届かない声
「なあ、晴香。覚えてるか? 六年前のあの日のことを」
「覚えてるよ。......絶対に忘れられるわけがないもん」と。
風の吹き抜ける音のみ聞こえる廃ビルで幼馴染である彼が私に問う。忘れもしないあの日のことを。
その日、私は誘拐された。十六歳の時だ。誘拐したのは元軍人の男。拷問好きのド変態だった。誘拐の目的は言うまでもない。私は三日間に渡る地獄を見た。
「ごめんな。あの日、お前が辛い目に遭ってる中何もしてやれなくて。苦しかったよな。地獄だったよな。ごめんな。ごめんな」
「いいよ。しょうがないじゃない。ここ、平和な日本だよ? あんなこと誰にも予想できるわけないよ。君は悪くない。自分を責めないであげて」
人一倍責任感の強い彼の事だから全て自分が悪いと思っているのだろう。けど、ほんとに彼は何も悪くない。たまたまその時が彼の家に遊びに行く途中だっただけだ。
比較的時間にルーズな私だから特になんの心配もせず誰にも連絡をすることがなかった。ただそれだけの事をずっと悔いている。本当に私には勿体ないくらい良い幼馴染だ。......だからこそお願い。
「晴香は昔から優しいからな。こんなこと願ってないって知ってる。だけどもう無理だ。ようやく見つけたんだ。ずっと探してたあいつを。まともに探さず、それどころか逃がした警察なんかに渡してたまるか。アイツは。アイツだけは」
......どうか......どうか。
「君の未来を捨てないであげて!」
「晴香を殺したアイツだけは俺がこの手で殺してやる!」
ごめんなさい。ごめんなさい。
私の声はもう、君には届かない。




