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箱庭の王様  作者: 山司
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第4章 親娘 3

第4章

親娘 3





▪️▪️▪️▪️






横たわるティニーマさんの服をハサミで切って行き全て脱がせる。


そして、麻酔薬を飲ませて、先ずはティニーマさんの足から確認して行く。


膝迄は完全に黒く腐ってしまっているのは見て分かるが、其処から先は分からない。

太ももをゆっくりと押さえながら、指先の感覚に集中する。


皮膚の感触、骨の感触、何処まで正常で、何処から腐ってしまっているのか…………


残念ながら、太ももの半ばから感触が違う、恐らく骨は此処まで腐っているのだろう。

僕は太ももの半ばにペンで線を引くと、反対の足を触り始めた。


僕が太ももに線を引いた事で、“此処から斬る”と分かったのだろう。

ティヤーロは泣き出しそうな顔をしたが、直ぐに首を振って、再度ティニーマさんの身体を真剣に拭きだした。



足の後は、手、腕、腹、胸、首、頭と確認して行く。

幸い、頭や身体は大丈夫だったが、残念ながら、両足と共に、左手の人差し指と中指も腐ってしまっていた。


僕がその2本の指にも線を引いた事でティヤーロも察したのだろう。

僕の方を見て無言で頷いた。




「…………行くよ……

“ウォータースライサーソード”、アクセラレーション!!」


僕は先ず、左手の人差し指と中指に、透明な水の膜に覆われた剣を突き立て斬り落とす。

続いて間髪入れずに剣を振り上げて、左足も斬り落とす。

そのまま、斬り上げる様に右足も斬り飛ばした。


僕の剣閂は、ペンで引かれた線の上を1mmも違わず斬り裂いた。



「ティヤーロ!!」


僕の声にハッとして、直ぐに頷いたティヤーロは、手に持って構えていた怪我回復ポーションをティニーマさんに飲ませる。


しかし、やはり麻酔で意識が無いせいか、殆ど口の中に入らず、溢れて行く。


「ティヤーロ、首を持ち上げて、もう1本だ」


そう言いながら、僕は剣を鞘に納めて、止血薬をティニーマさんの手足の切断面に降り掛ける。

壊死した部分を床へと払い退けて、僕もティヤーロの隣に行くと、今度は半分以上は飲ませる事が出来ていた。


僕が3本目の怪我回復ポーションをティヤーロに手渡して、ティヤーロが飲ませ始めた時に、変化が起きた。


1mmの歪みも無い完全な平面だった足の切断面がボコボコと肉が盛り上がり、骨が伸びて来た。

左手の指は既に元に戻っていた。


足がどんどん戻って行くのを、ティヤーロは目を見開いて見ていたが、そうこうする内に3本目はほぼ完全に飲めている様だ。



「良し!!ティヤーロ、今度はこっちだ。

大丈夫、ティニーマさんは助かる、落ち着いて飲ませるんだ」


続いて、体力回復ポーションを手渡すと、体力回復ポーションは殆ど溢す事なく飲ませる事が出来た。


僕はゆっくりと、ティニーマさんの口元胸に手を当てて、呼吸と心音を確かめる。


顔を上げた僕を、不安と期待の入り混じった顔で見つめて来るティヤーロ。

そんなティヤーロに僕は笑顔で、ゆっくりと頷いた。


大声で泣きながら僕にしがみ付くティヤーロの頭をゆっくりと撫でて、


「もう、大丈夫だ。ティヤーロも良く頑張ったね……」


と、耳元で囁いた。


更に大きくなった泣き声を聞きながら、ティヤーロが落ち着くまで、何度も頭を撫でた…………





▪️▪️▪️▪️





泣き疲れて、そのまま眠ってしまったティヤーロをティニーマさんの横に寝かせて、僕は食事を作った。と、言っても、オーブンレンジの魔導具で温めるだけで食べられるモノだが。


今回の第3回南方遠征は、ルベスタリア王国に10人くらい連れて帰るつもりで来たので、10人が3ヶ月くらい食べる程しか食料を持って来ていない。携帯食料は念の為、1万食くらいあるが、あれは美味しくない。


其れとは別に、砦建設の時に襲い掛かって来た魔獣の肉も有るが、肉だけだ。



「…………肉だけはたっぷり有るから、保存の効く調味料なんかはアルアックスの王都で買い込んどこうかなぁ〜……

野菜はどうしよっかなぁ〜……


此処は一時的に使う場所だし、あんまり充実させちゃうと乗っ取られても嫌だしなぁ〜……


でも、当分の間は使うよなぁ〜……2、300年くらい?」



ルベスタリア王国は、他国と貿易を行う予定は無い。

基本的に、国内で全て完結して、自給自足で事足りる国にするつもりだ。


ハッキリ言ってメリットが無いからだ。


欲しい物が有れば、僕が旅行がてら買って来れば良い。

別に大した事をしなくても、今回のアルアックス王国への訪問時の様に、ちょっとした元手と、カジノさえ有れば、欲しい物は殆ど手に入る。



逆にデメリットは有る。


魔物の脅威が全く無く魔導具を生み出す事の出来る僕の国は、世界中から狙われる事が目に見えている。

間違い無く、友好では無く、戦争を選択する国が現れるだろう。


特に、隣国と言えるアルアックス王国なんて、絶対にして来そうだ。



だから、ルベスタリア王国の存在自体を秘匿したい。



現状、トレジャノスピング大森林とワイドラック山脈を越えようとする人は居ない様だが、将来的には分からない。

特に、この砦の魔導具の数々が見つかったら、もっと北には更なる宝が有ると思われるのも困る。

此処を充実させればさせるだけ、その可能性を上げてしまうのだ。



今年は10人だが、来年は100人の移民を目標にしている。

そうなれば、食料を確保するのも一苦労だ。

砦の広さ的には100人の滞在は十分にしてあるが、食料は、現状は其処迄多く無い。


かと言って、此処に畑を作っても管理する人間をこの砦に住まわせる訳にも行かない。

楽に買い物に行ける様に道なんて作ったら本末転倒だ。



「うぅ……ん…………

畑作りの魔導具で敷地内を一回耕して、芋でも植えて放置してみようか…………」



完全なる一人暮らしの所為で、癖になってしまっている、独り言を思わず呟いた時だった。

僕のその声でかどうかは分からないが、ティニーマさんがゆっくりと目を開いた。


起き上がろうとするティニーマさんを手で制して、「そのままで良いですよ」と、言ってから、体温、脈、心拍を確認した。



「良かった。無事に回復したみたいですね。

どうですか?痛い所は無いですか?」


「はい、全く有りません。嘘みたいに、何処も痛く有りません。

本当に、本当にありがとうございます。何とお礼を言えばいいか…………」


「…………そうですね。

ティヤーロが眠っているのは丁度良いですから、ティヤーロと話した報酬の事を説明しましょうか…………」



そうして、僕はティニーマさんにティヤーロとの出会いからの事を簡単に説明して、ティヤーロが僕と行った契約について話した。

僕が話す間、ティニーマさんは目に涙を溜めながらも黙って聞いていた。



「…………と、云う訳です。

なので、ティニーマさんにも2つの選択肢が有ります。


ティヤーロとは離れ離れになりますが、アルアックス王国での生活に戻るか、僕に絶対の忠誠を持って着いて来るか」


ティニーマさんは、目を閉じると、自分の考えを纏めているかの様に、シーツで隠しながらゆっくりと身体を起こした。

そして、先程とは違った潤んだ瞳で僕を見つめて、


「……あの……

ノッド様は、お若いですし、こんなガリガリなオバさんでも良いんですか?」


と、まるで少女の様に恥ずかしそうに聞いてきた。


僕はドキッとした!!


正直言って、ティニーマさんは、長く毒に侵されて、本人の言う様にガリガリでボロボロだ。

女性として魅力的かと言うと全く違う身体つきだ。


しかし、見つめられた潤んだ瞳は、とても魅力的だった。

視線を外す事が出来ない程に…………



今回の第3回南方遠征では、10人の移民を考えている。

その10人は、教育係候補者だ。


選考基準の第1位は、僕への忠誠心を植え付ける事が出来るかどうか。

極論、此れが出来るなら、他の事は全て二の次だ。


ティヤーロに関しては、母親の病気を治す事で此れが非常に高いレベルで行えるだろうと思ったから選んだ。

ついでに、第2位条件の女性で有る事もクリアしている。


しかし、第3位の可愛いかどうかは微妙だ。

此れは僕が悪いのだが、そもそも貧困層やスラムの住人は、みんな痩せ細っていて健康状態も衛生状態もだいたい悪い。

そんな場所には可愛い女の子が殆ど居なくて当然だ。

磨けば光る子は居るのかもしれないが、残念ながら僕にはそこまで見る目が無い。



そんな訳で、僕はティヤーロに関しては、僕の相手として選んだ訳では無かった。

もちろん、ティニーマさんも同様だ。

母親の病気を治してくれた恩人か、自分の病気を治してくれた恩人かの違いでしかない。



でも、ティニーマさんは、僕がティヤーロを愛人として手に入れようとしていて、自分自身も同様に考えているのだろう。

その上で、こんな瞳で見詰められるとは…………



良いと思う!!凄く良いと思う!!



なので、僕はゆっくりとティニーマの頭に手を回して口付けた…………

ティニーマは一瞬驚いた様だったが、そのまま、僕に身を預けて来た…………



本当は僕が国民を募っていると、云う事を伝えるのは、もう少し後にしようと思った…………






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