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66話 ジェネラル 前編

 オークの軍勢は森林を抜ける。

 敵がいると思われる谷間の入り口へと走った。

 軍の9割の戦死した今もはや隊列は存在せず、てんでバラバラに先行している王を追いかけていた。


 一致しているのは最後まで自分達の王のために死ぬ事のみである。



 だがその足が止まる事となる。


 王と自分達を引き裂くように強大なオーラが叩きつけられた。

 王を除けばベラルーガの森で敵なしの強者であると自負していたジェネラルオーク達すら再び前へと進むのに時間を有した。

 ようやく一歩進んだ頃には王の姿は見えなくなってしまっている。


「ブヒーー(お前達早く王を追うぞ)!」


 ジェネラルオークの一体が未だに動けずにいる後ろの者達に檄を飛ばして追いかけようとした瞬間、斬撃が襲ってきた。

 突然の攻撃だったが戦闘のオークは踏み止まり前方へと着弾しただけに終わる。


 全くの無傷で終わったが、後ろにいる者は何が起こったのか分からず騒めきが起こった。

 攻撃を受けたと分かった者の中には【絶対者にオーラ】を放った相手が現れたと思い腰を抜かした者もいる。

 そして攻撃を認識し、尚冷静に状況を判断できる実力のある者達は攻撃に魔力が宿っていなかったことに気がついた。


 魔力の宿っていない遠距離攻撃で地面を切り裂きた。

 そんな芸当が可能な者はこの群れの中にはいない。


 そもそも斬撃を飛ばす。

 そんな非常識な事が出来るなんて考えもしなかった。


 最も信じられないことは斬撃の後に現れた襲撃者の姿だ。

 自分達よりも非力な種族であるはずの人間だった。


 両腕両脚に黄金の塊を身に付けているかと思えば胴体部分には薄い布一枚というアンバランスな装備を身に纏い、見た事もない平らな細い棒切れの様な武器を所持していた。

 オークからすれば掴めばすぐに折れてしまうという印象を与える程頼りない武器だった。

 オーク達はその女が元勇者パーティーのメンバーだったエリティアである事なんて知らない。

 だが女の纏う空気は――――絶対的強者の風格のようなものを感じ取る事が出来た。


 結果、目の前の敵の評価が各々でバラける結果となった。


 王と同等か。

 弱者である人間が何らかのトリックで強者に見えているだけか。

 人間なのだから弱者だ。


 この時、全員がきちんとエリティアを強者だと認識していたら今後の展開はもう少しましになっていたかもしれない。


「キサマ、何者ダ」


 オークの軍勢の中でナンバー2の地位についているギダが人語を用いて話しかけた。

 ギダはジェネラルオークから更に武器特化したジェネラルオークアックスに進化したオーク。

 魔物では上位個体と呼ばれ、レベルは200超えている上に知能も上昇している。


 ただ上昇した知能でも残念なことに人間という種という先入観が邪魔して相手が書く上だと認められずにいた。


「キサマ、人間ダロウ。ソコヲスグニ退ケ。ソウスレバ今回ハ見逃シテヤル」


「随分と上から目線で話すのね」


「魔族ニ敗北シテ奴隷ニサレテイル人間ハ弱者ダロウ。モウ一度言ウ。死ニタクナケレバサッサトココヲ退ケ」


 ギダの怒声のような命令口調な物言いに、多くのオークが気持ちを持ち直す。

 ナンバー2が相手が弱いと判断した。

 であるならば幾ら強者であるように感じようと所詮は人間でしかないのだと余裕を生んだのだ。


 更に残念なことにエリティアが女であった所為でオーク達はエリティアの事を新しい性処理用の肉奴隷まで考え出す者もいる始末でウォーリアーオーク三体が女の化けの皮を剥ぐべく攻撃を仕掛けた。

 全員が戦士階級で単純な戦闘能力はオーク10体以上ある。


 それをエリティアは一瞬で三体全員の首を斬り捨てた。


 まるで動じた様子もなく、まるで打ち合わせをしていたかのように滑らかな動きで斬った後、無造作に武器を振るう姿にオーク達は数秒反応できずにいた。


 振るった刀についていた血がついていなかったかのように綺麗になるとエリティアはそのまま刀を構えた。

 どう見ても攻撃の構えにオーク達は身構えた。

 特にウォーリアーオーク以下の者達は次の行動に対して恐怖を抱き武器を手にする。


 間も置かず刀は振り被った。

 最初の攻撃と同じ飛ぶ斬撃が放たれたが、オーク達には一切当たらなかった。

 先程亀裂を作った場所と全く同じ位置に着弾すると亀裂が更に大きくなり、エリティア側とオーク側で明らかな線が出来た。


「私は今回全員を殺せとは言われていない。その線からこちら側に来た者だけを斬り殺します。命の惜しい者は今すぐに後ろに引き返しなさい」


 エリティアはその言葉とは裏腹に手を前へと出してかかってこいと挑発する。

 それがオーク達の本能を刺激した。

 代表する様にギダが咆哮を上げる。


「ぶおぶおぉおおおっ(かかれぇえええっ)!!」


『ぶおおおおおおおっ(うおおおおおおおっ)!!』


 心を震わせる咆哮を上げながら全107体のオークの軍勢が死線を越えてエリティアを倒すべく駆けだした。

 逃亡する者は誰もいない。

 圧倒的な数の差に対してエリティアは僅かに微笑んだ。


 だがすぐに表情が曇り、


「……残念だけど全員を一体ずつ相手にする気はないわ。まずその数から減らさせてもらいましょうか」


 エリティアは刀に手をかける。

 その瞬間、ギダを始めとする一部の者達は悪寒に襲われてその場を飛び退いた。


 エリティアの技『神殺刀』

 周囲100メートルが問答無用で上下に分断された。

 射程圏内にあったものすべてが抵抗する暇も与えられずに斬られたのだ。

 強靭で分厚いオークの肉体でも、硬質な武器でも関係ない。

 すべて真っ二つになり、斬られた者達は自分の身に何が起こったのか理解する事が出来ずに身体が上下でばらけて地面に倒れ込むと最早なす術もなく血を吐いて死んでいった。


 100体近くの同時斬り。

 今の攻撃を察知できた者は少なく数の優位が一瞬で脆く崩れ落ちる。


 斬ったのはそれだけではない。

 空気が遅れて斬れていき、真空となった大気が裂け目に流れて悲鳴を上げている様な音を出した。


 たった一振り。

 それだけでエリティアは場の形勢を明白にしてしまった。


「まぁ、こんな所ね」


 エリティアは視界を上へと向けた。

 今の技はエリティアの周囲に横薙ぎ一閃を放つ技だ。

 一瞬で危険を感じて上へと逃げた者は斬撃から難を逃れていた。


 避けられた者はたった7体。


 ジェネラルオークアックス《ギダ》レベル224

 ジェネラルオークアーチャー《ベダ》レベル209

 ジェネラルオークランサー《グダ》レベル207

 ジェネラルオークシールダー《ブダ》レベル205

 ジェネラルオークモンク《ドダ》レベル202

 ジェネラルオークセイバー《ダダ》レベル201

 ジェネラルオークハンター《ドダ》レベル200


 全員が近衛の地位を得ていたジェネラルオークの進化個体であった。


 彼らは仲間達が自分達以外全員死んだと理解すると即座に行動を開始した。


 エリティアに向かって盾と鎧を着たブダが先頭を走り、その後をドダとギダが続く。グダとダダは前衛のサポートと後衛の為に三人の後ろで間合いを取る。

 そして更に後ろにベダとドダが残った。


 まず飛んだのはドダの投げナイフ。

 死角からエリティアの首元を狙って放った一撃。


 それをエリティアは見もせずに半歩引いて避けた。

 まるで既に攻撃が来るのを読まれていたかのように対応。


 次に挑むのは先頭を走るブダが盾ごとエリティアに向かって突進した。

 ブダは盾の技『ライジングシールド』を発動して自身の防御力を上げた。


 対峙するエリティアは真っ向から立ち向かう様に刀を抜き放った。


 オークきっての防御力とエリティアの刀がぶつかる。


 矛対盾の対決は空気さえ切り裂いた刀が盾にぶつかると同時に盾に食い込んでいき、対して時間も掛からずに両断した。

 そのままその先にいる鎧を着ているブダの身体も真っ二つに左右に分かれさせた。

 ブダは信じられないと言った表情のまま地面へと崩れ込む。

 ギダ達はそんな仲間の死に動揺を見せずブダの死体の死角を使ってエリティアに近づいてきた。


「ブオオオ!!」


 モンクのドダが"クラッシュナックル"を発動した右手がエリティアの腹部目掛けて進み。


「ぐおおお!!」


 アックスのギダは筋力と速度を強化して頭部を狙って斬撃を行う。


 ブダを斬って刀は振り終えたばかり、次の攻撃までに時間が掛かるという接近戦の定石を狙った攻撃。

 常人であれば回避不可能なタイミングだ。


 エリティアは刀を戻す柄でドダの拳を横から受けて軌道を反らした。

 ドダはクラッシュナックルを発動したまま身体を止められずに地面に転がる。

 そうしてドダの攻撃をあしらう中、頭部に振り下ろされた斧は攻撃の当たる紙一重の位置を見切ったように身体を動かして回避した。


「っ!?」


「武器を放った瞬間を狙う。狙いはよかったけど、それはあなたにも言える事よ」


 地面へと突き刺さる斧を引き戻す前にエリティアの刀を構える姿をギダは視覚に捉えた。

 そして自分の首へと放たれるのを避ける事が出来ずに冷たい刃物の感触が自分の身体へと滑り込んでいくのを感じた。


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