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箱庭の王様  作者: 山司
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第7章 来春 4

第7章

来春 4





▪️▪️▪️▪️





3月の終盤にワイドラック山脈の雪解けを確認してから、最後の訓練を行った。


その名も、“絶叫登山訓練”だ。


100mの梯子登りから始まって、“エアーバイク”を使った20mジャンプを繰り返して登山して、100mジャンプを繰り返して下山すると云う訓練だ。


其れは其れは心地よい、黄色い絶叫がルベスタリア盆地に響き渡った。


とは言え、みんな厳しい特訓を経て此処まで来ているので、2、3回の往復で慣れ、5回目以降はタイムアタックをする程になっていたが…………




訓練が終わってルベスタリア王国に帰り3日間の休暇を取ってから、今日、ルベスタリア王国暦2年4月22日、第4回南方遠征を決行する事となった。




今回の遠征では、先ずは全員でトレジャノ砦に向かう。


そして、レアストマーセ、ディティカ、イデティカ、ペアクーレ以外のメンバーで、王都アルアックスに行って物資の購入と家畜の購入と移民の選別を行う。


物資、家畜がある程度になったらトレジャノ砦に運び、イデティカとペアクーレにルベスタリア王国迄何度か運んで貰って、移民が10人くらい集まったら、イデティカとペアクーレはその移民と一緒にルベスタリア王国に行き、そのまま残って貰う。


次はティヤーロとリティラのペアがルベスタリア王国との運搬になって、20人くらい集まったら、2人も移民を運んで残って貰う。


その次が、ティニーマ、グレーヴェのペアで、20人。

その次が、サウシーズとネクジェーのペアで、20人。

最後に、レアストマーセとディティカに僕も加わって30人を連れて行く。


順番にも一応意味があって、最初のイデティカは移民に勉強を教えて、ペアクーレはご飯を作る。

学校担当の中で、イデティカを最初に戻すのは、ディティカとの“心の会話”があるからだ。

伝書鳩の魔導具も使うが、万が一の時の緊急用だ。


次のティヤーロには法律指導の為、リティラは人数が増えた事で勉強のペースに差が出るだろうから追加人員だ。


その次のティニーマとグレーヴェも、人数が増えての食事と勉強の追加の為で、その次のサウシーズとネクジェーに関しては、レアストマーセとディティカを最後まで残すので消去法だ。


レアストマーセを最後まで残すのは、トレジャノ砦の周辺が魔獣の巣窟なので念の為で、ディティカはイデティカとの“心の会話”の為だ。




今回の遠征で1番問題なのが家畜の購入だ。

誰もその方法を知らなかったのだ。


僕の住んでいたデラトリ王国では、普通に市場に生きたまま売っていたが、確かにアルアックス王国では見た事が無かった。


これは恐らく、貴族が領地を持つか、持たないかの違いだろうと思われる。

家畜が基本的に王家所有の農場にしか居ないからだ。


アルアックス王国での購入が難しい様なら、アルコーラル商国まで足を伸ばす必要があるかもしれない。



そんな心配をしつつ、僕達は、王都アルアックスに辿り着いた。





王都アルアックスには深夜に入った。

僕の相棒“エアーバイク”“ウィフィー”を含め、計9台の“エアーバイク”が集団で行動していると目立ち過ぎる。


なので、みんなで『ティニーマフーズ商会』倉庫にこっそり入った。

そのまま倉庫でテントを張って一泊してから、先ずは全員で『ティニーマフーズ商会』本店に歩いて向かうと、衝撃の事実が発覚した!!



「ノッド様、本当に此処なんですか?!」

「お母さん!!」


昨夜倉庫に案内した際に、『ティニーマフーズ商会』の名前は伝えていた。

今後、大量に物資を購入する際に、領収書を切って誤魔化して貰う為だ。


去年は、基本的にみんな自分の衣類だったから変な目で見られる程度だったと思うが、今回は食料品なんかも買い込んで貰う事もある。


場合によっては、良からぬ事を企む組織だと思われても困るので、その説明をした。


『ティニーマフーズ商会』の名前を聞いて、ティニーマとティヤーロは爆笑していた。

以前2人がやっていた食堂が“ティニーマフーズ食堂”だったからだ。


そんな2人が今度は『ティニーマフーズ商会』本店を見て驚愕に固まっている。


僕はこの物件を購入した時の不動産屋の話しを思い出して、『まさか………』と思いつつも、「もしかして……」と、2人に話し掛ける。



「此処は私がやっていた食堂です」

「私の生まれ育った家です」


と、未だ驚きつつ2人が答える。

確かに、不動産屋の売り込み話しで、『聞いた事ある様な話しだなぁ〜…』とは思ったけど、まさか本当に2人のお店で、其処に僕が適当に『ティニーマフーズ商会』と付けるなんて…………



「…………本当に運命だったのかもね。2人に出会ったのは」


「「ノッド様ぁ〜……!!」」


ティニーマ、ティヤーロ親子は泣きながら抱き着いて来た。

失った我が家が戻って来た感じなんだろうし、我ながら、『運命』と云う言葉は刺さったんじゃ無いだろうか?


この『ティニーマフーズ商会』本店は、集合場所として使うつもりで、みんなにはホテルに泊まって貰うつもりだったが、ティニーマとティヤーロには王都アルアックスに居る間は好きに泊まって良いと伝えた。


その後、もう1つの集合場所になるグレーヴェの家にみんなで行ってから、其々、ホテルを取りに行って貰った。

グレーヴェとネクジェーの家は良い思い出だけでは無いので、2人が泊まる事は無いだろう。




みんなと分かれて僕は相棒を取りに行ってから、ハンターギルドに向かった。

レアストマーセから、1年以上活動が無いと、資格の失効になると聞いたからだ。


僕がギルドに入ると、受付のおばちゃんが、「あ!!生きてた!!」と、声を上げた…………


僕はまたも注目の的だ…………

このおばちゃんは奥で仕事をした方が良いと思う…………


とりあえず、僕は各種魔獣のツノや牙なんかを納品して、適当な依頼が無いか見て回る。

その間もずっと見られている…………



「生きて居られたんですね。

ノッディード•ルベスタリア様」


そう声を掛けて来たのは、ベアーの様な人と言うか、人の様なベアーと言うか、そんな生き物、ハンターギルド アルアックス支部のギルドマスター ルーゲットさんだ。


周囲では、「ギルドマスターが“様”付け?」「なんか外国の偉い貴族の息子らしいぞ」とか、「え?!娼館の帝王だからじゃないの?」とか聞こえる…………


『久しぶりに見ても、今日も大きいなぁ〜…』と思いつつも僕は普通に答える。



「お久しぶりですね、ルーゲットさん。

僕は死んでると思われていたんですか?」


「申し訳ありません。

ですが、半年以上誰も見掛けていない様だったので…………」


「ん?其れは当然なんじゃないですか?

お金に余裕があったら冬は働かないでしょう?」


「え?」


「え?」


「いや、ハンターは冬でも出来る仕事ですし…………」


「もちろん、ハンターは冬でも出来る仕事ですけど、わざわざ冬に働く必要はないでしょう?」


「…………いや、この話しは此処までにしましょう……」



…………ふっ……。ルーゲットさんが僕の適当な言い訳に折れた。

きっと僕が外国の人間だからか、貴族だからか、両方かで、価値観の違いで受け入れたのだろう。

追求されても面倒だと適当に答えて正解だった。


「其れで、本題なんですが、ある貴族がノッディード様を探されていて、見掛け次第、その貴族の屋敷に来る様にと仰られています」


「ある貴族?

僕はこの国には貴族の友人は居ませんけど?」


「はい、先方もノッディード様をご存知な訳では無い様です」


「だったら、なんで呼んでるんですか?

僕は大使じゃないですし、貴族家の者としてこの国に来ている訳でも無いですけど?」


「申し訳ありません。理由は分かりません…………」


「分かりました。では、いつかご縁が有れば伺いますと伝えて置いて下さい」


「な?!そ、其れは…………」


「おや?もしかして、アルアックス王国では、ハッキリとお断りしないのは失礼に当たりますか?」


「い、いえ、そう云う訳では…………」


「では、その様にお伝え下さい。

因みに、その方のお名前を伺っても?」


「はい。エベオベシティ伯爵閣下です」


「エベオベシティ伯爵ですね。覚えておきます。

じゃあ、僕は何か依頼を受けようと思うので…………」


「はい。其れでは失礼致します……」



そう言って立ち去るルーゲットさんの背中を僕は冷めた目で見ていた…………


エベオベシティ伯爵…………

去年、ディティカ、イデティカ姉妹を追い回している所を僕がブン殴った貴族だ。


どうやら僕に辿り着いたっぽい。

覆面してたのになぁ〜……





▪️▪️▪️▪️





エベオベシティ伯爵に僕が狙われていると聞いた翌日。


昨日の今日で、僕は見た事のある兵士と、見た事の無いゴロツキ達に囲まれていた…………



「見つけたぞ!!ノッディード•ルベスタリア!!

その金髪に金の瞳、間違い無い!!」


「あのぉ〜…。どちら様ですか?」



僕は戯けて聞き返したが、内心は怒りを隠している…………

昨日、エベオベシティ伯爵に狙われていると聞いて、僕はお店に迷惑が掛らない様に娼館に行くのを我慢したのだ!!!!



「私は、エベオベシティ伯爵家に仕える兵士長のゴメスラームだ!!

エベオベシティ伯爵閣下がお呼びだ!!大人しく、私について来い!!」


「エベオベシティ伯爵?

ああ、僕を探しているって云う貴族ですか……


仕方ないですね、良いですよ」


僕がそう云うと、ゴロツキ達が僕の方に手を伸ばして来るので……


「触ったら、斬りますよ?

其方から手を出したって事で……」


そう言って、


キーーン……


と云う澄んだ音と共に腰の刀の鯉口を切る…………



ビクッと、手を引っ込めるゴロツキ達。

僕がAランクのハンターだと云う事は知っている様だ。


「貴様、逆らうのか!!」


「だから、仕方ないからついて行くって言ってるでしょ?

でも、僕に触って良いのは女の子限定なんだよ。

良いからさっさと案内しなよ」


「くっ!!さっさと来い!!」


そう言って兵士が歩き出し始める。

その後ろを僕は“エアーバイク”で付いて行った。


僕はちゃんと悪い貴族に連行される可哀想なハンターに見えているだろうか…………





「貴様がノッディードとか言うヤツか」


問い掛けて来たのは、20代後半くらいのでっぷりした宝石ジャラジャラ男、エベオベシティ伯爵だ。

3人掛けのソファーに座って、露出度の高いドレスを着せられて首輪と鎖で繋がれた少女にお酌をさせている。

このアルアックス王国には建前上は奴隷制度は無い。

まさに建前上はだ。



「そうだよ。

なんだか僕を探してたみたいだけど、何か用?」


「貴様、青い目と髪の双子を知っているか?」


エベオベシティ伯爵は睨む様に僕を見る。

僕の嘘を見破ろうとしている雰囲気でいっぱいだ。


こんなにあからさまじゃあ、貴族として三流も良いところだ。


対策はとっても簡単、嘘を吐かない。

其れだけだ。


「ああ、知ってるよ。

とっても美人な双子でしょ?」


「やはり、貴様か!!あの双子を連れ去ったのは!!」


「連れ去った?

そんな事してないよ。

変な言い掛かりは止めてくれるかな」



僕は連れ去ったりしていない!!

ディティカとイデティカは自分から望んで僕に着いて来たんだから!!



「!!貴様、さっきから偉そうに!!

オレが伯爵だと知らないのか!!」


「知ってるよ?

あれ?僕の事調べてたんじゃないの?

僕は侯爵の息子だよ?

この国じゃないけどね」


「こ、侯爵?!」


エベオベシティ伯爵はガバッと僕を連れて来た兵士を見る。

兵士はしどろもどろしながら、


「た、確かに、ルベスタリアと云う性が有るとは聞いていましたが、そ、その爵位までは……」


と、消え入りそうに答える。



「まあ、家の事は良いよ。

其れで?要件は其れだけ?

なら、もう帰るけど……」


「ま、待て!!

他国の侯爵家の者が、何故、スラム街などをウロウロしているのだ?!

聞いているぞ、毎日のようにスラム街をウロウロしていると!!」


「其れは、施しの為だよ。

この国の貴族は全然そんな事しないみたいだけど、僕の国では普通だよ?

権力者が力無い人々に施しをするのは」


デラトリ王国にもそんな貴族は殆ど居なかったが、我がルベスタリア王国では当然の事だ!!

僕は嘘は言ってない。



「なに?!

何故スラムの住人如きに貴族が施しなどするのだ?!」


「エベオベシティ伯爵はさ、伯爵位で満足してるの?

僕の生まれた国の貴族はみんな向上心が高いんだよね。


だから、いつだって虎視眈々と“事を構えられる”様に準備している」


こっちは『僕の生まれた国』、デラトリ王国の話しだね。

伯爵は、先を促す様に頷いている。


「其処の兵士1人の年間の給料で、一体パンが何個買えるかな?

そのパン1個貰っただけで、ギリギリ生き延びて伯爵に感謝するスラムの住人がどれほど現れると思う?


確かにスラムの住人1人1人は何の戦力にもならないけど、パンを10万個配って、其の内の1%、1,000人のスラムの住人がいざと云う時に“協力して”くれたら其れは十分な戦力だよね?


だから、スラムの住人も貧民も、無下に扱ったりせずに、僅かな施しを繰り返し与えながら、感謝させ続けるのが権力者として当然の行いなんだよ。


伯爵は宝石をいっぱい付けてるけどさ、宝石よりも“侯爵位”の方が価値が有るでしょ?」



僕の言葉に伯爵は悩み始めた…………

上手く言い包められた様だ。


もう良いだろうと、帰ろうとする僕を呼び止めた兵士が聞き捨てならない事を言った。


「じゃあ、僕はこれで失礼するよ……」


「ま、待て!!

伯爵閣下、コイツは黒髪黒目の女を連れ歩いていたと証言が取れています!!

みすみす帰してしまっては!!」


ピクッ?!

『黒髪黒目の女だと?』


僕の雰囲気が僅かに変わったからだろう。

伯爵も兵士の言葉に促されて聞いて来た。


「なに?!

ルベスタリア卿、貴殿は黒髪黒目の片腕の女を知っているのか?」


兵士 ゴメスラームは未だ高圧的だが、エベオベシティ伯爵の方は「ルベスタリア卿」と言って来た。

侯爵の息子効果がやっと出た様だ。


「黒髪黒目の片腕の女?

そんな知り合いは居ないよ?

黒髪黒目は僕の国では珍しくないけど、片腕の知り合いは居ないな」


此れも嘘じゃない。

黒髪黒目の片腕“だった”女なら知っている。

とても良く知っている。


「嘘を言うな!!

黒髪黒目の女がそうそう居る訳が……」


「ああ、なるほど。

キミはアレだ、伯爵に“間違えて僕を連れて来た事”を後で咎められない様に必死なんだね。


でも良いのかい?


もしも、僕に罪を無理矢理押し付けて、その後で、伯爵が本当に探していた人物が現れたら、伯爵に『侯爵の息子を間違いで糾弾した』って云う汚名を着せてしまう事になるよ?


其れはキミ1人の命で賄える程の罪で済むのかな?」


「んな?!」


「其れとキミ達は大いに勘違いしているみたいだけど、僕はこの部屋の人間くらいなら一瞬で、この屋敷の全員くらいなら2、3分で殺せるくらいには強いよ?


僕はキミ達に囲まれたから着いて来たんじゃない。

伯爵の顔を立てて着いて来てあげただけなんだよ。


僕が着いて来たから優位に立った気で居るのかも知れないけど、完全な勘違いだ。

力で僕を捕らえようと思うなら、キマイラを2、30体くらいの戦力が無いと無理だから。


こう云う情報もあったでしょ?

キミ達が信じなかっただけで…………」


昨夜の分のイライラとさっきの分のムカムカで、思わず殺気が出てしまう……

エベオベシティ伯爵も隣の女の子もゴメスラームも他の兵士も、なんだかバケモノでも見るかの様な表情で怯えてしまった……



「じゃあ、今日の事はあくまで伯爵の御誘いだった事にするから。

今度こそ失礼するね」


「あ、ああ。ルベスタリア卿の気遣いに感謝しよう。

おい!!ルベスタリア卿をお送りしろ」



僕は、ゴメスラームとは違う兵士に案内されて、エベオベシティ伯爵邸を後にした。



…………感情が昂ってしまっているのだろう…………

久しぶりに、独り言が漏れてしまう…………



「……エベオベシティ伯爵…………

ディティカとイデティカに関しては未遂だったから許してやろうと思ってたけど…………


黒髪黒目の片腕の女…………


僕の可愛いペアクーレの左腕を切ったのは…………

殺そうとしたのは、アイツだったのか…………


2、3年したら、活動拠点をアルコーラル商国に移そうと思ってたけど、その時には忘れずに、アイツは殺しておこう…………」





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