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86話 戦場

 魔族の目を掻い潜りながら王都から出て転移した。

 すぐにユクスのいるペニスト町へ転移せず離れた森の中に飛ぶとまず周囲に誰もいないことを確認する。


 視界は緑色ばかりの森の中で周囲には魔物すらいなかった。

 探索も当然発動しているけど反応はないので誰もいないのは間違いないだろう。


 確認を終えるとその場で蹲った。


「……やばい。めっちゃ恥ずかしいんだけど」


 思い出すのは玉座の間を出る直前にエリティアに言った最後の言葉。

 あれは俺の言葉じゃない。


 あれはこちらの世界で有名な恋愛劇作の言葉を真似たもので元のセリフが『まぁ見ていて。僕と彼どちらが今後の領主を任せられるか』という。

 領主の娘の婿になりたい主人公の物語。

 思いを寄せる領主の娘に有力貴族が婿養子になる事がほぼ決定してしまったが、諦められなかった主人公に魔族に勝てば婿にしてやるという条件を領主から貰う。

 しかしその指定した魔族は格上で死ぬ可能性が高かった。

 それでも主人公は望みがあるならと戦いに行こうとする。

 主人公に死んでほしくないヒロインは全力で止めにかかるが、主人公は止まらず出陣を決意。

 その時の最後に言った言葉が先程のセリフ。

 そして物語のご都合主義があるけど魔族を打倒して領主の娘とめでたく結婚してハッピーエンドする。


 ……つまりあの言葉は戦場に向かう男のプロポーズの言葉なわけだ。

 返事も聞かずに来たからエリティアがどんな風に受け取ったのかも分からないので今から帰るのが怖い。


(それにこれって言い換えると『この戦いが終わったら結婚しよう』なんだよな。完全に死亡フラグだし……にしても問題の張本人は随分と楽しそうにしているじゃないか)


 千里眼でペニスト町に視線を飛ばすと相変わらず勇者様は女を侍らせて欲望のまま過ごしていらっしゃる。

 索敵を警戒して少し離れて転移したけどまるで追われている身だって自覚が感じられないな。


 家の中にいるから外の景色も見えないだろうし。


「歩いていく予定だったけどこれなら空からでもいいか」


 無詠唱で風魔法『飛行』を発動すると身体がまるで見えない板でもあるかのように足を歩むほど上空に登っていく。

 上空からだとペニスト町が視界の先に認識できた。

 

 町は戦闘の跡がそこら中にあった。

 戦闘で壊れた民家に魔族の死体から放たれる血の香りに混じって戦闘に巻き込まれた人間の死体も存在する。

 どちらが殺したのか死体だけでは判断がつかないが、戦闘で巻き込まれることなど何一つ考えずに戦いを行ったのだろう事は一目で分かる惨状だった。


「さて、まずはお互いに自己紹介からといこうじゃないか」


 まだユクスはこちらには気づいていないので攻撃するには絶好の状況ではある。

 でもそれはしない。

 それをしたら勇者と同じだ(巻き込んでしまう)からな。


 でも態々大声で勇者出て来いと叫ぶのもあほらしい。

 それに挨拶するのに適任のスキルがあるからな。


 ―――――――【絶対者のオーラ】Lv10


 その瞬間、ペニスト町一帯に生きる生きとし生けるもの全てが行動を停止した。

 金縛りにあったかのように身動き一つどころか目で周囲の状況を確認すらできずにいる。

 そして絶対者のオーラの効果が消えると同時にそこかしこで悲劇が起こった。

 腰を抜かすだけでは終わらず多くの者が恐怖で失禁してしまったのだ。

 気絶する者も少なくなく瞬く間に地獄絵図と化した。


 そんな予想以上の効果に若干やりすぎたかなと後悔していると慌てて身支度を整えた勇者が表へと出てきた。

 辺りを見回した後、俺を発見すると天を駆けて上がってくる。


 因みにユクスが空を飛んでいるのは魔法の『飛行』ではなく装備している天馬のブーツの飛行の効果によるもので飛行よりも若干性能が上だ。


 ユクスは充分な間合いを取った位置までくると停止してこちらに声を掛けてきた。


「まさかこんな早くに俺の居場所が分かるとは思わなかったぜ。しかも来たのが魔王自身とはな」


 前に現れたユクスは牢屋にいた時の覇気の無い絶望した顔をしていたやつと同一人物とは思えないほど調子を取り戻しているように見える。

 オリビアやキーナはまだ完全に立ち直れていないというのに随分と早い回復だな。

 いや、寧ろその切り替えの早さこそが勇者としての資質の一つなのだろうか?


「俺もお前がまさかこんな小さな町に留まっているとは思わなかった」


「この国を出るって? それじゃあお前に復讐が出来ないだろ」


「復讐ね。……まぐれでグロウリーを倒して自信でもついたか」


 グロウリーの名前を出すとユクスは無意識に聖剣を持たない左手で尻を触った。

 表情も僅かに屈辱の色が強まっていて予測の信憑性が増した。


「それで俺の事をまた捕えに来たのか?」


「いや、今回はお前を消しに来た」


「へえ、なるほど。実際にはもう俺が手に負えない状態だって事を見抜いたのか」


 自分が強くなったから殺すしかなくなったと勘違いしているようだ。

 まぁ間違っている訳でもないので否定する気はない。


「そうだな。お前は強くなった。……俺の適当な相手(・・・・・)としてな」


「あっ? なんだと」


 ユクスのエクスカリバーの握る指に力が入った。


「幹部一体倒して魔王の俺と対等だとでも思ったか?」


「ならどちらが上か確認しようじゃねえかっ!」


 言葉が終わると同時に殺気の纏った聖剣が、空気の壁を切り裂きながら迫る。


(速い)


 瞬く間に聖剣の穂先が眼前まで来た。

 まるでエリティア戦の時のような速度の差だ。


 だが俺もあの時とは違う。

 エリティア戦では【後ろの正面】を使って回避をした。

 スキルを上手く扱えず切り札を切らないと対処できなかった。


 でも今は、


「【磁力】、【反射】、【斥力】」


 穂先が触れる直前にスキルを発動する。


 瞬間、ユクスは弾け飛んだ。

 町の外を大きく超えて数キロ先にある岩場に向かって吹き飛んだ。


「ぐぁあああーーーーっ‼︎」


 ユクスは自力で止まる事が出来ず岩に激突してようやく止まる事が出来た。

 俺は吹き飛んだユクスを追いかけると空から降り立った。


 ユクスの姿は土煙の所為で確認できない。

 でもこの程度で倒せてはいないだろう。


「あそこでは邪魔が多いからな。まずは場所を変えさせてもらった」


「くそ、何をしたっ!」


 姿を現したユクスは予想通り無傷で元気いっぱいだった。

 当然だ。

 先程やったスキルは全て相手を遠ざける効果のあるスキルだ。

 勢いよく飛んだのは8割方ユクスの速度と威力が跳ね返っただけであり、直接的な攻撃はしていない。


 それと効果は【斥力】<【磁力】<【反射】と【反射】が一番強い。

 しかし【反射】は効果範囲が非常に狭いという弱点がある。

 【磁力】も対象が一つだけ。

 【斥力】は全方位に使えるが、効果以上の力で押されると反動が自分に返ってくる。


 そう言った理由から先程のような単純な攻撃時にしか使えないスキルではあるが、そんなこと知らないユクスには俺が攻撃を無条件で跳ね返すスキルでも持っていると誤解してくれている事だろう。


 まずは主導権は貰った。


 【磁力】Lv10

 対象の近づけたり遠ざけたりする磁力を発生させる。Lvによって効力が上昇。対象は無機物のみ。



 【反射】Lv10

 指定した空間に触れたものの力を跳ね返す。威力は触れたものの力によって変わり、Lvにより指定できる範囲が広がる。



 【斥力】Lv10

 指定した空間内に存在する全てのものを遠ざける。Lvによって威力上昇。

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