第2話 かわいいからっ!
「……だって本当に転生出来るのか、すっごくすっごく怖かったんですよ? これはもう、誰かと一緒じゃなきゃと思って」
「えぇ? ふたりはお友達じゃないの? あっ、もしかしてそれ以上の関係だったりして?」
「違いますよぉ。あの時、偶然屋上にいたんです」
全く以て状況を把握出来ていない俺は、嘘のようなやり取りをする者達を指差しながら確認した。
「えっと……同じ制服を着てるお前が、俺を突き落とした奴で……そっちの、何か無駄に眩しい感じの方が?」
「む、無駄に……おっほん! 私はあなた方“人間”が使う言葉で意味するところの、いわゆる”神”です」
「……………………」
「うそっ! うそうそうそっ! 何で? 神様だよっ? いるの? そんなリアクションする人間いるのっ?! こっちが驚くわ! あっ、そうか! 驚きすぎて声が……」
神様の話など耳に届くはずもなく、俺は自分を突き落とした犯人の前に立った。
「何でだよ……何で、死のうなんて思ったんだ!」
「ごめんなさい……」
「死を選ぶ覚悟が出来たのなら、違う道で生きる覚悟だって出来るだろ!」
違う道──
その言葉に反応したのは神様だった。
「じゃあ、ふたりとも転生するってことでいいかしら?」
「転生……出来るんですか?!」
「私は神様よ? 不可能なんて存在しないわ」
そこに少女の本気さを見た俺は、流れに身を任せてしまっていた。
「お願いします! 誰も私なんて知らない世界へ……”ネコの姿”で転生させてください!」
「いいでしょう。では最後にひとつ聞かせてください。人外となって世界に出でることは、敵も多いだろうけど、どうしてネコで生くことを選ぶの?」
少女は真剣な眼差しを俺に向けると一言……。
「だって…………かわいいからっ!」
「それわかるっ!」
「おいっ! 理由っ! あんたも同意するなっ!」
神様は持っている杖で床を一度突くと、転生の為の準備なのだろうか、時間や空間を超える為に、ふたりの身体が光の粒子となっていった。
「あっ! 転生先にはネコが存在しないから、捕まって見せ物にされたりしないように気を付けてねぇ。サービスで、種族”魔王”にしておくわね」
「神様、ありがとう! またねぇ!」
「また来るつもりかよ! てか、何度俺を巻き込むつもりだぁぁぁ!」
こうして俺は、納得など出来ぬまま、魔王なネコとして生きていくことになった。
雌ネコとともに──