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67話 ジェネラル 後編

 前衛3体のジェネラルオークが攻撃を仕掛け、最も防御力の高かったシールダーのブダとオークの軍勢のナンバー2のギダが瞬く間に死亡した。

 残っているのはモンクのドダだけ、前衛の立て役が一気にいなくなり編成に偏りが出来た。


 それでもオーク達は闘志が衰える事無く攻撃を止めなかった。


「炎付与、【効果上昇】、【範囲拡大】"フレイムアロー"」


 ギダが斬られてすぐにジェネラルオークアーチャーのベダがオークにしては珍しい補助魔法で矢に炎を宿すとスキルで攻撃力と攻撃範囲を拡大させる。

 その威力は上級魔法に匹敵し、死角からエリティアを襲う。


「フゥ……」


 その攻撃をエリティアは一瞥すると、特に焦る事も大きく避ける事もせずに散歩でもするかの足取りで矢に向かって歩みを進めると近づく矢の一本を斬り飛ばした。

 まだ矢はたくさん向かっている。

 しかしその一本を除く他の矢は全てエリティアに当たることなく通り過ぎていった。


 斬り飛ばした矢に付与された炎がエリティアの周囲を焦がしている中、グダが腹部へと槍を突き出す。


 槍の攻撃への対処は最も得意にしているエリティアに体勢を崩す事もなく突撃した。

 当然、槍はエリティアに当たる事はなかった。


「邪魔よ」


 エリティアはグダに対して一切の興味も示さず、一刀のもとに首を斬って絶命させ、


「ごはぁ」


 同時に反転して【影隠れ】で近づいていたドダの腹部を峰でバットで殴る様に叩いて大きく吹き飛ばした。

 そのままドダはベダの攻撃で当たらなかった矢が作った炎の中へと突っ込んで悲鳴が上がる。


 ドダは自分の位置が何でバレたのか、あんな細い武器でどうやって自分を吹き飛ばせるのか、自分の傷はどれほど酷いのか。

 それらすべてを考える暇もなく炎の中から回転するように転げ回って身体に引火した炎を消した。


 炎で身体は焼け焦げになり、肋骨部分が折れたのかドダは立ち上がれない。

 吐き気を催すと口からは大量の血が流れ出てきた。

 斬られなかったため、一撃を受けても絶命する事はなかった。

 しかしその一撃で半死半生状態にまで持って行かれていたので戦闘復帰は不可能だった。


 これで4体。

 ギダ達はエリティアを強者と認めて戦っていた。

 それでもその強さは自分達よりも強いと認めても自分達の王よりも弱いと判断した。


 実際は【催眠】に依存し戦闘不足な変異種オークよりもエリティアの方が接近戦闘は数段強いのに――――。


 その結果、7体で一斉にかかっても一方的にやられている。

 自分達の認識が完全に甘かったのだとここに来てようやく気がついた。


「前衛1体、中衛1体、後衛1体。バランスよく残ったわね」


 エリティアは既にドダが戦える状態でないことを見抜き、ドダはもういない者として残った三人に向き直った。


 ベダは既に先程自身の最も強い技を難なく回避されてしまった。

 自分では致命傷になる攻撃は無理だと判断した。

 そこで攻撃がまだ通る可能性の高いドダとダダを守る様に注意を引き付ける意味も込めて再び矢を放つ。

 しかしいくら放ってもエリティアには一撃も当たる事がなかった。


「鬱陶しいわ」


 エリティアはいい加減避けるのにも面倒になってベダに向かって刀を振るった。

 その行動に飛ぶ斬撃を想像し、ベダはすぐにその場から離れる。

 だがベダの視認速度を上回り、逃げる速度に追いつくと、エリティアの斬撃はベダの首を容易く断った。

 ベダは確実に攻撃を読んだにも拘らず攻撃を喰らった事を理解できないまま首を失った胴体から血の噴水を吹上げて血の海に崩れ落ちた。


「うおおおっ!」


 ドダが叫びを上げて突き進み、再び"クラッシュナックル"を使う。

 この技は既にエリティアに躱されている。

 無謀な特攻だがドダは一切の迷いなくエリティアに向かっていく。


 間合いに入ってきたドダにエリティアは余力十分に刀を振るう。

 ドダの拳はエリティアの身体をすり抜けたと錯覚してしまうほど見事に空振りに終わり、エリティアはドダが視認できない死角に回り込むと一刀でドダの強靭な肉体を両断した。


 ドダを斬った刀を鞘へと戻すと、遅れてドダの身体が別れて倒れていく。


「……さて、あなた達が自分の死を覚悟して残したのが、その技という事なのね」


 6体のジェネラルオークが戦い、そして散っていった中、一体だけ初動を起こしてから一切戦闘に参加していなかった者がいた。


 ジェネラルオークセイバーのダダは持っている大剣を振るう。


 他のジェネラルオークと比べてその表情には余裕が見て取れた。

 ダダは身体強化とは別の方法で爆発的に力を上げた。


 その対価が発動までの時間と……自分の寿命である。


「ソウダ。ソシテ俺ノタメニ死ンダ者達ノ仇ヲ打ツ」


「……あなたも喋れたのね。いいわ、パワーの上がったあなたの力を見せてみなさい」


 ぐっと踏み込むダダに対し、エリティアは一歩も動かない。

 ダダは走り出す。オークとは思えぬ足音を感じさせない軽やかなステップ。

 確かに先程までのオーク達と比べて速度は速い。

 とはいえまだエリティアには対応できる比較的楽な速度である。

 このまま刀の間合いに入ればドダと同じように一刀の元に切り伏せられる。


 だがダダは刀の間合いに入る直前に急ブレーキをすると、


「『バーニングクラッシャー』!」


 魔法を発動させた。


 『バーニングクラッシャー』は中距離の斬撃系の魔法。

 エリティアの"飛鳥"の魔法版のような攻撃だ。


 その攻撃を完全に突っ込むことに意識がいってしまっているタイミングで至近距離から放つ。

 エリティアであればこの魔法だけでは効果はないだろう。

 しかしこの魔法の後に間髪入れずに自分が連続攻撃をすれば防御せざる負えなくなる。

 そうなれば体格で優っている自分の方が勝てると思っての攻撃だ。


 ダダの思惑通り普通であればいきなりのオークが突っ込んで斬るのを止めて魔法攻撃を放つという状況になれば不意を突かれて回避は間に合わず、追撃も受けていただろう。

 しかしエリティアは魔法による攻撃を放たれる前に既に回避行動に入っていて効果範囲ギリギリ外側を抜けていった。

 まるで最初から相手が魔法で攻撃してくることを分かっていたかのような反応の速さである。


「……中距離魔法は視界から相手を見失いやすい、喰らえばいいけど避けられたら立場は一気に逆転されるのよ」


 エリティアは不意を突いて受けると決めつけているダダに注意をした。

 ダダは攻撃を避けて反撃に転じるまでの早さに面食らう。


 急いで攻撃から防御へと身体の動きを変えることに全力を注ぐ。

 それでもエリティアの攻撃を防ぐには遅すぎた。


 大剣の防御は何とかダダとエリティアの間に持って行くことには間に合ったが、その剣には力も技術も何も注がれていないただの鉄の壁でしかなかった。

 大きさは半分、太さは4分の1しかない刀が大剣をバターのように切り裂いた。


 そしてそのまま大剣に続いてダダも斬りにかかる。

 だがダダは斬られる事はなかった。

 防御に廻した大剣ではエリティアの攻撃を受けることは出来ないという事を理解していたので斬られる大剣を手放して後方に飛んだのだ。

 お蔭でダダは生き残る事に成功した。


「いい判断ね。もし大剣を手放していなかったらあなたも他のオークと同様一刀で殺されていたわよ。……でも得物を失った状態でこれ以上戦えるかしら」


「……戦闘ヲ放棄シテ見逃シテモラエルノカ」


「無理ね。言ったでしょう。その線を越えたら殺すと。あなたはここで殺すわ」


「ナラバ戦ウシカナイダロウ」


 ダダは戦闘継続を決意する。

 エリティアはそんなダダの反応を喜んだ。


 今の一撃でエリティアはダダを仕留めるつもりだった。

 しかし仕留め損ねてしまった。

 もう一度立ち合いたいという気持ちを持ったが、相手が戦意喪失していては意味がない。


 エリティアは刀を鞘にしまう。


(さぁ、もう一度斬り合いましょう)


 ダダは拳を握り込んで構えを取った。

 しかし今度は仕掛けてくる事はなかった。


 ダダは拳を握っていた手を僅かに開いて、かかってこいと挑発した。


 今までの戦闘は全てエリティアに攻撃を仕掛けて攻撃を破られた隙をつかれて殺されていった。

 だから今度はエリティアに攻めさせてみようと判断したのだ。


 エリティアはすぐにそのことを理解して一歩前へと歩を進めた。

 先程までの戦闘を動とするなら、今の戦闘は静のイメージを受ける。

 エリティアはまた一歩進み刀の間合いにダダが入った。

 だがまだ刀を抜かない。


 更に一歩踏み込む。

 ダダの射程圏内にも入った。


 そこでようやくエリティアは刀を抜いた。

 上方へと振り上げて振り下ろす。……その前にダダは刀の刃を殴った。


「っ!?」


 刀の刃を拳で殴る。

 当然、拳の方が斬られるが、力を籠める前に殴った事で両断する前に刀が止まった。

 自分を殺す武器を防いだのだ。


 そうなれば残るのは非力な人間の女だけ。


 ダダは勝利が見えた。


(……なんだ)


 だがその瞬間、ダダの視界は空を見ていた。

 エリティアはどこにいるのか分からない。

 ただ視界の端に見なされた刃物の姿が捉えられた。


 そして身体に熱い一線を感じられた。


(……あぁ、そうか。斬られたのか)


 ダダはそこでようやく自分がエリティアに負けた事に気づき、地面に衝突すると共に息絶えた。


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