第8章 移民と魔都と 5
第8章
移民と魔都と 5
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「……グッ!!ペアクーレ!!」
「“フライ”!!………………“リターン”!!」
「グギャアアアア!!」
レアストマーセが大剣の斬撃を防ぎ、その隙をペアクーレの飛ぶ斬撃が斬り裂いて、戻って来た斬撃で、十字に引き裂いた。
相手はジャッジメントオーガと云うAランクの魔物だ。
大剣を自在に操り、多種多様な魔法も放って来る危険な魔物。
しかし、レアストマーセとペアクーレは、息の合ったコンビネーションで、あっさりと倒してしまった。
今のジャッジメントオーガで、本日のAランク魔物は3体目だが、2人は今のところ苦戦らしい戦闘はしていない。
僕もずっと相棒の“ウィフィー”に乗ったまま、ただの荷物運びをしている。
ジャッジメントオーガの死亡を確認して、戦利品のツノ、魔核、大剣を回収した2人が僕のところに戻って来たタイミングで、ずっと気になっていたヤツらが此方にやって来た…………
パチパチパチパチ…………
「2人とも素晴らしい戦闘だったね。
アルアックス王国では有名なハンターなのかな?」
拍手と共に近付いて来た、男5人と女1人のパーティー。
話し掛けてきた男は、白地に青い模様の入った鎧を着て、豪華な意匠の鞘に収まった大剣を背負い、鎧と同じ模様のマントを羽織っている。
肩まである金髪に青い目、気取った仕草の中から軽薄さが滲み出ている。
僕には分かった。
彼は僕と同じ、“王者”だと。
絶対に彼も、“娼館の王”と呼ばれているに違いないと。
…………其れと、ついでに、多分“西の勇者”だ。
彼以外のメンバーも彼と同じ柄のマントかローブを纏っていて、あの模様は王都アルアックスで見掛けた“エアーバス”と同じだ。
「「…………」」
勇者登場に、警戒をするレアストマーセとペアクーレ。
遺跡都市で他のハンターに出会ったから警戒しているのか、彼の女ったらしいを見抜いて警戒しているのかは不明だが、勇者の薄っぺらい笑顔が引き攣り掛けているので、代わりに僕が対応する事にした。
「ごめんね、彼女達は男性が苦手なんだ。
“西の勇者”様パーティーだよね?
さっきから見てたのは気付いてたけど、何か用?」
僕が急に話し出した事で、勇者は若干慌てつつ、其れを隠しつつ、僕の方を向いた。
「いや、用が有った訳じゃないが、2人の戦いが見事だったので、見惚れてしまったんだが……
ところで、2人はキミの護衛か何かなのかい?」
「護衛?僕の?
いや、2人は僕のパーティー…………は違うか。
まあ、僕の大切な人だよ。2人共ね」
「大切な人?
だったら、何でキミは戦わないんだ?
腰の剣は飾りでは無いんだろう?
たった2人の女性だけに戦わせて、男のキミが高みの見物なんて……」
「え?2人の戦いを見てたんじゃ無いの?
僕が出る迄も無かったでしょ?」
「な?!そ、其れでも男なら、女性の前に立って…………」
「はぁ〜……。見解の違いだね。
僕は万が一に備えて、機会があれば出来るだけ彼女達を鍛えてあげようと思ってる。
其れが、2人の安全を高める僕の愛情だよ。
僕はキミの様に、その場を守ってあげれば良いとは考えてないんだ。
彼女達とはずっと一緒に居ようと思っているから、もしもの備えは常にしているんだよ」
「なに?!私が其の場凌ぎだと言うのか!!」
勇者が怒気を含んで、僕の方に一歩踏み出した。
しかし、僕は視線を勇者から外し、登場時からずっと僕を睨んでいる勇者パーティー唯一の女性、聖女の方をビシッと指差した。
「勇者様、噂は聞いてるよ。
キミ達パーティーがまだ駆け出しだった頃、魔物から敗走した話しを。
その時、聖女様は持ち前の幸運で、魔物の魔法が一切当たらなかったらしいけど、もしも、魔物が直接襲い掛かって来ていたら、そうは行かなかった筈だ。
だから…………」
僕が高らかに語って居ると、勇者パーティーの様子がおかしくなった。
過去の失敗話しを出されて怒っているとかでは無く、何だか気不味い様な、言い難い様な雰囲気だ。
僕の言っている事は分かるんだけど、そうじゃないと言いたげで、実際にそう言った。
「あ、あのだな。
ちょっと、信じ難いと云うのは分かっているんだが…………」
勇者が言い淀んでしまい、代わりの様に、騎士っぽい男が後を引き継ぐ。
「キルシュシュには、何故か、直接的な攻撃も全く当たらないんだ…………」
「は?」
「え?」
「何を言って……」
驚くと言うか意味が理解出来ないと言うか、取り敢えず頭で整理が付かない感じの僕達に、騎士が1番言い難い事を言ってくれたからか、勇者が続きを話す。
「私達は、“ラッキーフィールド”と呼んでいるが、キルシュシュには、飛んで来る魔法や矢どころか、斬り付けても、殴り付けても、全く当たらないんだ。
もちろん、彼女が素早く避けているとかじゃ無い。
何故かは分からないが、何故か当たらないんだ。
なんなら、私なんて、彼女に普通に触れる事すら出来ないくらいだ…………」
勇者の言葉は意味不明だ。
しかし、言われた本人である聖女は、ちょっと気不味そうにソッポを向いている。
何だか、此れまで何度もこう云うやり取りが有って、その度に驚かれて来た雰囲気だ。
ディティカとイデティカの“心の会話”の様な不思議な力が有る事は、あの双子が証明してくれているので、信じない訳では無いが、斬り付けても殴り付けても全く当たらないと云うのは流石に信じ難い。
全く当たらないと云う事は、止まっているところを正面から殴っても当たらないと云う事だ。
一体どんな状況なのか想像も出来ない。
僕達が呆気に取られていたからだろう。
聖女が初めて口を開いた。
「……嘘だと思われるなら、試してみられれば良いです……」
何だか、ちょっと拗ねた様な言い方だ。
もしかしたら、いや、もしかしなくても、みんな僕達の様に、『聖女には攻撃が何も効かない説』を信じてくれなくて、毎度毎度、実証して見せているんじゃ無いだろうか。
「……本当に?」
「ええ、ご遠慮無く、その剣で斬ってみて貰っても構いませんよ」
ちょっと興味が湧いてしまった僕は、“ウィフィー”から降りて、聖女の前に向かう。
他の勇者パーティーも誰も止めないし邪魔もしない。
流石に無防備な女性に斬り掛かる訳にはいかないので、僕は、腰から鞘ごと抜いて、鞘でコツンッとやる感じでゆっくり振り下ろした…………
……コツンッ!!……
「痛い!!」
「…………え?
一体何がしたかったの?」
僕は疑問と共に、聖女本人、続いて、勇者パーティーへとグルリと視線を回すと、本人含む全員が、驚愕の表情と共に、一瞬の停滞…………
声を揃えて…………
「「「ええええええええええええ………………!!!!」」」
と、大絶叫を上げたのだった…………
▪️▪️▪️▪️
「…………ああ……。めんどくさい…………」
僕はそう言いながら愛刀を一振り。
ゴブリンの首が飛んで、返す刀で、もう1つ飛んだ。
一歩、二歩と助走を付けてジャンプ。
巨大なオーガを脳天から、左右に真っ二つにする。
それでも、まだまだ魔物がわんさか居る。
勇者パーティーが大絶叫を響かせたせいで、魔物が大量に集まって来たからだ…………
ウッドゴブリンやアイアンゴブリンといった、魔都 ウニウンの序盤の最弱魔物すら集まって来ている。
一体どれほど遠くまで響いてしまったのか…………
唯一の救いは、上位の魔物は其れ程多くない。
せいぜいが、Aランク50体くらいだ。
やはり、上位の魔物はそうそう自分の縄張りを動かないのだろう。
とは言え、Sランクの勇者パーティーが居ても、レアストマーセとペアクーレの2人だけではキツい。
Aランク50体と雑魚魔物は、500体は裕に越えているからだ。
仕方がないので、僕も参戦しているのだが、勇者パーティーがちゃんと強い所為で、前線で戦っているのだ。
此れでは、僕が魔法の乱発をする訳にも行かず、仕方なく1体づつ斬っているのだ…………
結局、殲滅に3時間以上掛かった…………
「レアストマーセ、ペアクーレ。
面倒だから、自分が倒した魔物と左右真っ二つになってる魔物の良さそうな装備だけ回収して。
真っ二つの魔物は全部僕が倒したヤツで、他は僕達が倒したのか、勇者パーティーが倒したのか分かり難いから」
「は、はい。分かり、ました。
其れに、しても、ノッド様は、息一つ、切らせて、いないの、ですね…………」
「ノッド様、は、まだまだ、遠い…………」
「そりゃあ、キミ達と毎晩鍛えてるからね。
夜と違って、本気じゃ無いんだから当然だよ」
と、僕達が話していると勇者パーティーが近くに集まっていた。
僕達の会話を聞いていたのか、レアストマーセとペアクーレと共に、聖女も真っ赤だ。
「本当に申し訳無かった!!
余りの衝撃に、素人の様な大声を上げてしまって!!」
そう言って、頭を下げる勇者。
其れに続いて、パーティーメンバーも頭を下げる。
Sランクで、勇者で、この雰囲気だから、プライドの塊の様なヤツらかと思っていたが、キチンと謝れる気の良いヤツらなのかもしれない。
「まあ、済んだ事は良いよ。
其れよりも、さっさと撤収してしまおう。
魔核は面倒だから、大物以外は放置するつもりだから、夜になったらゾンビが大量発生するだろうし」
「あ、ああ。そうだな急いだ方が良いな」
本当に殲滅戦だった様で、戦利品の回収中に他の魔物が襲って来る事も無く、僕達は今日の探索を打ち切って、拠点にしたマンションのテントに戻った。
すると、当然の様に、聖女を先頭に、勇者パーティーが着いて来る…………
最初の内は、勇者パーティーの拠点も同じ方向なのかと思ったが、同じマンション迄着いて来た…………
「着いて来てるの?」と、聞くと、
「少し、ご相談がございまして……」と、答える。
丁寧な口調だが、断っても着いて来そうな雰囲気だ。
仕方がないので、そのまま、着いて来させて、元々の拠点は女性陣に使って貰って、僕は男どもを連れて、隣の部屋に行って予備の簡易シャワーを設置してから、全員、返り血を落として身支度を整えて、再度、元々の拠点に集合した。
男の方が多かった分、シャワーに時間が掛かり、女性陣は普段着状態で食事の準備を済ませてくれていた。
「話しは食べた後で」と、先ずは食事、その中で、自己紹介だけを済ませた。
僕達は、一応勇者一行の名前は知っていたが、誰が誰なのか、顔と名前を一致させた感じだ。
食事が終わって、お茶が配られ、「……では」と、聖女キルシュシュが居住まいを正して、メガネをクイッと上げた。
ローブを脱いだ聖女キルシュシュは、聖女の名に相応しい美人だ。
銀色に輝く髪は腰まで有り、銀色の瞳を強調する様な金縁のメガネを掛けている。
そして、聖女の母性を強調する双丘は、我がルベスタリア王国の誇るS級代理官最強のサウシーズに匹敵するだろう…………
「先ずは、再度お詫びを。
大声を出すなどと云う初歩のミスで皆様を窮地に巻き込み、誠に申し訳ありませんでした」
聖女の言葉に他の5人も再度頭を下げる。
「分かった。謝罪は受け取るよ。で、本題は?」
「ありがとうございます。
では、本題に入る前に、私が聖女と呼ばれる理由の4つの力について、ご説明致します。
私には、生まれながらに不思議な力がありました。
“予知夢”、“予感”、“幸運”、“ラッキーフィールド”です。
“ラッキーフィールド”に関してはお話しましたが、私には本来、攻撃は当たりません。
そ、その、ノッディード様には当てられてしまったので、信じられないかもしれませんが……
ええっと、そうです!!
ペアクーレさん、試しに私をぶって下さいませんか?」
「え?私?」
聖女キルシュシュは、隣に座るペアクーレの方を向いて、ウンウン頷く。
「じゃあ……………あれ?」
軽く振りかぶって放たれたペアクーレの平手は、あり得ない角度で曲がって、空を切った……
続いて促されたレアストマーセも、
「…………そんな、何故?」
と、意味の分からない空振りをする。
しかし…………
ペチンッ!!
「きゃっ!!」
僕がやると当たった…………
ペアクーレとレアストマーセは自分が外した事を、勇者パーティーは僕が当てた事を不思議そうにする中、叩かれたのに、ちょっと嬉しそうな聖女キルシュシュが話しを再開する。
「と、云う感じで、ノッディード様以外の方の攻撃が当たらないのが、“ラッキーフィールド”なのですが、他の3つ。
“幸運”と“予感”に関しては、特別な何かが有る訳では無く、本来ではあり得ないくらいの幸運が起きたり、こうした方が良いと、何となく分かる予感する能力です。
因みに、私は此れまで、カジノに行こうと思った日に、負けた事は1度も有りません!!」
「「「……………………」」」
「ええっと、本当ですよ?」
「ああ、うん。本当なんだね」
「驚きません?」
「…………其れは……」
「ノッド様の方が…………」
僕達が驚かない事に不思議がる聖女と勇者パーティー。
多分、カジノで負け無しは聖女の鉄板ネタだったのだろう。
しかし、僕は…………
「ごめんね、キルシュシュさん。
僕はいつ行ってもカジノで負けた事が無いんだ」
「ノッド様は一晩でカジノで100億アル以上稼ぐ」
「「「100億ぅぅぅぅ!!!!ウグッ!!」」」
またも絶叫しようとする勇者パーティーの口を、僕達は慌てて塞ぐ。
此れからまた、魔物が集まったら面倒で仕方ない。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
聖女を筆頭に、勇者パーティーは平謝りだ。
今日の今日で同じ、素人ミスを連発しそうになったのだから、当然の反省だろう。
「じゃあ、罰として、今日の夜番はキミ達パーティーに頼んで良いかな?」
「はい!!もちろんです!!」
「ほんと、すいません!!」
「で?別にカジノの話しがしたかった訳じゃないよね?」
「あ!!は、はい。
お話ししたかったのは、最後の“予知夢”についてです。
この“予知夢”は、未来の景色が夢で見えます。
明日の事だったり、何年も先の事だったりするんですが、この“予知夢”は、比較的、大きな出来事や眠っている距離が近い人の未来が見える事が多いのです。
例えば、私が聖女と呼ばれるきっかけになった、ナノマガン王国での金山の発見は、本来ならかなり未来に発見される筈だった金山の場所を伝えて発見に至りましたし、このサンティデルテは、将来、かなり若い奥さんと結婚する未来が既に見えています。
他にも、偶然ホテルの隣の部屋だった家族が事故に遭うのを未然に防げたり、両親に妹が出来た事が見えたりしました。
ですが、この“予知夢”は、自分自身の身に起きる事は見る事が出来ません。
先程の妹が出来たのも、私がハンターとなって家を出てからの事ですし、サンティデルテの結婚も恐らく、パーティーを抜けた後の事なのだと思います。
なので、私は一切“予知夢”に出て来ない、私が一生お側に居る事になる“運命の相手”を探して旅をしているのです。
其処で、宜しければ、暫くノッディード様達に同行させて頂けないでしょうか?」
「……………え?」
「あ、その、ですね。私に攻撃出来たノッディード様が、その、“運命の相手”ではないかと…………
そ、其れで、暫く近くで眠って、“予知夢”にノッディード様が現れる事が無いかを確かめさせて頂けないでしょうか?」
「……あのさ、そんな“運命の相手”なんて、存在する訳無いでしょ」
「え?!」
「いや、だってさ。其れって、24時間365日ずっと一緒に居て、トイレもお風呂も一緒に行って、そんな生活を死ぬまでずっとする相手って事でしょ?
有り得ないじゃない」
「そ、其れは?!」
「確かに!!」
「キミ達6人も居て、誰も気付かなかったの?」
「いやぁ〜……」
「面目無い……」
「でも、公爵家の方達も誰も気付いて無かったし…………」
レアストマーセとペアクーレも微妙な表情をしている。
2人も気付かなかったらしい…………
「と、云う訳で、キルシュシュさんの“運命の相手”は、別の方法で探して下さい。
今日はもう、今更だから此処に泊まれば良いけど、明日からは別行動で」
「…………でも…………」
「キルシュシュ、一度落ち着いて考えてからにすると良い」
「はい、そうですね……」
と、此れで話しは終わりかと思ったら、今度は勇者が出張って来た。
「其れと、もう1つ良いだろうか?
レアストマーセ殿は、もしかして、東の勇者なのだろうか?
赤髪の男性だと聞いていたのだが…………」
「「「…………」」」
「あ!!いや、もちろん、女性なのは分かっている。
噂の方が間違っていたのか?と、云う意味だ。
その…………
彼女の剣は私の聖剣と同じく、“レイブラント”なのだろう?」
勇者ワルトルットゥの言葉に、レアストマーセが僕を見る。
多分、魔導具の情報を僕が明かすかどうか問うているのだろう。
まあ、さっきの戦闘で見られているので、隠しても仕方がない。
「まあ、“レイブラント”ではあるよ。聖剣では無いけどね。
レアストマーセの“レイブラント”は、未使用のモノで、今はレアストマーセ専用だよ。
だから、誰にも選ばれないから、聖剣足り得ないんじゃないかな?」
「いや、其れは聖剣以上に選ばれし剣なのでは…………」
「あのさ、ワルトルットゥさん。
此れはあくまでも僕の見解だから、気を悪くしないでね。
魔導具にはセキュリティ機能が付いてる魔導具があって、セキュリティを掛ける専用の魔導具を使って、使用者を限定する事が出来るんだ。
ただ、そうやって完全に個人に限定してしまうと、他の人は誰も使えなくなる。
だから、ある程度緩いセキュリティを掛ける事も出来る様になっている。
そうすれば、緩さの度合いで、千人に一人とか、一万人に一人とかって云う、偶然一致する人が現れるからね。
そうしないと、使い手が死んだ後は、魔導具では無いただの剣になってしまう。
だから、ワルトルットゥさんの“レイブラント”は後世に残す為に、そうしてあるじゃないかと思うよ」
「…………其れは、つまり私は、偶然セキュリティをクリアしただけと云う事か…………」
「まあ、あくまで僕の見解だよ。
其れに、血縁者の方が、同じ特性が出やすいらしいから、もしかしたら、ワルトルットゥさんの遠いご先祖様が、“ドラゴンキラーの勇者”かもしれないしね」
「あ。済まないな、ありがとう。
少し落ち込んでしまったが、勇者のプレッシャーが軽くなった方が大きい。
特別なのは“レイブラント”と云う聖剣であって、私では無いと肝に銘じて、此れからも精進するつもりだ」
…………勇者ワルトルットゥ、思った以上に良いヤツだな。
彼なら勇者を名乗っても良いんじゃないだろうか。
その後も、暫く話しをした。
そこで得た情報としては、そもそもこのパーティーは、勇者パーティーでは無く、聖女パーティーである事。
此れは、そもそもが、ナノマガン王家とヴェルダールテ公爵家が、聖女キルシュシュの“運命の相手”探しの護衛の為に作ったパーティーだったからだ。
今ではこの6人は気の合う仲間らしく、聖女の“運命の相手”を見つけた後も、5人でパーティーを続けるつもりらしい。
其処で疑問が浮かんだ。
平たく言えば、お嬢様の恋人探しだ。
ならば何故、危険なハンター活動を行い、剰え、古代遺跡都市の完全攻略などをしているのか?と云う疑問だ。
その答えは、「危険な場所にこそ、運命の出会いが有る!!」と、云うキルシュシュの持論と予感によるモノだった…………
なんでも、現ナノマガン国王は、姪のキルシュシュを目に入れても痛くない程可愛がっているらしく、全てのワガママを聞き入れて、父親の公爵に話しを付けてくれるらしい。
聖女と言えば聞こえは良いが、公爵令嬢が、ハンター、其れもSランクパーティーなんて、お転婆にも程がある。
そして、今まで行った遺跡都市の話しも聞けた。
見つけた珍しい魔導具や、強力な魔物の話しなどだ。
良かった事は、空を長時間自由自在に飛べる様な魔導具は、見つかった事は無いと云う情報が有った事だ。
少なくとも、ナノマガン王国とアルアックス王国には、まだ、航空戦力は無いと云う事が分かった。
其れと、遺跡都市の玉座の間に居る魔物は、先ず間違いなく強力な魔導具を持っていると云う情報も得た。
勇者パーティーの装備は、全員が魔導具の武器を使っていて、防具やアイテムも魔導具が幾つも有るらしい。
そして、其れらは、勇者の聖剣の様に、貰ったモノや購入したモノも有るらしいが、多くは、遺跡都市の玉座の間で手に入れたモノらしい。
なんでも、玉座の間に居る程の魔物になると、他の魔物とは一線を画し、本体の強さプラス、装備の強さが無ければ君臨出来ないからだろうとの事だ。
なるほど、確かに有り得る話しだ。
魔物も魔獣も、同じ種類なら、長く生きているモノの方が基本は強い。
長く生きている分、多くの魔力を身体に溜め込んでいるからだ。
しかし、その中で、差が出るとしたら、其れは武器の強さだろう。
何も知らない僕が、相打ちとはいえ、キマイラと戦えた様に、強力な武器は強さを跳ね上げる可能性がある。
其れを知る魔物は、敵対する魔物を倒しては、更に武器を奪って強くなって行き、今の玉座を手に入れた訳だ。
興味深い話しだったが、今回はスルーだ。
僕の警戒する魔導具第1位は、あくまで、飛行魔導具だからだ。
その内、遺跡都市の攻略をやってみるのも楽しいかもしれないが、恐らく僕がそんな行動を取る前に、勇者パーティーが、此処、魔都 ウニウンは攻略してしまうだろう。
聖女の生い立ちや勇者パーティーの成り立ちを聞かなければ、来年か再来年の移民として誘っても良いくらいの気の良いヤツらだが、僕は他国と交流を持ちたく無いので、彼らの移民は却下だ。
こうして、夜は深けて行き、夜番を勇者パーティーに押し付けてしっかりと眠ったのだった…………