第9章 空を得る 7
第9章
空を得る 7
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今日は“自由の日”だが、昼食後には、みんなに集まって貰って、今後についての会議を行う事にしていた。
最初に僕から、今日の会議の内容について伝えた。
1つ目は、移設した“エヴィエイションクルーザー”製造工場ビルの運用について。
此れは、ある程度決まっているので、みんなに考えを伝えて、他に意見が無いかの確認だ。
2つ目は、子供達の教育について。
今回、リーダーをした15人についての報告と全体の進捗具合、そして、今後の目標と予定についてだ。
3つ目は、建設計画について。
お城からエアポート迄の地下高速道路を作るのは決定だが、他の場所への地下高速道路や、お城の中の建物の優先的に必要なモノの擦り合わせを行っていく。
最後は、春からの行動予定についてだ。
もちろん、移民を行う訳だが、“エヴィエイションクルーザー”と云う移送手段を手に入れたので、予定よりも遥かに多くの移民の移送が可能となった。
しかし、どれくらいの人数が受け入れられるかは、子供達の成長に大きく左右されるだろう。
連れて来る事が目的ではなく、立派なルベスタリア国民を増やす事が目的だからだ。
教育係がどれくらい育つかで、受け入れ人数が変わって来る。
そして、移民がスムーズだと云う事は、他の事も出来ると云う事だ。
僕としては、魔都 ウニウンの探索をまたやって、まだ生きている工場の発見をしたいと思っている。
此れらの内容をみんなと相談する為の会議だ。
まあ、場所はリビングだが…………
「…………じゃあ、先ずは最初に、あの建物だけど、名前を“エアポートタワー”で統一しようと思う。
本当は、ナエラークの名前を入れようかとも思ったんだけど、ナエラークの存在は、公表はせずに、B級以上の代理官にだけ伝えようと思う。
大丈夫だとは思うけど、万が一、彼女の存在が他国に漏れたり、珍しがられて動物園みたいになっても困るし、アレは子供には見せられないからね…………」
僕の言葉に全員が力強く頷く。
特にアレを実際に見たティヤーロとリティラ、イデティカとグレーヴェの頷きは激しい。
「其れで、今後の運用だけど、基本はルベスタリア王国軍の管轄にしようと思ってる。
もちろん、ナエラークが居るから僕らも頻繁に出入りはすると思うけど、地下と工場、120階以外は、軍で使うオフィスや寮にしようと思う。
ついでに、工場での製造も任せるつもりだ」
「と、云う事は狼弾会のメンバーがやって来る、再来年の冬からの本格的な使用って事ですか?」
「うん、グレーヴェ、本格的にはね。
でも、今居る子供達の中からも何人か軍所属になって貰うだろうから」
「子供達にもですか…………」
「グレーヴェ。
前にも少し言ったけど、ルベスタリア王国軍人は、兵士であると同時に、騎士であり、憲兵だ。
勇猛果敢に戦える兵士としてはもちろんのこと、気高い精神を持った護衛も務める騎士としても、平等な目を持った犯罪を取り締まる憲兵でもあるのが、ルベスタリア王国軍人だ。
特に憲兵としての仕事は早めに初めて貰わないと、何時迄もケンカの仲裁にキミ達にわざわざ行って貰う訳にはいかないからね」
「…………ごめんなさい。
つい、軍人って聞くと……」
「分かってるよ、グレーヴェが軍人に対してどんな気持ちなのか。
グレーヴェだけじゃなくて、ネクジェーもリティラもね。
でも、アルアックスの軍人と、ルベスタリア王国軍人とは全く違うよ。
アルアックスの国王と僕が全く違う様にね。
難しく考える必要はないよ。
肉屋だろうが食堂だろうが、悪いお店も在れば、良いお店だってあるでしょ?
悪いアルアックス軍も在れば、とっても良いルベスタリア軍も在って、お店に悪い店員も居れば、良い店員も居る。
命令に託けて、悪い事を平気でやる軍人も居れば、ちゃんと、みんなの為に働く優しい軍人も居るって事さ」
「そうよ、グレーヴェ。
だって、ルベスタリア王国軍のトップはノッド様なんだから、悪い事なんてそもそも命令されないんだから」
「ネクジェー…………
そうだね。ごめんなさい、暗い顔して……」
「いいえ、グレーヴェさん。私も同じ経験をしましたし、子供達の中にも同じ経験をした子も居ます。
きっとグレーヴェさんと同じ様に思う子もいると思います。
でも、今のノッド様の言葉を伝えたら、逆に良い授業になるんじゃないでしょうか?
『自分は良い軍人になろう!!』って頑張る子もいると思いますよ?」
「さすがリティラ。
確かに、『ノッド様の言葉だ』って伝えたら効果抜群かも」
「リティラもグレーヴェも本当に先生が板に付いて来たね。
じゃあ、エアポートタワーについて他に無ければ、このまま、子供達の話しを聞こうか。
先ず、15人のリーダー達はどうだった?」
「私は問題無かった……寧ろ、予想よりも良かったと思います」
イデティカの言葉に、リティラ、グレーヴェの教師陣が頷いて、続いて、ティヤーロとレアストマーセも頷いた。
と、そこで、ペアクーレが手を上げる。
「……料理に関しては、ダメな子ばっかりだった。
特に、マイテーゼ、シイーデ、ネイザー、ネッグエンの4人は絶望的だった。
お砂糖と唐辛子粉を間違えるレベルだった」
「…………え?
どうやったら間違えるの?」
「…………ノッド様。
何故かは考えても分からないと思うので、料理に関わらせない事が最善だと思います。
マイテーゼはまな板ごとお肉を斬ってしまいましたし、シイーデは何故かお鍋が爆発しました。
もう、料理の神様に、心の底から恨まれていると思って諦めた方が良いと思います」
「……ティニーマに、其処迄言わせるレベルか…………
じゃあ、料理の事は諦めよう。
ディティカ、ネクジェー。
作業の方はどうだった?」
「概ね問題無いんですけど、ティエットとイーブレットが少しだけ問題が…………」
ディティカの意見にネクジェーも、気付いた部分があったのだろう。
「ああ〜……」と言ってディティカの話しを引き継いだ。
「あの、ですね。
この2人は、家畜の扱いに問題が有って。
何故かメスの家畜に凄く嫌われるんです。
彼女達が準備したエサは絶対に食べません。
逆にオスの家畜には凄く人気で、エサも無視して群がって来るんです」
「ああ、家畜は匂いに敏感だから…………って、子供達はまだ香水なんて持ってないよね?
もしかして、フェロモン的な?
確か2人ともまだ11歳だよね?」
「ノッド様、女の子は生まれた時から…………」
「ああ、うん。女性だよね。
でも、やっぱり11歳でフェロモンって言うのは…………」
「……ノッド様、私ではまだ女性の魅力が足りませんか?……」
「いや、リティラ。
リティラはとっても魅力的だけど、フェロモンって云うのとは違う感じなだけだよ。
こう、イメージ的に、成熟した女性な感じ?
リティラは魅力的だけど、まだ、完成形じゃ無い、成長中な感じで、ティエットとイーブレットもそうなんじゃないかって話しだよ」
魅力的と言う事は大事な事なので、2回言ったのが良かった様で、リティラは嬉しそうに恥ずかしそうにしている。
ティエットとイーブレットの家畜との関係は気になるところでは有ったが、この話題は早々に打ち切ろう!!
「えっと、でも、この2人って、前にネクジェーが商業方面に抜擢したいって言ってた2人だよね?」
「え?あ、はい、そうです。
賢さとは別の駆け引きって云う部分が多分、他の子とはレベルが違うと思います」
「…………なるほどね……
でも、そういう子は、野心とか私利私欲が強くなりがちだと思うけど、どうかな?」
「そこは大丈夫だと思います。
2人とも、ポーションが無ければ、食事だけでは助からないレベルで衰弱していたところを助けられているので、ノッド様を崇拝していますから」
「そっか。だったら、家畜の件は問題無さそうだね。
本人達の希望も有るだろうけど、商業方面なら仕事選びの幅も広いからね。
他の子で、何か気になる子は居た?」
みんなを見回すが、大丈夫な様だ。
「じゃあ、全体的に問題が有る子や、気になる子はいる?」
「ノッド様、今回の15人には選ばれて無いけど、食堂を任せられそうな子が3人いる。
その子達に食堂を任せたら、私とティニーマさんの手が空くと思う」
「スエックとパチェフィーとオーキンね?」
ペアクーレが手を上げてそう言うと、ティニーマも直ぐに思い当たったのか、3人の名前を出す。
ペアクーレもその名前に、頷いて、他のみんなも納得している感じだ。
「その3人は、食堂を仕切ったり、料理を教えたりも任せられそうなの?」
「そうですね。ただ、物資備蓄庫には入れないので、食料品や調味料を取りに行く事が出来ないですけど」
「なるほど。だったら、食材庫を先に建てようか。
移民が増えるか、農業や畜産がコンスタントに回るようになってからで良いかと思ってたけど、食材庫が在れば子供達で全部回る様になるよね?」
「ええ、大丈夫だと思います。
あと、宜しければ其処に、料理の本とレシピ用の書庫と読書スペースも作って頂けませんか?」
「其れは良いアイディアだね。
レシピは此れから新料理が開発されて増えるかもしれないから、ちょっと広めに作ろうか。
じゃあ、ティニーマとペアクーレは最後の仕事として、さっきの3人への引き継ぎと、食材庫の使用ルール、レシピの保管ルールを考えてくれる?
其れが終わったら、2人は、ティヤーロとレアストマーセの法律の方に移って貰って、4人になったら、C級とB級の代理官の試験を考えて欲しい」
「「はい!!」」
「他に気になる子は居る?」
「ノッド様。誰がと云う訳では無いのですが、序盤から来ている子は、勉強もかなり進んでいます。
なので、年末の予定だった卒業試験を早めてはどうでしょうか?
今回リーダーをした15人以外の子も結構合格する子が居ると思います」
「う〜ん……。勉強の方はそうかもしれないけど、試験を年末にしようと思ってるのは、法律が上辺だけじゃ無くて、考え方の方にも浸透する様にって思ってなんだよねぇ〜………」
「ノッド様。法律に関して、最も重要なのは、ノッド様への敬愛だと思います。
此れについては、今回の110人は全員がノッド様を崇拝していますから心配は無いと思います」
「そうですね。此れは多分、ノッド様と子供達の感覚の違いだと思います。
ノッド様は『困っている子供を助けてあげよう』くらいだと思いますけど、子供達にとっては、『日々死が迫って来る地獄から救ってくれた神様』くらいの感謝の気持ちがありますから。
来年以降は、大人も混じって来るので、時間を掛けた方が良いと私も思いますけど、今年の子供達に関しては、私もレアストマーセさんと同様に心配無いと思います」
みんなもレアストマーセとティヤーロの言葉に賛成の様で、頷いている。
僕としても、早く卒業して、各分野を早く任せられる様になるのは助かる。
「分かった。じゃあ、今月末に一度、卒業試験を行おう。
但し、受験資格は、勉強の中で模擬テストを行って合格した子のみにしよう。
其れで、今後の子供達の教育の目標と予定については、卒業試験後の結果を見てから考える様にしよう。
次は、建設計画なんだけど、先ずさっき話題になった食材庫と図書室を建てようと思う。
その次は、予定していたエアポート迄の地下高速道路の建設を行うつもりなんだけど、其れよりも先に建てて欲しい施設が有るかな?
…………じゃあ、その高速道路の後に建てて欲しい施設はある?」
「あの、ノッド様。その地下高速道路と云うのは一体何ですか?道とは違うんですか?」
ディティカの質問にみんなも『普通の道路と何が違うの?』と、云う顔をしている。
確かに、アルアックス王国には高速道路は無かった様だからイメージ出来ないのかもしれない。
僕の生まれたデラトリ王国には貴族用に王城と南門を繋ぐモノがあったが。
「えっと、先ず言っておくと、ルベスタリア王国では、地下10m以上掘る事は僕の許可が無いと出来ない法律だよね?
この法律は、色々と理由もあるんだけど、その一つが、この地下高速道路を作る予定だったからなんだ。
高速道路って云うのは、風を起こす魔導具を設置して、“エアーバイク”や“エアーカー”を速く走らせられる道の事で、そんな道に人が居たら危ないから、人が入って来れない様に建設するんだ。
其れをルベスタリア王国では地下にしようと思ってる。
其れが地下高速道路だよ。
元々は“エアーバイク”の移動用に考えてたんだけど、“エアーバス”が手に入ったから、“エアーバス”用にしようと思ってる。
イメージとしては、城門を出た所に、地下への入り口を作って、東西南北の門に向けて、地下に道を作る感じで考えてる」
「その高速道路があったらエアポート迄、凄く速く行く事が出来るんですか?」
「実際に試してみて安全面の見てみないと分かんないけど、3倍くらいのスピードが出るみたいだよ?」
「え?!」
「そんなに?」
「確かに危ないかも……」
最初に反応したのはハンジーズだ。
身体能力が強化されているみんなよりも速い反応速度だった。
彼女の速さに対する貪欲さが全面に出ている。
目もキラッキラに輝いている。
「僕も検証の為に使っただけだから、実際に設置してみてからになるけど、エアポートとの行き来がかなり短縮はされると思うし、此れから先、お城の外に街が出来ても、事故の心配がかなり減ると思うんだ。
一応、都市計画の図面も作ってはいたんだけど、“エアーバス”仕様に描き替えてからの建設になる。
だから、建設と実験とも合わせて、使える様になるのは来月上旬くらいだと思う。
特に急ぐ建物が無ければ、そのまま、他の3方向の建設をするけど問題無いかな?」
「其れが出来たら、みんなも使えるんですよね?
そうなったら、牧場との行き来も楽になりますよね?」
「うん、かなり楽になると思うよ。
そうだ。地下高速道路が完成したら、また、みんなで牧場にピクニックに行こうか」
「良いですね!!」
「賛成です!!」
ピクニックプランはみんな大賛成の様だ。
どうしても、今はまだ、全員での外出は難しい、誰かしらのお留守番が必要だ。
かと言って、ルベスタリア王国内には、まだ、お城の外に、堀の湖と水路、牧場とエアポートくらいしか施設が無いから遊びに行ける場所が無い。
此れも先々の課題の1つだ。
全ての国民が楽しく暮らすには、娯楽も必要不可欠だ。
「じゃあ、地下高速道路が多分、来月いっぱいくらいだとして、12月以降での建設の希望は有る?」
「ノッド様、急ぐ訳では無いのですが、出来れば春迄に、病院、製糸工場、縫製工場、革細工工場、衣料品店、食品店、生活用品店の建設をして頂けないでしょうか?」
「もちろん、全部建てる予定だから、構わないけど、春迄にって云うのは?」
「はい、モルツェンさんの事ですから、来年度の移民にノッド様の希望されていた医者、製糸、縫製、革細工の経験者は絶対に揃えて待って居ると思います。
後の商店に関しては、経験者も多いでしょうし、今年の子供達の職場にもなって行くと思いますので」
「確かにモルツェンさんなら絶対にそうですね」
「ネクジェーとグレーヴェがそう言うなら、本当に揃えて待ってそうだね。
分かった。
じゃあ、12月から1月くらいを目処に全部建ててしまおう。
他には何かある?」
「ノッド様、12月の卒業試験に合格したら、ルベスタリア王国では、もう成人ですよね?」
「え?うん、そうだけど、其れがどうかした?ティニーマ」
「だったら、新年には、新婚さんがいっぱい出来ちゃうかもしれませんよね?
その子達が学校の寮に住み続ける訳にはいかないですよね?
1人部屋ですし、別々の部屋に住むのは可哀想ですし、ルベスタリア王国的にも新しい国民が増えて行きませんもんね?」
「ああ、家族向けの家が必要って事か。
家族用のマンションは、1階の商業階に建てる予定ではあるけど、でも、まだ買い物も出来ない状態で、商業階に住むのは不便じゃない?
結局、食事は食堂で食べるしか無い訳だし…………」
「ノッド様、さっきのネクジェーの話しなら、春にはお医者様がこのルベスタリア王国にも来るんですよね?
もちろん、ノッド様の事ですから、産婦人科のお医者様も依頼されてますよね?
だったら、我慢させる方が不健康です。
寧ろ、その為の不便さなんて、些事だと思いませんか?」
「…………思います…………」
「で、あれば、新婚さんには家具付きのお部屋くらいはプレゼントしても良いのでは?
ベット大きめで」
「ねぇ、ティニーマ。
そんなにお膳立てしなくても、卒業迄は恋愛も禁止なんだから、其れからゆっくりお互いの気持ちとかを確かめ合ってから、本人達のペースで進めて貰えば良いんじゃないかな?
あんまり、結婚をプッシュすると、今後やって来る家族連れなんかに不公平になっても良くないからさ」
「…………確かにそうかも知れませんね…………」
テンション高めだったティニーマが悲しそうな顔をする。
自分でもちょっと結婚をプッシュし過ぎたかと反省している様だ。
其れを見た娘ティヤーロがため息と共に、僕の方を見た。
「ノッド様、お母さんは多分、結婚とか、出産とかをノッド様にいっぱい見せたいんだと思います」
「僕に?なんで?」
「其れを見てノッド様にも子供が欲しいと思って貰いたいからだと思います。
其れも出来るだけ早く。
遅くなっちゃうと、自分だけノッド様の子供が産めないかもしれないって不安なんだと思います」
「ああ〜……そう云う事か…………
ごめん、ごめん、ティニーマ。ちょっと、こっちにおいで」
そう言って、ティニーマを横に座らせると優しく手を握る。
ついつい見た目で忘れがちだが、ティニーマはティヤーロの母親で、36歳だ。
2番目のレアストマーセに比べても10歳も歳上だ。
だから、10年以上経って、僕が急に子供が欲しいと言い出したら自分だけが、僕との子供が産めないかも知れないと思ってしまったんだろう。
此れは、僕の今迄の言い方が良く無かった。
子供が出来ても良い様にと、広めの部屋を与えておきながら、後継者が必要無いと言ったり、“無敵の指輪タイプB”で完璧に避妊をしていると言ったりした所為で、子作りは遠い未来の話しの様に思わせてしまったのだろう。
「ティニーマ、ごめんね、不安にさせたみたいで。
安心して、最初から部屋を広くしてある様に、僕はみんなとの子供が欲しいってちゃんと思ってるよ。
前以て言っていなかったのが良く無かったけど、避妊をするのは再来年の秋迄、アルアックス王国からの移民が終わる迄のつもりだったんだ。
其れ迄は、みんなの中から誰かが妊娠や出産、子育てで欠けちゃうと国作りが大幅に遅れちゃうかもしれないからね。
移民計画も早く進められそうだし、ティニーマの言った通り、モルツェンに産婦人科医も頼んであるから、希望する娘は、再来年と言わず、来年でも良いかもしれないけどね…………
いや、やっぱり再来年だね。
再来年なら、全員が妊娠しちゃっても大丈夫だろうから」
僕が、「希望する娘は」と言った瞬間、全員の目が見開かれた様に感じたので、僕は一瞬で元の再来年に戻した。
言った通り、さすがに来年全員が妊娠してしまってはさすがに困る。
「ありがとうございます、ノッド様。
ごめんなさい、気を遣わせてしまって…………」
「良いんだよ、ティニーマが若くて綺麗だから、ついつい年齢の事を忘れて…………
あ、いや、その………。た、大切な事なのに、どう云うつもりなのか、ハッキリ言って無くてごめんね」
「いいえ、私1人がいい歳なので、不安だったんです…………」
ティニーマはそう言ってしなだれて来た。
やっぱり、女性は年齢的な話題は、自分で言うのはOKでも、人に言われるのはNGな様だ。
こんなに甘えて来ているのに、さっきの一瞬だけ見せた、怖い笑顔の方が印象が強過ぎる。
此処ぞとばかりに甘えて来るティニーマを見て、「お母さんだけズルい」と言うティヤーロにみんなが同意している中、ペアクーレがいつもの様に少し考えてから手を上げた。
「ノッド様、再来年以降でも、赤ちゃんを希望しなかったら、避妊して貰える?」
「其れはもちろん嫌がる事はしないけど、ペアクーレは子供は欲しく無いの?」
僕がそう聞くと、ペアクーレは全力で首を振った。
「ノッド様との赤ちゃんは欲しいけど、再来年の秋にみんなが妊娠したら、その次の年の春からは、ノッド様と2人っきりで、出掛けられると思って」
「!!其れは!!」
「確かに!!」
「妊娠しちゃったら、暫くはお留守番要員確定ですもんね」
ペアクーレの発言で、ああでも無い、こうでも無いとワイワイなる中、ティニーマは多分解禁直後からを希望している様で、微笑ましく見ている。
僕にはピッタリくっついたままは維持しているが…………
2番目のレアストマーセは、意を決した様な表情だ。
多分彼女も最初からを希望なのだろう。
夢がお嫁さんだった彼女は、子供を産む事への憧れも強い。
第3位のサウシーズは、ハンジーズの「弟が良い!!」と言う言葉に、「弟ね、ママに任せて」と言っている。
アレ?男の子か女の子って、どうにか出来るモノなの?
まあ、彼女も最初から希望決定なのだろう。
このままでは進まないので、この話題は一旦終了して、ちょっと、休憩にした。
各々で、まだ悩んでいる様だったが、まあ、まだ先の話しだから、急ぐ必要はない。
その間に、ティニーマはティヤーロに引き剥がされて、そして、最後の議題へと進んだ。
「じゃあ、最後の春からの行動予定だけど、“エヴィエイションクルーザー”が在れば、毎晩100人運べる様になる。
今迄みたいに、トレジャノ砦を経由する必要も無いから、王都アルアックスから見えないくらい離れたところに着陸ポイントを決めて、其処に“エヴィエイションクルーザー”で迎えに来れば済むからね。
でも、余り多過ぎても今度は教育係が足りなくなる。
だから、当初の最大500人を大幅に超える事は出来ないだろうけど、時間的には余裕が出来ると思うんだ」
此処まで言ったところで、サウシーズが手を上げる。
事務仕事が中心で、子供達と直接関わる事が少ない為、最近は殆ど聞き役だったサウシーズが意見を出すのは珍しい。
「あの、ノッド様。
あくまで、最優先は移民を増やす事で、時間に余裕が出来そうだから、他の事もと考えられていると云う事で良いですか?」
「うん、そうだね。
移民が最優先なのは変わらないよ」
「でしたら、春になった直後に最大予定の500人の移民を行なって、秋口にもう一度、今度は再来年の最低予定の1,000人の移民を行っては如何ですか?
春の移民も“エヴィエイションクルーザー”を使える状況なら、ワイドラック山脈の雪解けを待つ必要は有りませんから今年よりもかなり早く始められます。3月の上旬からでも問題無いと思います。
其れで、3月に来た移民の中から早い段階で卒業出来た人を順次振り分けて行って、秋には教育係側になって貰えば、次の1,000人の教育も可能になると思います。
ただ、卒業の1番のポイントはさっき話題になっていたノッド様への敬愛の精神だと思うので、此れに関しては、何かしらのデモンストレーションを行なって、ノッド様のカッコ良さを伝えれば良いと思います」
素晴らしい、アイディアだ。
確かに空を移動出来る事で、雪解けを完全に待つ必要は無いから早く行動を開始出来る上に移動のタイムラグも少ないので、教育を早く、纏めて始める事も出来る。
此れを使って2段階で移民を行うのはとても効率が良い。
最後の僕がデモンストレーションを行って求心力を高めるのも、良いアイディアだ。
やっぱり宰相向きの全体を見通す目は、サウシーズが1番だろう。
ただ、最後の最後で、デモンストレーションで国民に伝える事が僕の「カッコ良さ」だと言ってしまうところが彼女らしいが…………
「サウシーズ、其れ採用!!
ナイスアイディアだ。
いきなり、500人消えた後にまた1,000人も消えて、アルアックス王国に勘付かれないかが心配ではあるけど、最悪、その場合には狼弾会のメンバーだけ追加すれば、2,000人近くにはなるから、再来年はアルアックス王国に行く事が出来なくなってもまあ良いだろうし」
「ノッド様、アルアックス王国はきっとスラムの住人が1万人消えても気にしませんよ。
一昨年から去年に掛けての大寒波で其れくらいの人が亡くなってますけど、無視でしたから」
ネクジェーの言葉に、グレーヴェもウンウンと頷いている。
アルアックス王国の人口が100万人以上とは云え、1万人死んでも無視とは、本当にあの国は如何しようも無い。
「如何しようも無い国だなぁ〜……
まあ、其れでも油断はしない様にしよう。
王族や貴族は、スラムの人達の命は何とも思って無くても、『誰かが何かを企んでいるかも』って事には敏感だろうからね。
とりあえず、来年は3月に500人、9月に1,000人の移民受け入れを予定しよう。
其れと、魔都 ウニウンの探索も再度行おうと思う。
目的は、稼働している魔導具工場の発見だ。
今回、エアポートタワーを持って帰れたのは、とても大きな意味がある。
其れは、今後、古代遺跡都市の建物をルベスタリア王国に移設可能だと云う事だ。
殆どの工場は既に荒らされてしまって動かないだろうけど、例えば、強力な魔物が多いエリアなんかに、水道の魔導具の工場なんかが在ったとしても、上位のハンターは値段の安い水道の魔導具を頑張って大量に持ち帰ったりしないだろうから、余り荒らされていない、まだ稼働している状態の工場も探せばあると思うんだ。
そう云う工場を持ち帰れれば、その魔導具は作り放題になる。
現状、魔導具に困ってはいないけど、此れから人が増えて行ったら、建材や生活用品なんかを僕が全部用意するには限界が有るから、特に良く使うモノに関しては工場を手に入れたいと思ってるんだ」
「其れはつまり、またノッド様とずっと一緒に居られると云う…………」
「ペアクーレ、来年はちゃんとローテーションを組んで、順番に行きましょうね?
ね?ノッド様?」
「うん、ティヤーロ、そんなに怖い笑顔で見なくても、もちろんそのつもりだよ。
イメージとしては、5人が此処に残って、もう5人が探索について来て貰おうかと思ってる。
ウニウンでは、僕を含めた6人を2チームにして手分けして探索をする感じで考えてるんだ。
欲を云うなら、春迄にB級の代理官になれる子が居れば、実戦経験も兼ねて追加で連れて行きたいと思ってるけどね」
「B級ですか……
今回リーダーをした15人の中には合格する子も居ると思います。
此処に来たばかりの頃の私なんかより、断然優秀ですから……」
「ティヤーロ、そう云う言い方は良くないな。
あれでしょ?自分は今居る子達より、たまたま少し早く僕と出会ったから、その分、少しだけ前に居るだけで、直ぐに追い付かれちゃうんじゃ無いかって思ってるんでしょ?
全然違うからね。
ティヤーロもみんなも、僕が自分の目で選んだ上で、連れて来たんだ。
出会いはみんな偶然だけど、去年、キミ達10人を選ぶ迄に、僕は何千人も見て見ぬ振りをした。
ついて来るかどうかはみんなに聞いたけど、そもそも、そう聞いたのはキミ達だけで、他の人には、声を掛けてすら居ない。
言っておくけど、みんなが可愛かったからじゃないよ?
可愛いかどうかは、優先順位の3番目だったからね?
僕がキミ達を選んだのは、『何があっても絶対に僕を裏切らない』と、目を見て確信したからだよ。
今現在で、僕がそう思って居るのは、キミ達10人と、ハンジーズ、ナエラーク、あと、ウルフバレット モルツェンとヴィアルトだけだ。
因みに、A級代理官への昇格条件が無いのは其れが理由だよ。
A級にするかどうかは、僕が決める。
だから、どれほど優秀でもA級になれるかどうかは分からない。
つまり、C級、B級とA級、S級との間には隔絶した差がある。
僕に選ばれたかどうかって云う、たった1つの、でも絶対的な差だ。
ついでに言うなら、A級とS級に階級的な違いは無いよ。
僕にとって女性としても大切かどうかだから」
みんなが笑顔で頷いて、ティヤーロも自信を取り戻したみたいだ。
唯一、難しい顔をしているのは、ハンジーズ。
彼女は賢いので、今の話しも多分、ある程度は理解しているんじゃないかと思う。
その上で、難しい顔をしているので、今、声を掛けるのは危険だと判断した。
なんだかヤバそうな質問は、後でママにして貰おう…………
この後は、移民の運搬についても、何人のB級代理官が居れば何処までの計画が立てられるかなどを話し合って会議は終了した。
一昨年は僕1人、去年はみんなと12人だった冬の準備期間が、今年は123人だ。
来年、大きく動き出す為にも、着実に進めて行こう!!