表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/94

77話 任命理由 後編

 ラクス・B・ファンタマーデ


 彼女はグラマンティアとは対照的に至って平凡な平民の家庭で生まれた。

 裕福ではないけれど一日三食の食事を取れるぐらいには生活の安定している王都に近い村の小さな商店の一人娘だった。

 その商店に出す品卸の為に王都に行った際に丁度行われた騎士団の凱旋、その先頭を歩く女騎士の凛々しくかっこいい姿に憧れたラクスは親の反対を押し切って騎士を目指すようになる。

 お手製の木の槍で鍛錬を始めて、途中村に来た冒険者や兵士の人達から教えを請いてもらった。


 騎士になるには騎士学校に入学した後、スカウトされて入団するのが最も近道な方法だ。

 だけどラクスの家庭は平々凡々な平民の家庭。

 そんな学校に通うようなお金はない。

 なので彼女が騎士になるには騎士の下部組織である兵団の入団テストに合格して成績を出して騎士団への昇格を目指す地道な方法しかなかった。


 入団テストは10歳から受ける事が出来る。

 10歳になる頃には村で一番の(子供の中で)実力者になっていたので自信満々で受けに行って1年目は井の中の蛙だった事を教えられ、2年目は相手が悪くて不合格。

 年齢制限が20歳と言っても女性の十代は短い。

 親は次の挑戦で合格できなければ騎士を諦めてお見合い相手に嫁入りするように迫られる。

 その崖っぷちが結果的に良かったのだろう。

 3年目に合格。

 夢への第一歩が開けた。


 ――――――しかし、しかしだ。


 そんな彼女の人生は15歳で騎士団補佐をする兵団への配属が決まって順調に言っている最中をある人物によってぶち壊される。


 ここで一つ豆知識。

 王族の兵団に所属している兵士は騎士団候補である。

 ラスクの様に騎士団と同伴で動く事が多い事から他の街の兵団とは違い下級騎士。

 そのように呼ばれる。


 下級騎士。

 平民出。

 王都。


 お気づきだろうか?


 ラクスの人生をぶち壊した人物。

 それは勇者ユクスだ。


 今まで面識など一切なかったユクスに呼び止められたかと思うと次の瞬間には気絶させられて倉庫に拉致された。

 その後は立場を利用して脅迫され、襲われ、心身ともにボロボロされた。


 ここから彼女の地獄は始まる。


 勇者の罪状でもあったが勇者である事からこの事件は内々に処理され、勇者には特に罰は与えられず今まで通り生活している。

 その所為で彼女は数週間と部屋に閉じこもり。


 兵団に配属した後も勇者から与えられた男性恐怖症の所為で連携で失敗ばかり、倉庫のような暗く密閉した人気のない場所に居る事にも恐怖してしまう為、実力はあるが使えない。

 そう評価されてしまい。


 騎士団への昇格は絶望的だと上官からお達しを受ける。


 極めつけは彼女の美貌に恋した一人の貴族が、ラクスの所属する部隊に圧力をかけて依頼中にラスクと二人きりになれるように画策。

 貴族の男と二人だけの個室で言い寄ってくる姿にラスクのトラウマは呼び起こすのに十分であった。

 パニックになったラスクは貴族の男を突き飛ばして部屋から逃走した。


 恥をかかされた貴族の男は激怒してラスクを糾弾。

 自分の行いは何一つ報告せずに任務から逃げ出したラスクの行動だけを追求。

 裁判長は貴族に丸め込まれている為、その主張は採用されて兵団を除名処分にされた。


 それでも地方の兵団に入団したのはもう彼女の意地としか言いようがない。

 戦場に出て死ぬ可能性の高い戦いを何度も繰り広げても評価はされず、親からは戻って来いという手紙が毎月のように届くようになる中、こうなった元凶である勇者ユクスはのうのうと生活して名声を得ているのを感じる度に絶望感に苛まれていった。


 それから月日が経って21歳。

 結局男性恐怖症は治る事はなく結婚する事は叶わず、地方兵団から昇進の話もでない。

 もう騎士団の夢は無理か。

 そう諦めていた時、騎士団への入団の誘いが来た。


 それが『紅蓮の乙女』。

 まだ近衛騎士になる前で名前も知られていないような騎士団であったが、団員が全て女性で構成されている事と推薦状と一緒に届いた団長グラマンティアの手紙もあって晴れて騎士になる事が叶った。

 その後、すぐに大戦を経験。

 団員の中で最弱だったので何度も死にかけたようだが何とか生き残るとグラマンティアが白銀の称号を授与されて近衛騎士に昇格。

 姫の護衛を任せられる騎士団に一員へと出世。


 ……からの敗戦、逃走、オーク達の奴隷。



 はっきり言って可哀想なレベルの転落人生だ。




 ◆



 二人の半生はこんな感じだ。


 こんな話をしたが、二人の不幸続きの人生に同情したから、っていうのが理由ではない。

 

「今回の王都行きの選考でまず重要なのは戦闘になっても問題がない者。これは『紅蓮の乙女』全員がクリアしている」


 ヒルディをコテンパンにして今更言っても信じてもらえないだろうけど王都行きを希望すればOKにしたのは戦力として見ているからだ。


「次に役割を任せられる物。グラマンティアには紅蓮の乙女の団長も経験を生かして王都にいる人間の士気も取るまとめ役としての働きを期待している」


「あの、私は」


「ラクスにも役割があるが、正直言葉ではよく分からないと思う。ただ場合によってはグラマンティア以上に重要だ」


 今言えるのは彼女の存在が計画の成功率を格段に引き上げてくれるという事だ。


「ただここまでで指名するのはラクスだけで良かった。グラマンティアに関しては指名しなくても王都行き組に志願してくれただろう」


「そうですね。王都について行こうと思っていました」


「だから態々指名してまで二人を強制的に王都組に入れたのはただ単純に二人が他のメンバーより信頼できたからだ」


 二人と他のメンバーでは信頼に差があった。

 二人は信頼と言われてどうして自分が信頼されるのかと首を傾げ、エリティアにもっとちゃんと説明してあげなさいと睨まれた。


「俺の目標は魔族を全滅させる事ではなく魔族の脅威から守られた安全な場所を取り戻す事だ」


「エリティア様から伺っています」


「理由も聞いて現実的だと思いました」


 そこまで聞いているなら話は早い。


「その目標を聞いて他の『紅蓮の乙女』の面々の反応はどんなだった?」


「ミラはラクスと同じで堅実な目標だと。ヒルディは安全な場所を作るのは賛成だけど、そこで終わらず魔族を皆殺しにすべきだと言っていました」


「私の方も似た感じです。あとは態々危険を冒してまで戦わずにこのままここで隠れていた方がいいって人もいました」


「隠れていたい派は取り敢えず保留として二つはどのように行動すると思う?」


 この問いに二人だけでなくエリティア達も考え出した。


「案に賛成する人達は王都行きを渋ると思います」


「逆に魔族皆殺しの方は王都行きに志願するでしょうね」


「より魔族を殺したいって人達がこの洞窟で志の違う人の行動をただ待つとは考えにくいって事ですね?」


「魔族を殺す事はするだろうが、必要ない奴は見逃すからな。その行為を甘いと考えるだろう」


「私なら仲間を集ってリーダーを発てますね。私は無理だったでしょうから候補としてはヒルディ。……まさかあの摸擬戦はこのために?」


 いや、あれはウルカが勝てる奴で偶々ヒルディだっただけだ。


「別に俺はリーダーとして優秀じゃない。正直代われるなら代わってほしいぐらいだ」


「謙遜しなくてもよくやっていると思うわよ」


「そう言ってもらえると嬉しいけど器じゃないんだ。……話を戻すが、皆殺し推奨派がリーダーを立てたと仮定してリーダーが取る行動は結果だ」


「そうね。リーダーを任されたとはいえ結果を出さなければ見限られるでしょうし、そうなったらその後の生活も厳しくなる。認められるために大きな行動を起こす可能性は高いわ」


 グラマンティアも『紅蓮の乙女』設立当初に最前線に多く出たのも結果を求めてだったと肯定を示してくれた。


「そして誂え向きに皆殺し推奨派が簡単に結果に繋がる方法がある」


「それって」


 エリティアが真っ先に俺の言いたいことに気づいた。

 彼女は知っているからな。


 オルガとウルカはうんうん可愛らしく唸っているけど教えてないから分からないだろうな。


「そんな方法があるのですか?」


「難しい話じゃない。魔族の天敵ともいえる強い奴を仲間に加えようとするだけだ」


「っ!? 駄目です。それだけは絶対にダメっ!!」


 俺のニュアンスでそれが誰なのか気がついたラクスが今までで一番の大声を上げた。


「ああ、絶対に阻止しないといけないと考えている。そのためには王都行き組の中に信頼できる監視が必要なんだ」


「……ようやくなんで私なんかが選ばれたのか理解できました。その"信頼"は確かに私にはあります」


「理解してくれたか」


「はい」


「魔族からは俺が守ってやる。だから俺に力を貸してくれ」


「勿論です」


 俺とラクスはお互いに立ち上がってがっちりと握手を交わした。

 もうこれで彼女は大丈夫だろう。


「あの、二人だけで理解し合わないで私にも教えてください」


 その横で何なのか分からずにいるグラマンティアが自分も教えて欲しいと懇願した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ