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6話 敗北した異世界

ここからは飛ばさないで下さいね。

本名遂に登場です。

 見つけたのは偶然だった。


 その世界のプロフィールは、他の世界のプロフィールに比べると、伝わってくる印象が大分異なっていた。


 今までのプロフィールは、良質な奴も悪質な奴も総じて「来て欲しい」という感情が、文章に表れている物であった。

 しかしこのプロフィールからは丁寧に書いているものの、どこか申し訳ないと言われているような印象を受け取れた。

 それが逆に絶対に開けてはいけないと言われるとどうしても開けたくなるのと同じように俺の好奇心を刺激して本能的に詳細をタップさせた。



 その世界では、人族、エルフ族、ドワーフ族、精霊族に、それから数は少ないが多種多様な獣人族の村々が加盟してできた連合軍対、魔族とその眷属とされる魔物の軍勢との戦争が数百年にも渡って続いていた。


 戦争の始まりは、魔族の娯楽からだった。

 種族の中で身体面でも魔力面でも秀でている魔族は戦闘、殺戮、蹂躙と戦うことを好む種族で、何かあればすぐに戦いをしたがった。


 それが戦争が始まる数年前から過激化した。

 特に弱者が苦しむ姿を見るのを好む欲求を満たすために面白半分で村を焼いたり、魔物を差し向けて襲わせると言う行為が繰り返されるようになっていった。


 最初の頃は他の種族達は魔族の行いを我慢していた。


 これは一過性の物ですぐに収まるだろう、と。


 しかし被害は年々増加の一途を辿り、特に被害の最も多かった人族が魔族の蛮行を我慢できなくなった。


 魔族の行いに対抗するための部隊の設立、魔族に唆される民の減少目的での宗教活動、魔族の国内への入国の禁止等々あらゆる手を使った。

 だが魔族は寧ろその抵抗を面白がるばかりで成果は見込めなかった。


 人族だけでは魔族に勝てないのは明らか。


 そこで同じ被害に遭っている他の種族にも魔族に対抗してもらうように共闘を呼びかけた。

 魔族の暴虐非道な行いには他の種族も困っていた為、この人族の呼びかけに多くの種族が賛同した。

 そして魔族以外の全ての知性ある種族が結託して連合軍を設立し、魔族の討伐に当たったのである。


 他種族協力の魔族対策は上手くいった。

 被害の減少だけでなく、今までは追い返すのがやっとだった首謀者の魔族を討ち取る事までできるようになったのだ。

 これには連合軍も喜び、このままいけば魔族の脅威はまたなくなる、そう思われた。


 しかしそれはつかぬ間のほんの始まりにすぎなかった。


 今まで自分達よりも弱かった存在がいきなり手を組み、自分達の趣味を邪魔された。

 その事を魔族達は当然良しとはしなかった。


 魔族達にとって他種族は自分達の劣化版。

 他の種族は出来損ないの下等種族であり、最も高貴なのは自分達魔族だという考えが魔族では広がっていた。

 下等種族は所詮自分達の「おもちゃ」であると。

 そんな下等だと思っていた対象が、突然団結して自分達に対抗してきた。


 それも自分達の仲間を何人も殺しにかかっている。

 いうことを聞かないペットが人を襲ったらその動物を人間はどうするだろう?


 答えは簡単だ。

 殺処分、又は調教。

 どちらにしろ。もう二度とに人間を襲わないようにするだ。


 それと同じ事を魔族は考えた。

 もう放逐で生かすのを止めて管理して魔族の支配下に置いてしまおうと抵抗に対する報復が始まる。


 こうして魔族は今までの行為が遊びであったという事を連合軍に知らしめるような強襲を仕掛ける事となる。

 これまでのような気分で襲うだけの嫌がらせはしなくなり、より効果的な略奪や侵略行為を行い始めたのだ。更に魔族同士で協力し合って攻めてくることも増えていき、一種族だけで他の種族を圧倒していった。

 特に手に負えないのは、魔族の中の王、魔王と呼ばれる個体が絡んでいる場合だ。

 魔王は普通の魔族より強いだけでなく、結束力のないはずの魔族を纏める力を持ち、魔族軍を作り上げて行動する。

 魔王がいる群では単独で動く魔族の各個撃破が出来ないのだ。


 更に悪い事にこの世界の魔王は一体だけではなく、複数体存在している。

 一体の魔王でも手に負えないのに同時に何体も相手にできる力は連合軍にはなかった。


 幸い、魔王同士での結託はなかったため、どうにか劣勢(・・)という状態で踏み止まれてはいたが、着実に魔族に領土を奪われていった。


 そんな連合軍がどうやって数百年もの間、魔族との戦争を続けられたかと言うと、勇者と呼ばれる魔族の弱点である光の力を授けられ、人族とは思えない飛び抜けて優れたステータスを持った人間が生まれたからに他ならない。


 初代勇者は自分を筆頭に各種族から実力者を集めて勇者パーティーを編成すると、窮地にあった連合軍の前線で魔族を圧倒していく。

 瞬く間に奪われた領地を統べる魔王を次々に討伐。

 領地を取り戻して窮地に陥っていた連合軍の戦局を巻き返した。


 だが勇者と言っても万能な神ではない。

 寿命で、病気で、力尽きて、と様々な原因で死ぬ人間である。

 どれだけ強かろうと魔族を全滅させる前に夢半ばで命を終えた。


 それと連合軍が戦争で勝てなかったのは勇者は一人ずつしか誕生しないから。

 初代勇者の死後も勇者は生まれたが、現在の勇者が死亡しないと新しい勇者が生まれる事はない。


 一世代に勇者は一人だけ。

 勇者の死後、新しい勇者は誕生するが、何年後に誕生するのかは不明で、すぐに戦える訳では当然ない。

 その間は勇者無しで連合軍は戦わないといけない。


 情けない事に勇者を失った連合軍は再び魔族に劣勢となると、奪い返した領土を再度奪われていき、次の勇者が誕生する頃には、また窮地に立たされている状態に戻っている。

 勇者のいない間に魔族が連合軍を窮地に追い込み、勇者が盛り返していく。

 詰まる所、連合軍対魔族軍の戦争はその繰り返しだった。


 そんな戦争が一年程前に突然終戦を迎えた。


 理由はとても簡単だ。

 今世の勇者が、魔王に破れたからである。


 ……いや、この表現では適切ではない。

 正確には"今世の勇者が魔王を一体も討伐できずに敗北した"だ。


 前線を盛り返す事が出来ずに連合軍の頼みの綱が切られた。

 その衝撃は凄まじい。

 当然の反応だが数百年と続いたと言っても要は勇者が互角に持っていっただけで連合軍自体は常に敗北続き、勇者がいなければ何もできないと言ってもいい。


 勇者の敗北の知らせで、連合軍は一気にその形を崩壊した。

 既に勇者がいない期間を耐えてきて、「ここから形勢逆転だ」、「攻勢に出れるのだ」と、信じていた連合軍の心を折るには十分すぎる。

 最早これ以上の抵抗をするだけの力は残っておらず、攻め寄せる魔族を止める術はなかった。


 特にその傾向が強く出たのが、勇者に頼りきりであった人族で、敗戦を悟って逃げ出す王族、貴族が続出し、統治者のいなくなった領地が無抵抗に次々と魔族に支配されていった。


 人族は連合軍全体の半分以上の人数を占めていた為、人族の機能停止は戦争全体の人員不足に繋がる。更に勇者は人族からしか生まれないので、次の勇者の誕生する可能性も潰された事を意味し、勇者敗北から僅か一月足らずで数百年続いた戦争は魔族軍の勝利で幕を閉じた。


 そしてそれから一年の間に人族の領土は全て魔族の支配下となり、『力ある者が絶対』という魔族の考えの元、人間達は魔族の奴隷となった。




 まるで少し長い映画の冒頭の様な簡潔かつ要点を纏めた魔族に支配された経緯が終わる。


 詳細はまだ終わっていない。


 ここから、話は戦争から戦争後の話に進んでいった。




 映し出されたのは、人族の国の一つで旧エリカーサ王国の王都。


 この王都はただの一国の王都ではなく、戦後前まで勇者排出国として、他国から多額の援助金を受け、人族で随一の発展を遂げた国である。


 まだ戦争が続いていた頃は、街は連日祭りの様な賑わいを見せ、数多くの商人が行き交い、住民は皆笑顔溢れる素敵な街として他国にまで噂される程に素晴らしい街だった。

 そんな人類一の城下街も新たな支配者が納めたから見る影もない程一変した。


 まず視界に入ったのは一匹のオークのような豚顔の魔族とそのオークもどきに鎖を繋がれてヨロヨロと引き立てられる女の姿だった。


 女性は間違いなくこのオークもどきの奴隷だろう。

 ブヒブヒと息を吐きながらオークもどきは、太い鎖を握って得意げな顔をして街の中を歩いている。鎖の先端は女の首筋にはめられた首輪に繋がっている。


「ぶひひひ、おら、しっかり歩けっ」


「くあっ」


 ジャラジャラと鎖の音を立てながら乱暴に引っ張られ苦しそうな声を上げても、女はオークもどきに抗う術はない。

 外見からはスポーツ選手のような引き締まった身体をしているが、武器もなく、両腕が後ろで縛られていてはどうしようもない。


「く、くそったれ……うぅぅ!」


 それだけではない。

 女の格好は身体の大事な部分を最小限にしか隠していない非常に面積の少ない衣装を身に纏っていて、無暗に歩けば途端に色々な物が見えてしまうのではないかと思わせる。

 あれでは満足に歩く事もできないだろう。


「なんだぁ? もう歩けなくなったのか?」


「だ、だってっ……くむぅっ!」

 

 口答えをしようとした女に向かってオークもどきは鞭を取り出して女を力一杯叩いた。

 露出の多い衣装の女に鞭から守ってくれるものなどなく、女の柔肌に直撃して赤い筋を作った。


「だってじゃねえんだよ。てめえの今日のご主人様は俺だ。歩けと言ったら這い蹲ってでも歩くんだよ」


「くぁう!」


 二度、三度と更に鞭を当てられて苦しむ女。

 しかし通行人は誰一人として彼女を助けようとはしない。どころかまるで興味もなさそうに素通りしていく。

 その理由は他の方向にも目を向ければすぐに理解できた。


「ひぎいぃ!」


「痛いですっ! やめて下さいご主人様」


 この女が特別なのではない。

 至る所で鎖に繋がれた奴隷の悲痛な声が聞こえてくる。

 この街ではもうこの程度の行いは普通の風景としての出来事になっているのだ。


 そのことを理解した所で映像が移動して街中の大きな建物の中に入っていった。

 扉から入って右手には丸い木のテーブルと椅子が並んだ酒場、左手には学校の黒板サイズのボードが置かれている。しかしボードの方は張り出すものがないのか用紙は一枚も貼られていない。反対に酒場の方はまだ昼なのに酒盛りを行なっている。

 その光景は、既に従来の役割から外れたものとなっているのを分かりやすく伝えてくれた。


 この建物は、冒険者ギルド。

 本来なら昼間から酒盛りする様な者はおらず、ボードには数多の依頼書が貼り出され、その前で冒険者パーティーがどの依頼を受けようかと相談する様な場所だ。

 だが今のギルドではもう冒険者の依頼など行ってはいなかった。


 そしてその二つの中央にあるのが、受付カウンター。


 受取カウンターに愛想のいい笑顔を浮かべて座っている女性の名はリンス。

 このギルドの受付嬢の一人で、勇者の冒険者登録を行った女性だそうだ。性格は穏やかで優しく、気配りもできて、男性冒険者からギルドのアイドルとして人気があった。


 だが現在、彼女が相手をしているのは、人間の冒険者などではなく体格が2倍はあろうという牛の顔をした魔族。


 それも険悪な雰囲気が漂っていた。


「おい、奴隷がいないとはどういう事だ!」


「で、ですから只今ギルドで扱っている女性奴隷は全て出払っているんです。男性の奴隷でしたら余っていますが」


「だから肉壁が欲しいんじゃねえんだよ。必要なのは隣町へ行くための荷物持ちだ!」


 それなら尚のこと男性の方が適任だろう。


 いや、みなまで言うな。分かっている。これはあれだろ? 要求は荷物持ちでも本当にこの魔族が求めているのはそんなんじゃないって言いたいんだろ?

 男が駄目で、女がいいなんて言っていたら魔族の要求している物が何なのか簡単に想像がつくよ。


 ギルド側だってその事には気づいているはずだ。

 しかしリンスさんは暴言に対して反論することなく、脚を震わせながらも笑顔を崩さないように必死に耐えていた。


 魔族に占領されてから冒険者ギルドは、魔族の眷属である魔物の討伐を禁止され、魔王によって全く違う組織へと作り変えられた。


 今の冒険者ギルドを魔族達からはこう呼ばれている。


 "奴隷斡旋所"

 奴隷斡旋所とは、奴隷を持たない下級魔族でも金品を払う事によって奴隷を借りつけることが出来る場所の事で、魔王はギルドに設置されていた冒険者登録機能をそのまま奴隷名簿として使用し、登録されている人間を魔族が日雇いて雇えるシステムの事だ。


 魔王ブローは冒険者ギルドを奴隷の管理するための道具に変えた。

 だがその冒険者登録のシステムは魔族側にはない技術だったため魔族達では管理ができず、リンス達ギルド職員を魔族の奴隷にする代わりに、奴隷斡旋所の管理に任命した。


 仕事内容は、奴隷として買われて泣き叫んで抵抗する同族を無理矢理に魔族に受け渡す作業。

 最初に見たオオークもどきに鞭を打たれた女性やギルドの門を潜る際にすれ違った娼婦と見間違うような卑猥な装備を装着した女がまさにこのギルドで管理されていた女冒険者なのだろう。


 注文数は、圧倒的に女性に多く、特に見目麗しい女冒険者を注文しようと魔族達は毎日の様に訪れる。

 それも目の前にいる魔族同様、男性冒険者でも構わないようなどうでもいい仕事内容なのに女性冒険者に拘るようなお客様(?)が買っていき、数日後には明らかに仕事内容では起こり得ない状態で戻って来る。


 そして受付で最も困るのがこの魔族のようにいないと言っているのに納得できずに居座り続ける相手だ。

 いくら頼んでもいない者はいないのでどうしようもないのにな。


 だがこの日は違った。


「ですから女性冒険者の空いている者は居ないのでこちらではどうしようもなく」


「……いや、居るじゃねえか。お前だよ、リンスちゃんが俺の荷物持ちになればいい」


 あろう事か、自分の目の前で女冒険者の品切れを喰らった魔族はとんでもない要求をしてきた。

 彼女達ギルド職員は、奴隷斡旋所の運営をスムーズに進めるべく貸し出しの一切が禁止になっている。

 これは正式に決められた事である為、リンスさんも一瞬顔が真っ青になったが、そのことを理由に断ろうとする。


「っ!? わ、私達ギルド職員は、貸し出しできない決まりになっていますので」


「なら、ギルド長に話をさせろ」


 だがこの魔族はそれで引き下がらなかった。

 リンスさんは怯えながらも制止させようとするが、魔族は無理矢理にギルド長の部屋へと乱入していき、「なんだ君は」というギルド長の声が聞こえた後、数分間、明らかに話し合いでは聞こえないような音を響かせてから、魔族はボロボロになったギルド長の首根っこを掴んで出てきた。


「OKだとよ。これでお前は今から俺様の荷物持ちだ」


 牛の顔で傲慢な笑みを浮かべて勝利宣言をする魔族の言葉に、リンスさんは確認を取るようにギルド長の方へ顔を向けた。


「ギルド長……嘘ですよね?」


「……すばないリンスざん。……彼の仕事は2日だけで終わるらしい。その間の君の仕事は余っでいる人間で埋めるがら……だから君はこの魔族様の依頼を受げてくれ」


 完全に抵抗することを諦めて魔族の言いなりになっているギルド長の言葉にリンスさんは顔を真っ青にさせる。


 今リンスさんの頭に浮かんだのは、これまで自分が魔族に預けてボロボロになって帰ってきた女冒険者の姿。その姿が自分の未来と重なり、


「そんな……いや、いやぁぁぁーー!!」


 恐怖からその場から逃げ出そうとした。

 しかしそれを他のギルド員によって止められた。


「離してっ! いやっ! 離してくださいっ!!」


 今まで自分がしてきたのと同じように抵抗するリンスを他のギルド職員が抑え込んで魔族に渡される。

 これから二日間彼女に何が起こるのかを理解している周りのギルド職員は俯いているが、誰も助けようとはしない。

 魔族は笑いながらリンスを掴みギルドの外へと連れていき、リンスさんの悲鳴がギルドに出てからもしばらく続いた。


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