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80話 異変

 二度目の外出は十分な成果を挙げる事が出来た。


 標的の変異種オークの討伐に率いていた群れの全滅。

 食料(オーク肉)の確保。

 捕まっていた女性の救出及び奴隷の首輪の解除。

 王都へ連れていく人員の増加。


 当初の目的は全て達成できている。


 特に仲間の人数が10名になったのがいい。

 ようやく必要な人員が確保する事が出来たので次の段階に移る事が出来る。


 今までは魔族に存在を知られない様に魔王ブローの勢力外の敵と戦ってきた。

 仮に隠密に狩ることは出来ても魔族に警戒をさせてしまうし、実行できるのは俺とエリティアのみ。

 どうしても人手が足りない。


 狙うのが下位の魔族なら一人で行えるが、狙うのは専用の奴隷を持つ上位魔族だ。

 冒険者騒動で後から出てきた三体のような魔族。

 あの時は逆立ちしても勝てないので戦うことを避けずにはいられなかったが、今の俺なら同格レベルになっているので状況次第で瞬殺も可能になった。

 しかし上位魔族は貴族の家を根城にしている。

 上位魔族だけを相手にできない。


 仕留める役、足止め役、逃走経路の確保役。

 一人で一役出来たとしても最低三人は必要だ。


 だが今回人員の増加が出来た。

 実力面では物足りないが、少なくとも逃走経路の確保ぐらいはできる。


(いや、焦っては駄目だな。まずここにいるメンバーだけでも魔族と対抗できるようにしないとな)


 暗殺の最終目標は幹部魔族だ。

 8体いる内の1体を切り崩す必要がある。

 それも失敗は許されない。

 完全な準備をして臨む必要がある。


「まさか再び王都の地に戻って来られるとは思わなかったな」


「でも王都って今は魔族の街ですよ。入ってすぐに襲われたりしないか不安です」


「大丈夫よ。私達は魔王ブローの奴隷って事なんだから」


 後ろでは『紅蓮の乙女』が割と元気そうに喋っていた。

 彼女達には王都で魔王ブローの奴隷となってもらう事を伝えている。

 エリティアの様に首輪が無いのは可笑しいのでマークス同様低レベルの奴隷契約を結んでもらった。


「タスク見えてきたわよ」


「そうだな。お前達、そろそろ私語は止めて黙って俺の後ろについてくれ」


 流石近衛隊命令されれば無言になって付き従ってくれる。


 程なくして視界に王城の防壁が見えてきた。

 しかし何か様子がおかしい。


「……酷い」


「これがあの王都なの!?」


「煙が出ているんだけど」


 王都の惨状に思わず声を出している者もいるが、それを注意している余裕が無い。


「これって……」


 驚いているのは俺だけではない。

 隣でエリティアも動揺を隠せずにいる。


 王都が半壊していた。

 いや、半壊は元々していたが、更に酷くなっていた。

 街が一直線上にまるで巨大な攻撃が放たれた跡が出来ている。


 幾らなんでもただの騒動で起きる被害を越えている。

 なにかがあったのは間違いない。


「あの何かあったのか?」


「ああ、緊急事態になるかもしれない」


 こちらの雰囲気が変わったのを敏感に察したグラマンティアが小声で話しかけてきたので答えると後ろで声を洩らした団員に注意と警戒してくれた。


(さて、一体何が起こったんだ)




 ◆




 ふと目を開く。

 視界には相変わらず代わり映えのしない石で出来た小さな部屋の中にいた。

 薄暗くじめじめとした空気のこの部屋にもう数カ月間ずっとだ。


 魔王に負けてからずっとユクスは後悔をしていた。

 仲間など助けようとしたからこんなことになったのだと、仲間を助けに行ったことは間違いだったと。


 目を覚ます度に毎回そんな感情に浸ってしまう。


「あら、起きていたの」


 低い声音で声を掛けられた。

 完全に男の声なのに女の口調で喋っている。


 その声の主が闇の中から姿を現す。

 そのシルエットは人型をしているが、額には牛に似た角が生えている。

 背中には折りたたまれた翼、腰からは尻尾が見え隠れしている。

 肌は日焼けのレベルを超えるぐらい真っ黒で見てすぐに悪魔だと分かる姿であった。


 しかし顔には分厚いメイクが施されていて、爪にはすべてネイルを付け、着ている服装はスカートであった。


 どう見ても変態にしか見えない姿をした存在と目線が合う。


「ふふふ、お久しぶりね。勇者ユクス」


「お前はなんだ」


「あら私の顔を忘れてしまったの?」


 お前みたいな変態なんて知らない、と言おうとしたのに一体該当する魔族が思い浮かんだ。

 しかしその魔族は普通でこんな変態みたいな恰好ではなかったはずだ。


「ならまずは自己紹介をしましょうか。私の名前はグロウリー(・・・・)。魔王ブロー様の幹部魔族筆頭よ」


 そう言って顔を近づけて顎クイをされたユクスは全身に鳥肌が立った。


 近寄られたグロウリーの身体からは加齢臭ではなく女が付けるような香水の香りが漂ってくる。

 これが余計に気持ち悪さを増長してきた。


「それで何の用だ。俺は魔王ブローの所有物だからどれだけ御大層な地位だろうと手は出せねえだろ」


 それでも何とか余裕でいられたのは悔しいが、魔王の所有物のため他の魔族は手を出す事が出来ないからだ。

 もし手を出せば魔王に消されるからな。


「その事であなたに嬉しいお知らせがあるわ。魔王様が貴方を要らないと言って所有権を私に渡したのよ」


 告げられた返答にユクスは目を白黒させる。

 それを見てグロウリーはユクスが理解できずにいると悟ってもう一度説明してあげた。


「魔王様はもうあなたで遊ぶことは飽きたから私に褒美として権限を譲ってくれたのよ」


「なんだとっ!? じゃあエリーは」


「ああ、あのブスは魔王様の奴隷継続中よ。魔王様も変わっているわよね。最高級の玩具のあなたよりもあんなドブスの方を傍に置いておくなんて」


 近かった顔をようやく離してグロウリーは身体をくねらせる。


「それじゃあこの部屋には」


「もうこないわよ。今日からここはあなた専用の独房ってことね」


 今までユクスは牢獄に戻ってきたエリティアに牢屋から出してくれるように説得を行っていた。

 この牢屋には見張りの魔族と食事を届ける魔族、それと魔王以外来訪者はいない。

 自力での脱出が困難な以上頼れるのはエリティアだけだった。

 そのエリティアが居なくなったと聞かされてユクスは絶望した。


「まぁ、なんて素敵な表情なのかしら。これからあなたを好きにできるなんてぞくぞくしちゃう」


「寄るなっ! この変態野郎」


 変態を止める権力(魔王)も、ここから逃げ出す希望(エリティア)もなくなったユクスにグロウリーを止める術は無くなり、恐怖から身体を暴れさせた。

 だが繋がれた鎖はビクともしない。


「暴れても無駄なのはもう分かっているでしょう」


 身動きが出来ないことをいいことにグロウリーはユクスの身体を遠慮なしに触っていく。

 優しく弄っていく。

 肩、胸、腹、腰……。


「……勇者だから御大層な物を持っていると思ったのだけど、ここは随分と小物だったのね」


 一通り弄り終えると、グロウリーは話を元に戻した。


「先に魔王様からの任務を教えておくわね。これからあなたには女体化の実験体になってもらうわ」


 女体化と聞いてもユクスは一瞬意味が理解できなかった。

 グロウリーは反応のないユクスを見て思考できずにいる事を察してもう一度説明した。


「女体化っていうのは男から女への性別を変化させる実験の事よ。魔王様に貴方を女にするように頼まれたの」


 それくらいはユクスでも理解できる。

 だが性別を変えるというのはそんなに簡単な物ではない。

 女装で姿を偽ったり、変身で一時的に女性の身体を手に入れることは出来ても本人の性別を変えること

が出来たという話は聞いた事がない。


 いやな予感。

 この実験がどれだけの無理難題に挑戦するものかを悟ったユクスの表情は蒼白になる。


「って言っても私に貴方を女にする方法なんて分からないのよね。でも安心して期限は無期限だから失敗しない様に時間をかけて行えるわ」


 予想通りの宣言と全く安心できない信用。


 グロウリーが離れて実験のための準備をし始めたのを見てユクスは本気で焦り出した。


「た、助けてくれ」


「あらここに来て命乞い? 私いい男の頼みに弱いのよね」


「なんでもする。だからこの実験だけは」


「でも貴女の望みを叶えなくても私の欲しい者はもう手元にあるのよね」


 グロウリーは返事をしてはいても元から取り合う気がないのか準備の手は全く減速していなかった。


「さて、今のままのあなたじゃあこの実験に耐えれそうにないし、まずはこれから行くわね」


 グロウリーが注射器を取り出した。

 その中には得体のしれない薬が入っており、先端は腕に当てた。


「あなたにはこれから地獄を見て貰うわ。その痛みに耐えたら実験再開するわ。運が悪いと死んじゃうけど私の楽しみを無くさないで頂戴ね」


 終わりのない無限の痛みの中、耐えられなければ死、耐えてもグロウリーの実験というどちらに転んでも闇しかない未来を告げられたユクスは派手に泣き喚くのであった。

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