第8章 移民と魔都と 6
第8章
移民と魔都と 6
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勇者パーティーと過ごした夜が明けて、僕達3人は早々に朝食を摂って、キャンプの片付けを開始した。
勇者パーティーに拠点が割れたからでは無く、元々、今日の夕方には魔都 ウニウンを出て、今夜は砂漠地帯でキャンプをする予定だったからだ。
そうして、マンションで勇者パーティーとは別れて、3人で行動を開始する。
聖女キルシュシュは、とても名残惜しそうにしていたが、「王都アルアックスでも、また会えるだろう」とパーティーメンバーに説得されていた。
僕は心の中で、『王都アルアックスには来年の春まで行かないから、二度と逢えないかもね』と、思いつつも、笑顔で別れた。
昨日の殲滅戦が良かったのか、殆ど魔物に出会う事なく、順調に探索出来た。
しかし、発見した魔導具は貴重なモノも有ったが既に僕が持っているモノばかりだった……
そろそろ、帰る事も視野に入れなければと思っていた時、長靴状のビルを発見した。
其処は他とは違うと、僕の中の何かが言っている!!
長靴状の踵部分には、他のビルと同じくガラス張りの扉と窓が有るが、殆ど割れていない。
恐らく、お城と同じく、“インバイラブルウィンドウ”が使われていて、鍵が掛かっていると破壊不能なのだろう。
セキュリティの高さは、重要度の高さだ。
そして、気になる長靴状の先の方は、ビルの5階くらい迄、一切窓も扉も無い。
建物の周囲をグルッと回った結果、1番低い割れている窓が10階くらいに有った。
しかし、“エアーバイク”のジャンプでは高さが少し足りない。
なので、僕は…………
「……あの、ノッド様、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ワイドラック山脈を降りるより全然低いし」
「でも、このビルと向こうのビル迄、100mは離れてると思う…………」
隣のビルから飛び移り、窓から侵入する作戦を取る事にした!!
ペアクーレの云う通り、2つのビルの間は、お互いの敷地と道を挟んで100mは有る。
しかし、このビルの屋上は高さ250mはあるので、恐らく、向こうの壁迄は余裕で行ける。
但し、窓は遥かに下なので、角度を失敗すると窓から入れず、そのまま、落下した場合、250mの落下の衝撃では“エアーバイク”の浮遊力が耐え切れない可能性も僅かにある。
まあ、僕はお城の建設の際に、何度も300mの落下を経験しているので、コントロールは完璧だから大丈夫だろう。
「大丈夫、大丈夫。
僕はもっと高いところから何度も飛び降りてるから。
じゃあ、行くから、2人は東側の壁の方にお願い。
2人なら大丈夫だろうけど、僕と合流する迄は、気をつけてね」
そう言って、勢いよく飛び出した!!
浮遊感の後、重力に引っ張られる力が強くなる。
其れに逆らわず、大勢を前に倒しつつ、浮遊力を後ろに向けて、落下と共に進むと、30階くらいで、早々に向かいのビルの壁際迄到達したので下を確認。
目印を付けて置いた地面が見えて、割れた窓の並びだと安心して、出来るだけ落下の勢いを殺す様に、下に向けて浮遊力を全開にして…………
「見えた!!」
壁にぶつかる様な勢いで一気に前進!!
ドンピシャで窓から突入出来た!!
しかし、今度は一瞬で、室内の壁に突っ込んで行く!!
身体を捻って、浮遊力を、壁に、天井に向く様にクルッと一回転!!
ゆっくりと着地した。
「ふぅ〜……
思ったより部屋が狭かった…………
社員寮か何かかな?其れか、仮眠室?
まあ良いか。
とりあえず、下に行って2人を出迎えよう」
部屋から出ながら、扉のロックを壊しておく。
万が一、オートロックの“インバイラブルドアー”だったら此のビルから出られなくなる可能性があるからだ。
廊下に出るとやはり社員寮だったのか、扉がずらりと狭い間隔で並んでいた。
探索は後でやるとして、先ずは2人と合流だ。
エレベーターの魔導具を探していると、1体のオーガが現れた。
緑色のこのオーガはスカイステップオーガ、Aランクの魔物だ。
昨日の魔物大集合にも居たが、このオーガは他のオーガに比べて細身で、力も余り強く無い。
しかし、其れでもAランクなのは、名前の通り、空中を跳び回るからだ。
だが、室内で出会っても全く脅威では無い。
僕に気付いたスカイステップオーガは、驚いた様な雰囲気だったが、直ぐに僕に飛び掛かって来た。
しかし、大して天井の高くない廊下だ。
少し、降下して来る様に向かって来たスカイステップオーガをスルリと避けながら、すれ違い様に首を落とした。
この階は、出入りに使うかもしれないので、ゾンビにならない様に、魔核を取り出してから、また、エレベーターを探した。
暫くして、エレベーターの魔導具を見つけたが、あのオーガ以降、全く魔物が居ない。
もしかしたら、あのスカイステップオーガが他の魔物を全て倒したは良いが、大きくなり過ぎてエレベーターにも乗れず、階段も降りられず、窓からも出られ無くなって、他の階にも、外にも行けなくなっていたのかもしれない。
エレベーターを降りたのは、とりあえず1階。
今度は逆に、次から次へとオーガが襲って来た。
軽く100体は殺したが、1階の窓は全て填め殺しで、玄関も裏口らしき扉もセキュリティが掛かっている。
ついでに、気になる長靴状の先の方に行く事も出来なかった。
仕方がないので、1階は諦めて、5階に向かった。
このくらいなら、レアストマーセとペアクーレでも“エアーバイク”ジャンプで上がれるだろうと思ったからだ。
そして、5階でエレベーターの扉が開くと、目の前に、またスカイステップオーガが待ち構えていた。
エレベーターが到着した事で、自分の縄張りに他の階の魔物が来たと思っているのかもしれない。
僕がエレベーターから出た瞬間に、スカイステップオーガは飛び掛かって来る。
しかし、1体目と変わらない、すれ違い様に首を落として終了だ。
このフロアは会議室が複数ある感じの階だった。
幸い、扉は殆ど壊れていて、出入りも出来た。
東側の部屋へと入り、窓を確認したが此処も填め殺しだった…………
「……どうしよっかなぁ〜……
他の部屋も同じ様な雰囲気だし、何処の窓も填め殺しの可能性が高いかぁ〜……
多分、低層界は侵入防止の為に窓も開かない様になってるんだろうなぁ〜……
やっぱり、セキュリティの認証をした方が良いか。
どっちにしろ、気になる足先部分に入る為にも、認証は必要だし。
そうなると怪しいのは、最上階近辺か、50階辺りか…………」
このビルは恐らく120階建だ。
ぱっと見そのくらいだったし、エレベーターが120階が最上階だったからだ。
もちろん、最上階近辺にセキュリティの管理室が有る可能性も高いのだが、先程、隣のビルから見た際に、とても怪しい階が有った。
其れが恐らく、50階。
何が怪しいかと云うと、その階だけ窓が一切無かったからだ。
恐らくと云うのは、49階の高さが他よりも高い可能性もあるからだ。
其れに、50階なら大体真ん中辺り。
古代魔導文明時代には、空を飛べる魔導具が有ったのだから、上からも下からも侵入を警戒して、中央付近にセキュリティの中枢が有る可能性は十分高い。
僕は先ず、50階へと向かう事にした…………
50階でも、スカイステップオーガが1体だけ現れた。
今迄で1番大きな個体だったが、まあ瞬殺だ。
そして、予想通り50階はセキュリティ管理フロアだった。
他の階とは明らかに壁の厚みが違うのだろう、フロア自体がかなり狭い。
部屋は全部で10部屋だけで、その内の4部屋は各階の監視カメラのモニター室だった。
先ずは1階から49階迄のモニター室、続いて51階から100階迄のモニター室、そして、恐らくVIPゾーンだと思われる101階から120階のモニター室。
最後のモニター室…………
其れは、長靴状のこの建物の足先部分に当たる場所のモニター室だった…………
僕は其処に映る光景を見て、歓喜に打ち震えた…………
其処に有ったのは、僕が求めていたモノ…………
“エヴィエイションクルーザー”だったのだ!!
其れも、製造工場だったのだ!!
“エヴィエイションクルーザー”は、一見すると大型の船舶だ。
底面が水平で、その四方に半球状のドームがくっ付いている。
此れは、“エアーバス”などと同じなのだが、“エヴィエイションクルーザー”の違う所は、その水平面の中央に六角形の部分がある事。
この六角形こそが、“エアーバイク”や“エアーバス”の“浮遊機能”とは違う、“飛行機能”のユニットなのだ!!
賢者 ウィーセマーの遺産から、その存在自体は知っていた“飛行機能ユニット”と、“エヴィエイションクルーザー”だが、その存在がメジャーだったのは、古代魔導文明時代の大厄災戦争終結迄だ。
特に大厄災戦争では、多くの空飛ぶ船が製造されて、地上の人々の戦力として投入された。
何しろ、戦争の相手は空中都市に居るのだ、飛べなければ話しにならない。
しかし、伝承では、大厄災戦争終結後、空飛ぶ船の数々は封印や解体をされたと言われている。
魔導士達の支配体制を二度と繰り返さない為の戒めだとなっていた。
だが、此処に有るのは間違いなく製造ラインだ。
最も可能性が高いのは、此処が「空飛ぶ船を作らない」と云うルールを破った秘密工場の可能性だ。
其れならば、このビルのセキュリティの高さも理解出来る。
完全に何処かの商会のビルにしてはセキュリティが高過ぎて不便極まりない構造だが、秘密工場ならば納得だ!!
そして、大量の物資の有る貯蔵庫フロアや飲食店街フロア、ショッピングフロアの様な階が存在するのも、必要以上にこのビルの出入りをさせない為だろう。
「…………このビルは何としても、僕が独占しよう……
絶対に他国には渡さない。ルベスタリア王国で完全に管理する体制を整えよう……」
僕は緩んでしまう口元を引き締めて、セキュリティの認証システムを探した。
そして、セキュリティ管理フロアの統括者の部屋と思われる豪華だったであろう部屋を発見した。
永い年月でかなり傷んだモノも多いが、さすがは古代魔導文明の品々で使えそうなモノもかなり有った。
だが、今は認証システムが優先だ。
しかし、此処でもセキュリティが有った…………
認証には3つのカードキーが必要だったのだ…………
先ずはこの部屋の探索だ。
此処は恐らく、セキュリティ統括者の部屋だ。
鍵の1つが有る可能性が高い。
もしも、僕がこの部屋を使うなら、大切なモノを一体何処に隠すか…………
僕は執務机の椅子に腰掛けて、部屋を見回す…………
先ず目に着いたのは、この部屋の元主人であろう男の写真だ。
軍服の様な服装で、いかにも悪そうな男だった。
「…………まさかね…………
……………………自分大好きかよ……」
最初のカードキーは、写真の額の裏の隠しポケットにて発見した…………
次のカードキーは一体何処にあるのか…………
ただの予想だが、1枚は最上階の120階じゃないかと思う。
きっと1番偉いヤツの住まいだろうからだ。
と、云う訳でやって来ました120階。
其処には、ジャッジメントオーガが1体待ち構えていた。
ジャッジメントオーガは僕を見て笑っている様だった。
久しぶりの獲物だと思ったのだろうか…………
その素敵な笑顔のまま、左右に分断されたが…………
一応、今後の為に魔核だけは抜いておいた。
最上階には今後も来る可能性が十分に有る。
此処も全ての扉が壊されていて、その中の書斎の様な部屋に隠し金庫を発見した。
隠し金庫と言っても、僕が見つけたのは、本棚が左右に割れていて、其処に扉の開いた金庫を見つけただけだが…………
其処には、博物館で見た古代の大量の現金と多くの書類、そして、小さな箱。
箱の中身は何と、カードキーだった!!
まあ、そうじゃないかと思っていたが…………
「う〜〜ん…………。
最後の1枚は一体何処にあるのか…………
セキュリティの統括者と、このビルで1番偉いだろうヤツ。
最後の一人は、誰だろう…………」
そう、呟きながら、書斎を出ようとした時、ふとあるモノが目に入った…………
其れは、豪華な服を着た、いかにも悪そうな男の写真だ…………
「…………まさかね…………
……………………本当に、自分大好きかよ……」
名探偵な僕は、ほんの30分程で、このビルの全権とも言える3枚のカードキーを手に入れたのだった…………
『セキュリティ権限の認証を行いますか?』
『(YES)』
『セキュリティ権限の等級を選択して下さい』
『(最上級権限)』
『最上級権限は最大3名迄です。1名削除して置き換えますか?』
『(YES)』
『置き換える人物を選択して下さい』
「ええっと、じゃあ、1番上のコイツで」
『(コロラッド・ルニウメン)』
『対象の人物は、マスター権限者です。
マスター権限も移譲しますか?』
「おお、コイツはマスターだったのか、もちろんYESだ!!」
『(YES)』
『では、お名前を仰ってから、右手、左手の順にパネルに置いて下さい』
「ノッディード・ルベスタリア」
『……………………認証が完了しました。
マスター権限の移譲は24時間後に完了します。
続けて、セキュリティ権限の認証を行いますか?』
『(NO)』
「……よし!!此れで出入りも自由になった筈だ。
大分時間が掛かっちゃったから、レアストマーセとペアクーレを早く迎えに行かなきゃな。
きっと心配してる」
案の定、2人はとてもとても心配していて、僕を見るなり、全力ダッシュで飛び付いて来た。
外は既に陽が殆ど沈んでいたので、若干泣いている2人を宥めて、そのまま、120階へと登った。
120階にはまだジャッジメントオーガの死体が有ったので、戦利品を毟り取ってから、また1階に戻って、オーガの死体だらけの1階に放り投げて、120階に戻った。
その後は120階のリビングらしき部屋にキャンプの準備をして、今までの経緯を説明した。
「…………と、云う訳なんだ」
「…………其れはとんでもない大発見ですね…………」
「ノッド様の欲しがってた飛行可能な魔導具が手に入ったって事ですよね?」
「多分ね。
2人を迎えに行くのを優先したから、実物はまだ見てないんだ。
監視カメラの感じだと、使えるとは思うけど、明日確認してからだね。
其れと、僕のマスター権限の確認も必要だから、帰るのは最短で明後日になるから」
「…………明後日迄なら、食料も足りると思いますが、其れ以上に掛かる様なら、他のハンターから水と食料を買い取って来ましょうか?」
「うぅ〜ん…………。いや、明後日迄に動かす事が出来なかったら、別の方法を考える必要があるかもしれないから、明後日迄は、此処で3人でいよう。
2人には出来れば、このビルの魔物の掃除をして貰いたいから。
監視カメラの映像だと、Aランクの魔物が複数居る階は無かったから2人でも大丈夫だと思うから。
どうやらこのビルはセキュリティが厳し過ぎて、魔物自身も出入りが出来ないみたいなんだ。
だから、一度魔物を全滅させたら、レイス系以外の魔物は警戒しなくて済むと思うんだよね」
「なるほど、確かにそう云う状況は起こりうるかもしれませんね」
「…………レアストマーセさん。レイス系の魔物って20階以上の高さには殆ど来なくて、50階以上の高さだったら、先ず来ないんだよね?」
「ああ、レイス系の魔物はエレベーターの魔導具を使う事が出来ないらしくて、自分が浮かべる高さ以上の場所には出て来ないと言われているな」
「だったら、120階の此処にはレイス系は来ないよね?
其れなら、エレベーターさえ見張っておけば安心?」
「ああ、此処ならエレベーターさえ見張っておけば安心だろう」
「だったら、今夜からはノッド様と解禁!!」
「か、解禁?!」
「今夜迄お預けの約束だったし…………」
「ペアクーレ!!ナイスだ!!
良いよね?レアストマーセ?」
「ええっと、その…………」
「良いよね?」
「は、はぃ…………」
恥ずかしそうに俯く、レアストマーセも交えて、3人でハイタッチをした!!
やっと解禁だ!!
そして、明日は、ワクワクの“空飛ぶ船”とのご対面だ!!
僕のテンションは、限界迄上がっていた!!