第7章 来春 1
第7章
来春 1
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11月に入り、とうとう雪が降って来た。
やはり、昨年の10月前半での初雪は特別早かった様だ。
しかし、昨年の雪の積もるペースを考えれば、来年も国外での活動は9月迄にしておくべきだろう。
我が国の誇る10人のS級代理官達も順調に成長している。
各々の専用装備が決まり、其処からは僕も行ったポーションを活用した訓練を行い、一気に成長速度が向上した。
と、言っても僕程では無い。
僕は自分が不老不死なのを良い事に、ポーションをがぶ飲みしながら肉体も追い込みまくった。
キマイラに殺された恐怖と、ディードの物語を読んだ焦りで無茶をしたし、自分が『伝説の勇者』の様に強くなって行くのが楽しかったからだ。
しかし、ポーションの大量摂取は身体に無理が掛かる可能性も、脳に負担が掛かる可能性も大いに有る。
なので、彼女達には、ポーションの濃度をかなり減らして飲んで貰っている。
彼女達の成長が僕程では無いのは其れが理由だ。
其れでもこの1ヶ月ちょっとの訓練で、Aランクの魔獣でも、10人で戦えば多分安全に勝てるだろうくらいには成長している。
もう、暴漢くらいなら平気だろう。
勉強の方も順調だ。
僕のところに来てから勉強を始めた農村育ちの、ディティカ、イデティカ、ペアクーレも読み書き計算、速記と簡単な暗算は出来る様になった。
ポーションの恩恵と彼女達の努力の賜物だ。
ついでに、ハンジーズも文字を読む事と暗算が出来る様になった。
まだ、3歳だ。そして、ハンジーズはポーションを使っていない。
天才かもしれない!!
書く事がまだ上手く出来ないが時間の問題だろう。
こうして、全員の下地が出来たので、今日から最も大切な勉強だ。
「今日からルベスタリア王国の法律を学んで貰う!!
先ずは、最優先される憲法からだ。
憲法とは、この国の原理原則を定める最も優先される法律の事だ。
此れは、今後全国民に丸暗記して貰う訳だが、キミ達には、この憲法を魂に刻み込んで貰う。
次に国民法、この国の法律全般だ。
此れは、あくまで現段階での法律で、今後国民が大量に増えれば、改善や変更もあり得る。
この国民法もキミ達には丸暗記して貰う。
じゃあ先ず、1ページ目の憲法からいこう」
僕がそう言うと、みんなが薄めの本のページを捲る。
表紙に“ルベスタリア王国 法全書”と書かれた、今は未だ薄い、この国の法律を書いた初版本だ。
ーーーールベスタリア王国 法全書ーーーー
第1項
ルベスタリア王国 憲法
ルベスタリア王国 憲法とは、ルベスタリア王国の原理原則を定める最も優先される法律であり、ルベスタリア王国民は1人の例外も無く尊守しなければならない。
第1条
ルベスタリア王国に於いて、国王ノッディード・ルベスタリアの意志及び意見は絶対であり、あらゆる法を超越し全てに優先される。
第2条
全てのルベスタリア王国民は、国王及び国家への叛逆は絶対に赦されない。
計画や行動はおろか発言や思想すら認められない。
第3条
全てのルベスタリア王国民は、国王ノッディード・ルベスタリアに感謝と敬意を常に持ち、王国の発展に尽力しなくてはならない。
第4条
国王代理官は国王の代弁者であり、全てのルベスタリア王国民は其の指示、指導に従わなくてはならない。
第5条
全てのルベスタリア王国民は、国王ノッディード・ルベスタリアの下、王国民以外の身分は存在せず、如何なる地位であろうとも法の下に平等である。
第6条
全てのルベスタリア王国民は、王国民で在る限り、国王ノッディード・ルベスタリアの慈悲を賜わる事が出来る。
第7条
ルベスタリア王国は、如何なる国家や組織による侵略も赦さない。
全てのルベスタリア王国民は此れに立ち向かい殲滅しなくてはならない。
ーーーーーーーーーーー
全員で、声を揃えてルベスタリア王国 憲法を唱和する。
僕が「魂に刻む」なんて大仰な事を言ったので、真剣そのものだ。
「この7条の憲法が、このルベスタリア王国の原理原則、全ての基本だ。
まあ、第1条は僕に従え。
2条は僕に逆らうな、で、3条は僕を敬え。
第4条はキミ達の言う事を聞け。
第5条は僕以外は貴族も権力者も居ないよ、で、6条が困ったら僕が助けてあげるよ。
第7条が敵が来たらみんなで戦争、皆殺しにするよって意味だね。
今後、増えるかもしれないけど、この7条の憲法だけは、揺るがないし変更も無い。
さっきも言ったけど、魂に刻む様に、記憶だけで無く心で覚えて欲しい」
みんなの力強い頷きに、僕も満足して頷き返す。
その後、表情を緩めてニッコリ笑うと、
「でも、この憲法には裏ルールが在る。
此れは絶対に他言無用だよ?
僕は不老不死だから、自分の命よりもキミ達の方が大切だ。
だから、もしもの時には、法律も全部無視して、国も全部犠牲にしてでもキミ達を守る。
何があってもね。
言っておくけど違法じゃないよ?
第1条にある通り、僕の意志と意見は絶対だからね」
と言った。
さっきまでの真剣な雰囲気は一気に弛緩して、嬉しそうにしたり、恥ずかしそうにしたりの桃色空間になった。
もちろん、今の言葉は本当だ。
この2ヶ月余りで、僕は心から彼女達を愛する様になった。
しかし、打算も多分に含んでいる。
“吊り橋効果”とか“ギャップ萌え”とか言われるモノの応用だ。
真剣な雰囲気だからこそ、刺さる甘い言葉も在る。
女性の気持ちを弄んでいると言う勿れ。
僕は不老不死であっても無敵では無い。
彼女達の献身は必要不可欠な要素なのだ。
魔導具を駆使して、警戒しながら生きているが、毒を盛られたり、気絶させられて捕らえられたら、僕は死よりも辛い拷問を永遠に受けてしまう可能性も有るのだから…………
その後も法律の勉強を続けた。
先ずは暗記、其れから意味と理由を理解して貰ってからの、適用の仕方だ。
現在は未だ、週に1回の“勉強の日”だが、新年を迎える前には、全員が立派な法の執行者に育ってくれた…………
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「「「明けましておめでとう御座います!!」」」
「明けましておめでとう。
じゃあ、始めようか…………」
ルベスタリア暦2年1月1日0時0分
この日の為にリメイクして、部屋中ベットの様になった僕の寝室Cに、下着姿の10人の美女、美少女が集まっている。
此れから始まるのは、新年のお祭りと称した、酒池肉林の乱交パーティーだ!!!!
何故、こんな事になっているかと言うと、事の発端は1週間前、12月24日のサウシーズの誕生日パーティーの時だった…………
「まさか、大人になって誕生日をお祝いして貰えるなんて思いませんでした。
ありがとうございます、ノッド様」
「どういたしまして。
そう言えば、アルアックス王国じゃあ、誕生日は子供の頃しか祝わないって前に言ってたもんね」
僕のルベスタリア王国暦は、ティヤーロ達がやって来た9月9日から始まった。
其の直ぐ後に、グレーヴェが9月16日に、ネクジェーが9月23日に誕生日を迎えたのだが、2人は今年成人だったので、9月30日に2人の誕生日と共に成人祝いを兼ねたパーティーを行った。
その後、11月11日にティニーマが誕生日を迎えた。
みんなのお母さんポジションの様なティニーマに対してみんなが何かお礼がしたいと言うので、其々が渾身の料理を手作りして、パーティーを行ったのだ。
其れをきっかけに、みんなの誕生日にはお祝いをする事に決定した。
其処で聞いたのが、アルアックス王国では誕生日を子供の頃しかお祝いしないと云う話しだった。
「そうですね。家庭にもよりますけど、大体5歳くらい迄ですね」
「へぇ〜、そうなんだね。
じゃあ、新年のお祭りとかはどうなの?」
「新年のお祭りですか?」
「アルコーラル商国の立国祭みたいなモノですか?」
サウシーズに限らず、そもそもお祭りが何なのかみんな分かって居ない様だ。
そもそも、アルアックス王国にはお祭りと云うモノ自体が無いのかもしれない。
唯一、元ハンターのレアストマーセがアルアックス王国の隣のアルコーラル商国の情報を知っている程度の様だ。
「アルコーラル商国にはまだ行った事が無いから、同じモノかは分からないけど、お祭りって云うのは、国全体でやるパーティーみたいなモノで、其々、開催する理由によって其れに合わせた催し物をするんだよ」
「立国祭もそんな感じです。
アルコーラル商国の立国記念日に、出店や露店を大通りに出して、商国議事堂前に集まった国民に、上級商国議員達が金を撒くイベントです」
…………なんだろう……
お祭りではありそうだけど、金に群がる亡者の想像しか出来ない…………
「まあ、そんな感じのイベントだよ。
アルアックス王国にはそんなのは無いんだ」
「そうですね。
新年を迎えたら、豊穣の神さまに、お祈りするくらいですね」
「うん、私の村でも、毎年村の御堂に行ってお祈りしてた」
「ルベスタリア王国ではその新年のお祭りがあるんですか?」
「いや、特には決めてないんだけど、僕の前に暮らしてた国では、新年には3日間お祭りが有ったんだよ」
「どんなお祭りが有ったんですか?」
「初日は裸祭りで…………」
「「「裸祭り?!」」」
「ああ、通称ね。通称“裸祭り”、本当の名前は“闘神感謝祭”って言うんだ。
屈強な男性が腰布だけ付けて、街中で体当たりだけで戦って、一度も倒れなかった人だけが、闘神様から更なる強さを与えられるって云うお祭りだよ。
まあ、僕はもっぱら見ているだけで、誰が勝つかの賭けをする方が専門だったけどね」
「街中で…………」
「裸で…………」
「体当たり…………」
「ですか…………」
見た事が無いと、イマイチイメージが出来ないのだろう。
みんな、ポカンとしている。
其処で、ティニーマが、パンッと手を叩いて、『良い事思い付いた!!』と云う顔をした。
このパターンは初めてでは無い。
大体、このティニーマの思い付いた『良い事』は『エロ良い事』だ。
まあ、僕にとっての『良い事』には違い無いが…………
「だったら、今年は私達だけで、“裸祭り”をしましょう!!
だって、“みんなで”ってまだ、無いものね!!」
「え?!」
「それって……」
「みんな?!」
やっぱり、『エロ良い事』だった…………
「お母さん!!」
おっと、娘に怒られている。
しかし、残念ながら、娘ティヤーロでは、母ティニーマには勝てない。
ティニーマは、怒った娘の両手を自分の両手で優しく包む。
慈愛溢れる光景だが、僕は知っている。
アレはティニーマがティヤーロを逃がさない為に行っていると…………
「……ティヤーロ。私達は全てを賭してノッド様に尽くさなくてはいけないわ。
でも、1人1人には限界がある。協力し合わなければ出来ない事もあるわ」
「で、でも、其れと此れとは…………」
「…………あの時もお母さんと一緒だったからこそじゃない?」
「っっ!?!?!?」
声にならない何かを言いつつ、逃げようとするティヤーロ。
しかし、母親の優しく力強く包んだ両手が、逃げる事も真っ赤になった顔を隠す事も許さない。
あの時と云うのは、先月僕が、ティニーマ、ティヤーロ親娘から、親子丼を御馳走になった日の事だ。
場所はティニーマの私室の中の秘密の部屋。
絶対にハンジーズには見せられない、娼館ですらNGな色々な色々が取り揃えられた部屋だ。
其処には、猿ぐつわをされて、凄いテクニックで縛られた娘と凄いテクニックで縛った母が居た…………
まあ、平等がモットーの僕だ。
ちゃんと母の方も僕が縛ったりした。
その後も、色々と色々だった。
其れは確かに、男女2人では不可能な色々だった…………
「分かってくれたみたいで、お母さん嬉しいわ」
…………ティヤーロは、先程から、何も言ってないし、恥ずかしさで真っ赤になり過ぎて、若干涙目だ…………
「じゃあ、新年は、“裸祭り”で、みんなでノッド様に喜んで貰っちゃおう!!」
「「「おお〜〜!!」」」
「「「お、おぉ〜………」」」
ノリノリメンバーと、恥ずかしくても小声で頑張って同意するメンバーが居たが、新年の“裸祭り”が決定した。
もちろん、僕は嬉しい限りだが、僕の意見は何も聞かれる事は無かった…………
あと、ノリノリメンバーのハンジーズ。
キミは不参加だよ…………
と、云う事がありまして、此れから僕は1対10に挑むのだ…………