第10章 勇者の敗北 4
第10章
勇者の敗北 4
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「!!ノッディード様!!
う、うう、み、みんなが、、みんなが…………」
キルシュシュは、僕を見ると抱き着いて大声で泣き出した…………
きっと、ずっと我慢していたのだろう。
仲間をなんとか助けようと、気丈に頑張っていたに違い無い。
溜め込んでいた全てを吐き出す様に大声で泣き続けた…………
キルシュシュが泣き止むまで待ってから、部屋へと案内して貰った。
扉を開けた瞬間、中から異臭が溢れて来た。
血と肉が腐った臭い、吐き気が込み上げて来る悪臭が…………
中には6つのベッドが並び、ワルトルットゥ達5人が…………
いや、ワルトルットゥ達だと思われる5人が横になっていた。
此処は高級ホテルだ。
恐らく、キルシュシュが5人の世話をする為に無理を言って6人部屋に変えて貰ったのだろう。
横たわる5人の顔は見る影も無い程に衰弱し切っていて、以前会った時とは完全に別人だ。
5人は身体にだけシーツを掛けられて、点滴を繋がれている。
そして、もう1つの共通点…………
全員が膝から下が無い。
腕は、1本か、0本だ…………
その失われた四肢の端は壊死して真っ黒くなってしまっている。
「お医者様も、薬師様も、手の施しようが無いと…………
私も、痛み止めを交換して上げる事しか出来なくて…………」
そう言って、また涙を流し始める…………
キルシュシュ自身も、もう限界なのだろう。
彼女も窶れ切っている。
「私が、私のわがままがみんなを…………
私が危険なところに行こうとしたから!!
私の所為で!!私が!!私がぁ!!」
自責の念で崩れ落ちそうになるキルシュシュを優しく包んでから、グッと力強く抱き締める。
「落ち着いて、キルシュシュ。
まだ、後悔する時じゃ無い。
まだ、みんな生きてる。
だから、助かる可能性がある」
「でも、でも!!無理だって!!何にも出来る事は無いって!!」
「なら、諦めるのかい?
何もせず、諦めて、仲間の死を受け入れるのかい?」
「諦める?みんなの命を?
いや!!いやです、諦めたく無い!!
何か出来ますか?
何かみんなを助ける方法がありますか?」
「1つだけ、助かる可能性がある。
もちろん、可能性だから、絶対に助かる訳じゃ無い。
けど、このままだと絶対に助からない。
其れは分かるね」
キルシュシュが小さく頷いたのを確認して、ゆっくりと身体を離して、真っ直ぐ目を見詰める。
「たった1つの助かる可能性、其れは僕が全力で治療する事だ。
但し、この可能性に賭けるには条件が有る。
キミ達が全てを捨てて、僕の下に来る事だ。
ワルトルットゥ達を僕が全力で助けると云う事は、キミ達に僕の秘密が見られてしまう事を意味する。
だから、たとえ命が助かっても自由にしてあげる事は出来ない。
もちろん、普通の生活は保証するけど、今までの様に自由に旅する事も、二度とナノマガン王国に帰る事も出来ない。
其れでも良ければ、僕に賭けて、助かる可能性に賭けてみるかい?」
「…………賭けて、いえ、賭けさせて下さい。
全てを失っても、二度と故郷に帰れなくても、二度と家族に会えなくても構いません。
どうか、みんなを助けて下さい。
お願いします!!」
「分かった。
全力を尽くすと約束するよ」
その後、キルシュシュに作戦を伝えた。
さすがはSランク勇者パーティーの聖女だ。
行動するとなれば、切り替えは早かった。
キルシュシュには先ずハンターギルドに行って、ワルトルットゥ達の死亡報告とパーティーの解散の手続きを行って貰い、その足で葬儀屋へ行き、遺体袋と棺桶を5人分買って貰う。
葬儀屋には、狼弾会の幹部に待機しておいて貰って、一緒にホテルまで運んで貰う。
その後、僕の渡す強力な痛み止めと体力回復ポーションを5人に飲ませて、意識が無くなったら、遺体袋に入れて、棺桶に入れ、勇者パーティーの“エアーバス”に乗せて、ホテルを解約してから“エアーバス”で街を出る。
そして、僕達と合流する流れだ。
追加ポイントとして、所々で、「故郷に眠らせてあげたい」と言って聞かせる事だ。
要は死亡偽装の手順だ。
因みに、最終的には、勇者パーティーの“エアーバス”の中に焼いた棺桶や聖剣“レイブラント”なんかの、僕が既に持っている魔導具を入れて、魔物に襲われた様に偽装してから、盗賊団のアジトの近くに捨てる予定だ。
盗賊団が“エアーバス”を使っても、売り払っても勇者パーティーが全滅した事が知られるし、その後、聖女以外が既に死んでいて、聖女が1人だったから全滅したのだと納得もするだろう。
恐らく、ナノマガン王国の調査が入るだろうが他国で無茶苦茶な事は出来ないだろうから、ハンターにして送り出した自分達を責めて貰いたい。
僕が一通り説明すると、キルシュシュは準備する荷物などの細かい質問を幾つかしてから、力強く頷いた。
そのまま、一緒にホテルを出て、ヴィアルトを紹介してから、“ウィフィー”の“ゼログラヴィティボックス”から痛み止めと体力回復ポーションを渡すと、キルシュシュはそのままハンターギルドへと向かった。
僕もそのまま『ティニーマフーズ商会』倉庫に戻った。
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サウシーズとモルツェンはまだ計画を詰めていた。
と、言っても既に来年の話しだ。
僕は勇者パーティーの今後についての説明をしてから、モルツェンにヴィアルトともう2人をキルシュシュの手伝いに行かせる様にして貰う。
一応、狼弾会の幹部と聖女の接触を見られない様に、変装してから向かって貰った。
その後、2人から移民と物資の運搬計画を聞いてから、2人が先程まで話していた来年の大まかな計画、子供達を保護するやり方や、狼弾会の各メンバーの状況や今後の教育などについてと話しを進めて行った。
かなり濃い内容の話し合いが終わった頃には夕方になっていた。
例年のアルアックス王国訪問に比べて、時期がかなり早いので、まだ日は短い。
最後にサービスで、“エヴィエイションクルーザー”を見に来るか誘ったら、幹部全員で見に来る事になった。
実は聖女の手伝いで見に行けるメンバーが羨ましかったらしい。
と、云う訳で、ティヤーロ達を手伝いに行った者達も、各自、別々のルートで集合場所へと向かう事となった。
サウシーズには先行して、勇者パーティーの“エアーバス”が来る事を伝えて貰って、僕はキルシュシュと合流した。
“ミグレーション1番艦”と“イグレーション1号機”の到着予定時刻を過ぎてから、僕は勇者パーティーの“エアーバス”を運転して集合場所へと向かった。
既に他のメンバーは到着していて、今日の輸送移民を連れて来る為の往復を行っていた。
さすがサウシーズで、勇者パーティーの“エアーバス”を積み込める様に、“ミグレーション1番艦”に積み込んでいる物質をデッキに運ばせてくれていた。
運んでいたのは狼弾会の幹部達だったが、飛んで無くても乗ってみたかったから、自分達から申し出たんじゃないだろうか。
“エヴィエイションクルーザー”を見たキルシュシュは途轍も無く驚いていたが、ワルトルットゥ達の手術が終わる迄は、「一切何も質問しない様に」と、前以て言っていたので、叫びそうになっているのを我慢していた。
“エアーバス”を“ミグレーション1番艦”に積み込んでから、ヴィアルト達にワルトルットゥ達を船室に運んで貰って直ぐに船を降りさせる。
勇者パーティーが全員船室に入ってから、再度、ワルトルットゥ達に、痛み止めと体力回復ポーションを飲ませて、サウシーズのところに行き、状況を確認すると、やっぱりさすがで、“ミグレーション1番艦”は間も無く発進出来る様で、物資と最重症者が既に殆ど乗っているとの事だった。
サウシーズが、ティヤーロと合流してから、“ミグレーション1番艦”を先行させる作戦に切り替えたのだろう。
僕は急いでティヤーロのところに行って、後を任せる事を伝えると、直ぐに戻って艦橋へ。
発進準備も完了して、“ミグレーション1番艦”は勇者パーティーを助ける為に、ルベスタリア王国へと飛び立った…………
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「!!…………」
「……手術は全員成功した、全員無事だよ」
「うわぁ〜〜ん……。ノッディード様ぁ〜〜……」
聖女キルシュシュが血だらけの僕に泣きながら抱き着いて来る。
本当なら、このまま、泣き止むまで待ってあげたいところだが、そうも言って居られない。
「キルシュシュ。とりあえず、麻酔が効いてるから、2時間から5時間くらいは起きないと思う。
この部屋は血だらけだから、このジアンヌと一緒にみんなを別の部屋に移動させて、そこで一緒に休んでいてくれ。
悪いけど、僕は次の患者のところに行く。
多分、今日と明日は一日中、手術になるだろうから、2、3日したら、また来るから」
「は、はい!!ごめんなさい!!
その、本当にありがとうございました!!」
「うん、キミもちゃんと休んでね」
そう言って、僕は次の患者の元に向かった…………
結局、24時間ぶっ続けで手術を行っても終わり切らず、終わらないまま、翌日、B資料の方に居た重傷病者も到着して、睡眠どころか、食事も無しで63時間に及ぶ、連続手術を行い切った。
さすがに63時間集中しっぱなしはキツくて、僕は風呂にも入らず、血だらけのまま寝室に入った…………
目が覚めると、全裸で綺麗なベッドで寝ていた。
多分みんなが綺麗にしてくれたんだろう。
時計を見ると3月14日17時17分。
24時間くらいぶっ続けで寝ていたらしい。
服を着てリビングに行くと、ディティカが居た。
「ノッド様、おはようございます!!」
そう言うと駆け寄って抱き着いて来た。
「良かった…………
ご無理をされていたので、本当に、本当に心配しました!!」
「ごめんね、心配掛けて。
でも、大丈夫だよ、しっかり寝たからね。
其れに、みんなと一緒に暮らし出してからは、ちゃんと朝起きて夜寝てるけど、以前は3、4日、時間も忘れて読書をしたりする事もあったから平気だよ」
「もう、其れは自慢になりませんよ。
私やみんなだけじゃ無くて、ノッド様がずっと手術を続けてたのを知っている代理官の子達もみんな心配してたんですからね」
「そっか、みんなにも代理官の子達にも悪い事しちゃったね。
僕は結構徹夜も平気だって言ってあげれば良かったよ」
「ノッド様、そんな事を言っても、心配するのはやめられないですからね」
「ははっ……愛されてる証拠だね」
「そうですけど………
あ!!其れより、お腹空かれてますよね?
直ぐにお出ししますから、掛けてお待ちください」
「もしかして、僕のご飯の為に居てくれたの?」
「はい、ノッド様がいつ起きられても良い様に、順番で」
「そっか、本当に愛されてるなぁ〜……
じゃあ、お願いするよ」
暫くすると、雑炊とスープが出て来た。
多分、僕が3日以上まともに食べていないから、消化の良いモノを準備してくれていたんだろう。
食べていると、みんなが続々と帰って来て、如何にみんなから心配されていたかと、如何にみんなから愛されてるかを実感した。
僕が手術をしていた間も、寝ていた間も、移民を進めてくれていた様で、今夜の便で、春の550人は運搬が終わるそうだ。
本当にみんなは僕の代理官としてまさにS級だ。
更に彼女達がS級な報告を受けた。
なんと、僕が手術を行っていた時にやって来た移民はみんな、僕がぶっ続けで手術を行っていた姿を見せていたらしく、『不眠不休で国民の命を救い続ける国王』アピールまでしてくれていたらしい。
そして、既に居た子供達も含めて全員に、『153人の手術を63時間不眠不休で行ってくれた』と、大々的に公表したらしい。
此れは、サウシーズの発案で、“西の勇者パーティー”の聖女キルシュシュが証人らしい。
今回の移民受け入れでやる予定だった、デモンストレーションをどうしようか決めて居なかったが、此れでしなくて済みそうだ。
その後も、移民の状況や物資の状況、勇者パーティーの“エアーバス”の偽装の状況なんかを聞いて、食事が終わってから、みんなでお風呂に入って、みんなでベッドに入った。
もちろん、ハンジーズはお風呂までで、今夜は僕の寝室Bの方でお泊まりして貰った。
翌朝、目が覚めると移民運搬の最終便に行っていたティニーマとレアストマーセも加わっていて、起きた瞬間に全力で甘えられてしまった。
もちろん、ちゃんと応えた。
「ノッディード様。
いえ、ノッディード・ルベスタリア陛下。
この度は、仲間の命を救って頂き、誠に有難う御座います」
「「「有難う御座います!!」」」
病室に入った僕を見た瞬間、勇者パーティーが、聖女キルシュシュを筆頭に即座に跪いた。
理由は分かっている。
僕の手術が長時間続く事を考えて、サウシーズが気を効かせて、“ルベスタリア王国 法全書”を何も言わずに渡したからだ。
残念ながら、彼らは有名過ぎるので、記憶の消去をして返す訳には行かない。
なので、ルベスタリア王国民になる以外の選択肢が無い為、暇潰しにでも、法律を学んで貰ったのは良い判断だ。
「ああ、お礼の気持ちは受け取るけど、そんなに畏まらなくていいよ。
キミ達はまだ一応病人だし、僕はフレンドリーな会いに行ける王様だから。
とりあえず、ベッドに戻りなよ…………って、キルシュシュは椅子で良くない?」
自分もベッドに入ろうとして、「ご命令なのかと……」と、言いながら椅子に戻るキルシュシュ…………
素直なのか、天然なのか…………
「じゃあ、改めて。
キミ達が今言った様に、僕はこのルベスタリア王国の国王、ノッディード・ルベスタリアだ。
キルシュシュに聞いてるかも知れないけど、僕は国王である事と、此処、ルベスタリア王国の存在そのものを秘密にしている。
そして、このルベスタリア王国の存在を知ってしまったキミ達は、もう、ルベスタリア王国民として、此処に生涯住んで貰う以外に選択肢は与えられない。
故郷に帰る事も、故郷に居る家族に会う事も出来ない。
ただ、その家族もルベスタリア王国民になるなら会えない訳じゃ無い。
前会った時には聞かなかったけど、この中に、ナノマガン王国に妻や子供を残している人は居る?」
5人が首を振る中、1人だけ、考え始める。
勇者ワルトルットゥだ。
まあ、なんとなく予想出来てしまうけど…………
「ワルトルットゥ、キミが知らないところで生まれているかも知れない子供に関しては、わざわざ連れて来るって選択は無いから、カウントしなくて良いよ?」
「え?!そうですか?
だったら、私にも居ません」
やっぱりだった…………
何処で何時、自分の知らない子供が産まれている可能性があるか考えていた様だ…………
聖女の突き刺さりそうな視線が飛んでいるが、僕はワルトルットゥの気持ちが分かるので、ちょっと、フォローしてあげよう。
「ワルトルットゥ、此処ルベスタリア王国では、今迄の様に無責任な行動は取れないよ。
魔導具で、両親が分かるからね。
ただ、安心して良いよ。
ルベスタリア王国では、魔導具を使って完全に避妊も出来るから。
まだ、人口が少ないから娼館は無いけど、将来的に出来たら、その魔導具を完備させるつもりだ」
「んな?!此処は理想郷か?
やはり、私は死んだのか?」
「いやいや、ワルトルットゥ。キミは生きてるし、娼館だって出来るのは暫く先だからね?」
「ああ、失礼。
しかし、完全に避妊が出来る魔導具があるなら、一切気兼ねが無いと云う事ですから…………」
こいつ、ナンパしまくる気だ。
…………別に良いけど…………
「……勇者の好色の所為で話しが逸れたね。
基本的には、ちゃんと愛を確かめ合ってからにしてね。
じゃあ、話しを戻そう。
先ず、キミ達は、退院したら学校に行って貰う。
読んだかどうか分からないけど、ルベスタリア王国では、学校を卒業して居ない者は、成人として認められない。年齢問わずね。
逆に卒業した時点で成人だ。
其れまでは、就職はおろか、結婚も恋愛も禁止だ。
卒業してからは、この国から出ずに、法律をちゃんと守って生活してくれたら、好きにしていいから」
「な?好きにしていい?」
「其れでは、命を救って頂いたご恩をどうやって返せば……」
「恩を感じてるなら、他の人よりも、ちょっと頑張って働いてくれたら良いよ。
仕事自体はなんだって良い。
因みに、“ルベスタリア王国 法全書”は全員、全部読んだ?」
「はい、全て読ませて頂きました」
「ええ、本当に素晴らしい内容でした」
「わ、私は、全部暗記しました!!」
一応は全員が最後まで読んでいる様だ。
聖女キルシュシュはさすがの優等生っぷりで、全暗記らしい。
「だったら、この国には、僕の代理官って云う役職が有る事は知ってるよね?
此れは学校で習う事だけど、代理官になるには試験が有って、ランクがある。
代理官は僕の代理だから、同じ仕事場でも上位の仕事や、教育者、軍なんかの仕事について貰う。
ただ、代理官にはデメリットもあって仕事は国営のモノで、個人企業や独立なんかは引退するか辞任する迄は出来ないし、職種の希望は聞くけど、必ず通るとは限らない。
でも、国の運営に携わる重要なポジションだ。
もし、恩返しをしたいなら、この代理官になって、このルベスタリア王国をより良くする手伝いをして欲しい。
もちろん、強制はしないよ?
さっきも言ったけど、好きにして貰って良いから」
「私は代理官を目指させて頂きます」
「私も!!」
「私もです!!」
「自分もです」
「オレも目指します」
「あ、あの!!
レアストマーセさんやペアクーレさん、サウシーズさんも代理官なのでしょうか?」
「うん、彼女達は現在この国に10人しか居ない、最上位のS級代理官だよ」
「ええっと、あの、ノッディード様と、個人的なご関係と言いますか……お付き合いと言いますか……」
「ああ、そう云うのは、キチンと決まったルールは無いけど、僕が特例で選んだ場合以外は、A級代理官の中から選ぼうと思ってる。
先ずは、A級代理官になってから、その時のキルシュシュの気持ち次第だね」
「なります!!A級代理官!!
絶対に、なって見せます!!」
「うん、楽しみにしてるよ。
他のみんなは、何か質問は無い?」
「其れでは、1点だけ、どうしても気になったのでお伺いしても宜しいでしょうか?」
「うん、いいよ。
ああ、みんなに言っておくけど、僕が答えるかどうかは別として、聞いちゃダメな事は基本的に無いから気兼ね無くね。
で、ハートルシューの質問は?」
「はい。“ルベスタリア王国 法全書”を見させて頂き、本当に感動致しました。
此処まで、明確にそして、国民の為に考えられた法律が存在するとは夢にも思わなかった程です。
しかしながら、この法律では、ノッディード様が得る収入が余りにも少ない様に思えてなりません。
憲法第1条にある様に、このルベスタリア王国は、本来ならノッディード様の為に在る国の筈。
其処だけが、どうしても矛盾に感じてしまうのです」
「ハートルシューはしっかり、“ルベスタリア王国 法全書”を読み込んでくれているみたいだね。
嬉しいよ。
理由は簡単さ。
僕は、国民の税金から利益を得ようなんて、全く思って無いからさ。
税金は全て、国の発展の為に使う。
まだ、税金自体を払わせ始めたばかりだから一度も発表して無いけど、僕自身も給料制で、S級代理官の倍くらいの給料を税金から貰う感じなんだよ。
何かどうしてもお金が必要になったら、カジノに行って儲けたお金で色々買い込んで来て売れば良いだけだしね。
僕はカジノでは無敵だから」
「!!そう言えば、以前、その様な事を仰られて…………」
僕は必殺の0がいっぱい並んだ2冊の通帳を見せる。
「「「!!!!!!!」」」
声にならない驚きの声をあげて、ハートルシューと共に覗き込んだ5人が固まる。
「この入金は全部カジノ収入で直ぐに使う予定が無かった分だよ。
まあ、今は貯金がいっぱいあるから、当分はカジノには行かないけどね。
此れで分かったでしょ?
僕が特にお金を求めて無いって」
「はい、良く分かりました。
ノッディード様が何故、国家の繁栄のみに注力される事が出来るのか。
そもそも、金銭に対して全く欲求を持っておられない崇高な御心だと云う事が良く分かりました」
お金に興味が無いだけで「崇高な御心」はちょっと誇張が過ぎる気もするけど、多分、無償で命を助けた事も含めての感じ方だろう。
と、今後はサンティデルテが手を上げた。
「すいません、オレも良いですか?
あの、ルベスタリア王国では、学校を卒業した時点で成人って事は、例え何歳でも卒業していれば結婚出来るって事ですよね?」
「うん、そうだね。
今、最年少は9歳だね。
…………サンティデルテはロリコン?」
「い、いや、決してそんな訳じゃ無いです!!
ただ、キルシュシュの“予知夢”が、その、凄く若い奥さんだったって言ってたんで、もしかしたら、此処に来る未来を見てたんじゃないかと思って気になって…………」
「!!そうでした!!確かに子供と言っても良いくらい若い奥さんでした!!
てっきり、そう云う感じの女性なのかと思ってましたが、ルベスタリア王国でなら、本当に凄く若い可能性だって有るって事ですよね!!」
「そう言えば、言ってたね。
もちろん、お互いに愛し合ってるなら、9歳の女の子とだって結婚出来るよ?
まあ、5、6歳で卒業出来る子は居ないだろうから、10歳前後が最年少だろうけどね」
「いや!!本当にロリコンじゃ無いですからね!!
オレはただ、このルベスタリア王国に来たのが運命だったのかもって思っただけですから!!」
サンティデルテのロリコン疑惑が消える事は生涯無いだろうが、まあ、ルベスタリア王国では非常に若い夫婦も珍しく無くなって行くだろうから大丈夫だろう。
そして、次はラウニーラートが都合の良い質問をしてくれた。
「ノッディード様、私も気になった事があるのですが。
“ルベスタリア王国 法全書”の内容で貴族が居ないと云うのは分かりました。
しかし、ノッディード様と云う国王は居ても、王妃や王子も居ないかの様に感じたのですが、次代の王、王太子はどうなるのでしょうか?」
「ラウニーラート、良い質問だね。
キミ達には、移民で来た者達に説明する時にプロパガンダに協力して貰おうと思ってたから、前以て伝えるつもりだったんだ。
キミの感じた通り、王妃も王子もルベスタリア王国には居ないよ。
僕の子供であっても、個人的に可愛がりはしても、特別扱いは何も無い。
理由はね。
僕が不老不死だからだよ」
「「「不老不死?!」」」
「そう。まあ、直ぐに信じるのは難しいかもしれないけど、本当だよ。
僕ってさ、23歳なんだけど、ちょっとだけ若く見えない?
其れは20歳から歳をとって無いからなんだよね。
まあ、今の時点だとピンと来ないだろうけど、何十年かしたら、実感出来ると思うよ。
死んで生き返って見せたら早いんだけど、痛いからね」
「…………冗談では無いと云う事ですよね、もちろん…………」
「うん、冗談じゃ無いよ。
だから、国王の代替わりは起きない。
だから、ルベスタリア王国は、何時迄も永遠に、僕って云う、凄く良い王様が治め続けるとっても良い国な訳だよ」
「ふふ……、『凄く良い王様が治め続けるとっても良い国』って…………
あ!!でも、其れって、王妃様が居ないのは、ノッディード様が若い女性を取っ替え引っ替えする為なんじゃ…………」
「キルシュシュ、僕はそんな不誠実な事はしないよ。
もちろん、僕だけずっと若いから、新たな女性はいっぱい迎え入れるだろうけど、生涯寄り添うつもりだよ。
念の為、S級代理官の部屋は2,000室準備してるしね」
「「「2,000?!」」」
「まあ、念の為ね、念の為。
そんな訳で、足す事は有っても引く事は無いから、取っ替え引っ替えじゃないよ。
もちろん、今居る娘達はみんな知ってて、僕の側に居てくれる娘達だよ」
「ああ、いえ、大勢の女性と、その、そう云うのは、大丈夫なんです。
『英雄色を好む』とも言いますし、国王であるノッディード様ならば当然だと思いますので。
ただ、ちょっと、オバさんになったら捨てられてしまうかもって思ってしまっただけで…………」
「そんな事は絶対にしないよ。
キルシュシュが頑張ってA級になってくれて、僕との人生を選んでくれたら、一生大切にするよ?」
「そ、そんな、ええっと、う、嬉しいです」
「まだ気が早いよ、他に質問は無いかな?
だったら、体力が万全に戻ったと思ったら、退院して手続きをしていってね」
そう言って、僕は病室を後にした。
勇者パーティーは思ったよりも好印象だった。
僕が今迄助けて来た者達と違って、彼らは比較的裕福な生活をしていて、生きて行く為の場所を、生きて行ける場所を求めていた訳では無い。
ただ、命を救っただけだ。
しかし、あの雰囲気なら、ウルフバレット モルツェン達の様に、最初から代理官候補で連れて来ても良かったかもしれない。
多分、6人とも、B級代理官試験には合格するだろうから、早々にA級にしても良いかもしれない。
唯一の懸念は、ナノマガン王国への未練や忠誠心だったが、拘る相手も居ない様だったし、元々貴族でも騎士でも無かったメンバーだったから特別な忠誠心も無い様で良かった。
唯一の貴族であるキルシュシュは、正直言って、即S級代理官にしても良いくらいの印象だった。
もちろん、彼女が美人で大きかったからと云う理由では無い。ちょっとしか無い。
仲間の為に、即故郷を捨てた仲間を想う心と判断力、そして、貴族の地位への拘りの無さ。
此れらは、とても好ましいし、何よりも今の彼女の目。
僕を心から信じていて、僕の為なら何でもしてくれると感じられる、みんなと同じ、あの目だ。
昨年やって来た子供達から僕はかなりモテモテだ。
代理官になった子達は特に顕著だ。
しかし、子供達の目にはまだ、『憧れ』が強く『覚悟』が足りない。
S級のみんなと違うと感じるのは、其処だ。
だが、キルシュシュの目には、その『覚悟』が感じられた。
其れは、僕に生涯の全てを捧げてくれると云う『覚悟』だ。
みんなを見つけた時と同じ様に、キルシュシュからは其れを感じた。
ただ、来年の狼弾会のメンバーの受験迄は、A級代理官試験は行わない予定なので、勇者パーティーには是非其処で合格して貰いたい。
ワルトルットゥ達がA級に初回試験合格をしたとして、同時に合格した狼弾会の幹部や、合格した現在のB級代理官の子供達は国民全体から、勇者と同等の様な非常に高い評価を受ける筈だ。
勇者パーティーには、其処でもプロパガンダに協力して貰おうと思う。
まあ、正直言って、A級代理官試験は、ただ、僕が選ぶかどうかだ。
勇者パーティーと狼弾会の幹部は、B級に合格した時点で、A級は確定の様なモノだ。
A級代理官試験の内容は、答えの無い、個人の考え次第の様な問題で、其れを経済や軍略なんか風にしているだけと云うテストの予定だ。
まあ、其れが余りにも見るに耐えない場合には其処で落とすかもしれないが、基本、其処での不合格と云うモノは無い。
不合格があるとすれば、面接試験だ。
此処で僕がじっくり話しを聞いてから、合否を決める。
要は僕の気分次第なので、勇者パーティーには是非、学力と知力が必要なB級代理官試験には合格して貰いたいモノだ。