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75話 自爆

 グラマンティアの説明はウルカの横っ飛びをした理由から始まった。


 理由は開始早々のヒルディの一撃KOを防ぐため。


 ウルカとヒルディの身体能力差では見てからでは間に合わない可能性があったので仕方なくああいう方法を取った。

 結局ヒルディは行動しなかったからただ何もないのに飛んだようになってしまったけど。


 次にヒルディの使った【狂気化(バーサーク)】のスキル説明。

 こちらは最高クラスの身体強化スキルだというだけで大事な部分が抜けていた。

 やっぱり上昇値にばかり目がいってしまっている様だ。


 そしてヒルディに向かって突っ込んだのが【分身】ではなく【幻影】である事。

 俺からすると【分身】と【幻影】は全くの別物で区別するのに説明など必要はないと思っていた。


 しかしグラマンティアの説明を聞いている人達の様子を見るに大半の人が【分身】を使用していると思っていた事が判明した。

 影を8体も創り出した事と影とは思えない実態に近い完成度であった事を褒められた時は自分が褒められた気分になった。


 グラマンティアはやっぱりいい判断力を持っているな。


 それで問題はこの後からだった。


「皆さんも見たようにヒルディに【幻影】を見破られた後、魔族が出現しました。ですがその魔族も全て幻です。つまり【幻影】と同じ系統のスキルを使ったという事ですが私にはそのスキルが分かりませんでした。なので説明できるのはここまでです」


「説明ありがとう。それじゃあここから話を引き継ごうか」


 まずは話の引継ぎとしては状況説明よりスキル説明からの方がいいな。


「グラマンティアの言う通りウルカの使ったのは【幻影】と同じ系統スキル【幻覚】だ。このスキルを知ってる者はいる?」


 問いかけると『紅蓮の乙女』のメンバーの一人が手を挙げた。


 どういう認識かを聞くと幻影と同じで幻を作り出して敵を誤認させるというのは知っている様だ。


 ただし例によってゴミスキル認定されている。


 その理由は使い道はほとんどないであった。

 【幻覚】の使い方は矢や魔法の幻を作り出して怯ませる、壁を作って逃走経路を惑わせる、罠があると見せかけて誘導するなどがあるが、それなら本物を出した方が効果的だと言われてしまっている。


 ここで少し脱線するがウルカの種族についての話をしよう。

 ウルカの種族である白狼族は幻を作り出す力に突出した適性を持っている。

 スキルLvが上がりやすいというだけでなく、同じLvで作ったものでも規模と現実味が非常に高いものになる。


 しかしその力を十分に使用することは出来ず冷遇されていた。

 何故か?

 それはスキルの説明をすれば分かる。



 【幻覚】

 相手の五感を狂わせ術者の想像を誤認させる。効力は術者の想像力に起因し、Lvの上昇によって作り出せる規模と現実味が上がる。



 つまりこのスキルはどれだけスキルのLvが上がっても力を発揮するには術者本人の想像力が必要不可欠であり、想像するイメージが乏しければスキルは弱いままなのだ。

 この世界は長らく戦争が続いている。

 そんな環境ではすでにある物を想像することは出来ても存在しない物を想像するだけのイメージ力なんて持てない。


 結果、スキルは弱いと認定されて白狼族は冷遇された。


 だがウルカは俺の弟子となった。

 そして俺には故郷の二次元文化で培ってきた想像力があった。

 鍛錬期間中、想像力をウルカに叩き込んだおかげで先程の様に魔族を作り出せるようになったのだ。


 まだまだウルカの力はこんなものではないので慢心は良くないけど。


「……という感じでウルカは幻の魔族を作り上げてヒルディに攻撃したわけだ」


 そう言う事で魔族を本当に召喚したわけではない。

 非戦闘員の人達には心臓に悪かった事をしたと謝りながら怖がらないで大丈夫だと声を掛けた。


「このスキルの長所がもう一つ。他のスキルよりもレベル差があっても喰らうという事だ」


 例えば前回の【催眠】。

 あれはレベルの開きや耐性持ちであると無効化される比率が高かった。


 だが【幻覚】は逆に耐性があっても発動する場合が多い。

 レベル差が100以上離れているヒルディやグラマンティアが相手であっても効果が発揮するのだ。

 まぁ、レベルが開いている程解除される条件が優しくなってしまう為、エリティアのように幻覚を使われたという感覚すらなく解除されるケースはあるにはあるが。


「でもそれならなぜヒルディは幻覚から逃れられなかったんですか?」


 そこまで説明したら当然この矛盾に気づくだろうな。


 ヒルディのレベルは『紅蓮の乙女』内でもトップ。

 今の説明ではヒルディはかなり早い段階で幻覚を見破って正気に戻るはずである。

 しかしそうはならなかった。


「そうだな。他の紅蓮の乙女のメンバーは遅かれ早かれ見破って正気に戻った。なのにヒルディだけ戻らなかった。それには確かに理由がある」


 俺がそう言うとほとんどの者がウルカは更に凄いスキルを使用してヒルディ副団長を幻覚内に嵌めたのだと思っている様な顔をしている。


 ヒルディの事を慕っている程何か特別がないと可笑しいと思ってしまっているようだ。

 実際はそんな事なくても。


「理由は――――ヒルディの自爆だ」


 そういった瞬間、紅蓮の乙女のメンバーは皆首を傾げた。


 ヒルディは多少は分かっているみたいだな。


「ウルカの行ったのは【幻覚】までだ。それを破れなかったのはヒルディの【狂気化(バーサーク)】が関係している」


 【狂気化(バーサーク)】は身体能力を総合的に飛躍的上昇させるスキル。

 それだけでは間違いだ。


 スキルは強い効果ほどその反動が存在する。

 【狂気化(バーサーク)】のデメリットは判断能力の低下だ。

 それもLvの上昇によって悪化していくタイプのデメリットである。


「Lv1では知力の低下は少ない。だがLv10になると物事の見境が無くなり目の前の敵を倒す事しか考えられなくなる。ヒルディのLvは6と既に半分を超えている状態だ。通常時よりもかなり判断能力が低下してしまっていると予想できる」


 判断能力の低下には個人差があるからLv6でも仲間の区別や作戦遂行は出来たのだろう。

 しかし実体と見間違うほどの【幻覚】を区別できる程の判断能力は無くなっていたのだ。


「ヒルディの相手にウルカを指名した。それは誰でも良かったわけじゃない。ヒルディが相手だったから勝てる策があった。言い換えればヒルディの強さはまだレベル差のある相手であっても負けるレベルだって事だ」


「待って下さい。もしヒルディが【狂気化(バーサーク)】を使わなかったら……使っていてもLv6でなければ副団長は勝っていたんですか」


「そうだな。だがウルカとの摸擬戦が決まって全員がウルカを侮り、ヒルディが負ける事はないと決めつけて、この摸擬戦は一体何のために行うかを考えたんじゃないか?」


 ヒルディはずっと顔を下げっ放しだけど始まる直前まで話をしていたメンバーが下を向いたので間違っていない様だ。


「そう考えた相手の思考は簡単だ。自分をどうやったらよりアピールする方法を考える。そしてその候補は三つ。速攻での決着、相手の攻撃を全て躱して余裕を見せての決着、全開で戦って圧倒的な決着をつける」


 もう分かるだろうけど一つ目は開始早々の必死の跳躍、二つ目は周りをまわっているだけで一向に攻めないで潰している。

 そうなったらもうヒルディの取れる手段は全力で戦うのみ。

 Lv6で戦うのはほぼ間違いなかった。


「その予想が外れたら素直に負けを認めてウルカを助けに入るつもりだったけど予想以上に踊ってくれたよ」


 もはや『紅蓮の乙女』に言葉を発せられる者はおらず、みんな沈んだ顔になっていた。


 ……ちょっと厳しく言い過ぎた?


 なんか次の話に移れない雰囲気になっちゃってる。


「そういう訳で君達の強さの概念は一方向しか見ていないものだというのは分かってもらえたと思う。でも弱い訳でもない。これから君達にもウルカと同じように個人の力にあった方向で鍛えていくつもりだ」


「「「…………」」」



 ……流石にこの雰囲気のまま話を進めれなさそうだ。


「今後どうするかは後日改めてという事で、今日はゆっくり考えてくれ」


 そういって今日はこのまま解散にした。





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