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85話 一騎討ち

 全員が出ていったのを確認してタスクは改めて覗き見鳥の瞳に映されているユクスを見た。

 相変わらず女を侍らせてだらしない顔のユクスが映っている。

 とてもじゃないけど勇者ではなく悪徳領主や奴隷商人にしか見えない程善としたものがまるで感じられない。


「こうなるとグロウリーに預けるなんてせずにさっさと殺しておけばよかったよな」


 魔族に捕まって少しは改心するかもとほんの僅かにだが期待してはいた。

 しかしこれを見る限りユクスに魔族を倒す気はあっても捕まった者を助ける気はまるでない。

 殺す以外にまるで使い道が見つからなかった。


 事が起こってからの今更発言だと理解しててもどうせ殺すのなら簡単な時の方がいいと思うのは仕方がないだろう。


「……行くか」


「どこに行くのよ」


 覗き見鳥の瞳から視線を外して玉座から立ち上がると突然後ろから声がかけられ振り返るとエリティアがいた。


「エリティア、どうしてここに。みんなと部屋に戻ったはずじゃあ」


「そんなのあなたの様子が可笑しかったからに決まっているでしょう。ずっと怖い顔をしてユクスを探すのに躍起になっていたと思えば見つかったら私達を遠ざけようとするんだもの」


「いや、それはもう遅いから」


「じゃあどこに行こうとしていたのよ?」


「……トイレ」


「そんな気合を入れていくところじゃないでしょう」


 嘘が簡単に見破られるとエリティアは詰め寄ってきた。


「ユクスの元に行くのよね?」


「……はい」


「覗き見鳥の瞳でユクスを見た後から雰囲気が変わったけど一体何を見たの?」


 上手く隠していたつもりだったけどどうやらエリティアにはバレバレだったらしい。

 エリティアの言う通り、あの場では言えなかった情報がある。


 それはユクスのステータスだ。

 上位鑑定で覗いたステータスに表示されていたレベルは……予想を大きく上回り1000を超えていた。

 それだけではない。


「あいつは既に多勢殲滅用の勇者スキルを開花させていた」


「多勢殲滅用勇者スキル?」


「エリティア救出の時のような少数のパーティーで一個団体魔王軍と戦う際に有効なスキルの事だ。簡単に言うとあの時の様に雑魚をけしかけて体力を消耗させる事が出来なくなった」


「……数頼みの戦いが意味を成さなくなったと」


「それに幹部魔族一体と上位魔族を複数体倒しただけでレベルが上がり過ぎている。連れて行けば連れていくほど敵のレベルを上げさせることになるかもしれない」


 ユクスの状態を聞いてエリティアは押し黙った。


 たぶんエリティアは俺を説得して自分もついてこようと考えていたのだろう。


 しかし説明を聞き、ユクスのレベルに自分では相手になれないと理解してしまった。

 確かにエリティアは強くなった。

 上位魔族にも匹敵するだけの力を持っている。

 それでもユクスの相手をするには死ぬ覚悟が必要だ。


 そして(それ)を俺が望んでいない事も分かっている。


「数の暴力で倒せない以上少数でユクスに挑む必要がある。その中で最も勝率が高いのが俺ってだけだ」


 レベルでは負けているが、俺には5000000ptを使って取得したスキルがある。


「……どうしても行くの? さっきの話じゃないけどもう無視した方がいいんじゃない」


「いや、今ならまだ何とかなるんだ」


「ユクスのが絶対強いわよ」


「俺の戦歴には今の勇者以上の化け物を討伐している。それにユクス相手なら取れる戦法もある」


 確かにユクスは強敵だ。

 でもそれはあくまでも勇者としての強さでしかない。


「まぁ見ていろ。俺とユクスどちらが今後の人類を任せられるか」




 ◆




 玉座の間からタスクが居なくなって暫くして再び扉が開いた。

 グラマンティアを先頭に紅蓮の乙女の面々、ウルガやオルカと全員が玉座の間に戻ってきて覗き見鳥の瞳の前へと集まった。


「それで何があったのか聞かせてもらえますか?」


 部屋の中にタスクの姿がない事から攻めるような口調でグラマンティアは玉座の間にいたエリティアに問いかける。


「ユクスの強さが予想以上に強かった。それだけよ」


「まさかそんな理由だけで行かせたんですか?」


 再度質問をぶつけるグラマンティアの口調は丁寧であるが、刺々しさを感じるものがあった。

 若くして近衛騎士の団長を務めた人間が感情をぶつければ苛烈な物になるのは当然の物である。

 しかし今のグラマンティアから感じられるのは敵意を通り越した殺気だ。

 後ろにいる面々すら怖がらせるほど苛烈な殺気を放っている。


 それでも殺気を叩きつけられている当の本人の表情は崩れなかった。


「勇者が強いのは分かりました。あなたの表情から私達ではいるだけ足手纏いだという事も察することは出来る。ですがあなたが同行できない相手という事はタスク一人に任せて戦わせても勝率は低いんじゃないですか?」


 エリティアが頷いた。

 それを見てグラマンティアの表情が崩れた。


「だったら尚更なぜ行かせたのです!」


 グラマンティアはいつも厳しく接する事が多い。

 仕事の失敗などでもよく叱る。

 でもここまで感情を表に出して起こる姿を見た事があるのはヒルディだけであった。


 他の者達は今にも戦いが起こるのではないかとすら感じる雰囲気に心配そうに両者を見ていた。


「……それにタスクは幹部魔族の勢力の均等のためと言っていたが、幹部全員に当たらせて最小限に済ませる方法があったでしょう」


 エリティアが再び頷く。


「どういう事ですか?」


「簡単な事だ。いくら勇者が強かろうと幹部魔族が波状攻撃を立てれば安全に事を勧められる」


「魔王ブローという立場についている彼ならいくら嫌がろうと実行できる。なのに実行しないのは私達に何か別の理由を隠しているから、という事よ」


「その理由も聞かずになぜわざわざ危険な戦いに行かせた」


 グラマンティアの質問に今度は全員の視線がエリティアへと注がれた。


「タスクがまだ迷いがあったからよ」


「迷い?」


 一体何を迷っているのか分からずグラマンティアは目を細めて詳細を話すように促す。


「タスクはユクスの事を嫌悪している。でもこうも言っていたのよ。ユクスは勇者の素質だけ見れば初代勇者にも引けを取らないらしいって」


「素質がある事は皆が認識していた。だがそれ以上に奴の性格は悪質だっただろう」


「ええ、そうね。ユクスをよく知る者ならもう彼について行こうとはしない。でも知らない者からしたら彼はどこまで堕ちても希望の勇者様なのよ。だからタスクは迷っているの。自分なんかが勇者の代わりになって人類を助ける救世主になれるのかって」


「……だから一対一で戦って証明すると?」


 グラマンティアからしたら何の実績もない勇者よりもこの絶望的な状況下で魔族に潜り込み自分達を助けたタスクの方が何倍も信頼できる成果を挙げている。

 そんな危険を冒してまでやる事ではないと思えた。


「それに『見ていろ』って言われたわ。格上を相手にしに行くのに助力も求めず覚悟を持って向かって行く彼を止める事なんて私にはできないわ」


「……ク、……ククク、ハハハ。そうですか。惚れた弱みですな」


「ええ、そうね。結局私も女だったって事よ。だからここで彼が見事にユクスに勝つのを見届けるわ」


「なら私も見ましょうか。男気を魅せた者が偽りの希望を打ち砕くさまを」





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― 新着の感想 ―
[一言] いや、力を持っているのに女の所へ真っ先に行くような奴を勇者認定したくないんだけど…… さすがに『事実』を公表すれば誰も勇者だと認めないだろ。
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