過ぎた時間の濃さ
後書きに挿し絵があります。
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「出会った時にはもうご主人は……」
目の前の男は言葉を濁した。
私はひどく裏切られた気分で、男からついっと目を逸らす。
『過ぎた時間の濃さ』から。
「夫を知る人は仲間、知らない人は敵。敵ばかり増える」
風の夫は青空に、楽しげに浮かぶ。
「コンビニ行くんでしょ?」
男は気を悪くしたふうでもなくまた歩き出す。
ーー留まっていたいのは私なのに。
横断歩道の上で男の落ち着いた声がした。
「同じだよ、ご主人もね……」
心配なのはと聞こえたところで、動き出した車が音をかき消していった。