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箱庭の王様  作者: 山司
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第5章 ルベスタリア国民 4

第5章

ルベスタリア国民 4






▪️▪️▪️▪️





レアストマーセとの決闘の翌朝、例によって娼館を出た僕は、例によって貧困エリアとスラム街を散策していた。

そして、双子っぽい女性2人組が、貴族っぽい身なりの男に絡まれてるっぽいところに遭遇した。


双子っぽいと云うのは、見た目瓜二つだったからだ。

この国では初めて見た、深い蒼の瞳と髪、10代後半くらいの線の細い儚げな美人姉妹だ。


貴族っぽい男は、“エアーバイク”に跨った20代後半くらいのでっぷりとした男で、全身宝石だらけだ。

2人の兵士っぽい格好のヤツらと、5人のゴロツキっぽいヤツらを連れている。



雰囲気的には、逃げて来た女性2人を此処で追い詰めて囲んだ様に見える。



正直言って、迷う。


僕の勘が助けた方が良いと言っている。

でも、此れは2人が美人だからそう思った可能性も否定し切れない。


そして、冷静に考えるなら、貴族と関わらないに越した事は無い。

此れは元侯爵家次男としての教訓だ。

特に此処、アルアックス王国は、僕の住んでいたデラトリ王国よりもよっぽど貴族の質が悪い。



…………迷ったけど、やっぱり助ける事にした。



僕は相棒を建物の陰に隠して、刀と胸当て、コートを仕舞うと予備のローブを羽織って、予備の服を顔に巻いて覆面にしてから、通りに戻った。


女性達は既に絶体絶命のシーンの様に、壁際に追い込まれて尻もちをついて荷物を振り回して抵抗していた。

其処を5人のゴロツキっぽいヤツらがナイフを片手に迫っている。



僕は一気に駆け出して、先ずは後ろに立つ貴族っぽいヤツの後頭部を殴りつけた!!

吹っ飛んだ貴族っぽいヤツは、前にいたゴロツキっぽいヤツのケツに顔面から突っ込んで、ズルズル地面に落ちて気絶した。


貴族っぽいヤツの顔面がケツに突っ込んで来たゴロツキが、「うわ?!なんだ?!」と、声を上げた事で全員がコッチを向く。


「貴様、何者だ?!」と言いながら剣に手を掛ける左右の兵士っぽいヤツらの顎を左右の掌底で続け様に突き上げ、此方も意識を奪う。


そして、ナイフを向けて来るゴロツキっぽいヤツらの鳩尾、顎、コメカミを次々に殴って全員を立ち所に気絶させた。



「ふぅ〜〜……

2人とも着いて来るなら、一旦匿うけど?」


そう言って、両手を出す。

2人はお互いに一度頷いてから、僕の差し出した手を取って立ち上がった…………



その後、僕は“ウィフィー”の荷台に2人を乗せて、『ティニーマフーズ商会』本店へと向かった。

『……考えてみれば、良くこんな怪しい覆面男に着いて来たな……』と相棒を運転しながら思ったが、その理由はこの後知る事になった…………





▪️▪️▪️▪️





『ティニーマフーズ商会』本店。

現在も準備中風の店舗部分のテーブルと椅子を引っ張り出して、先程助けた美人双子姉妹と向かい合う。


「……先ず、僕はノッド。此処は今準備中の僕のお店だから、とりあえずは安心していいよ」


僕はそう言いながら、顔に巻いた服を取る。

2人は揃って頭を下げてから挨拶を返して来た。


「助けて頂いてありがとうございます。私は姉のディティカと言います」


「私は妹のイデティカです。助けて頂いてありがとうございます。

でも、大丈夫なのでしょうか、貴族様にあんな事をしても…………」


「まあ、ヤったのは僕だし、覆面してたから大丈夫じゃないかな?

ところで、事情を説明してくれる?」


「はい。実は3日前……」


「あ、ごめん。出来れば、生い立ちとかの事情から話してくれる?

話せる範囲で良いから」


「あ、はい。では…………」





ディティカ、イデティカ姉妹は、王都アルアックスの周囲に在る農村の生まれだった。


王都周辺の農村は僕の予想通り、王家の直轄農場で、裕福と迄は言わないが、そこそこの生活らしい。

100人程の小さな村なので、全員が知り合いで、2人の両親も小さい頃から一緒に育った幼馴染だったそうだ。


両親が結婚して、程なく2人が生まれた。

しかし、生まれて来た双子は、両親の何方とも違う、蒼髪、蒼眼だった。


父親は母親の不貞を疑い、どれほど母親が訴えても信じてくれず、2人が幼い内に離婚したそうだ。

母親は正に村八分状態となり、肩身の狭い思いをしながら2人を育てた。

ただ、育てたと言っても、最低限の食事を与えるだけで、全く愛情の無い家庭だった。

母親は、二言目には、「あんた達のせいで!!」と言っては、2人に平手を浴びせていたらしい。


そんな2人には生まれながらに2つの不思議な力があるらしい。


1つは、どんなに離れていても、お互いに心の中で会話が出来ると云うモノ。

もう1つは、第六感とも云える様な異常に鋭い感覚だ。

不意に身の危険を感じたり、嘘が何となく分かったり、きっとこうなると思った事が当たったりするらしい。


この2つの不思議な力で、酒に酔った母親から、時には包丁を隠し、時にはロープを捨てて、何とか決定的な事態を避けて生きて来たそうだ。


しかし、どうしようも無い事態が発生してしまった。

2人が成人した昨年から、村が大凶作となってしまったのだ。


原因は、昨年の大雪の所為だが、村人達は、蒼髪蒼眼の2人が成人した所為だと言い出した。

そして、2人を豊穣の神への生け贄にすると言い出したのだ。

更に、其れに2人の母親迄が賛成した。


2人は、意を決して村から逃げ出した。


そして、4日前に此処、王都アルアックスに辿り着いた…………



村で厄介者だった2人は、幼い頃から働いていても殆ど収入は無く、持って来れたお金もほんの僅か。

出来るだけ安い宿を探して一夜を過ごし、仕事を探そうと街へ出た3日前、エベオベシティ伯爵と名乗る貴族に偶然出会ってしまった。


2人の第六感が、『絶対にこの人に着いて行ってはいけない!!』と強く警鐘して、2人は直ぐに逃げ出した。

その日は、今日居た2人の兵士しか連れておらず、何とか逃げ出す事が出来た。


しかし、翌朝、泊まっていた宿をエベオベシティ伯爵に嗅ぎつけられた。

またも、第六感で裏口から何とか逃げる事が出来たが、もう宿にも泊まれない。


昨夜は、廃屋でこっそりと眠ったそうだ。


そして、今日、エベオベシティ伯爵はゴロツキ達を引き連れて2人を探し回り、追い回し、とうとう囲まれてしまったところに僕が出くわしたそうだ。


僕が僅かに目に入った瞬間、2人は『この人がきっと助けてくれる!!』と感じたらしく、其れを信じて最後まで抵抗して、僕にすんなり着いて来たと云う事だった…………





僕は、『やっぱり助けて正解だったかな』と、思いながら、「そうか………」と呟いた。



「2人とも、僕に着いて来るかい?

僕に着いて来れば、謂れのない差別や理不尽の無い生活を約束するよ。


但し、裏切りは許さない。

僕に絶対の忠誠を誓って、生涯尽くす事が条件だ。


一応言っておくけど、あのデブ伯爵みたいな下衆な意味で言ってるんじゃなくて、忠実な配下って意味だから。


まあ、2人がそう云うのもイヤじゃ無ければ、僕はウェルカムだけどね」



僕の言葉に2人は十数秒くらい見詰めあっていた。

恐らく心の中の会話とやらをしているのだろう。


そして、頷き合うと、


「「私達を連れて行って下さい!!」」


と、声を揃えて言った…………






▪️▪️▪️▪️





「「私達を連れて行って下さい!!」」


ディティカ、イデティカ姉妹の力強い返事に僕は満足しながら、


「分かった。此れから頼むね」


と、応えた。すると、


「「そ、其れと!!…………」」


と、また声を揃えたかと思うと、


「イデティカ、お願い!!」

「ディティカがお姉ちゃんなんだから、言ってよ!!」


「一緒に生まれたんだから、お姉ちゃんも妹も無いでしょ!!」

「いっつも自分から姉だって名乗るじゃない!!」


「…………いいわ、一緒に揃えて言いましょ?」

「そうね、其れだったら…………」


と、揉め出した。

なんだか、纏まった様で、2人とも大きく深呼吸をすると、クワっと目を見開いて、先程よりも更に強い目力で、


「「まだ、恥ずかしいですけど、心の準備が出来たら、そう云うのもイヤじゃ無いです!!」」


と、大きな声を揃えて言った…………


「う、うん。じゃあ、心の準備が出来たら教えてくれるかな?」


と、ちょっと気圧されてしまった…………





ディティカ、イデティカ姉妹を『ティニーマフーズ商会』本店に残して、レアストマーセの家に向かった。

残念ながら留守だったので、後で来ると置き手紙を残して、少し買い物に行った。

購入したのは2人の変装セット。フード付きの長いローブと燻んだ金髪のカツラだ。


買い物を済ませるとレアストマーセも戻って来ていたので一緒に『ティニーマフーズ商会』本店に向かった。


中に入って、ディティカとイデティカを紹介すると、さっき迄、スキップしそうな程嬉しそうだったレアストマーセが、膝から崩れ落ちた。


「やっぱり、私なんて……」「やっぱり、若くて美人の方が……」と項垂れてしまった…………


僕は、レアストマーセの頭を抱き寄せて撫でながら、「レアストマーセもちゃんと可愛いよ。だから、自信を持って。僕はレアストマーセもちゃんと大切にするから」と言って宥めた。


レアストマーセが落ち着く迄、少し時間が掛かったけど、レアストマーセのリアクションでディティカ、イデティカ姉妹が呆気に取られて無言になっていたので、逆に、その後のトレジャノ砦の女性陣の説明がすんなり行ったので、まあ、良いだろう。


声を揃えて、「「絶倫と云うヤツですか……」」と、言っていたがスルーした。


そんな訳で、自己紹介と簡単な説明を済ませて、双子の変装セットを渡して、レアストマーセには、家の売却手続きの合間に、2人の衣類や必要なモノを揃えるのに付き合って貰う様にお願いした。



その後、『合流日迄に後3人見つからないかなぁ〜…』と、思っていたが、残念ながら其処迄都合良くは行かなかった。


そして、合流日の深夜、相棒の“ウィフィー”に、持って来ていた荷台を2つ連結して、山の様な荷物と3人の女性を連れて、トレジャノ砦へと戻ったのだった…………






荷物も多く、3人も乗せていたのでいつもよりも安全運転で、砦に着いたのは昼前だった。

戻ってみると、ハンジーズを含めた5人はとても仲良くなっていて、少し情緒不安定気味だったリティラも笑顔で出迎えてくれた。


連れて帰った3人を交えて簡単な自己紹介を行なってから、レアストマーセにはみんなに剣の指導をお願いして、ティニーマには、ディティカとイデティカに読み書き計算を教えてあげる様にお願いした。

ディティカとイデティカは農村育ちの為、読み書きや計算を習った事が無かったのだ。



僕はそれぞれに色々と伝えてから翌日にはまた王都アルアックスに戻った。


みんなには言わなかったが、エベオベシティ伯爵と揉めた事でトラブルになったら困るので、早めに残り3人の移民を選びたかったのだ。




しかし、今度は難航した。

2週間、何の出会いも無かったのだ。


みんなを心配させない為にも、一旦トレジャノ砦に戻ろうかと考えていた、ちょうど、その時。


僕の目の前に、黒髪ショートの少女が倒れ込んで来た…………




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