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箱庭の王様  作者: 山司
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第4章 親娘 2

第4章

親娘 2





▪️▪️▪️▪️





「…………なんか、いきなりAランクハンターになってしまった…………

まさか、めちゃくちゃ注目されたりしないよな…………」


ハンターギルドから出て、中途半端に時間が出来たので、少し早いがランチにした。

その後、再度ハンターギルドに行って、ギルドマスター ルーゲットさんから直接ハンターギルド証明を受け取って、今は夕方迄の時間潰し兼人材発掘の為にスラム街を相棒でゆっくり走っている。


“エアーバイク”に乗っているイコール“金持ち”なので、時折、縋り付いて来ようとする者もいるが、ダメだ。


今回の人材は教育係候補なので、特に厳し目の人選をするつもりだが、其れ以前に、他人を蹴落としてでも自分だけは恵んで貰おうとするヤツらばかりだからだ。


結局、その日は大した収穫も無いまま夕方になったので、資産運用、つまりギャンブルの為、カジノに向かった。




僕はギャンブルがめっぽう強い。

其れは其れは、めっぽう強い。


250万アル程だった軍資金は、日付けが変わる頃には、2億2,000万アル程になり、昨夜同様に、オプション増し増しで宿泊した。


当分お金は問題無いので、翌日からはスラム街や貧困エリアをウロウロしては、娼館で宿泊する日々を過ごすこと4日目…………





「お願いします!!お金はいつか必ず払います!!

お母さんを助けて下さい!!お願いします!!」


「いい加減にしろ!!此処はお前みたいな小汚いヤツの来るところじゃない!!

お前なんかじゃ、100年掛かっても買えない様な薬しか取り扱ってないんだよ!!」


ドカッ!!


「きゃあ!!」


男が少女を蹴りつける。

少女は蹴られた腹を押さえながら、尚も男の足に縋り付く。


「お願いします!!何でもします!!

どんな事をしてでも必ず払います!!だから、お母さんを……」


「うるせぇって言ってんだろうが!!営業妨害で、憲兵を呼ぶぞ!!」


男は縋り付いて来る少女を何度も蹴って、引き剥がそうとする。

高圧的だった男も少女の余りのしつこさに、寧ろ助けを求めている様だ。


そんな状況が目に入った…………


「…………アレだな。僕が求めていたのは、あの目だ」



何年もずっと着ている様なボロボロに傷んだワンピースを着たガリガリに頬の痩けた少女だった。

ボサボサに傷んだ燻んだ金髪に今にも折れそうな程に細い腕…………


しかし、エメラルドグリーンのその瞳の、形振り構わず母親を救おうとする強い意志の光だけが輝いていた。



「…………キミ、ちょっと良い?」


僕はそう言って、少女の肩を掴んで男の足から引き剥がした。


「!!あの!!ごめんなさい!!

私、お母さんの病気を治したくて、其れで!!」


「ああ、僕は憲兵じゃないよ、ハンターだ。

だけど、仕事柄、少しだけ医療と薬の知識が有る。


もしかしたら、キミのお母さんを助けてあげられるかもしれない」


「ほ、本当ですか?!

でも、お母さんはとっても重い病気で…………」


「助けられるかどうかは、お母さんの病状次第だし、僕が助けるかどうかはキミ次第だ。

とりあえず、お母さんの症状を聞かせてくれるかな?

此処に居てもお店に迷惑だから、場所を変えようか」


そう言って少女を立たせると、店の男がぎこちなく頭を下げて来たので、軽く手を上げて応える。

そして、店から少し離れたところに移動して、少女から話しを聞いた。



「先ずは名乗ろか、僕はノッド。此れでもAランクハンターだ。キミは?」


「Aランク?!凄い!!

あ、わ、私はティヤーロです」


「そうか、ティヤーロ。じゃあ、お母さんの症状を聞かせてくれる?

いつ頃から、どんな風になって行ったか」


「は、はい。その、お母さんの体調が最初に悪くなり始めたのは、2年くらい前です。

よく咳をする様になって、時々熱が出る様になって、仕事も出来なくなって…………


其れで、去年くらいからは、歩く事も出来なくなって…………

其れで…………

其れで、だんだん足が黒くなってきて…………

昨日、指が……

指がとれて…………」


だんだんとか細くなる声と共に涙が溢れていた。

しかし、此処で優しい言葉を掛けてはいけない。


「ティヤーロ。泣くのは今じゃない。ちゃんと教えてくれ。

他に症状は無いか?例えば、アザとか斑点みたいなモノは無かったか?」


「……グスッ……ごめんなさい。

アザも有ります。腕とかお腹とかに」


「そうか…………

ティヤーロ、キミには同じ様な症状は無いか?」


「私は有りません」


「アザも?」


「はい、有りません」


「他の家族は?」


「他に家族は居ません。

お父さんも私が生まれて直ぐに亡くなってるので…………」


「そうか………………」


「あ、あの!!お母さんの病気が何か分かるんですか?治す事が出来るんですか?」


「お母さんの病気は恐らく魔獣の毒だ。原因は多分食べ物だろう。

其れと、治す事が出来るかは、やってみないと分からない。

既にかなり進行してるみたいだからな」


「そんな?!でも、このままじゃお母さんは…………」


「ああ、確実に近い内に命を落とすだろう。

其れでだ、ティヤーロ。僕が治療する上で幾つか条件がある」


「はい、何でも言って下さい」


「なら先ず、治療が成功した場合、キミの今後の人生を報酬として貰う。

キミは僕に絶対の忠誠を誓って、死ぬまで僕に尽くして貰う。

コレが1つ目の条件だ」


「はい、約束します」


「じゃあ、次にお母さんとの事だ。

お母さんにも治療が成功したら、僕に死ぬまで忠誠を誓うか聞く。

その時、お母さんが断った場合には、お母さんから、僕と出会った記憶を消す。

そして、お母さんだけをこの街に戻す。


そうなれば、お母さんは目を覚ましたら病気が治っている代わりに突然キミが消えたと思うだろう。

其れでも、お母さんを置いて僕に着いて来れるか。

コレが2つ目の条件だ」


「はい、着いて行きます」


「良し。なら最後の条件だ。

此れは治療が失敗した場合だ。


もし、治療が失敗したら、お母さんは命を落とすかもしれない。

その場合には、キミが僕と出会った記憶を消す。


そうなると、キミは目を覚ましたら突然お母さんが亡くなっている事になるだろう。

お母さんの命が少し短くなる可能性とお母さんの死に目の記憶を失う可能性を受け入れられるか。

コレが最後の条件だ」


「…………いいえ、その条件は必要無いです。

私はもしもお母さんが助からなくても、お母さんを助けようとしてくれたノッドさんに着いて行きます。

もちろん、絶対の忠誠も誓います」


「分かった。全力を尽くして治療しよう」


僕の差し出した右手を、ティヤーロは目に涙をいっぱいに溜めながらも力強く頷いて握り返して来た。


其れから、“ウィフィー”の荷台部分にティヤーロを乗せて、僕達はティヤーロの家に向かった。





▪️▪️▪️▪️





ティヤーロの家は貧困エリアのボロボロのビル中の一室だった。


中に入った瞬間から異臭が立ち込めていた。

殆どモノが無い部屋の奥へと入って行くと、異臭の原因であるティヤーロの母親がベットに横たわっていた。



「……あ…うあ……あ……」


「ただいま、お母さん。この人はノッドさん、お母さんを治してくれる人だよ。

だから、もう、安心して」


意識はある様だが、もう上手く喋る事も出来ない様だ。

何か、呟いて、涙を流した。


ただ、その涙は、僕が来た事で自分が助かるかもしれないと云う喜びの涙ではなく、娘を心配し、娘を苦しめている自分を責める涙だと思った。


「……ティヤーロ、お母さんの名前を聞いてなかったな」


「あ、ごめんなさい。お母さんはティニーマ」


「分かった。ティニーマさん、僕はノッドと言います。

貴方を助ける為に全力を尽くすので、最後まで諦めないで下さいね。


じゃあ、ちょっと失礼しますね」


そう言って掛けられていた薄い布団を捲って、僕は顔を顰めた…………


足は膝迄壊死して真っ黒になり、身体中のあちこちに紫色のアザが浮かぶ。

骨と皮だけの様に痩せ細って、辛うじて生きている様なそんな有り様だ。


僕は独り言を呟く様に、小声で“ジーニアスグラス”に話し掛ける。



「……壊死も異常回復ポーションで回復するか?」


「(否、壊死は状態異常では無く劣化になります)」


「……怪我回復ポーションは?」


「(否、怪我ではありません。壊死の回復は、壊死した部分を切除して、怪我回復ポーションを使用する事で改善されます)」


「…………なるほどな……」


『最悪、本人の体力が保たずに亡くなる可能性もある…………

一旦、トレジャノ砦迄連れて行ってから、手術をした方が良いか……』


「ティヤーロ、分かっているとは思うけど、ティニーマさんはとても危険な状態だ。

此れから、少し薬を飲ませてから、人目に付かない様に夜になったら僕の拠点に連れて行って、手術をする。

此れから、僕の言う事には全て従ってくれ、どんな事でも」


「はい、分かりました」


「じゃあ、此処には二度と戻って来れないつもりで、本当に大切なモノだけ持って出られる様に準備して、夜まで眠ってくれ。

おっと、その前に…………」


僕は先ず“ウィフィー”から携帯食料を出して、ティヤーロに食べさせる。

そして、異常回復ポーションと体力回復ポーションと共に痛み止めをティニーマさんに飲ませた。


ティヤーロは何度も「ありがとうございます」と、言いながら、美味しくもない携帯食料を何個も食べて、ティニーマさんからアザが消えて行くのを見て泣いていた。


「僕も少し寝るから、ティヤーロも早めに支度を済ませて、少しでも寝ておくんだよ」と、言って部屋の隅にもたれ掛かって夜まで眠った…………





日が沈み、辺りが完全に暗くなった頃、シーツで包んで固定したティニーマさんを背負い、相棒に跨って、ティヤーロの家のベランダから飛び出した。


ティヤーロは僕の“ゼログラビティバック”を背負って“ウィフィー”の荷台に乗っている。

念の為、命綱がわりにロープで荷台に繋いでいるが、初めて体験する高さに、声にならない絶叫を響かせていた。


朝日が登り始めた頃、僕達はトレジャノ砦に辿り着いた。

砦は地上3階建で、僕の生活スペースは3階だ。

驚いてキョロキョロしながら着いて来るティヤーロを伴って、寝室にティニーマさんを寝かせてから、もう一度、異常回復ポーションと体力回復ポーションを痛み止めと共に飲ませる。


ティヤーロをティニーマさんの側に残して手術の準備をする。

2階の倉庫から、麻酔薬とポーション類を集め、予備のシーツやお湯を張る用の桶や予備の着替えなんかの道具類も集めた。そして、手術道具となる剣を腰に下げてから寝室に戻った。



「其れじゃあ、此れからの流れを説明する」


「はい!!」


「先ず、麻酔薬を飲ませてから、麻酔が効くまでの間にティニーマさんの身体を綺麗に拭いていく。

此れはティヤーロの仕事だ。

その間に僕は、足が何処まで腐ってしまっているのかと、他に腐ってしまった箇所が無いか確認する」


力強く頷くティヤーロに頷き返して、続きを話す。


「其れが終わってからが本番だ。


この剣は、凄まじく切れ味の良い剣だ。

此れで、腐ってしまった部分を斬り落とす」


「え?!斬り、落とす?!

お母さんの足は…………」


「ああ、腐ってしまった部分を切除しないと回復させる事が出来ないんだ。

でも、安心して良い。手術が成功したらティニーマさんの足も元に戻る。


僕が斬った直後に合図をしたら、ティヤーロは、このポーションをティニーマさんに飲ませるんだ。

麻酔が効いているから上手く飲む事が出来ない可能性もある。

その場合は、何度失敗しても頑張って飲ませろ。

遅くなればなる程、ティニーマさんの命が危ない。


その代わり、ちゃんと飲めれば、足は元の状態、治った状態で生えて来る。

そう云うポーションだ」


「!!足が生えてくる?!

そんな、まさか…………」


「僕を信じて全て従う約束だ」


「!!ご、ごめんなさい。

もちろん、従います!!

でも、そんな神様みたいな事、信じられなくて、驚いてしまって…………」


「まあ、高性能の怪我回復ポーションを見た事が無ければ驚くかもね。

でも、ポーションの効果としては大丈夫だ。


手術自体は問題無い。


唯一の失敗する可能性は、ティニーマさんの体力が手術に耐えられなかった場合だ。

だから、ティヤーロの動きが重要だ。


出来るだけ早く、しっかりとポーションを飲ませ切る事が助かる可能性を高くする」


「はい、分かりました。

絶対に飲ませます!!」


僕は今まで以上に真剣な目でティヤーロに頷き、ティヤーロも頷き返した。


「……始めよう」






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