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65話 女、子供のスキル

 遠距離からの奇襲攻撃に怒り狂った変異種オークを他の種族と引き離して、ここへ来るまでは成功した。

 しかしこれは流石に予想していなかった。


()らいやがれ、【催眠(ざいみん)】!!」


 ……凄く癖が強い。

 俺の前に着てからずっとこの聞き取りにくい濁音口調で喋られていた。

 例えば「ウォーガルの差し金か? 貴様の御蔭で俺の計画は見事に潰されたぞ」も「俺にはヴォーガルのざじがねが? ぎざまのおがげで俺のげいがぐはみごどにづぶざれだぞ」となる。

 正直、瞬時に反応できた俺を誰か褒めて欲しい。


 まぁ「でめえら、どご行ぎやがったーーーー!!」の時はもう口調も表情も何もかも普通がなくって思わず吹いちゃったけど。

 でもしょうがないだろ。コントにしか見えないってくらい本当に全部反応するんだもん。


 それにしても凄い肺活量だ。

 聞こえるっていうのに耳がキンキンするくらいの声で叫んで凄く五月蠅い。

 左右が壁の谷間なのも余計に声が反響して増長している。


(追い込む場所間違えたな)


 そんな文句をつきながら変異種オークの【催眠】を喰らった。


 変異種オークのスキル発動と同時に頭に何かが入り込んでくる。

 色で言うと黒……いや濁ったドブの色といった感覚を感じられた。

 でも鬱陶しくって少し抵抗しただけで簡単に掻き消えた。


「びぶぉふぉふぉ、みだがっ!! 魔王を俺が支配じでやっだぞ」


 しかし変異種オークの方はその事に気がつかず、最初にあったスキルの手応えでもう勝った気になって喜んでいる。


「魔王がなんだ。俺様の方が強いんだよっ!!」


 もう解けているのに抵抗してこないからと非常に馬鹿にした顔をしているな。


「でめえ、精神操作系のズギルを持っだオーグを見だ事はあるが? 生まれ持っだ強靭な肉体にオーグでは持づ者がいない精神操作系ズギルを持っだ天才がごの俺、ザダ様だ。地獄でごの名を広めでおげ」


 自画自賛する姿にまた噴きそうになるのを必死に耐えた。

 ふざけて見えても確かにこのオークが特殊である事は間違いない。


 オークという種族は肉体面では人間よりも恵まれた物を持っている。

 だがスキルの所持数は数えるほどしかもっておらず、その中でも精神操作系や形質変化形を持つオークはまずいない。

 だから変異種オークの言う通り選ばれたオークだと言っても過言ではない。


 まぁ変異種なんて大層なカテゴリーになっているんだから特別なのは普通かな。


 そんな事より名前はザダ? それともサタ? ザタとサダの可能性もあるのか。

 どこで濁音を取ればいいのか分からないから凄くややこしいな。


 面倒だしザダでいいな。


 さて、流石にそろそろ動こうかな。

 なんかザダの奴がイラッとするくらい調子に乗ってるし。


「で、この後俺をどうするんだ?」


「ぞんなの殺ずに決まっでいる。……っ、ぎざま何で喋れでるっ!?」


 見事なノリ突っ込みだ。

 さっきまでの余裕綽々な表情が一瞬で固まったな。


 一応身体を動かして異常がないかを確認した。

 精神攻撃なので肉体には一切の怪我はない。


「貴様の方こそたかが【催眠】でこの俺をどうにか出来ると本気で思っていたのか」


「馬鹿な俺の催眠は最強のはず……」


 確かに一時期、精神操作系スキルこそ最強のスキルだと言われていた時期があった。



 【催眠】

 相手に念じた事に対する暗示をかける事が出来る。Lvにより効果が上昇し、レベル差が大きくなるほど成功率が上がる。



 精神操作系スキルはスキル数が少ないだけでなく、所持者も少ない。

 更に使用に対しての制限もなく即効性も高い。

 そしてかかれば効果は絶大だ。


 使用者が【催眠】のかかった相手を想うがままに操る事が出来るようになる。


 過去、このスキルを持った事で私利私欲のために贅沢の限りを尽くした人間は何人も存在する。

 金、名誉、女。

 全てが思いのままだ。


 だが【催眠】といっても一スキルでしかない。

 最強と呼べるものではない。

 そもそも持っていればなんでも勝てるなんてスキルは存在しないから。


 【催眠】スキルに魅入られて使いまくっていった所持者達は、みんな最後にはありえないって顔をして地獄へと落ちていく。

 そう、まさに今のオークが浮かべている顔のようにね。


「【催眠】は確かにとても強いスキルだが万能なスキルという訳ではない」


 催眠にもきちんと弱点が存在する。


 まずスキル説明であったが、Lvとレベルの差。

 このスキルは二つの要素が効果に直結する。

 Lvは発動して相手をコントロールできる上限、Lv1なら数分認識を勘違いさせる程度、Lv5で相手の身体を自由に動かせるようになる。

 

 レベルはスキル発動の成功率と発動後の相手の抵抗力に関わる。

 使用者の方が対象よりもレベルが高ければ成功率は高くなり、発動後に解除する事は少なくなる。

 しかし逆にレベルが対象の方が高くなると成功率は低くなり、発動してもすぐに正気に戻ってしまう。


 言ってしまえばこれが【催眠】の使用制限だ。


 ザダのレベルは487で、スキルレベルはLv6。

 魔物達の王というだけあって高レベルだ。


 だから今まで100%成功していた。


 だが王都を出てはぐれスライムを狩りまくったり、先程もザダの配下の魔物1000体以上を倒したりした今の俺のレベルは613。

 ザダよりも上だ。


 【催眠】の弱点がもう一つ。

 【催眠】にも【鑑定】や【遠視】と同じように耐性スキルが存在する。

 この精神操作系の耐性は他の耐性スキルの様にLvが低いと効果が発揮しないという事がなく、レベルが相手よりも低くても成功率や正気に戻るまでの時間短縮といった何かしらの効果を発揮してくれる。

 効果が強い反面防がれやすいスキルなのだ。


 耐性スキルは所持していて当然の様にLv10である。

 Lv10の耐性スキルを持っているのにたかだかLv6の催眠にかかるはずがない。


 しかし精神操作系スキルは珍しいスキルだ。

 耐性スキルに対して弱い事を知られていない。

 知らない【催眠】スキルの所持者達は、このスキルを都合のいい無敵のスキルと勘違いする事が多い。


「覚えておけよ。所詮【催眠】は特別でもなんでもない。非力な女や子供を好きにできる弱者の上に立っていい気になるための弱者のスキル。本当の強者相手には全く通用しないオークにはお似合いのスキルだよ」


「なんだどっ!? 言わぜでおけば」


 ザダはその後も何度も催眠を発動してくる。

 もう喰らっても何かしているのかなと感じる事もない。


 それで無敵のスキルだと勘違いした人間の末路だが。

 このスキルは同じ相手に使っていくとその相手は耐性スキルがつくようになる。

 それも精神操作系よりも情報操作の耐性スキルの方が成長が早いから然程期間も掛からない。

 耐性を覚えてしまえば時間の経過でどんどん催眠が効かなくなる。

 最終的に俺と同じように催眠が一切聞かなくなり、被害者は使用者に復讐する。


 まぁ、どういう使い方をしても永遠に美味しい思いが出来るスキルでは無いって事だ。


 そうこう言ってる間にザダはガクリと項垂れた。

 ようやく催眠が効かないという現実を認める事が出来た様だ。


「小細工は終わったようだな。ここからは本当の戦いを始めようか」


「ぐぞぉおおお」


 ザダはまた耳を塞ぎたくなる大音量で叫んだ。


(だから五月蠅い。気持ちは分からなくもないけどだからって叫ぶな)


 ザダは戦う為にずっと背負っていた斧をようやく構えた。

 こちらを見る視線はさっきがビンビンに伝わって来て親の仇でも見るかのような目をしていた。

 それだけ【催眠】に依存していたという事だろう。


 それが破られたことで若干やけくそ気味になっているけど。


 あと他の面でも悪影響が出ているな。

 ザダの戦闘態勢を見てそう思わずにはいられない。

 腰引けてるし、腕自分の身体を少しでも小さくしようとしているように見える。

 とてもではないが、レベル487もある奴の構えには見えない。


(こいつ【催眠】の使い勝手に頼りきりで本気での戦いを経験したことが碌にないな)


 身体能力を数値化すればジェネラルオークより間違いなく強い。

 しかし数値はあくまでも十全に使う事が出来た場合の基準値なのでこの様子じゃあ実力の半分も出せそうにないと思う。


「下級種族の王よ。貴様の方からこい。それでフェアだ」


「な、舐めるなぁーーっ!!」


 俺の言葉に激怒して走り出したザダ。

 なんか戦う前から勝敗が決まってしまったような雰囲気の中、魔族の王(偽物)VS魔物の王が己の存亡をかけてぶつかり合った。

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