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70話 強敵

 変異種オークのザダを倒した後、エリティアが戦ったというジェネラルオークの素材も回収した。

 戦闘跡はまるで大量殺戮現場で少しエリティアに刀を勧めた事を後悔したことは秘密だ。


 そこから更に軍勢が進行していた道を歩いている。

 この場には魔法攻撃の雨で大部分を屠った魔物の死体が所狭しと転がっていた。


 この辺りはまだ隊列の前線なのでゴブリンの数が一番多い。

 ゴブリンは"火の矢"で殺したので死体には身体の一部が焼け焦げているだけで、ほとんどそのままの姿で死んでいた。


 それから肉が焼けた匂いも辺り一体に立ち込めている。

 肉が焼ける臭いというと食欲をそそる臭いを想像するだろうけど、全くいいものではなく元からの体臭と合わさって鼻を摘ままないと我慢できない匂いが充満していた。


 ……訂正、こっちのがもっとやばいよな。


「ゴブリンの死体がこんなにあっても素材は使い道がないのよね」


 そんな死臭になど気にした様子もなく、エリティアはどんどんとゴブリンの死体を踏み越えて先へと進んでいっている。

 スキルに悪臭を防止するものはなかった。

 エリティアも同じ臭いを嗅いでいる筈なのに全くの無反応だ。

 戦場に訪れた場数の違いというのか、死臭に対しての感覚が麻痺しているように思う。


(俺もいずれこの臭いを嗅いでもなんとも思わなくなるのだろうか?)


 それでも今はまだこの臭いには全く慣れないので意識を逸らすべくエリティアの話に乗っかった。


「ゴブリンの素材は本当に使い道はないのか」


「肉は食べられるものじゃないし、皮も薄っぺらですぐに痛むし、骨は柔くて武器には使えないって三拍子揃っているのがゴブリンの素材の評価よ。冒険者ギルドでも一番討伐報告の多い魔物だからどうにか使えないか模索したけど結局使い道は見つからなかった。今では右耳を切って討伐確認するだけで、死体はゾンビにならない様に燃やすわね。仮に死体全てを持って行っても処理するためにお金が取られるから」


「金を取られる。……それは本当に使い道が無さそうだな」


 これだけ転がっているのに全部ゴミか。


「素材の価値でいえばオークの方が断然いいわよ」


「上位種も含めてほぼ全部の部位を取ったもんな」


「ただのオークも肉が食用になるのよ。味の保証は料理人の腕次第だけど」


 オークの肉は市民の店では一般に販売されていた。

 苦笑したのは当たりの店とはずれの店を体験したからだろう。


 あと骨は出しを取って豚骨スープに、更に耳も独特の歯ごたえで食べれるそうだ。


「サイクロプスとトロールの素材は?」


「サイクロプスは爪や牙が武器の素材に、トロールの皮膚は錬金術の素材として高く買い取っていた筈よ」


 素材のレア度は大したことがないそうだ。

 この素材で作れても精々Dランク冒険者ぐらいの装備しか作れない。

 そもそも鍛冶師も錬金術師もいないから持っていても当分はお蔵入りになってしまう。


 食料で使えるオーク肉の方を優先するべきだな。

 流石のアイテムボックスもこれだけの量を一度に入れると容量が埋まってしまった。

 なのでエリティアの話を聞いて優先度をつけて必要な物だけを持って帰る事にする。


 死体がゴブリンの集団からトロール、そしてオークの集団へと変わっていく。

 もうすぐ目的地に着きそうだ。


 ここへ来た理由は既にみんなに公言したように変異種オークが捕らえた人間の救出だ。

 変異種オークのザダが誕生したのはユクスが魔王ブローと戦った後の終戦前の事である。

 それから成長して群れのボスとなり力を付けているうちにエリカーサ王国は陥落しまい、国取りに出遅れた。

 でもその後の混乱中には活動はしていた。


 ザダは魔王ブローに対抗心を燃やして魔王ブローのように人間を多く捕まえて自分は魔王と対等の立場だと誇示しようとしていたように見える。

 そのため逃走中に近くに通った人間達を必ず襲っていた。


 初期の総数は100体。

 更に広範囲を索敵できる嗅覚。

 地の利は当然魔物側の方が高い。

 そして女子供のスキルと罵ったが、耐性が無ければ【催眠】は捕らえるには非常に脅威となるスキルだ。

 事実、結構な人数が【催眠】によって捕らえられている。


(それとザダが魔王ブローの真似をしたのがもう一つあるんだよな)


 死体の山を越えるとようやく目的の場所にまで到着した。

 先に光景を目にしたエリティアは口元を押さえている。


 ……捕まった人間は予想通りの扱いを受けていたようだ。


 ゴブリンやオークのような魔物に捕まった人間の行く末は決まっている。

 男は殺され、女は苗床として慰み者となる。

 初心者の冒険者でも知っている常識中の常識だ。


 誰もが被害者の居るゴブリンやオークの巣を壊滅させた後に救出作業をすれば精気の失った女性と遺体を嫌でも見ることになる。

 その為エリティアは今回もそういったボロボロに精魂尽き果てたようになってしまった女性がたくさんいる光景を見ることになるのだろう、と予想して覚悟を決めていたはずだ。

 そんなエリティアが思わず口を押えてしまう。


 つまりその予想は見事に外れている訳だ。


 着いた場所は魔法の雨が唯一降らなかった為に円状に安全地帯のような場所になっていた。

 当然中にいた者で被害にあった者はいない。


 元から死んでいた?

 嫌々生きておりますよ。

 それも思った以上に元気だな。


 では一体何に対してエリティアは口を押えるまで驚いたかと言えば……。


「オーク様……オーク様はどこ?」


「ああ……欲しいのにどこに行ってしまったの」


「オーク様、オーク様、オーク様、オーク様」


 彼女達の状態が過去の自分と同じだったからだろう。


 裸、もしくは下着姿の女性達が居なくなったオークを探すような言動をしながら死んだオークから武器を奪っていた。

 その目ははっきりとしている。


「あなた達、オーク様をどこにやったの」


 そして集団の一人がこちらに気づいて声を上げると、その場に居た者達が全員臨戦態勢を取ったのだ。

 普通なら元気で良かったという場面だが、目に入るおっ……首に装着している首輪が事態の深刻さを物語っていた。


 ザダが魔王ブローの真似をしたもの。

 それは魔王ブロー製の奴隷の首輪で捕らえた人間を奴隷にした事だった。


 あの首輪は精神を汚染し、魔族や魔物の認識を狂わせていく。

 彼女達の場合はオーク至上主義といった所だろう。

 俺達を見て助けが来たという感覚はなく、逆にオークの大量虐殺をした犯人としてかなりの怒りを向けていた。


 その反応は魔王ブローを倒した時のエリティアと本当に同じ感じだった。


「まさか魔物にまで広まってるなんて」


「いや、魔王ブローはここの魔物に渡しちゃいない。ただどっかの馬鹿な幹部魔族様がうっかり盗まれて使われただけだ」


「……彼女達は元に戻るのよね」


「そうでないと困るよ。だから全員なるべく傷つけないように気絶させていくぞ」


「分かったわ」


 彼女達は質問に対して何も答えない俺達の反応に痺れを切らして敵と断定して襲い掛かってきた。




 ◆




 総勢30名の捕虜が襲い掛かってくる。


 武器は周りに転がっている(オークの)死体から掻っ払った最低品質の物を使い。

 装備は薄い下着か無しと防御力完無。


 だが『紅蓮の乙女』の技術は王国仕込みの洗礼された戦術を使い、集団での連携は魔物の比ではない。

 一人一人が狙いを定めさせない様に絶妙な時間差を仕掛けてくる。


 更に『紅蓮の乙女』以外も凄い邪魔なタイミングで攻めてくる。

 『紅蓮の乙女』に攻撃する威力で攻撃を当ててしまうと死んでしまう恐れがある所為で無意識に攻撃の手が止まってしまうのだ。


 だから気絶を前提とする戦闘はザダとの戦闘以上に苦戦を強いられた。


 何よりも俺にとって障害となったのは、


 ポヨ~ン。


 ポヨ~ン。


 ペッタ~ン。


 女性達の装備は下着もしくは無し(・・)だ。

 つまり裸である。


 この世界の女性は理由は分からないが、みんなスタイル抜群な明眸皓歯(めいぼうこうし)な女性ばかりでボボンッ、キュッ、ボンもしくはボンッ、キュッ、ボボンッと出る所が出ている。

 相手を見ようとすれば必然的に目がいく。、


 ポヨ~ン。


 女性達は羞恥が欠落しているかのように視線が言っても隠す素振りがない。


 ポヨ~ン。


 特に絶妙な連携で避けきれず攻撃を受け止めたりすると目の前でボリュームたっぷりに揺れ動く。


 ポヨ~ン。


 取り押さえようとなんてすれば全くの無防備な柔肌に直に密着することになる。


 ペッタ~ン。


 男であればついつい目が入ってしまうのは仕方のない本能だった。


「随分と苦戦を強いられている様だから心配したのに……攻撃の手が緩んでしまうほどにお好きなのね」


「んっ!? 待ってくれエリティア。これは男として最早条件反射で」


 ポヨ~ン。


(駄目だ。誘惑に抗おうとしても意識が、つい目が追って……)


 ゾクッ


 いや駄目だ。目を逸らして……下半身の動きを見れば何とか。


(って! 下半身はもっと駄目だろっ!)


 ペッタンコ。


 ちょくちょく凹凸が見られない女性が出てくるのが、集中力をかなり削られる―――ッ!!


 ポヨ~ン。


 ポヨ~ン。


 ペッタ~ン。


 そんなこんなで色々な苦難を乗り越えてどうにか全員を気絶させた。


 ――――戦闘が終わった後にエリティアから暫くの間、白い目で見られた。




「……それでどうなったんだっけ?」


「その後、気絶した全員をアジトに転移させて、そのまま休まずに全員の奴隷の首輪を外す為に浄化魔法を使ったのよ」


(ああ、魔力はかなり上がったから一遍に行っても何ら問題ないと思ったんだよな)


 最悪足りなくなったら魔力ポーションを飲めば回復できる。

 気絶する可能性は低かったはずなのに。


「裸の女性ばかりに意識が行って魔力量の確認を怠ったからでしょ」 


 記憶に全くございません。


「……とにかく心配をかけた見たんだな。もうこういう無理はしないようにする」


「そうよ。いくらレベルが上がったからって慢心は絶対にダメよ」


 気絶している間、フィルティアやウルカも付きっ切りで看病してくれていたらしい。

 調子に乗ってみんなに迷惑をかけてしまったと頭を下げて謝った。


 それでどれだけ寝ていたのかというと、三日経過していた。

 初めての魔力切れが6時間だった所を考えると回復に時間が掛かってしまっていたようだ。


「助けた女性達は?」


「タスクが寝ている間にみんな目が覚めて全員に状況説明を済ませてあるわ」


 それじゃあ全員正常に戻ったって事か。


「そうか。なら……」


「タスクが起きた事をみんなに伝えて集まっている所だから早速彼女達に会いに行きましょ」


 俺が話す必要もないしこのままもう少し寝ても、って言おうと思ったけど流石にできませんね。

 みんなの前に出て話をしないといけない感じか。


(話す内容は決まっているけど心の準備なしかぁ~。まぁこれも全部自分の所為だけど)


 それからもう一つ気になる事が、


「それじゃあ私は先に行くわね」


「その前にエリティア。その格好は?」


「………………似合ってないかしら?」


「いや物凄く似合ってる」


 そう言う事じゃなくて三日前まで服は無地のTシャツや短パンもどきの質素な物だったよね!?


 衣服はフィルティアが仕立ててくれているけど無地のTシャツみたいな物しか作れなかったはずだ。


 それなのにエリティアの服装は色が赤とオレンジと多色で鮮やかな華美な服を着ていた。

 レースやフリルもあって女性の服として数段飛ばしでクオリティーが上昇している。


(……色合いもさることながらエリティアのナイスバディなボディラインを強調するような作り。女性の引き立て方を理解していなければできない衣装だ)


 エリティアの魅力がぐっと上がって、文句は全く無い。


「ありがとう。じゃあ先に行くわ」


 エリティアはそういって行ってしまう。


 この三日間で一体何が……。

 急に発展した衣食住の衣に俺は戸惑いを隠せなかった。

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