし、パーティー解散の手続きや、何処の葬儀屋で何をするかは僕が指示して、教えてあげた。
キルシュシュが僕の言ったセリフを復唱して、『故郷に眠らせてあげたい』と言ったのも聞いている。
「その後、キルシュシュお嬢様が何処に行かれたか……」
「あの日以降は、王都アルアックスで彼女を見掛けた事はありませんね」
王都アルアックスではね。
「なんだか、お力になれそうには無いですね」
なるつもりが無いけど。
「もし、王都アルアックスで彼女を見たらお知らせしましょう」
僕が二度と来させないけど。
「それでは……」
二度と会いません様に。
僕は、その場を後にした。
執事シュバルツは、肩を落として項垂れていたが、キルシュシュはもう、ルベスタリア王国民で、僕の大切な女性になる、かもしれないので、返す気は無いのだ。
闇オークション。
盗品や表向き法に触れるモノなんかの通常のオークションには掛けられない、曰く付きの品々が集まる場だ。
普通なら、こっそりと開催される様なモノだが、このアルアックス王国は乱れに乱れている。
入場料さえ払えば誰でも入れるし、普通のオークションの様に大々的に宣伝して、大きなホールで普通に開催されている。
盗品は出品者匿名希望で、法に触れるモノは出所不明だ。
アルアックス王国の本来の法律なら、人身売買は禁止で奴隷制度は無いが、普通に出品者匿名希望で、オークションに出品される。
まあ、娼館に売られる女の子が居て、王城では“人間狩り”すらやっている腐り切った国だ。
外国に向けてのポーズだけで、人身売買と奴隷を禁止しているだけだろう。
僕はVIP用の席で、強面の護衛に守られている雰囲気で、オークションの様子を見ていた。
護衛っぽいのは狼弾会のメンバーだ。
表向き、一般のハンターである僕が、特別な装備を探して、裏社会の狼弾会に、この席を準備する様に依頼した感じだ。
「…………あんまり、めぼしいモノは無いなぁ〜……」
「まあ、ノッディード様からしたらそうかも知れませんね」
後ろで護衛の振りをする、ウルフバレット モルツェンが答える。
「もっとこう、見た事の無い書物とか、用途不明の魔導具とか有るかと思ったのに…………」
「そういったモノも出品される年もありますが……」
「!!ストップ!!
…………アレ、落札して、金額無制限で」
「はい!!フラストン!!」
「了解しました!!」
僕は勢い込んで、「金額無制限」と、言ったが、たった700万アルで、落札出来た。
フラストンには直ぐに取りに行って貰う。
「剣、いえノッディード様が使われている刀ですか」
「うん、そう」
そう言って、僕は鞘から抜いて刀身を見ながら、凄メガネで先程見えた内容が正しかったか確認して、満足感をしっかり出して頷いた。
「先程、オークショニアは、『伝説の聖剣の様に、使える者が使えば魔導具としての真価を発揮するかもしれない』とは言っていましたが、可能性は殆ど無いのではありませんか?」
「そうだね、普通はね。
特に有名な訳でも無さそうだし」
「…………普通はと仰いましたか……」
「気付いちゃった?
そう、僕ならコレを使える。
この刀はね、聖剣みたいにセキュリティが掛かってるから使えないんだけど、このセキュリティは多分製作者が掛けたセキュリティみたいでね。
“使用者登録をしないと使えない”様にロックが掛かってるだけなんだ。
僕は、使用者登録をする魔導具を持ってるからね。
使用者を僕にすれば良いだけなんだよ」
「!!その様な魔導具が有るのですか?!」
「うん、“エヴィエイションクルーザー”なんかもそうだよ。
高級なモノなんかに使われる方法なんだろうね。
この刀も、僕の持ってるどの刀よりも凄いよ」
「…………ノッディード様が其処迄言われる程ですか……」
「うん、この刀の名は、“天地鳴動”。
火、水、氷、風、土、雷属性の魔法が5つづつ使えるって云う、とんでもない魔導具だよ。
古代魔導文明時代の賢者の1人が作った、究極を目指した一点物だ」
「!!そんな魔導具が?!」
「僕も驚いてるよ。
こんな凄いモノが未使用で残ってるなんて。
一体、何処で見つかったんだろうね」
「…………調べておきます」
「うん、分かったらで良いよ。
こんな凄いモノが何個も見つかるとは思えないから…………
って!!アレも落札しよう!!」
「……アレはもしや…………」
「うん、そう。
良い事を思い付いた」
「分かりました。
フラストン」
「はい、了解です」
此方も無事に入札出来た。
その後、色々出て来たが、まあ、1つ有れば良いだろうと他はスルーした。
其れ以外には目ぼしいモノは見つからなかったが、僕としては、“天地鳴動”が入手出来ただけで、大満足だ。
もしかしたら、この刀は、強力過ぎて使われなかった可能性も有るが、その時はまあ、いざと云う時用にとっておけば良いだろう。
娼館の女の子達も僕の余りの機嫌の良さに、ビックリしていた…………
「……!!ノッディード様、大変、お待たせ、致しました!!」
ハンターギルドの客室のドアが勢いよく開かれて、執事なのにノックすら忘れたシュバルツが駆け込んで来た。
その後ろを、護衛っぽいハンター3人も駆け込んで来る。
僕はとりあえず、シュバルツを向かいに座らせると、持っていた包みをテーブルに置いて開いた。
其処には、弓の魔導具が入っていた。
「!!此れは、お嬢様の!!」
「やはり、そうでしたか。
ただ、僕は使っているところしか見ていないんですけど、何かキルシュシュのモノだと断定出来るモノがありますか?
同じ魔導具の可能性もあるので」
「…………間違いありません…………
この家紋はヴィルダールテ公爵家のモノです」
…………知ってる。
本人から聞いたからな。
「じゃあ、やっぱりコレはキルシュシュの…………」
「ノッディード様、この弓を一体何処で?」
「昨夜行われた、闇オークションです。
僕はこれしか購入出来ていませんが、聖剣“レイブラント”や、“エアーバス”まで、出品されていました…………
もしかしたら、キルシュシュが何かに困って、お金を稼ごうとしているのかとも思いましたが、出品者は匿名希望で分からず仕舞いでした」
嘘じゃ無いよ?
一応、そう云う妄想を思い描いてみたからね。
「…………匿名、希望…………
盗賊ですか…………」
「必ずしも、そうとは限りません。
キルシュシュが本当にお金に困っていたとして、聖剣まで売るのに名前を出せなかったのかもしれませんから。
キルシュシュの事ですから、お金欲しさや、意味のない行動では無い、本当に切羽詰まった状況の可能性もあります。
しかし、仰る通り、盗賊の可能性が1番高いでしょう。
キルシュシュがナノマガン王国に伝わる聖剣を売るとは思えませんから…………」
「……確かに仰る通りです。キルシュシュお嬢様に限って、その様な事は絶対にされないでしょう。
貴重な情報をありがとうございます。
その、差し出がましいお願いなのですが、この弓を売って頂く事は出来ないでしょうか。
オークションでの落札ですから、直ぐにはお金を用意は出来ませんが、公爵家へ使いを出して、出来るだけ早くお支払い致しますので…………」
「…………いえ、コレは差し上げます。
キルシュシュに会えたら渡して下さい」
まあ、僕が渡せば直ぐだけど…………
「そして、もしもの時は一緒に埋めて上げて下さい……」
もし、他の装備も手に入ったら纏めて埋めといて、と云う意味だ。
「ノッディード様、このご恩は……
いえ、必ず、お嬢様を見つけてコレをお渡し致します」
僕はなんだか涙ぐんでいるシュバルツと護衛ハンター達を残して、何も言わずに客室を出た…………
此れで、拾ったモノを勝手に売っ払った悪い盗賊団が全て悪い事になって、もしも、僕がナノマガン王国に行く事があっても、変な疑いは持たれないだろう。
まさか、自分で捨てておいて、大金を出して買取るとは思うまい…………