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箱庭の王様  作者: 山司
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第8章 移民と魔都と 1

第8章

移民と魔都と 1





▪️▪️▪️▪️





6月14日、一昨日王都アルアックスへと戻って来た僕は、清々しい気分で、いつもの娼館から、美女達に見送られて街に繰り出した。


その直後、僕は4人の男女に道を塞がれた。


「あの!!ノッディード•ルベスタリアさんで合ってますよね?」


そう声を掛けて来たのは4人の内の1人の女性だ。

女性2人と男性2人の組み合わせで、前に出ているのは女性達、後ろの男性2人は若干居心地が悪そうに、僕にビクビクしながらも仕方なく着いて来た感じだ。


この男性2人には見覚えがある。

レアストマーセの元パーティーメンバーだ。


と、なれば恐らくこの4人がレアストマーセの幼馴染の初期パーティーメンバーなのだろう。


「そうだけど、何か用?」


僕は面倒臭いを全面に出した様に答える。

何故なら僕はこの4人に余り良い感情を抱いていない。


レアストマーセがハンターを辞めたくなった原因を作った男性2人もだが、元々ハンターに成りたく無かったレアストマーセを体格が良いからと云う理由で無理矢理同然にパーティーに誘った女性2人も気に入らなかったからだ。



「レアストマーセは一体何処に居るんですか?」


責める様な言い方に少しイラッと来る…………

『僕の可愛いレアストマーセを傷付けたのはお前らの旦那だろうが』と…………


「あのさ、何で僕がキミ達の質問に答えないといけないの?

キミ達2人は何でレアストマーセがパーティーを抜けたか聞いてないの?」


「知ってます!!

貴方が、レアストマーセとの勝負に勝って、連れ去って行ったって!!」


「まあ、間違っては無いけど、じゃあ、レアストマーセが僕に勝負を挑んだ理由は?」


「え?勝負を挑んだ理由?」

「貴方がレアストマーセを手に入れる為に勝負を持ち掛けたんじゃ……」


「後ろの2人から、何も聞いてないの?」


僕が男性2人の方を指差すと、女性達はバッと振り向く。

男性達はブンブン首を横に振って、


「オレはレアストマーセから何も聞いてない!!」

「オレだって聞いてないぞ!!」


と、言っている。

まあ、思い当たる事は幾つもあるんだろう。


「その2人がさぁ〜…。僕の可愛いレアストマーセを傷付けたからだよ。

『レアストマーセにはもう女性扱いは必要無い』って言ってね」


僕の言葉で、女性達は顔を真っ赤にして怒り出した。


「レック!!本当なの?!本当にそんな事言ったの?!」

「いや、レアストマーセに言ったんじゃない。

呑んでる時にそんな話しをしただけで……」



「バーゾンもなの?そんな酷い事言ったの?」

「冗談、冗談で、そんな話しをしただけだよ」


「「言ったんじゃない!!」」



女性2人は本気で怒っている様だ。

ハンターに誘ったのは強引でも、ちゃんと友達としては大切に思っていたのかもしれない。


此れなら、ちょっとくらいは会わせてやっても良いかな?

まあ、レアストマーセの気持ち次第ではあるけど…………



「そう云う訳で、彼女はパーティーを抜けたくて、僕に挑んで来たんだよ。

僕には絶対勝てないって分かっててね。


要は、彼女は自分から僕に着いて来たんであって、僕が連れ去った訳じゃないってコト」


僕の言葉を一様は受け止めたのか、しかし、まだ納得していない顔で、女性達が再度聞いて来る。


「だったら、アノ噂は、どう云う事ですか?


貴方が何かの組織を作っていてレアストマーセの様な強い人を集めてるって云う噂は?

貴方に着いて行ってから、誰もレアストマーセを見て無いんですよ?

私達も探したけど、見つからなかったし…………」



おっと、大分、捻れているが僕の人集めの噂が立ってしまっているらしい。

ちょっと、注意しておこうかな。



「何かの組織って、一体なに?」


「それは………」

「盗賊団とか?」


「僕が全くお金に困ってない超金持ちだって噂は?」


「聞いた事あります。カジノ王だって…………」

「山の様な女性の下着をプレゼントしまくってるって…………」



……また捻れた噂が…………

僕が大量の女性下着を持ち歩いてたのは、レアストマーセの特注分を取りに行った時だけなのに…………



「だったら、盗賊なんてする必要がないよね?

其れに、強盗するなら、1人で金持ちの家を襲った方がよっぽど速いよ。

僕は強いし。


其れで、要はレアストマーセに会えればいいの?

其れなら本人に聞いてみて、会っても良いって言うなら、レアストマーセに伝えるよ?


ただ、自分達の旦那達が、レアストマーセをどれだけ傷付けたか、しっかり考えてから答えてね」


「「………………………」」


女性達2人は顔を見合わせて黙ってしまう。

幼馴染の女性なら、レアストマーセが自分の体格の事で悩んでいた事も知っているだろうし、その事で、自分の旦那達の発言が如何に彼女を傷付けたか分かるだろう。



「じゃあ、僕は行くから。

一応、レアストマーセにはキミ達2人が心配していた事は伝えるよ。


まあ、其れでキミ達に会いに行くかは分からないけどね」



そう言って僕は立ち去った。




後日、伝書鳩で確認したところ、レアストマーセはわざわざ会いに行く事はしないそうだ。


やはり、男性2人の幼馴染の言葉は辛かったらしく、2人に会ったら旦那の悪口を言ってしまいそうだからと云う理由で。


その事は、偶然だったのか待ち伏せだったのか、後日再会した女性2人に伝えた。

2人とも、「レアストマーセらしいね」と言って、悲しそうにしただけで其れ以上は追求して来なかった。


因みに、僕に届いた手紙には、もう1つの理由も書いてあった。

其れは、僕の事を秘密にするのに2人に嘘を吐きたくないからだそうだ。


2人に会ったら必ず僕の事を聞かれてしまう。

そうしたら、思わず惚気て、ポロッと何か喋ってしまうかもしれない。

その時に、誤魔化す為の嘘を吐きたくないそうだ。


そうなった時の慌てるレアストマーセの可愛い姿が容易に想像できる。

友達に会う事を我慢した分、トレジャノ砦に戻ったらしっかりと甘えさせてあげよう。





▪️▪️▪️▪️





僕は呪われているのかも知れない…………



王都アルアックス再到着から10日余り、今日は予定では第1陣のルベスタリア王国への移民がトレジャノ砦を出発する筈の日だった。


そんな日に、今日もいつもの様に貧困エリアをウロウロしていると、僕の前に1人の男が立ち塞がった。


そして、叫ぶ!!


「ペアクーレを返せぇ〜!!!!」


と………………


男は20歳前後、僕と同じくらいの年齢だろう。

元は高級だったであろうヨレヨレで汚れた服を着て、危ない薬物でもヤっているかの様な、窪んで濃い隈を浮かべた澱んだ目をして、ナイフを持っている。



「何の話しですか?」


厄介者だろうとは思いつつも、一応理由を聞いてみた。

万が一、ペアクーレにとって大切な人だったら、いきなりボコボコにするのは良くないと思ったからだ。



「おまえがペアクーレを連れているところを見たってヤツが居たんだ!!

ペアクーレを返せ!!アレはオレのモノだ!!」



『コイツは多分、ボコボコにしても良いヤツだな!!』と思った僕は、とりあえず、ボコボコにしてから、話しを聞く事にした。


僕も彼女達を「僕のモノ」と言う事はあるけど、其れは僕の独占欲からの言葉だ。

しかし、目の前の男の言う“モノ”はまさに“物”の事だ。

女性として、いや、人間として見ての言葉では無い。



そうして、骨を数本ポキポキやってから、事情を一応聞いてみた。



この男は、元々そこそこの商会の跡取りだった。

成人して暫く経って、商会長の父が事故死、若くして商会長となった。


そんな男は商会長の多忙とストレスを溜め込み続ける日々を送っていたが、ある時、ある商会長から、最高の癒しの場を教えて貰う。

其れは、ペアクーレが売られた、極悪娼館だった。


其処は男にとって楽園だった。

行使する暴力と響く女性の苦悶の叫びが彼の最上の癒しとなって行った。


そんな時、出会ったのがその娼館に居たペアクーレだった。

ペアクーレを一目で気に入った男は娼館に通い詰め、ペアクーレを指名し続けた。

すると、不思議な事に、彼女にストレスをぶつける度に、次々と大きな商談が決まって行き、彼女を痛め付ける程に、何もかもが男の都合の良い様に転がって行った。


男は、ペアクーレが最上の幸運の女神だと思い彼女を買取る為の商談を娼館と行っていた。



そんな時、彼女が突然失踪した。



娼館にも、自分の部下にも、街のゴロツキにも、方々を探させたが見つからなかった。

その中で唯一得られたのが、黒髪黒目の女を連れたハンターの情報だ。

しかし、そのハンターが僕だと分かった時には既に僕も何処にも居なかった。


ペアクーレが居なくなってから、男は次々と転げ落ちて行く。

決まっていた大きな商談も破断になり、商売も失敗が続く。

娼館で他の女を幾ら殴っても、一向にストレスが治らない。


今迄の商売に失敗し、新しく始めてもまた失敗する。

財産を失い、商会を失い、この春晴れて、スラムの住人の仲間入りを果たした。


そんな、ある日、僕がまた王都アルアックスで目撃されたと知った。

そして、探し回った挙句、とうとう今日、僕に出会ったと云う話しだった…………





正直、途中から『もう、いいかな?』と思いつつも一応最後まで聞いたが、聞く価値の全く無い、どうでもいい話しだった…………


まさに時間の無駄だ…………


もしかしたら、ペアクーレの友人や家族で、万が一、彼女に少しでも優しくしてあげた人物の可能性を考えたが、完全に無駄だった。


ちょっと、『殺っちゃう?』と思うくらいだ。


まあ、この状態で手足が折れていれば、どの道長くは無いだろう。




この男との出会いで、唯一良かった事は、ペアクーレが自分でトドメを刺したいかと思って、出した手紙の返事で、「ノッド様以外の男に触れたく無い」と可愛い事を言ってくれた事くらいだ。


あの男そのものは、僕にとって存在自体が無駄だったが…………





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