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60話 次戦の敵

 コボルトとの戦いが終わったオルガとウルカの元へと駆けよると、エリティアがオルガに抱き付いた。


 ガジッ、ではなくボニョンッ、という効果音でオルガの顔がエリティアの胸元に埋もれていた。


「よしよし。怪我はないわね。最後の一撃だけは良かったわよ」


「うう……分かっているのです。次はしっかり戦うのですよ」


「ならよし」


 エリティアの胸に埋もれてバタバタしているが、返答は普通に出来ているし、呼吸はちゃんとできているな。

 自分の評価は自分で分かっている様だしオルガについてはエリティアに任せておけば大丈夫だろ。


 それにしても……エリティアの包容力半端ないわ。


(一度味わっているはずなんだがな)


 クイクイッ、


「んっ」


「……どうだった?」


 袖を引かれて視線を下に向けるとウルカが上目遣いで質問してきた。


 ――――そうだった。エリティアとオルガに気を取られて自分の教え子を放置しちまった。


 あまり感情を表に出さないウルカだけど袖を引く姿は褒めて欲しそうだ。


「スキルの使い方はどうだった?」


「……上手く行ったと思う」


「俺も良く出来ていたと思う。エリティアも【幻影】を褒めていたしな。初めての実戦で怖くなかったか?」


「……少し緊張した。……でもオルガが危なかったからなんか吹っ切れてた」


「オルガについては俺もびっくりしたよ。よくあの場面でフォローしたな」


 そう言って頭を撫でてやると、ウルカの尻尾がバタバタと振られる。

 ちゃんと勝てたことを喜んでいるみたいだな。


 この戦いで得られるものは多かったみたいで良かった。


「それじゃあ次の敵を探そうか。二人ともできるよな?」


「今度こそ怖がらずに戦いきるのです」


「………やれる」


 それからオルガとウルカに何度も魔物と戦ってもらった。


 二戦目からはオルガも怖がることはなくなり、かなり善戦して戦えていた。


(やっぱり身体強化の高いオルガの方が少ない攻撃で簡単に敵を倒せるな)


 オルガを見ているとウルカを獣人のメインスタイルで戦わせるのは合わないのだと実感させられる。


 心配が無くなった所で二人を【平等分配】に登録してエリティアにははぐれスライム狩りをしてもらいに行って貰った。

 これで二人のレベルも飛躍的に上がる。


 そして夕方になると俺達はアジトに戻って休む事になった。


「タスク様、お久しぶりです」


「久し振りって、一週間前にも会っているだろ」


 食料補充の為に定期的にアジトに訪れて顔を合わせている。


「一週間も会えていないのですから十分久しぶりです」


「それよりも今日はフィルティアに紹介しておかないといけない奴を連れてきた。獣人族のオルガとウルカだ」


「オルガなのです」


「……ウルカ」


 二人を前に出すとフィルティアは二人に視線を合わせる様にしゃがんだ。


「話は伺ってますよ。私はフィルティア。ここのアジトの管理を任されているタスク様の右腕ですわ。仲良くしてくださいね」


「こちらこそなのです」


「……右腕? 右腕はエリティアじゃないの?」


 オルガは元気に挨拶を返したが、ウルカはフィルティアの自己紹介に疑問を口にした。


「なんでそう思うのかしら」


「……だって右腕は一番頼れる存在がなるもの。だからエリティアの方が適任」


「ウルカといったわね、確かにエリー姉様は強いわ。でも力があるから右腕になれるんじゃないのよ。大将を補佐して不在時も任せられる人がなるべきなの」


「……安全圏にいるのに?」


 なんか二人の間に不穏な空気が。


「ふ、二人ともそこまで。ウルカ達は疲れているんだからその位にして」


 俺がフィルティアを、オルガがウルカを抑えて引き離す。

 二人がこんなに突っかかるとは思わなかった。


 フィルティアに話した後、他の三人にもオルガとウルカを紹介した。

 三人とももうすっかり回復したみたいで安心したよ。


 アジトの中を案内してから食事になった。

 食事はなぜか満場一致で俺が作ることになり、7人分の食事を作った。


(いいんだけどね。【料理】を使って全て任せれば大した労力も使わないし。……でもここは女性陣の食事を取りたかったな)


「さて、それじゃあ腹も満たされた事だし、そろそろ明日の話をしようか」


 食事が終わっても全員にその場に残ってもらって、俺は話を切り出した。


 今回の外出の本題はオルガとウルカのレベルアップではない。

 これから始まるからだ。


 そのことを全員理解しているので顔つきも自然と真剣な物になっている。


「前回は王都以外で別の拠点を確保する事が最優先事項で、その過程でこの洞窟に住む盗賊に捕まっている人達の救出を行なった」


 フィルティアがウルカに「それは私の事よ」と言っている。

 さっきまでいがみ合っていたのになんで隣同士で座っているんだよ。

 あとオリビア、キーナ、ロイスの三人もいるのを忘れないで欲しい。


「今回は魔物の討伐及び囚われている人達の救出を行う」


 エリティアが魔物と聞いて小さくガッツポーズを取っている。


(前回は盗賊とはいえ人間相手で気乗りしていなかったからな。今回は全力を出せる相手だと分かって喜んでいる様だ)


 だがそれ以外の面子は表情が硬くなって緊張していた。

 普通の人にとって魔族も魔物もどちらも襲い掛かる強者だ。負ければ再びどん底に落とされると思うと緊張ぐらいはするだろう。


「それと今回は捕虜も確実に救出したい」


「誰が捕まっているのですか?」


「捕虜になっているのは『紅蓮の乙女』という騎士団だ」


「彼女達は生きているのですかっ!?」


「ああ生きている」


 救出対象の名前を聞いてフィルティアは立ち上がって驚きの声を上げた。


 『紅蓮の乙女』

 エリカーサ王国の近衛聖騎士の部隊で、王族が王都から逃亡する際にも同行し、フィルティアの最後の護衛を務めていた部隊である。


「近衛騎士団を務めていた戦闘の実力者集団だ。仲間にする事が出来ればかなりの戦力アップと労働力のアップが見込める。何としても仲間にしたい」


「その方達は無事なんですの?」


 オリビアが手を挙げて質問してきた。

 自分達のような状態になっていたらすぐに現場復帰は見込めない。

 逆に奴隷商に売る人間を増やすだけではないかと言いたいらしい。


「それは大丈夫だ。彼女達は治療すれば十分復帰できる」


 きっぱりと断言してやるとオリビアは納得し、その理由まで聞いてくる事はなかった。


 他に意見がないかと周りを見る。

 今度はキーナが手を挙げた。


「その魔物の群れの規模は?」


「総数はざっと1000体だな」


 何げなく言ったが、エリティア以外のメンバーが再び顔を膠着させた。


「そ、それは今討伐しないといけない物なんですか。確かに捕らえている人達は仲間に出来れば凄くメリットになるかと思いますが、無理して危険な戦いはせず人員が増えてからにした方がいいんじゃ」


「それは出来ない。俺も最初はオルガやウルカも戦えるようになってからとも思っていたが、正直予定よりも早く動かないといけなくなった」


「早くしないと『紅蓮の乙女』を回収できない可能性が高まるってこと?」


「ああ」


 今回を逃すと次に外出する前に決起される可能性が高い。

 だからこのタイミングで討伐しておかないといけなかった。


「最近までベラルーガの森の奥地にいたが、現在カルバーナの森に向かって移動している。このアジトまで来る事はないが、明日俺達が帰るまで外に出る事は控えてくれ」


 行先は逆だが、群れから離れてこっちに来る可能性もある。


「討伐メンバーは俺とエリティアのみ。それ以外はここで留守番だ」


「戦えなくても近くに行くのも駄目です?」


「悪いが二人はまだ力不足だ。今回はこのアジトで大人しくしておくこと」


 オルガは行きたそうだが、今回の相手と今日の相手では違いがありすぎる。

 二人はまだ一対一の戦いが出来るようになったばかりで、とても危険だ。


 それにもう一つ不安要素があるからな。


 ウルカにも顔を向けると悔しそうに頷いた。


「それと今回の魔物だが、"変異種"が混じっている」


「変異種ですってっ!?」


 変異種と聞いてエリティアが席を立ち、フィルティアが声を上げた。


 "変異種"

 それが今回のボスである。

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