第9章 空を得る 2
第9章
空を得る 2
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先ずは、辺り一面に“イモータルウォール”の板をどんどんどんどん並べて行きます。
次に、“イモータルウォール”の板を1nmも狂い無く水平垂直に固定してくれる魔導具“イモータルウォールアジャスト”を当てて、“イモータルウォール”を二度と離れない様にくっ付ける魔導具“イモータルウォールノットディスセンブリー”を接触面に当てて行きます。
其れを、ただただ延々と延々と繰り返して、ただただ延々と延々と繰り返して、ただただ延々と延々と繰り返して、とてもとても大きな板の完成です。
コレを4回行って、とてもとても大きな板を4枚作ります。
出来上がった4枚の板の左端に細長い“イモータルウォール”を突起の様に付けて、其処に“ゼログラビティバック”を被せます。
この時、何が有っても絶対に外れない様に、しっかりとテープで固定しましょう。
もしも、“ゼログラビティバック”が外れて板が倒れて来ると死んでしまいます。
くれぐれも注意しましょう。
そして、“ゼログラビティバック”を被せて、とっても軽くなった板を1枚起して、“イモータルウォール”を完璧な直角に固定してくれる魔導具“イモータルウォールナインティーディグリー”を当てて出来上がった、延々と続く直角に“イモータルウォール”を二度と離れない様にくっ付ける魔導具“イモータルウォールノットディスセンブリー”をずうっとずうっと当ててくっ付けて行きます。
長い長いL字が出来たら、残りの2枚も同じ様にくっ付けて、出来上がった2つのL字を合わせて、大きな大きな、長い長い、長方形のトンネルにしましょう。
最後に決められた位置に“不可侵領域結界柱”を飾り付けたら完成です。
横幅300m高さ100mの500m続く巨大トンネル。
コレを立てらせれば、超高層ビルだってスッポリ収納出来る優れモノです!!
…………と、云う感じで、魔都 ウニウンのあのビルを隠す壁が僅か1日で完成した。
防衛設備も併設した直径100kmの防壁すら1人で作った僕からすれば、この程度の工作など造作も無い。
現地で作るなら、見つからない様に気にしながら少しずつ高くして行かなければならないから、1ヶ月での制作は無理だろうと思っていたが、こうやって、人目も気にせず、広い場所で寝かせて作ればあっという間だ。
僕の身体能力は無駄にポーションで鍛えた訳では無いのだ。
時間が余ったので、明日の準備の為に、ルベスタリア城と建設予定地を2往復して、しっかりと資材を運んで置いた。
ふと空を見上げると、カッコいい“エヴィエイションクルーザー”が空を舞っている。
初日の今日の運転練習は、マニュアルを既に勉強しているペアクーレと、最も記憶力の良いサウシーズが行っている。
どちらが運転しているかは分からないが、一緒に乗ったハンジーズも楽しんでいる事だろう…………
9月2日、エアポートの外壁も完成してしまった。
エアポート内の建物は帰って来てから作ろうと思っていたが、作る事にした。
9月5日、エアポートが完成した。
建物の建設も予定していた魔導具の設置も全て終わってしまった為、明日、明後日は子供達の様子を見て周る事にした。
9月8日、今日は“自由の日”で、子供達も本来は自由だ。
しかし、今日は特別授業を行った。
“エヴィエイションクルーザー”体験学習とエアポート見学だ。
子供達の中から、“エヴィエイションクルーザー”運転手希望者が現れないかと期待している。
やはり、空を飛ぶのは人間の夢だ。
最初の内は怖がる子もいたが、直ぐに大はしゃぎだった。
早速、運転手になりたいと言う子も居た。
一応、予定では僕の代理官、其れもB級から使用者権限を持たせようかなぁ〜……と、思っているが、この子達の中からは恐らく複数の代理官が現れるだろうから、ただの夢ではないと思う。
9月9日、出発の日がやって来た。
僕が昼間の内に、輸送する資材の準備と、ビル箱の接続と飛行のテストを行った。
“不可侵領域結界柱”での風避けはキチンと機能して、強風が吹いても問題なく飛行出来た。
最初のメンバーは、サウシーズとリティラ、ティニーマとネクジェーだ。
サウシーズとリティラが残る組みで、ティニーマとネクジェーが帰る組みだ。
ハンジーズはお留守番だが、良い子のハンジーズは、今や母が2、3日居なくて全然平気だ。
寧ろ、僕と1ヶ月くらい会えない事を寂しがってくれるとっても良い子だ。
夕食と風呂を済ませて、21時に王城を出発。
22時にエアポートから飛び立って、翌朝4時頃に、魔都上空に到着。
その間は自動運転に任せて睡眠だ。
魔都上空に着いたら、空が白んで来るのを待った…………
モニターを全て下方の表示にして、地上の建物が目視出来るのを今か今かと見つめていた。
5,000mの上空に僅かに朝日が覗き、魔都 ウニウンのビルの群れがゆっくりと輪郭を見せ始めた。
直下のビルがあのビルだと確信して、「降りるよ」と、みんなに声を掛けてから、降下を開始。
1,000m迄一気に降りて、結界を解除して、箱の四隅が敷地の角にピッタリと揃う様に調整してから更に降下。
箱を吊っていたワイヤーがしっかりと弛んだのを確認したら、120階側の屋上に一旦着陸する。
「じゃあ、行って来るね」と、心配そうな4人に軽く言って、先ずはデッキへ。
箱を吊っていたワイヤーを外して行く。
次に船倉に降りて、準備していた“ゼログラビティバック”を持って屋上へ。
屋上の4隅に“ゼログラビティバック”から出したポールを設置して行き、先程外したワイヤーを固定する。
続いて、船倉から20mの梯子を2本持って来て連結。
其れを固定する金具を設置して、屋上から箱の上部に向かって梯子を掛けると、命綱を持って来て、先程設置したワイヤー用のポールにしっかりと結び付けると、梯子を渡って箱の上へと向かった。
箱は絶対に壊れる事も歪む事も無い“イモータルウォール”製だが、地上500m幅2cmの道はかなりの恐怖だ。
命綱として、先程繋いだロープと、“飛翔”の魔法が使える指輪をつけているが、やっぱり流石に怖い。
生命が幾つ有っても足りない様な綱渡りだが、幸い不老不死の僕には生命が幾らでも有るので、こんな無茶が出来ると云うのもある。
『突風が吹きません様に!!』と祈りつつ、2cmの板の上を進んで行く。
箱の角に辿り着くと、固定していた“ゼログラビティバック”を外して、地上に落とす。
この“ゼログラビティバック”は後で地上で回収予定だ。
そのまま、次の角へ、また、次の角へと歩いて行く。
最後の角に向かいながら、『3年前の僕なら絶対にしなかったな。いや、普通は誰もこんな事しないか……』と、僕の歩く2cmの遥か下の何もかもが豆粒以下の地上を見る。
最後の“ゼログラビティバック”も無事に外すと、バックを被せていた突起部分にしっかりと掴まる。
予想通り、巨大な箱に一気に重さが蘇り、振動と共に僅かに沈んだ様な感覚がして、数秒間、変化が無いか待ってみてから、綱渡りを再開、梯子、屋上へと向かった…………
「ノッド様ぁ〜…!!無事で良かったぁ〜…!!」
艦橋に戻った僕に、リティラが泣きながら抱き着いて来た。
他の3人も次々に抱き着いて来る。
「ごめん、ごめん。心配させたよね。
まあ、やってた僕もかなり怖かったから、見てるだけだと凄く怖いよね」
そう言ってみんなの頭を順番に撫でる。
「でも、箱に重さが掛かった時の振動が周囲に伝わってる筈だから、早く、“ハイスツゥレージ”を工場の中に移動させよう。
心配させちゃったみたいだから、やる事をやったら、ちょっとゆっくりしよう。
その時に、しっかり甘えて良いからね」
名残惜しそうではあったけど、みんな切り替えは早い。
力強く涙を拭いて頷いたリティラを確認すると、みんなからゆっくり離れて運転席へ。
前回出しっ放しの状態にしていた大型エレベーターの上に着陸して、エレベーターのパネルを操作し、ゆっくりと工場内へ入る…………
荷物を持って降りて来たみんなは、聞いてはいたが、目の前に現実が現れた驚きを良い表情で表現してくれている。
工場内に並んだ、“エアーカー”、“エアーバス”、そして、“エヴィエイションクルーザー”。
更に、其れを生み出すであろう製造ライン。
“エアーカー”だろうが、“エアーバス”だろうが、動くモノは極僅かにしか発見されない超貴重な魔導具だ。
其れがずらりと並んでいて、使える状態なのは、それだけでも凄い発見だ。
監視カメラで、既に見ていてからこの工場に入った僕と、話しだけ聞いていて目にしたみんなとでは、驚き具合が違うだろう。
因みに動かない“エアーカー”や“エアーバス”は結構その辺に転がっている。
コレらは魔物に壊されたモノが殆どだ。
魔物は基本的に人間しか襲わない。
不要にモノを壊したりしないし、魔導具などは寧ろ大切に扱っている感じだ。
しかし、大量の“エアーカー”や“エアーバス”が壊されて打ち捨てられているのは、人間が其れに乗って逃げようとしたからだ。
古代魔導文明時代には、“エアーカー”や“エアーバイク”は誰もが持っていた移動手段だった。
だから、“サードストライク”で、魔導士が魔物になって人間を襲い始めた時、みんなが其れらに乗って逃げようとした。
その所為で、生活用の魔導具が多く発見されるのに対して、移動用の魔導具は極端に少ないのだ。
みんなに声を掛けて、先ずは工場内に魔物が居ないか確認、“エヴィエイションクルーザー”や“エアーバス”の中も確認してからビルに移動して、1階と外周を確認した。
外周では、落として於いた“ゼログラビティバック”の回収と共に、レイス系の魔物の魔核が落ちていないかも確認する。
ゾンビ系の魔物は朝になると土の中に潜ってしまうが、レイス系の魔物は、魔核だけが残った状態で落ちているからだ。
箱で囲んだ所為で暗くなってしまったからか、動いているレイス系の魔物が1体だけ居たが、リティラがプスッとやって即倒した。多分、Bランクだったけど…………
1階と外周の確認が終わったら50階に行って、みんなのセキュリティ認証だ。
最上位は既に埋まっているので、4人は上位の認証で、ついでに持って来た多くのセキュリティも連動させる。
此れらは、殆ど壊されている扉を修理して取り付ける様だ。
そして、みんなで120階に。
此処からが今日の本番とも言える、大掃除だ。
此れから先も利用する僕の居住スペースになるので、テント生活では無く、完全なる僕の部屋にする為の掃除だ。
今持って来ている荷物は殆どが掃除道具だ。
空調の魔導具が健在な為に、埃が溜まっていると云う事は無いが、ずっと魔物が住んでいたので、あちこち汚れている。
みんなが掃いたり拭いたりしている中、僕は“ハイスツゥレージ”との往復をして、窓や壁の強化や家具の搬入、扉の修理にセキュリティの設置なんかをどんどん進める。
101階から上のVIPフロアは1,500㎡程度なので、ワンフロアのリフォームなんて楽勝だ。
みんなの掃除も鍛え抜かれた身体能力で異常に速い。
お昼には、立派な高級マンションの様になった。
まあ、下の階からはボロボロのままだが…………
「みんなお疲れ様。
お昼ごはんを食べたら、ちょっとだけ実験をしてからゆっくりしようか。
凄く心配させちゃった埋め合わせをしないとね」
みんな「埋め合わせ」の言葉に嬉しそうにしていたが、泣き出す程心配してくれていたリティラが、不安そうな表情になる。
「あの、実験って云うのは危なく無いんですよね?」
「ああ。多分大丈夫だよ。
実験って云うのは、工場の製造ラインがちゃんと動くのか試そうと思ってるんだ。
ちゃんと動いたら、ルベスタリア王国は、世界最高の交通網の行き渡った国になると思うんだよね」
「凄い!!」
「本当に、ノッド様の夢はいつも壮大ですね」
「まあ、ちゃんと動いたらだけどね?」
「多分、動くと思います。ノッド様が見つけた工場ですから」
「そうね。私もそう思うわ」
昼食後、工場に向かった。
みんなも興味があるらしく、5人で揃って工場に行って、製造ラインの各レーンから、保管スペースに完成品を降ろして行く。
因みに、リフトの様なモノがあって、恐らくは其れで移動させるのだろうが、“ゼログラビティバック”での運搬の方が楽なので、其れで運ぶ。
ついでに、“エアーカー”はまた5台、“ハイスツゥレージ”に積んで置いた。
そして、工場コントロールルームへと上がる。
先ず、何と言っても“エヴィエイションクルーザー”が製造出来るかどうかだ。
“エヴィエイションクルーザー”と書かれている操作パネルを起動する。
其処で目にした文字に、僕は声を上げた。
「カスタマイズ!!」
そう、カスタマイズ。
パネルの画面には、
『(ノーマル、リピート、カスタマイズ)』
の選択が浮かび上がっていたのだ。
僕は迷わず、『(カスタマイズ)』を押した。
すると、“エヴィエイションクルーザー”の断面図が出て来る。
船倉部分の1階、恐らく使用人の宿泊用の2階、高級ホテルの様な宿泊用の3階、ジャグジー、ラウンジ、応接室、キッチンが並んだ4階、その上にデッキが有り、浮かぶ様に着いた艦橋。
この1階から4階とデッキ、艦橋がパネル上に押せる様に色が着いている。
先ずは、船倉部分を押すと、
『(変更、連結)』
の2択が出て来た。
『(変更)』を選択すると、『(船倉、客室、その他)』が出てきた。
順番に見てみると、船倉は現在の1倉庫から幾つかのパターンでの間仕切りが出来、客室は幾つかの客室パターンが有り、その他はジャグジーやキッチン、寝室なんかを選択して嵌め込んで行く様だ。
戻って、今度は『(連結)』を選択する。
『(2階、3階、4階)』の選択が出たので『(4階)』を押すと、1階から4階までが全て1倉庫の船倉になった。
その後は、『(変更、分割)』が出て来る。
「…………此れって、3階まで連結したら、“エアーバス”も乗せて帰れるよね?」
「そうですね!!」
「多分、2台くらい乗せて帰れると思います」
僕の操作を喰い入る様に見ていたリティラとサウシーズが同意して、ティニーマとネクジェーもキラキラの目で頷いた。
その後、僕はパネル操作をして、1階から3階を船倉に4階を寝室、キッチン、食堂にして、右下の『(次へ)』で進む。
次の画面には、“エヴィエイションクルーザー”の左右の表面図が現れて、カラー変更や模様、船名を描ける様になっていた。
想像力を駆り立てるが、グッと我慢して、黒一色に決定する。
みんなも色々想像したのだろうが、僕が黒一色にした事で、実用性重視と納得してくれた様だ。
外見を決めて、『(次へ)』進むと、
『製造予測時間 290時間
製造を開始しますか?』
『(YES、NO)』
もちろん、『(YES)』だ!!
『製造開始
289:59』
と、カウントダウンが始まった。
僕は駆け出しそうになるのをグッと我慢して、
「見に行ってみよう」
と、みんなに声を掛けてから一緒に、“エヴィエイションクルーザー”の製造トンネルを覗きに行った…………
「…………凄いな……」
「本当に……」
トンネルの中では、地下からやって来た四角い塊をトンネルの内側から大量に出たアームが、切ったり削ったり曲げたりしている。
アレが一体何で出来ているのか、船の一体何処になるのか、さっぱりわからない。
ただただ、超高速の作業が繰り返されている。
思わず呆然と見続けてしまっていた僕に、ティニーマの声が聞こえた。
「……もしかして、これで、空飛ぶ船が作り放題ですか?」
「……………………」
ティニーマの言葉をもう一度、心の中で、繰り返す。
『空飛ぶ船が作り放題』…………
「っっっっっっやっっっっったぁぁぁぁぁ〜〜〜………!!!!」
僕は喜びを全力で現す様に、ティニーマをきつく抱き締める!!
「もう、こう云う時は、本当に可愛いんですから……」
ティニーマはそう言いながら、珍しく恥ずかしそうに、抱き締め返して来た。
その後、“エアーカー”と“エアーバス”の製造ラインも無事に稼働して、僕達は、120階へと戻ったのだった…………