8話 フィリアン・テイル
前半に女性の悲劇を、後半は男性の境遇を見せられた。
火だるまになった男が死体置き場に運ばれてこの世界の詳細映像は終了。
画面はプロフィールに戻った。
詳細を見て思った事は一つ。
プロフィールもそうだったが、転移者を呼び込むための詳細でなんで良い所を一切見せずに終わってるんだッ!? である。
それとも良い所がまるでないのか。
まぁ、今の映像を見て本当にこの世界の人類が終わってるのだけははっきりと伝わってきた。
この世界の神は本気で転移者を呼び込みたいのか、それとも自分達の世界は終わってますよとアピールしたいのか、その真意を確かめたい所だ。
だがそれよりまず聞きたいのは、
『……以上で、詳細の映像は終了しましたが、如何だったでしょうか? 私共としましては、現在起きている出来事を簡潔に紹介できたと思うのですが、疑問や分からない点がありましたらお答えしますのでご質問下さい』
今も俺に対して一礼するこの鳥は一体なんなんだ?
この鳥は詳細をタップして映像が映し出されたのとほぼ同時に出現すると勝手に映像の解説を始めたのだ。
映像にナレーションをつけて状況を説明し出し、人物、街、どこを見るべきか等々要所となる場所を教えてくれた。
お蔭で従来の使用目的とか、どうして鉱山での強制労働を行なっているのかとか、映像を見ただけでは分からない事まで十二分に理解することができた。
取り敢えず、こういった自分で考えても判断できない場合には、絶対に知ってそうな奴に聞くのが一番だよな。
「こやつは、世界神の分身体じゃの」
そしてあっさりと答えやがった。
普通に答えているだけの筈なのになぜこの球体が言うとこんなにも馬鹿にされているように感じるのだろうか。
「分身体?」
「そうじゃ。ここは特別な空間じゃから世界神自身がここに来て説明することはできん。じゃから詳細に己の分身体を付与して代わりに説明役にしたのじゃ。分身体の情報量は本体と同じじゃからその鳥型の分身体は今見た世界のことならなんでも答えられる」
この鳥が、神の分身? ただの爺い喋りの球体よりよっぽど神秘的だが、こんなのが世界神と同じ情報量を持っているなんて信じられないな。
「言っておくが、儂も分身体じゃぞ」
「……え、えぇぇぇーー!? 球体って、その姿がデフォじゃないのか!?」
「誰が球体じゃ! そんなはずないじゃろっ!? ちゃんと本体がおるわ!! 儂の真の姿は、威厳と風格溢れる姿なんじゃぞ!! ……というか今まで儂をどんな風に見ていたのじゃ!?」
「変な球体」
それ以外に何があるというんだ。
「儂は仲介役としてお主の面倒を見ておるが、お主一人の相手をするわけではない。他にも送らなければならん転移者が山ほどおる。本体自身で一々相手をしておったら仕事が滞ってしまうじゃろ。じゃから複数人相手にできるように分身体を使っておるのじゃ」
本当に球体には本体が別にいるらしいな。
まぁ、球体だろうが、本体だろうが、爺神であることに変わりはないわけだし、別にいいか。
「お主とは一度じっくり儂の認識について改めさせる必要がありそうじゃの。……まったくただの地球人の小僧では、儂のこの迸る威厳が理解できんようじゃな」
球体、最後の小声で言っているけど、バッチリ聞こえてるから。
それとただの地球人の小僧には、球体の神様的オーラは微塵も感じないけど、嫌われ者の部長オーラは、ビンビンに感じていますよ。
「それよりお主、一体どんなプロフィールを開いたんじゃ。さっきの詳細な内容もそうじゃが、依頼に態々分身体を付与して送っておるなぞ普通ではないんじゃぞ」
やっぱりこれは普通ではなかったのか。
でも他の世界はなんで分身体をつけないんだろう。分身体いた方がより世界を詳しく知ることが出来て良かったのに。
「分身体は、本体と同じ情報量を持っておると言ったじゃろ。この世界に分身体を送るには儂と違って本体とのリンクを断たんといかん。リンクの切れた分身体は制御できなくなり、転移者には伝えたくない情報まで無尽蔵に提示してしまう。そんな事になったら誰も来てくれんようになる。じゃから普通はつけんのじゃ」
分身体は世界神側からしたら諸刃の剣って事か。
取り敢えず鳥型の分身体は暫く放置で、先に今見た世界のプロフィールを球体に見せる事にした。
あの魔族に支配されて絶望的な世界のプロフィールがこれだ。
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フィリアン・テイル
種族:人族、エルフ族、ドワーフ族、精霊族、魔族、その他多数
状況:戦後(人類は敗北しました)
安全度:1
アピールポイント:人類は魔族に敗北して奴隷となっています
スキルポイント:5000000pt
定員:1名
※必ず詳細を見てから慎重に決めて下さい
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プロフィールを確認した球体から溜息が溢れる。
「……お主、これを何故見ようと思ったのじゃ」
「安全度1ってのがどんなものかっていう好奇心もあるけど、強いて言うならこのプロフィールが転移者を突っぱねているように感じられたから逆に覗いてやろうと思ってだな」
「安全度1というのは滅多にあるもんじゃないのは当然じゃ。とても人間の住める環境ではないからの。依頼すら出さないのが普通とさえ言われとる」
球体の定義だと安全度1は、人類が安全に住むことさえ困難な世界だと言っていたな。
映像で見たフィリアン・テイルの世界は、既に勇者が敗北して魔族が頂点に立った後だ。それも人間は家畜や奴隷のポジション。球体の言う通り、安全に生活する事さえ難しいだろうな。しかし、安全度1と2でここまで差があったのには驚いた。
「何を言っておる。来て欲しくて出した依頼に短所を書く馬鹿があると思うか。安全度2じゃって良い所を重点的に見せているだけで、世界の闇の部分は普通に酷いわい」
それをこのタイミングで言うのかっ!?
つまり詳細なんてつけているけど本当に世界を紹介してる訳じゃないって事かよ。
さっきの分身体を付けないのも転移者にそのこと知られないための措置か。
そう言う事なら分身体を付けないのも当然と言えば当然か。転移者に来て欲しいんだから短所を書かないのは当たり前。大手企業の求人にだって会社のメリットは提示されていても一番キツイ仕事内容なんて載せてないもんな。
しかしそう言った負の部分こそ後悔の元なんだよ。転移者側としたらたまったもんじゃない。……候補として残していた保留にしている世界も再検討が必要なのかもしれないな。
「仲介役として言わせて貰えば、この世界はお勧めできん。時間の無駄じゃからすぐに没にして次の候補を探すのじゃな。ただでさえ世界を決めるだけでもう三日目に突入しておるんじゃからな」
三日目!? 確かにそれはそろそろ世界くらい決めないといけない様な気がしてきた。
でも……。
「えっと、分身体? それだと球体と被るみたいだし……"鳥"でいいか?」
『"鳥"で結構です』
今まで黙っていた鳥が俺の声に反応して再起動すると何の捻りもない呼び名に了承した。
「じゃあ鳥。知りたいことを教えてくれるんだよな?」
『私の教えられることでしたら何なりと』
先程までの映像を見てどうしても気になってしまった疑問があった。
聞かずに先に行くとなんだか気になってしまうので聞くことにした。
その気になった内容は、
「魔族との戦争になんで負けたんだ?」
『それは先程の映像で説明したかと思いますが』
「勇者が敗北したとはな。だが今までの勇者達は勝てていたのになんで今回に限って魔王一体も倒せずに惨敗したのかその理由が知りたい」
質問に対して鳥はすぐには答えず暫く思考した。
球体が言うほど無尽蔵に質問に答えてくれる感じじゃないじゃないか。
『その説明は少々長くなりますがよろしいでしょうか?』
「そんなに話しにくい内容なのか?」
「いえ、その……」
「ん? ……あぁ、あれは気にしなくていいから説明を頼む」
鳥が何を気にしていたかと思えば球体か。別に少しぐらい聞いたっていいだろう。
時間ならたっぷりあるからな。
「お主、儂の意見聞く気ないじゃろ!?」
突っ込みを入れる球体は煩いだけなので無視して、鳥の話に耳を傾けた。
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