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箱庭の王様  作者: 山司
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第2章 一人暮らし 3

第2章

一人暮らし 3





▪️▪️▪️▪️





小屋に戻ってから1ヶ月くらい経った。


僕は毎日、目が覚めたら起きて、お腹が空いたら食べて、眠くなったら寝ているので、王都に住んでいた時と同じ様に、今日が何月何日かもよく分からない生活を送っていた。


この1ヶ月程は暇な時間はずっと本を読んで過ごしている。

其処で僕は衝撃の作品に出会ってしまった!!



その作品は50冊も続くマンガだったのだが、悪魔に取り憑かれて不老不死になった男が主人公の物語だった…………




ーーーーーーーーーー



主人公ディードは戦争で両親を失った戦災孤児だった。


教会の孤児院で貧しい中でも多くの友達と楽しく暮らしていた。


そんなある日、ディードが密かに恋をしていた少女に里親が見つかり孤児院を出る事になった。

悲しみも有ったが少女の幸せを願い笑顔で送り出した。


しかし、その日の夜、出て行った筈の少女の声が聞こえた気がして、目を覚ます。


声が聞こえた方に向かったディードは、教会の隠し部屋を見つけて、中に入って驚愕する。


その隠し部屋では、出て行った筈の少女が祭壇に括り付けられ、育ての親である神父がその少女にナイフを突き立てていたのだ。


神父は実は悪魔崇拝者で、悪魔を呼び出す儀式で少女を生贄にしていたのだ。


ディードは少女を助けようと神父を倒して少女からナイフを引き抜く。

そして、少女の血を全身に浴びてしまい、なんと悪魔に取り憑かれてしまう。


ディードは自分の心の中の世界で、その悪魔と必死に戦う。

長い長い戦いの末にディードはとうとう悪魔を倒して生き返る事に成功する。


目が覚めたディードは神父によって裏山に埋められていたが、其処から抜け出し、神父を殺して旅に出る。


ディードは多くの仲間と出会い、別れ、数々の冒険を繰り返して行く。


そして、ディードは残虐で強欲で知恵有るドラゴンと対峙する。

ドラゴンとの死闘の末、ディードは敗北してドラゴンに捕まってしまう。


ドラゴンはディードの不老不死を見抜き、永久に食べられる餌として捕まえたのだ。

其れからディードは、毎日毎日毎日毎日、ドラゴンに身体中を食べられ続けてしまう。


別の冒険者がそのドラゴンを倒して、助け出される迄、そんな生活が続いた。

ディードは自分の不老不死を呪うと共に、自分の弱さに怒り、不老不死を活かした極限の修行をする。


そうして強くなったディードは、また大冒険を繰り返す。


しかし、ディードが全く歳を取らない事に気付いた、かつての仲間に裏切られて、悪魔崇拝者達に捕まってしまう。


その後、ディードは常軌を逸した非道な人体実験を繰り返されて、あらゆる魔獣の能力を継ぎ接ぎされた本当のバケモノにされてしまう。


そして、とうとう悪魔崇拝者達にも抑え付ける事が出来なくなり、ディードは悪魔崇拝者達を壊滅させる。


だが、ディードは既にバケモノだ。

山に篭ってひっそりと暮らす様になった。


しかし、其れすらもディードには許されなかった。

次々と冒険者達がディードを討伐しようとやって来た。


その中には、ディードのかつての仲間の姿も有った。


其れでもディードは向かって来る者達を殺さない様に追い払い続けた。


そして、とうとう世界中の国々が強者を集めてディードの討伐にやって来た。


ディードは戦って戦って戦い続けた。

そんなディードの前に聖女と呼ばれる少女が現れた。


その聖女はディードがかつて救えなかった初恋の少女に瓜二つだった。

ディードは一切の抵抗を止めて、聖女によって永遠に封印されたのだった…………




ーーーーーーーーーー




「…………此れは僕だ…………

未来の僕の姿だ…………」



この物語を読み終えた僕はディードの楽しくも辛く苦しい悲しい人生が自分自身の未来の様に思えた。


だから、大きな声で誓った!!


「僕は強くなる!!!!」





▪️▪️▪️▪️





ディードの物語を読んで不老不死の危険性を感じた僕は強くなる為に色々な事に取り組んだ。

こんなに真剣になったのは、高位貴族の次男の運命を知って以来だ。


僕は先ず何をすべきか書き出す所から始めた。



・剣術の腕を高める。

・魔導具の知識を増やす。

・魔導具の使い方を極める。

・小屋の防衛力を高める。

・周辺の情報を集める。

※信頼出来る部下を増やして軍隊を作る。



剣術の腕を高めるのは言わずもがな、僕自身が強くなる為だ。

僕は10歳で剣術訓練を辞めてしまった。


でも、キマイラと戦った時に僕に剣術の腕があれば、あの時キマイラに殺される事も無かった。

何故なら、碌な剣術も出来ない状態で魔導具の力だけで倒す事は出来たのだ。

此処に剣術が加われば危なげなく勝てていただろう。



次に魔導具の知識を増やす事は間違い無く僕を強くして、更に先の目標にも必ず役に立つ。

僕自身の強化で云えば、前回のルベスタリア森林への遠征よりも更に洗礼された装備が出来るかもしれない。


そして、その魔導具を完全に使いこなす。

此処の凄まじい魔導具の数々を持ってすれば、それだけで世界最強を目指せるレベルではないだろうか?



次はこの小屋の防衛力を高める事だ。

この小屋の魔導具の力は僕の生命線だ。

此れを奪われたら僕はディードと同じ運命を辿る事になるだろう。


厳重なロックを掛けて、僕以外は入れない様にして、更に周囲に砦や城、防衛都市なんかを作って徹底的に守るべきだ。



次の周辺の情報を集めるのは当分先になるだろう。

先ずは足元をしっかりと固めて、十分な準備が出来てからルベスタリア盆地内、続いて周囲の山脈地帯、その後は北東のドラゴンランドと南部の砂漠迄は調べたい。


僕達の常識では、南部の砂漠地帯は人類未踏の秘境の先だが、この小屋に賢者 ウィーセマーが住んでいた様に、秘境の先にも人間がずっと住み続けている可能性も捨て切れない。



そして、最終目標の信頼出来る部下を増やして軍隊を作るのは、もう、何十年先になるか、何百年先になるかも分からないがいつかは必ず必要だ。


ディードの物語で僕の得た教訓の1つ、『1人ではどうにもならない限界が有る』と、云う事だ。


例え不老不死でも、どんなに強くなっても、1人ではどうにもならない事がある。

大勢に囲まれ続け、攻め立てられ続ければ、いつかはディードの様に捕まってどうしようも無い目に遭うかもしれない。


其れを回避するには、数の力が必要だ。


ディードは自分の不老不死をひた隠しにしていたが、人間は理解出来ないモノを恐れて排除しようとする生き物だ。しかし、逆に超常の存在を崇め、崇拝もする。


ディードは不老不死を隠した為に前者になってしまったが、僕が目指すのはもちろん後者だ。


幸い僕には賢者 ウィーセマーの残してくれた大量の魔導具と製造工場、永久に食べられる食料が有る。


なので、例えば僕が王様になったとしても、民から搾取する必要は全く無いし、むしろ与え続ける事が出来る。

此れを利用して、崇拝される神様の様な王様になれば良い。


此れでも僕は10歳迄は、アフィスターウィン侯爵家の人間として領地経営も法律も学んでいる。

実践経験は無いが、税率や報酬のバランスも知識としては知っているし、この小屋にはそういった事を学ぶ為の本もちゃんと有る。


自分から人を呼び込むのは僕の安全確保に自信が持ててからになるから、ずっと未来の話しではあるけど、準備が出来次第行うつもりだ。





こうして、行う事を書き出して気付く。

この小屋には鍵さえ掛かっていない事に…………


僕は先ずセキュリティ系の魔導具を小屋の周りに付けて周り、少なくとも、簡単にはこの小屋には入れない様にした。


その後、僕は剣術の本で学びながら身体を鍛え、魔導具の知識を学びながら実践し、魔導具を活用した小屋の防衛力向上を行って日々を過ごして行った…………







▪️▪️▪️▪️





剣術の訓練は先ず書庫から剣術の本を大量に訓練場に運ぶ事から始まった。

其れから、内容を読みつつ実際に試す。


色々な訓練法が有った。


剣を振るう上で必要な筋肉を鍛えてから技を学ぶモノ、ただひたすら型の動きをなぞるモノ、集中力と精神を鍛え其処に剣の動きを乗せて行くモノ。


其れらを順に試して行った。


残念ながら、僕には指導者がいない。

なので、訓練法も自分で見付けなければいけない。


ただ、僕は10年間遊んで暮らしていたので厳しい訓練をずっと続けられる程の体力も無い。

いや、ずっと続けられるどころか、短時間で体力が尽きてしまう。

なので、体力が尽きた後は、魔導具の勉強をした。


此方は僕には苦ではなかったので、長時間行う事が出来た。


10年振りの身体の酷使に、筋肉痛と戦いながら訓練を繰り返す事数日。

僕は筋肉痛に耐え兼ねて、薬品庫を訪れた。


其処で僕は自身のレベルアップを飛躍的に早める方法を発見してしまう…………



「…………痛み止めだけでも、凄い種類があるなぁ〜……」


最近だんだんと癖になり掛けている独り言を呟きながら、薬品庫のパネルを操作する。

其処には、各痛み止めの効果や成分なんかが詳しく載っていた。


「うぅ〜…ん……筋肉痛専用って云うのは…………

あった!!でも、筋肉痛専用でも、こんなに種類が…………


ん?!“筋肉圧縮強化回復ポーション”?!」



ーーー筋肉圧縮強化回復ポーションーーー


筋肉繊維の断裂を回復する際に、繊維の圧縮強化も並行して行う。

カロリーの消費を上げてスリムな体型を維持したい方、細マッチョを目指される方にオススメ。

常用すると副作用として筋力が上がり過ぎて骨を圧迫してしまう為、骨密度強化ポーションなどと併用される事を推奨。


ーーーーーーーーーー



「…………これだぁーーー!!!!

此れなら一気に強くなれるじゃないか!!」



ポーションとは魔法薬の総称だ。

古代魔導文明の魔導具でしか作れない為、非常に高価で、魔導具の所有者達が故障を恐れて、現代では、体力回復ポーション、怪我回復ポーション、異常回復ポーションの3種類しか作られていない。


ただ、高価なだけあり効果は抜群だ。


他の薬剤と違い、ポーションは薬効成分では無く、魔法が込められた液体なのだ。

なので、飲めば直ぐに効果があり、体力回復ポーションは三徹の疲労も一瞬で消し、怪我回復ポーションは大怪我や骨折も一瞬で治し、異常回復ポーションはどんな毒も病も一瞬で癒やしてくれる。


そんな魔法薬で、肉体強化を行えば、僕もきっとあっという間に歴戦の戦士の様な筋力が身につくに違いない!!



「…………『伝説の勇者』や『伝説の英雄』の物語は、凄く脚色されているモノだと思ってたけど、もしかしたら、こう云うポーションとかが当然のように有ったから強大な魔獣やドラゴンとの一騎討ちなんて事が出来たのかもしれない…………


訓練の仕方を変えよう。

先ずは有効なポーションを吟味して、其れを活かせる訓練を積む方が断然良さそうだ!!」




其れから僕は数日掛けてポーションを吟味して、訓練場にポーション保管庫と休憩所を作った。

1階の小屋の様な建物で、小屋と同様の“イモータルウォール”と云う魔導具で作っている。


小屋の防衛力強化の為に魔導具を設置していた時に見つけたモノだ。

ぱっと見のデザインは木の板や鉄板、レンガ壁の様に見えるが、壊れる事も腐る事も無いと云うとんでもない代物だ。

接合用の魔導具でくっつけるとバラす事も二度と出来ない。


『古代魔導文明の遺跡都市は壊せない』と聞いた事があったけど、きっとこの板材で出来ているからだろう。



そして、吟味の末にこの休憩所のポーション保管庫に持って来たポーションは次の通りだ。



・筋肉圧縮強化回復ポーション

筋肉繊維の断裂を回復する際に、繊維の圧縮強化も並行して行う。


・骨密度硬度強化ポーション

骨細胞の密度と強度を上げ、且つ衝撃吸収性を高めて圧力や衝撃に強い骨になる。

※強化し続けると骨が徐々にミスリル化して行き、白銀色になってしまう。人体に影響は無い。


・五感向上ポーション

視覚、味覚、聴覚、嗅覚、触覚の能力を向上させる。

但し、脳への負担を軽減する為、効果は軽微。長期間の定期的な服用が効果的。


・完全記憶ポーション

服用後、2時間以内の情報を完全に記憶する。

※脳への負担が大きい為、長期、大量の服用はお控え下さい。


・脳力向上ポーション

脳の活性化を促し、記憶力、判断力、思考力、分析力等を向上させる。

但し、脳への負担を軽減する為、効果は軽微。長期間の定期的な服用が効果的。




以上の5種類のポーションを選んだ。

他にも気になるモノは有ったが、余りにも大量のポーションを飲むのは危険だと思い、厳選したこの5種類だ。


其れとは別に念の為、体力回復ポーションと怪我回復ポーションと異常回復ポーションは持って来て、メディカルチェック魔導具も持って来ている。



準備万端、僕の修行の日々が始まった…………





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