第9章 空を得る 6
第9章
空を得る 6
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ルベスタリア暦2年10月19日。
この日、僕は魔都 ウニウンで行って来た作業の集大成を成そうとしていた。
この計画が成功すれば、今後、ルベスタリア王国の発展に絶大な影響を与える事だろう。
全ての準備が完了したのは昼過ぎで、少し遅い昼食を摂ってから、作戦開始迄は身体を休めた。
最近はめっきり日も短くなり、作戦決行は18時、完了予定は24時だ。
薄暗くなった17時、僕は完成したばかりの“ミグレーション3番艦”のデッキに居た。
ティヤーロが工場の大型エレベーターを操作して、“ミグレーション3番艦”を工場屋上迄上げる。
“ミグレーション3番艦”は、ディティカが運転している。
工場屋上からビル屋上へとゆっくりと移動すると、僕は相棒“ウィフィー”に乗ってビルの屋上へと降り、ビル屋上の四隅に有るポールからワイヤーを外して、“ミグレーション3番艦”のデッキに取り付けたフックに掛けて行く。
工場の屋上にも“ミグレーション1番艦”が既にリフトアップされていて、出発の18時を待っていた…………
18時、先ず“ミグレーション1番艦”が浮上して行く。
そして、此処からが本番だ。
“ミグレーション3番艦”を浮上させる。
ゆっくりと、慎重に、ビルを囲う箱の中心になる様に位置を調整しながら浮かんで行き、ワイヤーが完全に張ったのを確認して、箱の周囲の“不可侵領域結界柱”を作動させると、
ガガガガガ…………
と、結界が地面を削っている音が響き、静かになったと同時に、上昇する…………
抉れた大地と共に、ビルと工場を内包した漆黒の箱が空へと浮かび上がる…………
上昇したのは僅か70m。
其処で、結界を一度解除すると、
ドドドドドドドド……………
大きな音を立てて、結界が抉った大地が地上へと降り注いで行く。
その音を聞きながら、徐々に徐々に上昇して行き、地上1,000mにて再度結界を展開すると、更なる上昇を行いながら、“ミグレーション3番艦”は、遥か北の地、僕の国、ルベスタリア王国へと加速して行った…………
今回のペアクーレのアドバイスから僕が立てた計画、其れは、“エヴィエイションクルーザー”の工場とビルを丸ごと、ルベスタリア王国に移設する計画だ。
先ずはルベスタリア王国で、大きな“イモータルウォール”の箱を作って、魔都 ウニウン迄運び、ビルと工場に被せる。
そして、箱と建物の間を地下4階の底と同じ深さ迄掘り返して行き、箱を更に下方に延長して行く。
深さが揃ったら、箱の底面を作って行き、地下4階の底の“イモータルウォール”と連結させる。
其れが終わると掘った穴を埋めて行く。
此れを建物の周囲全てで行ったのだ。
この時、今後の出入りを考えた地下道の設置も行った。
この作業に1ヶ月掛かったのだ。
そして、本来なら、来年に持ち越すくらいの工期が掛かる予定だった。
何故、ここ迄時間が掛かるかと云うと、建物の周囲の地下には大量の衝撃吸収機構が設置されていたからだ。
此れは恐らく、魔都 ウニウンが元々は空中都市だったからだと思う。
大地そのものが空を飛んで移動していた為、普段から常に振動を受け続けていて、其れを完全に殺す為に、大量の衝撃吸収機構が必要だったのだろう。
この衝撃吸収機構を避けながら掘り進めて行くのに時間が掛かったのだ。
今迄の何も無い所からの建設の様に、掘削用の魔導具“ディガップピックル”を使ってごっそり掘り返す事が出来なかったからだ。
そして今、巨大なビルを詰めた巨大な箱が空を飛んでいる。
魔都 ウニウンから王都ルベスタリアまで6時間。
本来の移動なら、夕食も風呂も済ませて、仮眠を取りつつの移動だが、不測の事態に備えて、早い時間からの出発にして、夕食も船内で簡単に済ませる予定だ。
空箱を運んだ時と同様に、四隅の突起に“ゼログラビティバック”を被せているので、重さを掛けず、結界で風の影響も防いでいるが、万が一の時に備えている。
長く感じた6時間。
王都ルベスタリアのエアポート管理塔が夜空を照らす赤い光の柱が見えて来た。
エアポートは雪だるま型で、管理塔やガレージの在る大円と“エヴィエイションクルーザー”が発着するスペースの小円から成っている。
通常は何方も“不可侵領域結界柱”の結界で覆われているが、発着の際には小円側の結界を解除する。
この時、結界の解除が夜間でも分かる様に管理塔から白い光の柱が上がる。
しかし、緊急時に、ガレージからの直接発進やガレージへの直接着陸が必要な場合には大円側の結界も解除する。
この時、立ち昇るのが、赤い光の柱だ。
ただ、今日は特別に解除したのであって緊急事態と云う訳では無い。
先行した“ミグレーション1番艦”が到着後に解除しているのだ。
理由はもちろん、ぶら下げている箱を降ろす為だ。
光の柱の横へとやって来ると、予定通り、地面の大きな穴へと沢山の照明が向けられて、昼間の様に明るく照らしている。
僕は艦首を西に向けると、箱の結界を解除して、ゆっくりと降下して行く。
大穴と周囲も“イモータルウォール”で補強してあるので、もしもズレていたらワイヤーが弛む筈なので、注意深く降ろして行く。
箱が有る為、真下が見えないので、周囲から照らす目印だけが頼りだ。
箱の高さは地下を伸ばしたので550m、箱の上部と船の船底との高さが185m、なので、“ミグレーション3番艦”が高度735m以下になってもワイヤーが弛まなければ、嵌ったと云う事だ。
750……740……739……738……737……736……735……734……733……732………………
ワイヤーは大丈夫。
そのまま高度を下げる。
730……720……710……700……690……
そして、685m、だんだんとワイヤーが弛み出した…………
成功だ!!!!
「ふぅ〜〜………」
僕は大きく息を吐いて、後ろで心配そうにしていたリティラとディティカに笑顔を向ける。
2人も息を吐いて、笑顔になった。
そして、
パーーン!!
無言のハイタッチを交わしてから、3人で声を出して笑い合った…………
翌朝、僕は魔都 ウニウンでやった綱渡りを行って、“ゼログラビティバック”と、ワイヤーの撤去を行った。
今回は前回と違って、命綱が、“ハイスツゥレージ”から繋がっているので、もしも、足を踏み外しても建物に叩き付けられる心配が無い分、安全だ。
その後、一応、ナエラークの様子を見に行った。
昨夜はリティラが着陸後、様子を見に行って問題無い様だったが、念の為、自分でも確認したかったからだ。
ナエラークは全く問題無い様で、寧ろ、今後はリティラ達が気兼ね無く来れるので喜んでいた。
現在はお城からエアポート迄、“エアーバイク”で、片道1時間くらい掛かるが、この冬の間に、地下高速道路の建設を予定しているので、リティラ達も頻繁に行き来が出来る様になるだろう。
こうして、ルベスタリア王国の一大事業となった“エヴィエイションクルーザー”工場移設工事は無事に成功した。
此れからルベスタリア王国は伝説の空飛ぶ船を作り放題だ!!