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箱庭の王様  作者: 山司
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第2章 一人暮らし 2

第2章

一人暮らし 2





▪️▪️▪️▪️





小屋を出発してから僅か1週間で、僕はルベスタリア盆地の北東の森、ルベスタリア森林に辿り着いた。


僕の相棒の“エアーバイク”がとても速かったのと、小屋から持って来た魔導具の数々のお陰で野営の準備も楽々だったから、そして、此処までも全く魔獣に出会わなかったからだ。


森の入り口で一泊して、とうとう森へと踏み込んだ。


相棒の“エアーバイク”の能力なら、森の木々の上を飛んで行く事も出来るのだが、万が一、森の木々の中から魔獣に攻撃されて荷物と言うか水と食料を失うのが怖くて、森の中を進む事にしたのだ。



1時間程進んだ頃、僕はとうとう魔獣と出会った…………





「…………初めての魔獣がいきなり、キマイラだなんて…………

普通、最初って、スライムとかウルフとかの下位の魔獣じゃないの?」


僕の眼前に現れたのは、2mを越えるライオンの魔獣だった…………

2mを越えるライオン、それだけでも十分以上に恐ろしいのに、キマイラは背中には大きなコウモリの翼で尻尾は大蛇と云うオマケまで付いている。


更に親切な僕の凄メガネが、危険度Aだとか、噛み付く力がライオンの10倍以上だとか、飛行速度が時速80kmを越えるとか、ヘビの毒は1時間以内に解毒しないと死ぬだとか恐怖を煽って来る。


僕と一緒にレードウィーン大森林に入った6人が居れば、何とか勝てたのかもしれないが、僕がどうにか出来るレベルの魔獣じゃあ無い。



「…………いや、僕には小屋から拝借した伝説クラスの最強装備がある!!

其れに、キマイラと戦って戦死なら、十分名誉の戦死だ!!」


僕は相棒から降りると、右腰の2本の剣を抜いた。


魔獣には特殊な能力を持つ者も多く居る。

このキマイラはきっとその事を良く分かっているんだろう。


僕が如何にパッと見弱そうでも、無闇に襲い掛かって来たりせず、僕の事を観察して、ゆっくりと距離を詰めて来ている。


そして、ピタリと動きを止めて大きく息を吸い込んだ。魔法だ!!

キマイラの口から僕の頭よりも大きな火の玉が飛んで来た!!


僕は慌てて左腕の小さな金属製の盾を構える。

もちろん、こんな小さな盾ではあの魔法を防ぎ切れる訳は無い。

でも、この盾は魔導具だ。


「“リフレクションプロテクト”、魔法!!」


僕の叫びの様な声に応えて、半透明なバリアが僕を包む。

すると、其処に当たった火の玉は、元来た道を辿る様に、キマイラに向かって行った。


キマイラは一瞬驚いた様な雰囲気だったが直ぐ様、飛び上がって火の玉を避けた。

魔法は効かないと即座に判断したのか、そのまま急降下しながら、前足を振り下ろして来る!!


「“リフレクションプロテクト”、物理!!」


盾を掲げて叫ぶ!!



ガキィィィィン!!!!


重い金属同士がぶつかり合った様な音が響き、キマイラが跳ね飛ばされて行く。

キマイラは吹き飛びながらも尻尾のヘビから氷の槍を放って来た。


「“リフレクションプロテクト”、魔法!!」


半透明バリアが氷の槍を跳ね返す。

そして、そのままヘビ尻尾を貫いた!!



ドォォォォォン!!


「グルォォォォ……!!」


大きな木にぶつかり地面に落ちたキマイラは痛みとも怒りともつかない咆哮を上げる。



「凄い!!凄いぞ!!僕がキマイラと戦えてる!!


今度はこっちの番だ!!

“嵐雷剣”、雷!!」


倒れるキマイラに向かって、右の剣を突き出すと、その切っ先から雷が迸る!!

其れを見たキマイラが転がる様にして避ける。


すかさず僕はその“嵐雷剣”を天に掲げて振り下ろす。


「まだ、行くぞ!!“嵐雷剣”、落雷!!」



ドッゴォォォォォン!!!!


凄まじい雷がキマイラへと降り注ぎ、轟音を響かせる。

黒焦げになったキマイラを見て、僕は安堵と共に致命的なミスを犯してしまった。


「……やったか?!」


と、呟いてしまったのだ!!


古今東西、どんな物語でもそのセリフは、完全なる死亡フラグだ!!


しかし、数々の英雄達のこの致命的なセリフは、致し方無いと思う。

強敵を倒した安堵感から思わず出てしまうのだ。


僕だって、言った瞬間、2つの意味で『しまった!!』と思った。


1つは、この完全なる死亡フラグを言ってしまった事に気付いたから。

もう、1つは、倒れていた黒焦げのキマイラが飛び掛かって来たから!!



気付いた時には、僕の目の前にはキマイラの口内しか無かった。

僕のコブシ程も有る大きな牙がずらりと並び、どんな鋭利な剣よりも尖って見える。

僕の腕よりも太い舌が血の混ざった唾液を振り撒いて迫って来る。

最早、音では無く衝撃の様な咆哮が僕を包む。



そして、首に途轍も無い衝撃と、途轍も無い熱を感じて意識が消えた。

意識が消えるほんの一瞬で理解した。


僕は首を食い千切られた…………






▪️▪️▪️▪️





「…………此処は…………」


僕は朦朧とする意識の中、目を開いた。


視線の先には森の木々が有り、身体の感覚的に地面に寝転がって居る様だ…………


とても怖い夢を見た…………

自分が魔獣に喰われる夢…………


死は覚悟していた筈だったけど、思い出しても震えが来る。

迫り来る魔獣の口は、人間の命など一瞬で奪ってしまえると如実に現していた。


ふと気付くと、気持ち悪くなる程の鉄臭さと焦げ臭さが充満していた。

後頭部には、何かべっとりした気持ち悪さが有る…………



僕はゆっくりと身体を起こして、立ち上がる。

其処には、夢で見たのと同じく、夢の僕が放った雷で焦げ付いた地面がある…………


僕は、恐る恐る、ゆっくりゆっくりと後ろを振り向いた。



「うわぁぁぁぁぁぁ…………!!!」


目に映った光景に、目に映ったモノに、悲鳴を上げて、尻もちを付いて、少しでも離れようと後ずさる。


「な、な、な、そ、そんな…………。そんな…………」


僕は俯き頭を抱えた。

身体は勝手にガタガタと震える。

目からは勝手に涙が溢れる。


僕は、このルベスタリア盆地にやって来た日からの事をもう一度思い出していた。


あの飢餓の苦しみの日々を、あのカルボナーラを食べた時の事を、あの手紙に書いて有った内容を、あの地下の凄まじい施設を、あの魔導具を練習した日々を、あの草原を旅した日々を、あのキマイラとの戦いを、あの死の瞬間を…………



僕の見た光景…………


僕が倒れて居た場所には、今迄見た事も無い程の大量の血がぶち撒けられ、赤黒い地面が有った…………


僕が見た光景…………


夢で見た、夢だった筈の巨大なキマイラが黒焦げになり、血だらけになり倒れて居た…………


僕が見たモノ…………


キマイラの口元に転がる、真っ赤に血で染まった歪な球体…………

恐怖で見開かれた目は白目を剥き、恐怖で引き攣った口からは血と涎を撒き散らし、鼻からも耳からも血が垂れる…………僕の生首…………



夢じゃなかった…………

全て全て、夢じゃなかった…………


僕はキマイラに喰い殺されて、カルボナーラの不老不死の法で生き返った…………



何時間、そうしていただろう…………


蹲った僕が顔を上げた時には既に陽は沈んでいた。


僕は思った。

『暗くて見えないなら丁度良い』と…………


落としていた“嵐雷剣”を拾い、見たくないモノに向かって、落雷を落とした。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………




気が付いたら僕は“エアーバイク”に乗って草原に居た。

何時間走ったのか、何処に向いて走ったのかは覚えていない。

真っ暗な中、テントを張って、眠った。


嫌な事は全部起きてから考えようと…………





▪️▪️▪️▪️






「…………此れからどうしようかな…………」



僕は目が覚めて、昨日の事を思い出して吐いた…………

もう一度、思い出して、もう一度吐いた…………


もう一度、思い出したが胃の中は完全に空っぽみたいで、もう何も出なかった…………


なので、昨日の事を受け入れ様と、しっかりと細かく思い出した。


気持ち悪くはなったが、もう何も出ない。

遠慮なく、自分の生首の状況もキチンと細かく思い出した。


此れは僕の経験上、大切な事だ。

中途半端な記憶と恐怖だけのままにしておくと、実物以上に悍ましく、事実以上に怖くなる。


だから、正確な記憶にして、事実を事実として受け入れる事はとても大切だ。


時間は掛かったけど、僕は自分の不老不死も自分がキマイラに殺された事も其処から生き返った事も受け入れた。


そして、遅くなった昼食を作って食べ、もう一度、自分の死を思い出しても吐かない事を確認してから、今後について考えようと思った。





「……とりあえず、僕には名誉の戦死と云う選択肢は無くなった。

まあ、僕が自分から帰ろうとしなかったら、誰も此処までは来ないだろうから、父上や兄上、アフィスターウィン家にも迷惑は掛けないだろうけど…………


あの森が危険だって事は分かったし、一旦小屋に戻って暫くのんびりとしようか…………

森に入って直ぐにキマイラが出て来るなんて、とてもじゃないけど、森を抜けて山脈を越えて“ドラゴンランド”に行くなんて無理だし」


そうと決まれば善は急げだ。

さっさと小屋に帰ってしまおう。


僕は来た時の様な慎重さなど全く無く、相棒の“エアーバイク”をビュンビュン飛ばして帰った。

来た時の一週間でもかなり早いと思っていたけど、『どうせ魔獣も出ないだろう』と割り切って走り抜けたらたった3日で帰って来れた。


持って行った荷物はとりあえず地下1階の廊下に放置して、装備も脱ぎ捨てて、風呂に入った。

汗も老廃物も吸収分解してくれるインナーを着ていたし、簡易シャワーの魔導具を持って行っていたので、そんなに汚い訳じゃなかったけど、広い湯船でゆっくりしたかったのだ。


その後は、出来立ての食事を食べて、大きなベットでしっかりと眠った。


やっぱり、風呂は湯船にしっかり浸かり、眠るのもベットに越した事は無い。

テント生活も辛いと云う事は無かったけど、やっぱり僕にはスローライフが似つかわしいと思った…………





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