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箱庭の王様  作者: 山司
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第9章 空を得る 4

第9章

空を得る 4





▪️▪️▪️▪️





久遠の空の女王 ナエラーク ファースト エタニティスカイ。


彼女が生まれたのは、遥か昔、“セカンドストライク”が起こるよりも過去、古代科学文明時代だった。


生まれたばかりの彼女は、海で生活するカメと云う動物だったらしい。


しかし、其処に“セカンドストライク”が訪れた。


彼女は“セカンドストライク”を起こした爆心地のかなり近くに居た様で、落ちて来る巨大な隕石を見たそうだ。


“セカンドストライク”の衝撃は想像を絶するモノだった。

前も後ろも、上も下も分からない程の嵐が起こり、彼女は必死に泳いだ。


カメと云う動物は、海で暮らし、何日でも何ヶ月でも海に潜る事が出来るらしいが、何年も碌に呼吸が出来ない程の嵐に会い続け、彼女は思った、『クソッ!!空が翔べれば!!』と、そう思った彼女は必死に空に向かって泳ぎ出した。


すると、なんと彼女は空へと翔び出した!!


そして、知った。

自分が空を翔べる力を手に入れたと。


其れは後に人間が魔法と呼ぶ力だった。



空へと翔び出した彼女は、日々、『もっとこのヒレが大きければ高く翔べるのに』、『もっとこの首が細くて長ければ速く翔べるのに』と、考え続けた。

すると、彼女のヒレは次第に大きな翼へと、首は細く長く変わって行ったのだ。


そして、長い年月を経て、彼女はドラゴンとなった。


空は彼女のモノとなった。

彼女は空の女王となった。



そんなある日、ふと地上を見ると、殆ど居なかった筈の人間が街を作っていた。

其れは1ヶ所では無く、あちこちに街が作られていたのだ。


其れはただの思い付き、其れはただの気紛れ。

彼女は人間の作っている街の一つに行ってみた。


しかし、彼女を見た人間は怯え、逃げ惑い、剰え攻撃して来る者迄居たのだ。


彼女はショックだった。

彼女は近くの森に行くと、悲しみから不貞寝した。


だが、あろう事か、人間達は不貞寝する彼女のところにやって来て、彼女に攻撃をして来たのだ。

怒った彼女は、襲って来た人間に怒りをぶつけた。


腕を振るえば、人間と共に森の木々は吹き飛び、怒りを叫べば雷の雨が降りそそいだ。


其れでも人間は何度も何度も襲って来た。


そして、ある時気付いた。

人間達が行っている事、そう会話だ。


彼女は人間に、「攻撃して来るな」と会話で伝えようと思った。

襲って来た人間を殺さずに捕まえて、色々な言葉を聞いてはそのまま帰らせた。


そんな日々が暫く続いて、彼女は人間の言葉が分かる様になった。

しかし、ドラゴンの口ではどうしても人間の言葉を話せない。


今迄と同じ様に、毎日毎日、『人間の言葉が話せる様になれ!!』と念じた。

すると、ある日ふと感じた。

『多分、話せると思う』と。


其れは口で話すのでは無く、魔法で話す事だった。


自分で喋ってみて、人間の言葉が話せている事を確信した彼女は試してみたくて堪らなくなり、人間の街に行った。


しかし、誰も彼女の言葉を聞いてはくれなかった…………


彼女は途方に暮れて、遠くへ行った…………



そして、出会った。

自分と同じドラゴンに…………


自分よりもかなり小さく色は違ったが、姿形は同じだった。


傷付いていた彼女は、恐る恐るそのドラゴン達に近付いてみた。

すると、ドラゴン達はどうやら彼女を歓迎してくれた様だったのだ。


暫く、そのドラゴン達と一緒に過ごしていた彼女だったが、どうもドラゴン達はよく喧嘩をする。

宥めようとするが、何を言っているのか分からない。


そこで、彼女はドラゴン達に会話を教えようとしたが、どうも上手く行かない。

そんなある日、彼女がまた、喧嘩の仲裁をしようとしていると、勢い余った1体のドラゴンが彼女に噛み付いてしまった。


彼女は思った、『こんな時こそ会話が出来れば良いのに』と。


すると、なんとその噛み付いたドラゴンが、「ごめんなさい」と、言ったのだ!!


彼女は自分に噛み付けば、言葉を話す魔法が使える様になると思い、どんどんドラゴンに噛み付かせた。

彼女の予想通り、ドラゴン達は会話が出来る様になったが、予想以上の事が起きた。


ドラゴン達は会話だけで無く、空も飛べて、魔法も使えて、彼女に近いくらいに大きくなったのだ。

彼女は孤独な空の女王では無く、空翔ぶドラゴン達の女王となった。


そして、月日は流れた。

ドラゴンはどんどん増えて行って、彼女にも沢山の子供が生まれた。


生まれて来たドラゴンは彼女の子供も彼女以外の子供も、みんなが話せ、飛べ、魔法が使えて、大きく育った。


そんな時、人間の家族が彼女達の暮らす森にやって来た。

『もしかしたら、また攻撃されるかもしれない。私だけで無く、子供達も……』そう、思った彼女は、その家族に、「この森は私達の森だ。だから、帰れ」と言った。


するとその家族は、声を揃えて、「魔獣が喋った!!」と、言ったのだ。

彼女は怒って、「私は魔獣なんかじゃ無い!!一緒にするな!!」と言った。


すると、家族の中の人間の娘が、「もしかして、ドラゴンなんですか?」と話し掛けて来たのだ。


其れがドラゴンと人間との関わりの、ドラゴンが歴史に登場したキッカケだった。


最初はその家族と、次はその家族の住む村の村人と、そしてその村の在る国と、人間とドラゴンの関わりはどんどん広がって行った。


その中で、彼女は人間の文化を歴史を知恵を学んで行った…………


長いドラゴンと人間の共存の時間が続いた。

ドラゴンも人間も発展して行き、かつての“セカンドストライク”以前を凌駕する程の豊かな時代が続いた。


そして、人間達はとうとう、空に大地を浮かべて、空に巨大な都市を築き始めた。

其れは、ドラゴンと人間との関係を壊し始めるキッカケともなった…………



発展を続けた結果、人間がドラゴンを倒し得る力を手に入れてしまった…………

強欲で、短命な人間がドラゴンに匹敵する力を…………


人間は欲望のまま、ドラゴンを資源にしようとした…………

長く共に歩んで来たドラゴンを…………


ドラゴン達は人間と関わらなくなった…………



彼女が時折見ていた人間達は、山を消し飛ばし、海を沸騰させる程の力を持ってしまっていた。

そして、人間は、人間すら資源にし始めた。


圧倒的な力を持つ、空の僅かな人間と、力を持たない地上の大量の人間との、搾取し、搾取される関係が長く続いた。


そして、今度は、空の人間が空の人間から奪おうと争いを始めた。

長く争いが続き、空の人間がどんどんと疲弊して行った。


其れを待っていたかの様に、地上の大量の人間が、空の大地に攻め入り始めた。

その争いが始まってからは早かった。


程なく、空の大地は全て地上へと降りて、空はまたドラゴンだけのモノとなった。


人間達は、今度は人間の力だけで、またもや繁栄して行った。

しかし、ドラゴン達は、そのまま人間との関わりを避け続けていた。


ドラゴンを資源にしようとした人間は遥か昔に全て死んでいる。

しかし、資源にしようと人間に襲われたドラゴン達はまだ生きていたのだから当然だと言える。



そんなある日、1人の人間が、多くの兵を連れて彼女の元にやって来た。

人間の名はコロラッド・ルニウメン。

ルニウメン皇国の皇子だと言う。


その男は彼女に「絶対に危害を加えないから話しを聞いて欲しい」と、彼女の前に1人で近付いて来た。

兵士達が、近付いて来なかったので、彼女は男の話しを聞いた。


男の話しは、「失われた空を飛ぶ魔法の復活に協力して欲しい」と、云うモノだった。

その男の話した事をナエラークは色々と言っていたが、要はおだてられてホイホイ着いて来たと云う事だった。


そして、この工場にやって来た。

工場の研究者と共に色々と試したが上手く行かない。

理由は簡単で、“飛行の魔法”を使える者が居なかったからだ。


“エアーバイク”などに使われている、“浮遊ユニット”と、“エヴィエイションクルーザー”に使われている、“飛行ユニット”は、全くの別物らしい。


“浮遊ユニット”はエアーの名の通り、強い風を生み出して浮かんでいる。

しかし、“飛行ユニット”は、空を飛ぶと云う概念を魔法で作り出して飛んでいるらしいのだ。


戦争で“飛行の魔法”を使える者は優先的に殺されて行き、戦争後も、空を飛ぶ事が禁止になって、“飛行の魔法”を使える僅かに生き残った者も、不幸な事故で家族ごと次々に生命を落とした為、“飛行の魔法”を使える者が居らず、刻む魔方陣は彼女が知っていても、魔法付与が出来る人間が居なかった所為で、“飛行ユニット”の復活は難航した。



そんな中、彼女はダメ元で、ドラゴン達にした様に、自分の血を魔方陣に流してみた。

すると、なんと“飛行ユニット”が起動したのだ。


その後、何度も実験を繰り返して、彼女の血を一定量魔方陣に注いで、完全に密封すれば、血が蒸発する事も無く、嘗ての“飛行ユニット”と同様に、周囲の魔力だけで、永久に使えるだろう事が分かった。


其れからは、彼女の血がどのくらいのペースで回復しているか、何処から採取すれば彼女への負担が少ないかなどの確認が進んだ。


この時、彼女はある程度、“飛行ユニット”が作られて、人間達がまた、空を飛べる様になる迄は協力するつもりだったらしい。


しかし、彼女のそんな気持ちを信じず、踏み躙る者が居た。

此処へ彼女を連れて来た、コロラッド・ルニウメン皇子だ。


皇子は最初の“エヴィエイションクルーザー”が完成して、テスト運行が成功した後に、その祝いだと宴会を開いた。

彼女もその場に呼ばれて、勧められるまま酒を呑み続け、目が覚めたら此処に閉じ込められていたそうだ。



騙された事に大いに怒った彼女は暴れまくった。

しかし、この檻は“イモータルウォール”で出来ているらしく、ビクともしない。

暫く暴れて落ち着いた彼女は、『此処で静かに暮らすのも良いか……』と考えて、暇潰しの娯楽を持って来る事を条件に、血を分けてやる事にした。


ところが、今迄は自分も研究をしていた事から気にならなかった採血が、いざ血を採られるだけだとなると、痛く、辛いモノに感じる様になった。


其処で、彼女と共に長く研究をしていた人間の女性にどうにかならないか相談した。

その女性は、彼女が捕らえられた事に一緒になって怒ってくれて、何とか此処から出られないか探ってくれていた女性だった。


残念ながら、この檻はそもそも二度と開かない様に、開ける手段そのものが存在しない檻で、脱出は出来なかったが、痛みや辛さに関しては、良いアドバイスをくれた。


「……でも、痛いのって、気持ち良くない?」


と…………


その言葉に、衝撃を受けた彼女は、次第にその言葉の意味を自分自身の身体で理解した。

其れからは、寧ろ、ちょっとくらい無理をしても、採血をして欲しいくらいになったそうだ…………



しかし、そんな日々は長くは続かなかった。

大きな地震があったかと思うと、研究者達がバケモノになって彼女に襲い掛かって来たのだ。

彼女は殺さない様に追い払っていたが、バケモノ達は、お互いに殺し合って、喰らい合って、とうとう最後の1体になってしまった。


その1体のバケモノは、何度も何度も彼女に襲い掛かって来た。

彼女は襲い掛かって来る以外何もしないそのバケモノを寧ろ不憫に思う様になって、その1体のバケモノを殺した。


バケモノが現れてからは、この地下には誰も来なくなった。

最後のバケモノを殺してからは、彼女はまた一人ぼっちになってしまった…………


ドラゴンはよく数百年単位で眠ったりもする様で、孤独に苛まれると云う事は無かったそうだが、其れでも退屈な日々を過ごしていたところに僕達がやって来たと云う事だった…………




ナエラークの話しを聞いていた僕の感想は、『ドラゴン心広過ぎじゃない?』と云うモノだったが、最終的には、『ナエラークはドMドラゴンなのか……』と云うモノに代わってしまった…………






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