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箱庭の王様  作者: 山司
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第7章 来春 5

第7章

来春 5





▪️▪️▪️▪️





王都アルアックス到着から4日。

僕達は『ティニーマフーズ商会』本店に集まっていた。


懸念していた家畜の購入がやはり出来ずにいたからだ。



「……と、云う訳で、家畜の入手方法は、アルコーラル商国まで買いに行くか、魔獣を飼い慣らすかだ。


僕としては、一旦、全員でアルコーラル商国に行って一気に纏め買いをするのが良いんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?


もしも、他の方法や情報が有ったら教えて欲しいんだけど?」


「もし、魔獣を飼い慣らすとなると、ピッグ系とバッファロー系の魔獣のツノを切ってから飼うと云う事になるんですよね?」


と、ネクジェーが聞いて来た。

彼女はディティカと共に家畜の飼育の勉強もしているので、畜産についての歴史を学んだんだろう。




かつて世界には動物や虫と云う生き物が居た。

しかし、“セカンドストライク”によって、其れらの生き物は、ドラゴンと魔獣になってしまった。


その所為で家畜が居なくなり、人々は肉を得る為に、狩りを行うしか無くなった。

だが、其れだけでは絶対量が足りな過ぎる。


其処で考えられた方法が2つ。


1つが、回復魔法を使って、肉を増殖する方法。

此れはルベスタリア王国地下で作られている食糧の製造方法だ。


そして、もう1つが、元々家畜として飼われていた、ピッグ系やバッファロー系の中で弱い魔獣を捕まえて飼う方法だ。現在の家畜はこの方法で品種改良が繰り返されて飼われている。

しかし、この方法は失敗の連続を経て今の状態に在る。


1番の大失敗は“サードストライク”が起きた時だ。

弱い魔獣を更に弱くしていた筈が、一気に強くなって人間の手に負えない様になってしまった。

その次の失敗は、もちろん、捕まえた直後の飼い慣らす段階での数多の事故だ。


弱いと言っても魔獣は魔獣。

当然人間を襲う。


特に“サードストライク”の後の魔道士の居ない、人間だけが魔法を使えない状況での飼育は困難を極めた。

僕の生まれたデラトリ王国でも家畜の数は権力の象徴だし、このアルアックス王国では王家のみの所有だ。


しかし、僕達には1つアドバンテージが有る。

古代魔導文明時の魔導具の数々だ。


僕はコレを家畜に使うつもりだが、家畜の原型である魔獣に使えない訳では無い。

そして、“サードストライク”後の様な事にならない様に飼い慣らした後の家畜にも徹底して魔導具を使わせれば同じ悲劇は防げるとは思う。



しかし…………



「うん。

でも、その方法でも家畜の牛や豚を飼うのに比べたら遥かに危険が多い。

特に、最初の移民は子供中心だから、万が一の事故の可能性を少しでも減らそうと思って、出来るだけ家畜を買う方法を取りたいんだよ」


僕がそう答えると、ネクジェーは、少し考えてから、また顔を上げて僕の方を見る。


「…………あの、大丈夫なんじゃないでしょうか?

スラムや貧困層の子供達は武器を買うお金が無いので滅多に居ませんが、一般層の子供は、小さい内からハンターになる子が結構居ます。ハンターは、10歳から成れますから。


其れで、ハンターに成り立ての子は、先ずはお肉として売れる魔獣を倒してお金を稼ぐんですが、10歳ちょっとくらいの子でも結構稼いでます。


ルベスタリア王国では、生活法で全員が武術の訓練をしますから、畜産階での作業時には簡単な武装をさせれば問題無いんじゃないでしょうか?」


「…………え?

10歳の子が魔獣を狩るの?」


「はい。

まあ、最初の内はGランクのウィードピッグとかマッドピッグとかからですけど」


「え?Gランク?

魔獣の強さってFランクからじゃないの?」


「ハンターのランクはFランクからですけど、魔獣にはGランクが居ますよ?

所謂、一般人でも倒せる魔獣がGランクです」


「そんな魔獣が居るの?

そんなに弱かったら滅んじゃうんじゃ…………」


「Gランクの魔獣は大体繁殖力が強くて、巣穴にずっと隠れてる魔獣が殆どなので。

さっき言った、ウィードピッグなんて、番いを見つけたらその後は一生巣穴から出ないらしいですよ?

使える魔法が草を生み出す魔法だけらしいんですけど、巣穴の中で、自分でエサを作って食べるだけで、ええっと…………」


「ん?どうかしたの、ネクジェー?」


すらすら説明していたネクジェーが急に言い淀む。

周りのみんなは「ああ〜…」みたいな顔をしているので、アルアックス王国では常識の様な事なんだろうが何も言わない。


「……………………らしいです……」


「え?聞こえなかったんだけど?」


僕が聞き返すと、ネクジェーは大きく深呼吸をして、いつもの澄ました笑顔に戻ると、当然の話しをする様に口を開いた…………


「……ウィードピッグは、エサを食べる事と、子作り以外は何もしないらしいですよ」


そう言って、澄まし顔を強調する…………


なるほど…………

食事、睡眠、子作りのみをする魔獣…………

欲望の究極系の様な魔獣だ…………


そして、極めて安全そうな魔獣でもある。

ただ、子供達の情操教育には良くない気もしなくはないが…………


まあ、多かれ少なかれ家畜を飼うと云うのは、そう云うモノを目撃する訳だから意識し過ぎても仕方ない。


いや、むしろ国民を増やしたい僕にとっては、ウィードピッグを見習って、早く結婚して子供も多く作ってくれた方が寧ろ都合が良いとも言えるな。



「なるほど……

ネクジェー、その案を採用しよう!!

他に安全に飼えそうな魔獣は居るかな?」



その後、幾つかの魔獣の候補が出て、王都に入らないなら、みんなで狩りに行こうと云う事になって、予定していた物資とは別に、子供サイズの装備類なども購入して、一旦、みんなでトレジャノ砦に戻ったのだった………………





トレジャノ砦の在る、トレジャノスピング大森林は、アルアックス王国では危険領域と言われていて、ハンターも殆ど来ず、来ても浅瀬で直ぐに帰る事が出来るところ迄くらいだ。


理由は簡単で、弱いハンターでは命の危険が高いから、強いハンターなら古代遺跡都市 魔都ウニウンに行く方が断然儲かるからだ。



僕にとって、魔獣を狩る場所は殆どがこのトレジャノスピング大森林の奥地だった。

単純に、砦建設の際に襲われる事が多かったからだ。


そして、トレジャノ砦と王都アルアックスとの往復では全くと言って良い程、魔獣との遭遇戦は無かった。

“エアーバイク”で飛んで居たからだ。


なので、僕は魔獣イコール危険だと決めつけていた。


しかし、冷静になって考えれば、普通に肉が売られているのだから、簡単に倒せる魔獣がいっぱい居るのも当然の事だった。



元Aランクハンターのレアストマーセや農村育ちのディティカ、イデティカ、ペアクーレの情報は王都アルアックスに一緒に行っていたメンバーよりも多く、色々な種類の食用魔獣とも言うべき、良く狩られて食べられている魔獣の情報が有った。


その情報を元に、トレジャノスピング大森林の浅瀬とフュンティル荒野、フュンティル砂漠でみんなで狩り大会を行ったのだが…………



「えい!!やった!!」

「……捕まえた!!」

「あ、こっちにも!!」



…………入れ食い状態の大量捕獲となった…………

彼女達は、既にBランクの魔獣すら、1人で倒せる。余裕で倒せる。


そんな彼女達にとって、Eランク以下の魔獣なんて、素手で楽勝過ぎた。

狩り大会は完全なる乱獲と化していた…………


結果、計画を変更して、みんなでルベスタリア王国迄の家畜運びを行って、畜産階だけで無く、予定していた防壁内西部の牧場予定地に牧場を作る事になった。


こうして、第4回南方遠征は早々に終わった。


まあ、狩り大会で優勝したペアクーレへのご褒美は僕にとってもご褒美だったし、みんなで楽しみながら行った牧場作りも良い思い出になった。



そして、6月の半ば、僕達はもう一度、王都アルアックスに着いたのだった…………






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