76話 任命理由 前編
副団長であるヒルディがまだ幼いウルカに敗北をした。
しかも戦闘の内容は手の平で踊らされての完全敗北な上に勝利できたのはヒルディ限定である。
その真実を聞かされた『紅蓮の乙女』の面々にもはや言葉はなく、予想以上に彼女達の実力が低い事を実感させる結果となった。
ただし衝撃が大きすぎて思考が停止してしまったような者が多く、このまま続けたところで良くはないだろうと解散し、話し合いは明日に持ち越しとなった。
それからエリティア達を連れて個室へと移動すると先程の摸擬戦の話題となり再びウルカを褒め始める。
説明の時は簡単に言っていたが、いくら判断能力が低下していようと熟練度の低い幻覚では見破られていたし、ヒルディが【狂気化】を使って来るかは運の要素があったし、上手く事が運んだのはウルカがきちんと伝えた事を実行できたからだ。
褒めるのは当然の事である。
そうしてウルカを愛でているとノックが鳴った。
どうやら待ち人が到着したようである。
ウルカを撫でる手を離して「どうぞ」といって来客を部屋へと入れた。
入ってきたのは二人。
先程王都行きを告げられたグラマンティアとラクスであった。
グラマンティアは悠然とした姿勢でいるのに対し、ラクスは不安なのかグラマンティアの後ろに隠れるように入室した。
部屋を見回してウルカを見てビクついている。
「この部屋に人数分の椅子はない。適当に腰かけられる場所に座ってくれ」
この部屋には椅子が一つしかないので自分も箱の上に腰かけている。
みんな各々座れる場所に座っているので二人もそれがここでの流儀なのだと受け入れて座っていった。
座ると早速グラマンティアが話を切り出した。
「それでお話とは何でしょう?」
「王都行きについての話だ」
そのことは分かっているので二人からの反応はない。
聞きたいのはこの後の事だろう。
「とはいえ王都でやっていく事は明日話すからここで話すのは二人を他の者達とは別に選んだ理由。その説明をしたいと思う」
ヒルディの戦いで実力が関係していないのは伝えている。
ラクスは当然だが、グラマンティアも自分の選ばれた理由は分かっていないので聞きたかったはずである。
理由を教えてもらえるのなら聞きたいだろう。
特にラクスは聴かないと辞退しそうだ。
◆
グラマンティア・K・オルムーゴ
エリカーサ王国近衛騎士団の団長という地位に就いているが、その人生は順風満帆とはとても言えない物であった。
彼女はエリカーサ王国の伯爵家に生まれた。
設立当初からある格式高い貴族で金銭面でも裕福で何の不自由もなく生活できるような家庭であった。
しかし彼女は不幸にも普通の生活を送ることは出来なかった。
それは本人ではどうしようもない生まれたときから起こっていた。
彼女は三女として生まれたのだが、常に正妻の義姉が二人いた。
男児はいなかったが、その場合、義姉の婚約者が婿に貰われることになっている為、三女は必要性がなかった。
男児の誕生を期待していた裏返しもあって祝福よりも落胆のが大きい誕生だった。
そして義姉の母親が正妻と言っている様に彼女の母は側室である。
それも家同士の政略結婚による夫婦関係で愛はなく、御情けで行われた初夜以降別邸に追いやられて夫からは敬遠されていた。
グラマンティアも義姉二人の様に本堤では生活させてもらえず、別邸で生活させられた。
更に物心がつくと正妻からは母親の悪口を聞かされ、義姉からは虐めを受けるようになり、親の関係からか周りの使用人達からも避けられるようになる。
特に別邸の彼女の部屋を担当する使用人は性悪で陰で彼女の事を虐待していた。
伯爵家本邸では週一でパーティーが行われているがグラマンティアは参加を許してもらえず友達は一人もいなかった。
唯一行っていたのは木刀を振る事。
彼女の母が教えてくれた剣術を暇な時間とにかく練習した。
強くなれば母に褒められた、たったそれだけの理由の為に。
そうして幼少期が過ぎ、8歳になると厄介払いの様に学校に通う為に寮生活になった。
木刀を振っていたのは知っていたのでせめてもの配慮として騎士養成学校へと入学する。
理由はアレだがこれがグラマンティアにとってはいい結果だった。
学校で世間の一般常識を知る様になったことで初めて自分の家庭環境が異常であることに気づけた。
学校生活は初めての楽しい時間だった。
初めての友達、初めての買い物、初めての授業。
実技は幼少期からずっと木刀を振り続けた甲斐もあり、学年トップの成績で、筆記と総合しても10位前後をキープできていた。
ヒルディやミラもこの学校生活の間にできた。
2年で学校は卒業となったが、実力を買われて騎士団に編入を果たすとそれから僅か3年で華々しい実績を出して称号を与えるまでに成長した。
まさに幼少期をバネにしての逆転人生……では終わらない。
そこから再び人生は一変する。
それは不幸にも若干13歳での称号獲得に加えて魔族も討伐したりなどをして注目が高まった所為で今まで全くの不干渉だった実家が政治の道具として利用しようと目を付けられた事で起こった。
17歳で行われたその事件は『宰相と強制的に婚姻を結ばされる』というものだ。
宰相の年齢は42歳。
宰相としては異例の若さではあるが、グラマンティアとの年齢差は29歳。
とても容認できる結婚ではない。
だがグラマンティアはこれを承認した。
この世界では17歳では既に結婚をしていておかしくない年齢であるにも拘らず、男と一度も付き合った事も無ければ恋仲に慣れそうな男性の目星もない。
正直、結婚を諦めていた。
それともう一つ。
この話を行う時、彼女の住んでいる家に父親が訪れた。
そして幼少期あれだけ怖かった父親が一生の願いだと言いながら土下座をされた事で押し切られた。
もう一度言うが、この結婚が人生を再びどん底へと一変させる。
今の話を聞いてグラマンティアの視点からの解釈をすると相手方が是非結婚したいという要望があるから受けてくれないかというものに思える。
だが逆で実家が宰相との婚姻を持ち掛け半ば強引に了承させたのだ。
なのでこの結婚に宰相は反対していた。
そうとは知らずに宰相の家に嫁いだグラマンティアに待っていたのは夫になったはずの宰相からの拒絶であった。
それはもう普通の人なら泣いて実家に帰るレベルのものだ。
ただ運の悪い事にグラマンティアにとってその態様は見慣れたもので愛されていないのなら愛されるように努力しようとしか思わなかった。
まだ別邸に隔離されないだけ母よりはマシだと。
しかしどれだけつくそうとも夫が愛してくれる事はない。
その理由をグラマンティアも気づいていた。
だがその欠点は努力ではどうしようもなかった。
その理由とは――――――極度の貧乳好き。
グラマンティアのプロポーションは腹部はくびれが出ていて細身だが胸部は母親譲りの豊満な胸元である。
宰相の好みとは対照的と言っていい。
更に夜の相性も壊滅的という事で愛して貰える気配は皆無であった。
次第に宰相は側室として新しい好みの女性を家に住まわせる様になり、グラマンティアは母親のように別邸に住まわされるようになった。
幼少期の生活に逆戻りである。
その事実に絶望したグラマンティアは円満な家庭を持つことは諦めて別居し、一層仕事に打ち込むようになる。
男性なんていらない。
そんな思いから女性だけの騎士団『紅蓮の乙女』を学生時代の友人であるヒルディとミラと共に設立。
グラマンティアの様に男性への辛い過去を持つ者達がグラマンティアに賛同して集まってすぐに頭角を現し、次々と戦果を挙げて出世していった。
終戦1年前には功績が認められて白銀騎士の称号が授与されて近衛騎士団として王族の護衛を務める様になる。
だたそれも敗戦で意味を失くした上にオークの奴隷になっている。
次回の投稿は三日間空きます。




