93話 国内戦終了
王都の中心から北側区画。
城門近くの城下町とは違い、絢爛豪華な建物がひしめく区画は別名『貴族街』。
城門近くが市民向けの商店街だとするなら貴族向けの商店街といえば分かりやすい。
魔族に占領されて貴族街には魔族の中でも一線を書く上級魔族が住んでいる。
力強く狡猾で残忍な魔族が密集した区画。
人間が決して近づいてはいけない場所だ。
貴族街の一軒家に下級の魔族が住んでいた。
名をヘビースター。
この魔族は戦争の最中に捕まえた女を奴隷にして本来なら上級以上でなければ持てない専用の奴隷を持っていた。
奴隷の数は二人。
二人とも女性で現在部屋に鎖を繋がれた状態でいるのを確認した。
「勇者ユクスが死んで上級魔族は随分と落胆しているな。どうせ待ったところで俺達のような魔族に巡ってくる事なんて無いっていうのに。それよりも手の届く物を確実にものにしていく方がなんぼもいいだろ」
ヘビースターはここ数日の騒動にまったく関与していなかった。
奴隷を手にしたと言っても所詮報酬ではなく抜け駆けで手に入れたようなもの。
自分の弱さを知り、必要以上に望むことを諦めていた。
「しかし今更魔王様が生活にルールを作るなんてな。まぁ俺には関係な――――」
ヘビースターが言葉を言い切る事はなかった。
自分の首に熱さを感じた瞬間、視界が床に向かって行きそのまま息絶えた。
ヘビースターの遺体の横で女が二人立っていた。
一人はエリティア。
彼女は今回、もしもの場合の補助要員として同行していた。
メインなのはもう一人のグラマンティア。
「下級魔族へビースターの討伐完了です」
「見事よ。これなら十分に仕事を与えられる」
「いえ、私なんてまだまだです。エリティア様と比べたら全然」
魔族の血のついた愛剣を拭きながら謙遜しながらも喜ぶ。
グラマンティアは先程までへビースターに気づかれぬように屋根に隠れ、絶頂で視界を閉じた隙を狙って侵入するとへビースターの後ろへと降り立つと同時に首を切った。
不意打ちとはいえ魔族を相手に切ったことさえ気付かれずに完璧に行った。
一月前のグラマンティアでは出来なかった芸当である。
「こちらの二人がこの魔族の奴隷ですね。母娘で2名。情報通りです」
「ではすぐに王城に運びましょう」
「その必要はない。俺が直接洞窟に送ろう」
「タスク様、来られていたのですか」
「今着た所だ。鍛錬の方が終わってから急いできたが、グラマンティアの勇士を拝む事は叶わなかったな」
今日はグラマンティアの魔族初討伐の日であった。
対象はまだまだ下級の枠だが魔族を一撃で仕留め切れるだけの力がついた。
他のメンバーも文句を溢す事はあるが、真面目にレベル上げに取り組んでいるのですぐに追いつくだろう。
いきなり魔王の目の前に転移してからここに来てようやく王都で生活するのに余裕が生まれていた。
このまま順調に事が進んでくれれば、とフラグを発ててしまったのがいけなかったのだろう。
「緊急事態だ。二人も俺についてこい。アジトに転移したら俺とエリティアは先に王城に戻る。フィルティアへの説明は頼んだ」
そう言って二人に接触してすぐにアジトに向かった。
洞窟に着くとグラマンティアと奴隷になっていた女性を離して更に王座の間へと転移した。
王座ではオルガとウルカから始まり、ミラさん、カガリと王都組初期メンバーが続き、新入りが後ろに控えて主要勢揃いでタスクを迎えた。
「タスク様!」
そんな中でラクスがタスクに近寄り、再度確認を取るとタスクは王座の前へと移動して声高らかに宣言した。
「隣国の魔王が宣戦布告をしてきた。やっぱり情勢が変わるのを止められなかったという事だ。連絡組はすぐに幹部魔族を呼んでくれ……仕方ないけどこのまま第2プランに移行する‼︎」
ご愛読ありがとうございました。
今回で国内戦は終了しましたが、残念なことに目標ポイントに届かなかったので打ち切りとなりました。
国外戦をやるやる詐欺の様になってしまった件も含めて誠に申し訳ありません。
欠点はやっぱり転移までが長すぎた事でしょうね。
次回作では始まりから飽きさせないストーリー構成にしていきたいと思います。
あとは……やっぱり悲劇が少なかった事ですね。
ノクタ版に引っ張られて中途半端になってしまった気がします。
次回作は書きますのでそちらの投稿でもまた読んでもらえると幸いです。
およそ一年間ありがとうございました。