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箱庭の王様  作者: 山司
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第8章 移民と魔都と 2

第8章

移民と魔都と 2





▪️▪️▪️▪️





「……新しいウルフバレットが僕に会いたがってる?」



グレーヴェとネクジェーから相談したい事があると、集合が掛かった。

一応、僕も含めてみんなには、1日1回は『ティニーマフーズ商会』本店を覗いて、伝言や置き手紙なんかで、状況確認を行って貰っている。


そして、グレーヴェとネクジェーの伝言を見て、今日は集まった訳だ。


その相談したい事と云うのが、「新しいウルフバレットがノッド様に会いたがってます」と、云うモノだったのだ。

ウルフバレットとは、代々狼弾会と云うスラムに有る組織のボスが襲名する名前で、前ウルフバレットはグレーヴェとネクジェーを引き込む時に僕が逮捕した。

その所為で、またもや代替わりがあったと云う事だろう。



「え?別に会う必要無いでしょ?

僕はこの国では、只のハンターなんだから」


でも、以外だった。

グレーヴェとネクジェーなら、僕がそう言うと思って断るか、わざわざ、呼んだりする様な事では無く、会った時にでも伝えるんじゃないかと思ったからだ。


「はい。

私も最初はノッド様がそう言うんじゃないかと思ったんですが……」


そう言ってネクジェーは、グレーヴェの方を見る。

僕の疑問の答えはグレーヴェが持っている様だ。



「えっと、ノッド様がアルアックス王国で組織とか権力とかを持つつもりがない事は分かってるんですけど、新しいウルフバレットは、元々狼弾会に居た人で、私達もお世話になった先輩の様な人なんですけど、信用は出来る人です。


なので、一度会ってみて貰って、大丈夫そうなら、来年以降の移民集めを手伝って貰ったらどうかと思ったんです。


来年からは大人も移民を始めると言われてましたし、最終的には、狼弾会自体を信用出来る人だけにして貰って、全員で移民して貰ったら良いんじゃないかと思って…………」


「…………冬の間に移民の準備をして貰う現地スタッフみたいな感じか…………」



…………確かに此れはアリかもしれない。

来年は大人も連れて帰る事も勿論だが、何かしらの技術の有る人間も出来れば欲しいと思っている。

特に捕まえた家畜の中に、ガードシルクワームと、クラウドシープと云う糸の原料になる魔獣を手に入れたので、製糸、製布、縫製の技術が有る人材が欲しい。


そう言った人材の中で、例えば手足を失ったとかで、スラムに落ちた者が居たら都合が良い。


そういった技能や過去の経歴を僕達が聞いて回ると怪しまれるが、スラムの組織がやるなら不自然じゃ無い。


確かに良い手だ。



僕は、黙って立ち上がると、ゆっくりとグレーヴェの後ろに行く。

僕が歩いて行くのをずっと目で追っていたグレーヴェが振り向く。

僕はニッコリ笑って、優しくグレーヴェの頭を撫でた。



「グレーヴェ、良い案だと思う。

新しいウルフバレットがどんな人物か、僕の国民になるかは別として、考え自体は凄く良いよ。


よし!!

新しいウルフバレットに会ってみよう!!


…………そうだな、じゃあ…………」



そう言って、僕はウルフバレットと会う段取りをグレーヴェとネクジェーに伝えた。

他のみんなには、ウルフバレットと会った翌日にまた集合する予定にして、今日は解散になった。


出て行く時に、「グレーヴェ、今日のご褒美を何か考えておいて」と、小声で伝えたのだが、みんなが一斉に此方を見たので聞こえていた様だ。


みんなもポーション訓練を取り入れているので、聴覚も鋭い…………





3日後、今日はウルフバレットと会う日だ。


場所はグレーヴェとネクジェーが住んで居た家、時間は13時、同行者は3人迄と云う条件で呼んだのだが、お茶の準備くらいはしようかと、10分前に行くと、其処には2人の男が立っていた。


僕が『どっちがウルフバレットかな?』と思っていると向こうから深く頭を下げて来た。



「ノッディード・ルベスタリア様、本日はお時間を頂き有難う御座います。

私が新たにウルフバレットを襲名致しました。モルツェンと申します。


此方は、ヴィアルトです」


新しいウルフバレットのモルツェンは30代半ばくらいの優男といった雰囲気だ。

灰色の髪を後ろに撫で付けて、鋭い金色の目をしている。

スラムの顔役と云うよりは、執事の方が似合いそうだ。


もう1人のヴィアルトは、スキンヘッドで眉もなく大柄な男だった。



「お待たせしちゃったね、ウルフバレット。

ところで2人だけ?」


「はい。ノッディード様を前に護衛など意味が有りませんから、道中の護衛と1人で来るのは失礼かと思い連れて来ました」


「そう。まあ立ち話しも何だし、入ってよ」




グレーヴェの家には僕とグレーヴェ、ネクジェーの3人で来た。

一応、今日の為と今後使う可能性もあるので、リビングの物は退かして、3人掛けのソファーがテーブルを挟んで向かい合う様に置かれている。


グレーヴェとネクジェーがお茶を配り終わって僕の左右に座る。

向かいのソファーにはモルツェンが座ってヴィアルトは後ろに立っている。



「じゃあ、用件を聞こうか?」


と、僕が切り出すと、モルツェンは立ち上がりヴィアルトと揃って頭を下げる。


「本日は、お礼と御恩返しをさせて頂きたく参りました」


「お礼は、前のウルフバレット逮捕の事だろうけど、御恩返しもその事?

まあ、座りなよ。ヴィアルトも座ったら?」


「失礼します。

はい、仰る通り、前ウルフバレットを逮捕して頂いた件です。


先々代のウルフバレットは私達の世代の者にとっては、父でした。

私もこのヴィアルトも、先々代に拾って貰った孤児です。


先々代が暗殺された後、私達、先々代に育てて貰った者達も前ウルフバレットに挑みましたが敗れてしまいました。

5体満足だったのは私とこのヴィアルトだけでした。


先々代の復讐も諦めかけていた時、ノッディード様が前ウルフバレットを逮捕して下さったのです。


なので、父の仇を討ってもらった、私達個人として、ノッディード様に御恩返しをさせて頂きたいのです」



…………なるほど…………

ウルフバレットとしてではなく、個人的に会いたかったって事か…………


僕が少し残念に思っていると、


「其れでですが、ノッディード様は何か変わった事をされているそうで、私達、狼弾会でお力になれる事もあるのではないかと…………」


と、続けた。

『個人の恩返しに組織を使うの?』と、ちょっと思ったが、まあ、僕にとっては都合が良い流れなので乗っかる事にした。


「変わった事?

僕は外国の人間だから、この国の人から見たら変わった事を色々してると思うけど、何の事?」


「女性や子供を集められていると聞いています。


勿論、それだけの情報では狼弾会の矜持に悖りますのでご協力の申し出は出来ませんが、グレーヴェとネクジェーの様子や、2人が自分から協力しているのであれば、ノッディード様が集められた女性や子供に対して、非道な仕打ちを行ってはおられないだろうと判断した次第です。


特に2人の様子は以前よりも幸福なのだろうと感じました。


女性や子供を集められている理由やその後についても、此方からは伺いません。

集められる者の条件等がありましたら、此方で基準を満たすかの判断もさせて頂きます。

間違っても私達がスパイを送り込む様な真似は絶対に致しません。


此れであれば、ノッディード様に御恩返しが出来るのではないかと愚考致しました。

如何でしょうか?」



…………なんだろう、僕が何も言わなくても、望んだ感じになってる……

僕が左右を見ても、グレーヴェもネクジェーも首を振ったから、2人は何も話してないんだろう。

このモルツェンは相当頭が切れるのかもしれない。

『少し揺さぶってみるか……』



「なるほど…………

因みに、キミは、『何故僕が女性や子供集めをしている』と考えてるの?」


「最初は女性や子供を従業員にする為かと、安い賃金での労動力かと思っていました。

店舗や倉庫を買われたと云うのも聞いていましたし、通常仕事を得難い者への救済の様な事をされようとしているのかと…………


しかし、今は、いえ、お会いしてからは違うと確信しました。


失礼な発言になるかもしれませんが、宜しいでしょうか?」


「うん、あくまでキミの予想を聞いてるだけだから」


「では…………

恐らく、建国かクーデターをお考えなのではないかと……」



驚いた…………

普通、女子供を集めていても、建国やクーデターなんて発想は出て来ない。



「女性や子供で徒党を組んで、建国かクーデターをしようと思ってると?」


「はい。先程も言いました様に、無理に真実を聞く気は御座いません。

しかし、私の想像と云うならば、そうです。


ただ、将来的な戦力と半分以上は保護の為ではないかと思っています。


建国であるならば、本格的な戦力や労働力を集める前の準備として移動が困難な女性や子供を優先的に引っ越しをさせている。


クーデターであるならば、戦火に巻き込まれない様に何処かに匿っている。


その為に、女性や子供を集められているのではないかと思っております」



…………本当に頭が切れるみたいだ…………

若干の考えの違いはあるけど、流れとしては正解に近いな。



「…………そう云う予想なのに僕に協力するの?」


「ええ。今日お会いして、そう云う予想になったからこそ、全面的にご協力させて頂きたいと思っております」


「建国の予想なら、この国を捨てる事に。

クーデターの予想なら、この国と戦争をする事になると考えていて、その上で協力したいと?」


「はい。スラムに住む者でこの国に愛国心を持つ者など存在しません。

いえ、この国の全国民が愛国心など持っていないでしょう。


中でもスラムの住人は、この国から逃れる事やこの国が滅ぶ事を望む者が大半だと思います。

そして、私もその1人です」


「…………なるほど。

じゃあ、もしも他国に逃れるなら、この国が生まれ変わるなら、キミはどんな国を望む?」


「…………そうですね…………

此れは私の境遇故にかもしれませんが、餓える者の居ない、親が子を捨てる事のない、理不尽な欲望で命を奪い合う事の無い国…………

で、しょうか……」


「因みに、ヴィアルトは?」


「…………子供が、死なない国……です」



…………採用だ。

この2人なら、移民の人選を任せても良さそうだ。

其れにルベスタリア王国に帰ったら、重要なポストを任せても良い。



「モルツェン、ヴィアルト。キミ達2人を信じよう。


だから、答え合わせだ。


先ず、僕が女性や子供を集めているのは本当だ。

でも、モルツェンの予想通り、先ずは女性と子供を集めただけで、将来的には男性も集めるつもりだ。


そして、建国かクーデターかと云う予想は、惜しいがハズレだ。

正解は、既に建国している僕の国に国民を集めているんだ。


僕はルベスタリア王国の国王、ノッディード・ルベスタリアだ」



僕がそう言うと、モルツェンとヴィアルトの表情は驚愕に変わって、慌ててソファーから床に跪いた。


「失礼致しました!!」

「し、失礼、致しました!!」



僕は表情を緩めて、軽く手を振る。


「いいよ、そんなに畏まらなくて。

まだ、話しを続けるから座ってよ…………


じゃあ、続きだけど。

モルツェンの人集めへの協力についてはお願いしようと思う。


今年は、10歳前後の子供中心に集めていて、100人くらいを目処に集める予定だ。

そして、来年は、年齢問わず男女半分づつくらいで300から500人くらいを考えてる。

最後に再来年は、同じく年齢問わず男女半分づつくらいで1,000から2,000人くらいを考えてる。


選考条件は、真面目に一生懸命働く者で、仲間や恩義を裏切らない者だ。


其れさえ満たせば、幼くて未だ働けない者でも、身体が弱くまともに働けない者でも、重い病気を患っている者でも、大きな怪我で手足を失った者でも構わない。


但し、選考する者は全員、正確な経歴と家族関係、人間関係の情報が必要だ。


出来るか?」


「はい。身命を賭してやり遂げてご覧に入れます。

ですが、確認させて頂きたいのですが、重い病気や手足を失った者と云うのは、そのままの意味なのでしょうか?」


「ああ、そのままの意味だ。

此れは、他言無用だけど、僕はそんな者でも、高確率で助けられるポーションを多く持っている。

誰にでも施す訳じゃ無いけど、その重症者が救う価値のある人間性なら救う」


「な?!ポーションですか。分かりました。

仰せの通りに致します」


「うん。其れともう1つして欲しい事がある。

其れは狼弾会の組織の再編成だ」


「組織の再編成で御座いますか?強化では無く……」


「うん。再編成だ。

狼弾会を僕の名前を出さずに、僕に絶対の忠誠を誓う組織にして欲しい。

そして、再来年の最後の移住の際には、狼弾会を解散して、僕の国、ルベスタリア王国の国民として全員で移民して貰いたい」


「!!そ、其れは私達もルベスタリア王国に行っても良いと云う事でしょうか?」


「ああ。キミ達2人の思い描く国の理想は、僕の目指す国の理想の一部だった。

だから、キミ達2人にもルベスタリア王国民になって貰いたい。


その上で、理想の国の実現に即戦力として入国出来るメンバーを狼弾会で培って貰いたい」


「はい!!命に代えてもやり遂げてご覧に入れます!!」

「は、はい!!やり遂げ、ます!!」



その後、冬の間は移民が出来ない事や有望な人物が居た場合の生活を保護する為に、取り敢えず10億アル渡しておいた。

モルツェンもヴィアルトも驚いてはいたが、僕が先に国王だと云う事をバラしていたので取り乱す程では無かった。


僕の希望する移民予定者は、合計最大2,600人程だ。

この人数なら、しっかりと選りすぐっても狼弾会のテリトリーの人員で賄えるだろうとの事だった。


因みに、狼弾会のテリトリーに住むスラムの住人は4万人以上居るらしい。

狼弾会自体も末端も合わせれば1,000人を超えるグループらしいので、もしかしたら、予定よりも凄く多い移民になるかもしれないが、まあ、ルベスタリア王国は防壁内だけでも直径100kmだ。


古代魔導文明時代の1億人都市とかになっても大丈夫な広々設計なので全く問題無いだろう。


但し、大量移民を行うなら再来年だ。

再来年の移民をもってアルアックス王国での活動は一時休止にする予定だからだ。


余りにも一気に人間が減ると、例えスラムの住人でも国に目を付けられかねない。

まあ、ほとぼりが冷めればまた来るだろうが…………



そんな訳で、僕の移民計画は、狼弾会を傘下にした事で一気に加速する。

そして僕は狼弾会の真の支配者、“キングウルフ”となった!!


ネーミングセンスは僕が悪い訳じゃない!!

グレーヴェが悪いのだ!!






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