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58話 オークの群れ

 エリカーサ王国内ベラルーガの森の山脈。

 タスク達のアジトにした洞窟の先にある森林地帯の奥地。


 ベラルーガの滝周辺とは違って人間の侵入が少ない為か整備されていない元来の森の姿が残されている。


 同時にベラルーガの森の中でも生活している生物が違う。

 より強く知性のある魔物が生活していた。


 そんな森の奥地に人の名のまだ付けられていない川が流れている。

 オークの群れはその川の付近に存在していた。


 オークとは豚の顔に人間の五体が掛け合わせたような魔物である。

 魔物としてはゴブリンと並べるほど認知度が高い。


 人型をしているが知能は低く、石器時代程度の文明しか持っていないし、その生活を一般の人間が見たとしても自然の中で生きているのと大して変わらないように映るだろう。

 しかし彼らにも彼らなりの文明と社会が作り出されている。


 まずオークの特長は平均身長210cmと体重300キロと、人なら肥満に該当する様な重量級の肉体。力士の更に100kgを上乗せした体格だ。人間であれば正常には動かない。

 だがオークの筋肉は人間の2倍の出力に勝るため、その巨体を十分に振るう事ができる。


 更に人間のように武器を使用する。

 残念ながら人間のような技術はなく、ただ力任せに振るう事しかできないので、使用する武器は棍棒が最も多い。


 そんな一見同じに見えるオークだが成人したオスとメス、幼少のオークが存在する。

 オークはオスとメスで活動が異なり、オスが食料を集め、支配下にあるメスに分け与える。メスは巣から出ずに繁殖する事を優先する、


 だがオスとメスの比率が100体の幼少の中にメスが一体いればいいという偏りがある。


 この所為で大半のオスはメスを確保できずに他の種族のメスを襲う。

 人間の情報でオークはオスだけの種族と言われていた時期があったのはこのメスを確保できなかったオスしか目撃されてこなかったからだ。


 そしてオークの社会は階級社会。

 一番上に種族と呼ばれる群れの長が就く。

 この群れの長は単純に支配領域としている部族の中で最も強い者がなる。

 一度族長に決まっても族長の座をかけた決闘は数年に一度行われる。


 その族長の下に族長の抱えるメスのオーク。

 群れの中で高い地位にいるが、政治には関わる事がない。


 その下に族長自ら選んだ補佐をする近衛オーク、戦士階級、一般階級と続き、そのオークの抱えるメスと幼少オークが一番下の地位といった形となる。


 無論これが絶対ではない。

 群れの規模や族長の強さによって群れの形は大きく変わる。

 だが基本はこのような階級社会だ。


 そしてこのベラルーガの森に基本をそのままに膨大し続けた群れが出来上がった。


 その総数およそ500体。


 元々ベラルーガに住んでいたオークだけでなく、周囲からも掻き集められ、更に人間による討伐もなくなった事で大量繁殖してこの数になった。


 そしてこの群れの拡大は族長の指示の元行われた事である。




 ◆




 ベラルーガの森奥地。

 オークの群れの巣になっている川周辺。


 その1区というべきか。


 建物と呼んでいいのかも分からない木の屋根が設置されている場所。


 これが族長の住居である。

 そこには椅子? のように積み上げられた岩や生物の骨が散らばっている。

 これでは人間から住居と認識されなくても仕方のない事だろう。


 そこから族長ザダが姿を見せる。


 かなり大きい、通常のオークと比べて更に一回り大きな体躯。

 絶対権力者としての風格が感じられる。


 そしてその周りには戦士階級でも指揮権を持つオーク以上の者達が集まっていた。

 それはまさに会議の形である。


 つまりこのオークの群れはそれだけ多くの知恵を持つオークが存在するという事。

 これがどれだけの異常事態であるのか、もしこの場を冒険者が見つけたら直ちに国単位での討伐が行われる事だろう。


 居ない者がいないか、ザダが確認し終えたところで会議は始まりを告げる。


 まず口を開いたのは近衛オークの一体、オークジェネラル。


 族長であるザダと並ぶ体格を持ちオークにしては自己主張の強い隆々とした筋肉に見合った太く低い声を上げる。


「また傘下にゴブリン200体、サイクロプス3体が加わりました。これでディグース近辺の魔物はあらかた組みしました」


 ディグースとはベラルーガの森と隣接する平原。

 オーク達はそこで自分達の種族以外の種族も仲間に加えていた。


「繁殖も順調です。このペースならば100体は増えるでしょう」


 もう一体声を上げたのもオークジェネラル。こちらも階級は近衛。

 ただし前者は他種族の制圧部隊、後者は生まれたオークの管理担当である。


「戦力は順調に集まっているようだな。偵察隊、状況はどうだ?」


「魔族がこちらの動きに気づいた様子はない」


「だが我々の動きに不信感を抱き始めた者も出始めている。早急な移動が必要だ」


 ザダの問いかけに答えるようにオークにしては細身の体格をした二体が口を開いた。

 彼らはオーク暗殺部隊の偵察部隊。

 ここから一番近い街で動きがないかの監視を任されている。


「故に人数が揃い次第移動を始める事を勧めます」


 幾つかのオークがこの意見に同意する様な声を上げる。


「武器は」


「何とも言えん。この地でも他の地でも探してはいるが、族長のような武器は見つかっていない」


 ザダの持つ武器は巨大な斧。

 ザダの体格には少し小さいが、その刀身はミスリル製で青白く輝きを放っている。


 この武器は貴族の護衛兵の持っていた武器で筋力強化が付与された魔道具。

 ザダはこの武器を気に入り〈ゴウンアックス〉と名付けている。


 そしてこの武器と同じ武器を集めて近衛オーク達も族長の物ほどではないが、棍棒よりも高性能な武器を所持している。


「まぁ、いい。今回の件が終われば嫌でも手に入るようになる」


 ザダは特に反論をするような事はせずに捜索隊のオークを下げる。


「敵の兵力を見るにもう攻めてもいい頃合いなのでは?」


「次の戦いだけならな」


 ザダは戦いを仕掛けたら最後、次の戦いが待ったなしでやってくる事を理解するだけの頭を持っていた。

 だからこそ告げる。


「兎に角今は数をもっと増やせ、集めろっ!」




 ◆




 魔物による反乱の兆し。


 誰も訪れないベラルーガの森の奥地で隠密に行われているその行動を俺は注意深く見ていた。


 白い空間にいる時から目をつけていた獲物。


 それがもう直ぐ動き出そうとしている。

 時間がない。


 俺とエリティアは大丈夫だろうが、オルガやウルカは多分間に合わないだろう。


 よし、千里眼の訓練終わり。


 俺は一旦目を閉じてスキルを解除する。

 使い慣れていないスキルに慣れていかないといざって時に使えない。

 その為のスキルの練習を暇な時間に行なっていた。


「タスク、そろそろ寝るわよ」


「おう、分かったよ」


 タイミングよくエリティアが俺を呼んだ。

 鼓動が高くなる。


 まさかこんな事になるとは思っていなかった。


 エリティアは今、フィルティアが作ってくれた寝巻きに着替えてベッドの中にいる。

 俺もこれから同じベッドに寝るのだ。


「タスク、早く来なさいよ。灯りを消せないでしょ」


 頬を赤く染めて目線を泳がせている。

 エリティアも緊張しているようだった。


 一緒に寝るのは、窒息死になりかけた時以来、それ以降は別々でソファーに寝ていた。


(俺は今夜寝れるのだろう)


 そんなドキドキした気持ちで俺は……ウルカの横に寝転がった。


 ベッドにはエリティアだけでなく、オルガとウルカも乗っている。


 今朝ウルカが起こした悲鳴。

 あれは本人にもいつ来るかわからない突発的なもので、あれを止めるために俺はウルカの横に一緒に寝る事になった。


 ウルカの横にオルガ、その更に奥にエリティアと言った川の字。

 このキングサイズのベッドだからできる添い寝である。


「オルガとウルカももう寝なさい」


「ハイなのです」


「……んっ」


 まだ寝れていない二人をたしなめながら灯りが消される。





 ……タスクとエリティアの初夜は遠退く一方であった。


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