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箱庭の王様  作者: 山司
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第5章 ルベスタリア国民 5

第5章

ルベスタリア国民 5





▪️▪️▪️▪️





相棒の“ウィーフィー”を走らせる僕の前に突然倒れて来た少女は、意識と左腕が無かった。

相棒から降りて抱き上げると、元左腕である左肩からは今も出血していて、失血で意識を失った様だった。


僕が普段、回っている貧困エリアやスラム街ならば、行き倒れなど日常茶飯事だ。

しかし、此処は一般層エリアから大通りに向かう辺り。


通常なら治安の良い部類の場所だ。

トラブルの匂いがかなりする。


なのに!!

それなのに!!


また、僕の勘が『絶対、助けた方が良いよ!!』と、訴えているのだ!!


今回は、まだ顔を見ていない。

なので、美人だから助けようと云う訳では無い。



…………結局、『ティニーマフーズ商会』本店に連れて帰って助けた…………

だが、まだ止血と体力の回復をしただけだ。


腕を治すかどうかは、事情を聞いてからだ。



…………まあ、きっと助けるだろうけど…………

助けた少女が美少女だったから…………





彼女の名前は、ペアクーレ。

成人したばかりの15歳。


彼女はディティカ、イデティカとは別の農村で生まれて、同じ理由で迫害されていた。


彼女の両親も黒髪でも黒目でも無く、彼女が幼い頃に両親が離婚。

母親は、彼女が7歳の時に自殺して、その後は、父親に放置状態で育てられた。


父親が再婚した後は更に扱いが酷くなり、昨年からの大凶作と彼女が成人した事で、彼女はこの街で1番高く買い取ってくれる娼館に売られた…………


店の名前を聞いて、彼女の状態の意味が分かった。


彼女はヤツれている訳でも無く、体力と云う意味では健康と言える。

服装も汚れてはいるがそれなりだ。

だが、身体中に有るアザを化粧で隠しているのだ。

そして、失われた左腕…………


彼女が売られた店は、貴族御用達の何をヤっても良い娼館だ。

娼婦が例えどうなろうとも、店で処理してくれる娼館だった。


そして、今日やって来た凄まじく機嫌の悪い貴族は、彼女を散々殴った挙げ句、剣を抜いた。

逃げ惑う彼女に振り下ろされた剣が、彼女の左腕を奪った。


このままでは絶対に殺されると思った彼女は、一か八かで、3階の窓を破って飛び降り、何とか一命を取り留めたが、逃げる途中で意識を失った…………



僕が出会ったのは、そんなタイミングだった…………





ベットで身体を起こしたペアクーレは、目を覚ましてからも、話し終わっても、まるで感情が欠落しているかの様に、虚なままだ…………


しかし、僕が腕を僅かに動かしただけで、身体をビクッと震わせ、手を伸ばすと、全身を強張らせた。


僕は彼女が少しでも怯えない様に、ゆっくりと頭に触れて、出来るだけゆっくりと撫でながら、


「今迄、よく頑張ったね…………

もう、安心だ。此れからは、僕が居る…………」


と、言った…………


ペアクーレは、ゆっくりと僕の方を見た…………

そして、自分が何をされているか確かめる様に、残った右手で、ゆっくりと頭を撫でる僕の手を握った…………

虚ろだった瞳がだんだんと涙に濡れて行く…………

感情を失った様な表情が徐々に徐々に歪んで行き、ペアクーレは大声で泣き出した…………

ベットに膝を着いて彼女を抱き寄せて、そのまま、ゆっくりと彼女が泣き止む迄、頭を撫で続けた…………





▪️▪️▪️▪️





ペアクーレが落ち着いた様だったので、僕は、「食事を取って来るよ」と言って立ち上がろうとした。

しかし、彼女が「行かないで」と、裾を引っ張って来た。


死に直面した所為で、情緒不安定になり、少し幼児退行してしまっているのかもしれない。


仕方がないので彼女をお姫様抱っこで抱えて、1階の店舗に連れて行き、彼女をカウンターに座らせてから、店舗調理場で料理を始めた。


本当は、僕の荷物から適当に保存食料でも持って来ようかと思っていたのだが、荷物の有る部屋には幾つも武器が有る。今の彼女に剣を見せるのは不味いので、料理をする事にした。



出来た料理はまあまあだったが、ペアクーレは何度も「美味しい、美味しい」と言って食べていた。


やはり、右手しか無い所為で食べ難かったのだろう。

頬に少しソースが付いてしまっていたので拭ってあげると、満面の笑顔で、抱き付いて来た。


本当に少し幼児退行してしまっている様で、その後、風呂も一緒に入りたがり、トイレすら扉の前で待たされた。

もちろん眠るのも同じベットに寝た。


ペアクーレの胸はかなり大きい方だ。

其れをベットの上で押し当てられたまま眠るのは、結構な苦行だった…………





翌朝、目を覚ますと、僕を覗き込むペアクーレと目が合って、昨夜の苦行を思い出した…………


その後、顔を洗って、歯を磨き、朝食を作って食べた。

もちろん、ペアクーレはずっと僕の裾を持って着いて来た。



僕は少し悩んだが、彼女に今後について話す事にした。


今の状態的にも、彼女の状況的にも、もう今更、彼女を放り出す事は出来ない。

しかし、今のままでは、僕の望む教育係候補としては扱えない。


昨日の今日で、少し厳しいかもしれないが、戦力としてカウント出来るかどうかを見極める必要があるからだ。


寝室のテーブルに向かい合い、僕は話しを切り出した…………



「ペアクーレ。今から今後の話しをする。

ペアクーレ、キミには2つの選択肢がある。


僕に絶対の忠誠を誓って僕に一生尽くすか、それとも、僕の元で普通に働いて暮らすかだ」


「……絶対の、忠、誠……。絶対、服従…………」


テーブルに置かれたペアクーレの右手が、ガタガタと震え出す。

でも、僕は、ゆっくりと震える手を両手で優しく包み、話しを続けた。


「確かにそうだ。

でも、僕はペアクーレを傷付ける事も、苦しめる事も、ペアクーレが嫌がる事もしない。絶対にしない。


ただ、キミが僕を裏切る事無く、年老いて死ぬまで僕の為に尽くしてくれるかどうかだ。


でも、もしキミが普通に働いて暮らす事を選択しても、僕はキミを見捨てたりはしない。

ちゃんとキミを見守るつもりだ」


「…………絶対服従しないと、一緒に居られない?」


「一緒に暮らす事は出来ないけど、ちゃんとキミの様子を時々見に行くから心配しなくて良いよ」


「イヤ!!ずっと一緒に居たい!!

絶対服従する!!私、ノッドの為なら何でもする!!

痛い事も!!苦しい事も!!何でもする!!

だから、一緒に居たい!!」


「…………ペアクーレ、キミの気持ちは分かった。

ただ、僕の状況がキミの望むモノじゃ無いかもしれないから、最後まで聞いて欲しい。


先ず、僕は結構忙しい。

だから、常に一緒に居る事は出来ないし、毎日必ず会うと云う事も出来ない。

場合によっては何ヶ月も留守にする事もある。


其れでも大丈夫かい?」


「……絶対に帰って来てくれる?」


「ああ、それは約束する。

たとえ長期間出掛ける事があっても、僕は絶対にペアクーレのところに帰って来るよ」


「うん……」


「其れともう1つ。

僕には既に4人、お嫁さんの様な人が居る。

そして、此れからも、もっと増える。


キミが僕を独占する事は出来ないし、僕はキミ1人だけを特別扱いは出来ない。

其れでも大丈夫?」


「大丈夫。5番目でも10番目でも良い。一緒に居させて欲しい」



こうして話したのは良かった。

情緒不安定な感じも幼児退行も少し治まった雰囲気だ。

僕への依存もちゃんと自分の意志が有る感じだ。


…………とても、都合が良い。

ペアクーレに関しては、ルベスタリア王国に戻ってからの、“僕しかいない”と刷り込む必要が無さそうだ。


そんな、ちょっと悪い事を思いながら、



「じゃあ、此れからペアクーレの身体を治療するからベットに横になって少し待ってて」


僕はペアクーレの答えを待たずに部屋を出て、怪我回復ポーションと体力回復ポーションを持って戻った。



…………ペアクーレは何かのプレイと勘違いしたのかもしれない。

ベットの横の床には、ペアクーレの着ていた服が畳まれていて、ご丁寧に下着はその上に置かれている…………


しかし、右腕だけでシーツで隠しながら、自身の左腕を、左腕が有ったところを見ながら悲しそうにしていた…………


「ごめんなさい…………

やっぱり、こんな身体の私なんて…………」


「ペアクーレ、安心して良い。

キミの左腕もあちこちのアザも綺麗に治るから。

先ずは此れを飲んで」


不安な表情のまま、受け取ったポーションを飲む…………


いつもながら、本当に凄い効き目だ。

ペアクーレの腕はどんどんと肉が盛り上がって行って、骨が伸びて行く。


その光景に、ペアクーレは目を見開いて驚愕している。

十数秒続いた復活劇の間、一言も発さず、微動だにしなかったペアクーレは、恐る恐る、治った左手を握り、開き、また握って、また開く。腕を曲げて、伸ばして、また曲げて、また伸ばすと、ガバッと顔を上げて、大粒の涙を流しながら、戻った左腕の力を確認する様に、覗き込んでいた僕の頭を抱き締めた…………


生のアレを顔に押し当てられながらも我慢しなければならない状況は、今年デビューしたての僕には拷問にも等しかった…………





▪️▪️▪️▪️





拷問の様な苦行に耐えて、体力回復ポーションも無事に飲ませてから、僕はペアクーレを連れて買い物に向かった。


今夜には、トレジャノ砦に戻ろうと思っている。

きっと、みんな心配していると思う。


まあ、本音を言うと、ペアクーレには悪いが、さっさとトレジャノ砦に連れて行かないと、このまま彼女と一緒に寝泊まりしていると我慢の限界が来そうだからだ。

ルベスタリア王国に戻る迄は誰とも致さない計画なのだ。



そんな訳で、毎回恒例になりつつある、大量の衣類を購入して、大量の化粧品を購入して、変装用のカツラと伊達メガネを購入して、仮眠をとってから出発した。


今回も、相棒の“ウィフィー”には荷台を連結している。

食料の追加と頼んでおいたレアストマーセの衣類が有るからだ。

因みに、レアストマーセの下着を受け取って帰る時は大量の紙袋を持って女性用下着店から出て来る僕に、世界中の視線が集まっている気分だった…………



トレジャノ砦に戻ると、全員が出迎えてくれた。

なんだか、みんな涙目で、ちょっと心配させ過ぎたと反省した。


新たに加わっていた、レアストマーセ、ディティカ、イデティカの3人も完全に打ち解けている様で安心した。


本当はレアストマーセの体格や、ディティカ、イデティカが村育ちな事とかで、変な偏見とかが起こらないか少しだけ心配していたのだが嬉しい事に杞憂だったようだ。



本当は、直ぐに王都アルアックスに戻って、娼館に…………ではなく、残り2人を探しに行きたかったが、みんながかなり心配していたので、3日ほど色々話したり、剣の特訓の成果や畑の様子を見ながら一緒に過ごした。


其れと、ペアクーレがやはり剣を怖がったので、僕が一緒に着いて、「自分を守る為」とか、「僕を守る為」とか色々言ってやる気を出させて訓練させた所、なんと彼女は天才レベルの剣の才能があったのだ。


もしかして、僕に剣術を教える才能が有るのかと思って他の娘にも教えたが、ペアクーレの才能だと判明した。



なので、剣術訓練に於いて僕の仕事はみんなを褒める事と、先生役のレアストマーセを労う事だった…………



そんな日々を過ごして、僕はまた移民選抜に向かった。

到着と同時に娼館に駆け込んだが、あんなに魅力的な女性達に囲まれて、耐えていた僕の精神力は神クラスと言えるだろう!!





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