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ぼくらのにゃんこ大戦争  作者: (弟)
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猫好きかつおぶし

あっ猫だ!おいでおいで!あっ逃げられた・・・


「よぉかつおぶし!また猫に逃げられたのか?」


猫を撫でようとしゃがんでいた僕の頭上から無遠慮な声が降ってくる。


「かつおぶしなんて名前のくせに猫に懐かれないって皮肉なもんだな?」


ははは、と声を上げて通り過ぎていく二人組は僕のクラスメートだ。


「僕の名前はかつおかたけしだ。」


遠ざかっていく二人のクラスメートの背中に、届きはしないとわかりつつも呟く。


僕の名前は勝岡武士(カツオカタケシ)。武士のように強い男になれと両親が付けてくれた名前だ。小学校の時の教育実習生が「勝岡・・・ぶしくん?」と読んだせいで、高校二年になった今でもかつおぶしとからかわれている。


「おいかつおぶし」


さっきのクラスメートとは別の揶揄が飛んでくる。眼鏡をくいっとあげてそちらを睨む。


「雅紀」


金色に近い茶髪に着崩した制服。いわゆる不良の格好をしたチャラチャラしたクラスメートが立っている。


「つかしけたかおしてんなよかつおぶし」


ニヤニヤと笑いながらこいつは僕の呼ばれたくないあだ名を二つも呼ぶ。


しけたかおつか。勝岡武士を逆さから読んだ響きからしけた顔なんて呼ばれていた時期もある。


「僕はかつおかたけしだ」


真っ直ぐとこの不良の目を見つめ、断固とした意思でそう告げる。眼鏡で気弱に見られる僕が、この不良に堂々と言い返す勇気があるのを周りは意外に思うかもしれない。


「そんなことより遅刻するぞ武士」


そういうと不良の雅紀は僕の背中を手のひらで押す。

けして実は僕が腕っ節に自信があって喧嘩をするつもりだとか気が強いとかではない。雅紀とは幼稚園からの腐れ縁なのである。だから雅紀は僕のことを悪意なくかつおぶしとからかってくるし、僕も雅紀には強気にでる。


「遅刻にビビるならそんな格好やめたらいいのに」


「ばか!不良なのに遅刻しないってギャップがモテる秘訣なんだよ!」


隣に並んで歩く雅紀はそんなことを悪びれること無く言う。そう、雅紀はモテるのだ。元々顔立ちは整っている上に、醸し出すちょっと危険な香りが異性のみならず男子からも人気を得ているのだ。


一方で十年以上連れ添っている僕は色恋には縁遠い。そして動物にすら。


「あーあ。せめて猫にはモテたい」


そんな僕の独り言は始業のチャイムにかき消された。






「勝岡くんまた遅刻ギリギリだったでしょー」


昼休みになり、ざわめく教室の喧騒の中。僕は一人の少女に話しかけられる。


「間に合ったんだから遅刻じゃないよ」


ついつい冷たい態度をとってしまってからいつも後悔をする。相手はクラスのマドンナ、いや、僕の通う高校どころか近隣の高校にまでファンクラブがいるという噂の姫乃下遥(キノシタハルカ)さんだ。


「またネコちゃんを追っかけてたんでしょー」


いたずらっこの様な笑みを浮かべる彼女は、いつも僕みたいな目立たないクラスメートにも話しかけてくれる。そこに特別な想いはないだろう。陸上部のエースで人気者の彼女は誰にでも分け隔てなく接してくれるのだ。


「追っかけたわけじゃないよ」


彼女に他意はないとわかっていても、女性に縁のない僕は緊張してそっけない態度をとってしまう。


「武士ー飯食いに行こうぜー」


教室の出入口から雅紀が声をかけてくる。


「ああ」


弁当を手に持ち、席を立つ。


「尾上くんたちは今日も美術室?」


姫乃下さんは雅紀と僕に問いかける。


「おうよ。姫ちゃんも来る?」


「姫ちゃんはやめて。先約があるので遠慮しておきまーす!」


そういって姫乃下さんは友人達の輪に戻って行った。姫乃下さんはその名字をもじってお姫様だとか姫ちゃんと男子に呼ばれている。しかし本人はお姫様扱いは嫌だといつも怒る。その謙遜する姿がまた人気を呼ぶのである。かつおぶしともじられる僕とは大違いだ。



「おっ今日はオムライスだ」


昼休みには空き教室になる美術室が僕と雅紀のランチスペースだ。移動教室棟の最上階にあるこの教室には昼休みにわざわざ来る生徒はいない。


「今日も女子にもらったの?」


弁当の蓋をあけ、ケチャップでかかれたハートを崩さないようにスプーンを突き立てている雅紀に問いかけた。


「ああ。今日は一年の女子から」


雅紀は毎日違う女子から弁当を渡される。なんでも誰が雅紀に弁当を渡すか、女子の間では骨肉の争いが起きているという噂もある。


「そのうち刺されそうな気がする」


僕のそんな呟きの意図は、ケチャップライスを頬張って目をぱちくりしている雅紀には伝わらなかったようだ。


「ん?」


そんな雅紀が窓の外を見る。つられて僕もその視線の先を注視する。


「火事かな」


立ち並ぶ家々の中から、もくもくと白い煙があがっている。僕の家もあの住宅街の並びにある。嫌な予感がつい口から零れた。


「またあの博士だろ」


雅紀はなんでもないことのように再び弁当箱に視線を戻した。僕らの呼ぶ博士とは、僕の家の傍に住む変わり者のおじさんのことである。自称発明家のその変わり者は、実験の失敗なのかなんなのか度々家から煙を出したり異臭を放ったりと、近所からは関わってはいけない人だと避けられている。小学生の時分の好奇心の塊であった僕たちは、その変人を博士と呼びよく遊びに行ったものだ。


「そろそろ事件起こして逮捕されるんじゃね。博士」



入道雲のように青い空に吸い込まれる白煙を見上げながら、僕は深くため息をついた。

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