55話 拉致未遂の受付嬢
追加回です。
玉座の間にマークスが寛雅な姿を見せた。
まず正面に座る俺に一礼し、続いて控えているエリティアにも頭を下げようとした。
でもエリティアは現在オルガとウルガを寝室へと連れて行って寝かしてもらっているので不在だ。
いないのが分かるとマークスはつかつかと中央を歩いてくる。
後ろにはナタリーとシャロットがついて来ているが、二人はマークスの付き添いといった体を取っている。
「よく来てくれた」
「タスク様こそご無事の帰還おめでとうございます。その様子ですと成果の方もよろしかった様ですね」
「ああ、上々だ。第2の拠点と管理してくれる人員を手に入れる事が出来た。これでもしもの場合でも当分の身を隠す事は出来るようになった。それと奴隷も二人買ってここに住まわせる」
「エリティア様の姿が見られないのはそのお二人を部屋に案内しているという事ですか」
「獣人の女の子を寝かしに行っている。お前達にも次の機会に合わせるようにするつもりだ」
急いで顔合わせをする必要もないのでオルガ達が落ち着いてからで問題ない。
それよりも話すべきことは別にあると手に持っていた紙の筒をマークスに投げ渡す。
「これは第2拠点とした洞窟の見取り図でしょうか?」
「その通りだ。それなりに広さがあるだろう?」
「それもですがなかなかよく書けた見取り図だと感心しました」
「褒めても何も出ないぞ。聞きたいのは使用人の視点でどのような設備が必要か、また用意できるのかだ」
短い時間で整備はしたものの万全には程遠い。
俺は建築士ではないので一人だと何か見落とす可能性が高い。
その相談相手として常に家事と運営を任されている使用人は適任だと思った。
ついでに必要な物が出た時、そのままマークスが入手してくれる。
「現在の人数は何人でしょうか?」
「男が1人、女が3人だ。だが近日中に女性が急増する」
次の外出計画は既に立っていて成功すれば20人以上の増加が見込める。
「……でしたら女性の部屋が足りませんね。家具をそのままお渡しすることは出来ないので道具と素材は渡して後で作り方を伝授してもらいましょう」
「それは助かる」
「寝室を大部屋に一纏めにするのは構いませんが、それ以外にも女性専用の部屋を用意しておく。あとこの一番広い空間はこのまま何も置かずに使えるようにしておいた方がいいかと」
「なるほど」
ナタリーとシャロットにも質問をして参考にした。
「ところでタスク様。その衣装は助けていただいた方から作ってもらった物でしょうか?」
「これか? 玉座に座るには少々簡易で不釣り合いだけど前の焦げた服を無理矢理着るよりずっといいだろ?」
「ええ、そうですな。前の服装は焦げていたのもそうですがデザインも変わっておりましたので随分良くなったかと思います」
向こうの世界の服装はこちらの世界では変な服に見えていたのか。
「それは良かった。フィルティアに作ってもらった甲斐がある」
「……フィルティアっ! まさかフィルティア様の事ですか!?」
「そうだが……言ってなかったか?」
「聞いておりませんよ。生きておられたのですか。では国王様も一緒」
「いや、王族はフィルティアだけだぞ」
盗賊に捕まっている女性を救出するとは言っていたが、誰が捕まっていたのかは言っていなかったらしい。
そこで今回の事の成り行きの説明をする事になった。
捕まっていたが、盗賊団の頭に丁重に扱われていたので他の女性達と比べて精神的にも安定しているので問題ないと伝えるとマークス達は泣いて喜んだ。
国民を見捨てて逃げ出した王族を敬う気なんてもうなくなるだろうと思うんだが、逃亡しても自分達の忠誠を捧げた王族が生きている事はやっぱり嬉しく感じてしまうようだ。
民主政と王制で生きてきた価値観の違いだな。
助けた3人と奴隷商に売った女性の中に彼らの知り合いはいなかったが、驚いたことに盗賊団の頭ブルータスとナタリーが実は親戚筋にあたる血縁者である事が判明した。
学生時代は女子生徒から絶大の人気だったそうで盗賊に成り下がっていたと聞いて別の涙を流していた。
「これで話す事はもうないな」
「では今度はこちらで報告しておきたいことが」
「王都を離れている間に何かあったのか?」
グロウリーからは以上がないと報告を受けた。
しかしあいつは既に一度失敗をしているので度重なったミスを隠蔽しようと考えても何ら不思議はない。
「いえ、事件自体はタスク様が遭遇されている受付嬢の拉致でございます」
「魔族へのギルド職員への不干渉は通達して再発防止させているが」
「魔族側の対応はそれで問題ないでしょう。お話したいのはギルド側の状況で御座います」
ギルド側と聞いて納得がいく。
魔族のグロウリーが態々人間の情勢など話したりはしないからな。
それにギルドだって職員が拉致されたとなれば危機感を持って動いても何ら不思議ではない。
「何があった?」
◆
魔王ブロー(に扮したタスク)が去った後、冒険者ギルドに集まっていた魔族達も蜘蛛の巣を散らす勢いで姿を消した。
冒険者ギルド内で飲んだくれていた者も含めて全員だ。
珍しくギルド内に人、魔族気が無くなった。
客が居なくなったギルド内で魔王ブローに促されて戻ってきたリンスは当事者でありながら事態をまだ飲み込む事が出来ず呆然としていた。
魔族に連れていかれなかった事は理解しているが、それを助けたのは魔王という事が信じられなかったのだ。
「リンスさんっ!」
副ギルドマスターのシャンリーがリンスを抱きしめた。
「シャンリーさん」
抱きしめられた事で思考が途切れて我に返ったリンスは頼りない声でシャンリーの名を呼ぶ。
その声だけで職員達に彼女が極限状態の中にいたのだという事を感じさせた。
「無事でよかったわ」
抱き締められることでリンスの身体に熱が戻っていく。
恐怖で冷え切っていた身体が温まって次第に頭の方も落ち着きを取り戻していった。
「本当に助けられなくてごめんなさい」
シャンリーを皮切りに他の職員もリンスの周りに集まっていく。
「あのバカマス。普段は使えない筋肉ダルマなんだからこういう時には役に立つしかないのにあっさり魔族にやられて職員を売り渡すとか今度という今度は失望しました」
各支部のギルドマスターは冒険者ギルドの顔と登録している冒険者の監督という役割を任されている。
その監督には冒険者同士のいざこざも含まれている為、書類や交渉事よりも冒険者時代の実績とカリスマ性が求められる。
なので今回のような受付嬢の拉致はギルドマスターとしては絶対に阻止しないといけない。
それなのに魔族には簡単に負けた上に守るべき職員を簡単に売り渡した事に怒りを覚えたのはシャンリーだけではない。
シャンリーの怒りの言葉に多くの職員が賛同した。
「あのギルマスは?」
「まだ部屋にいるわ。魔族につけられた傷の手当でもしているんじゃないの」
「今頃、魔王が事態を終結させた報告を聞いて震えていると思います」
「自業自得よ」
質問をすると冷めた声音でギルマス批判が上がっていく。
「はいはい。みんな仕事に戻って。またいつ魔族が来るか分からないんだから」
収拾がつかなくなる前にシャンリーが解散の拍手をすると全員仕事に戻った。
リンスも気持ちを切り替えて受付に戻ろうとして「ちょっと部屋まで来て」と副マスの部屋に誘われた。
部屋に連れていかれドファーに座る様に促された。
席に着くとシャンリーは飲み物を出した後、対面へと座ってから話を切り出した。
「それでリンスさんあの場で一体何があったのか詳細を聞かせてもらえますか」
「えっ? あ、はい。分かりました」
ギルド職員はギルドから外へ出ていない。
事態の大まかな成り行きは分かってもどのようにしてリンスが助かったのか分かっていなかった。
リンスはギルドを出てからの詳細を説明する。
一番大事なのは魔王ブローが冒険者ギルド職員を尊重してくれていることだろう。
魔王の確固たる後ろ盾は魔族の怒りにびくびくしなくても良くなったという事なのだから。
「今回の件で詫びを入れると言ったのね」
「まだ正式に招待されたわけではないので場の雰囲気に合わせてって事も」
ただシャンリーは最後に魔王ブローがリンスに詫びをすると言った事に引っかかったようだ。
リンスとしては大したことではないと答えたが、シャンリーは聞いていない様子で「それでね」と話を切り替えた。
「リンスさんに頼みたい事があるのよ」
改まって言われてリンスの背過ぎが延びた。
「なんですか?」
「ギルマスになる気はない?」
「……は、え? え? えええええーーーっ!?」
リンスはいきなりの事で声を上げたが、シャンリーはそのまま続ける。
「いきなりなんでそんなことになるんですかっ!?」
「落ち着いて」
「落ち着けませんよ。ギルマスになれってなんでそんなことに」
「今回の件でも分かるでしょう? あのでくの坊では魔族相手に全く抑止力になっていないのよ」
「ギルマスが使えないのは分かります。でもなんでこんな小娘の……それこそ何の抑止力にならない私がギルマスになるんですか。だったらシャンリーさんの方がよっぽど適任です」
ようやく新人から脱却したばかりの自分がギルマスなんかになるより長年ギルドを支えてきたシャンリーさんの方が職員はついて行くはずだ。
「説明するから冷静に聞いて。あなたが言うことはギルド内の上下関係を考えた適任よね。でも今必要なのは魔族に対して一番抑止力になるのは誰かって事なのよ」
「それはギルマ――――」
「ギルマスを全く恐れていないのは見てたでしょ。そもそも魔族相手に力で勝てるのはほんの一握りの限られた人だけなのよ。現役を引退した一介の冒険者じゃあ相手にならないわ」
リンスの脳裏に助けてくれたエリティア様の姿が浮かぶ。
ギルマスが手も足も出なかった魔族をたった一撃で倒してしまった。
確かにああいう人でないと魔族相手には意味がないのだと思った。
「面に出さなかったけど今回の件でショックを受けている職員は多いわ。魔王が助けたと言ってもそれは偶々で次はないかもしれない。助かったのはあなただったからかもしれない」
「そんな事」
「魔王が私達という存在を尊重していたことには確かに安心感は増した。でももっと安全に過ごせる強いリーダーが必要なの」
「強いって私はただの村娘で」
「ええ、あなた個人には何の強さもないわ。でも魔王に助けられたあなたは魔族から魔王が後ろ盾になっている女として見られる。危害を加えたら魔王が動くかもしれない存在なの」
真相はどうあれ多くの魔族にリンスが助けられている姿を見られている。
もしも自分ではない受付嬢だったらを考えるとその受付嬢を特別視する事を否定できなかった。
「でも私ギルマスの仕事なんて」
「それは私がフォローできる。……というか今のギルマスも仕事はからっきしでほとんど私がやっている様なものだもの心配ないわ」
「なら緊急時は私でいいので平時はシャンリーさんに分けるっていうのは」
「それだといざという時に効果が発揮されないわ。常に平時でも仕切るから緊急時に上手く指示に従ってくれるのよ」
他に上手い断り方が思い浮かばずリンスは黙ってしまった。
「別にすぐに決める必要もないわ。あの筋肉ダルマも存命である以上、やるとなったら反乱しないといけないし、裏方はたぶんギルマスを支持すると思うから」
そう言えば裏方は自分が戻った時も黙々と仕事をしていたのを思い出した。
現在、ギルドは二分化してしまっている。
魔族の支配下になってから接待をする受付嬢は魔族の相手をするといういつ襲われるかも分からない恐怖を抱きながら、嫌がる冒険者を魔族に渡さないといけない。
対して裏方は仕事内容は変わらないし、冒険者の人数が減って仕事量は減った。
その仕事内容の差が軋轢となっているのだ。
もしリンスをギルマスにする為に現ギルマスと争う場合、受付嬢上がりのリンスをギルマスにしたら自分達の安全が脅かされると裏方はギルマスにつくと思われた。
「……少し考える時間を切れませんか」
「ええ、別に今すぐに決めなくても構わないわ。ゆっくり考えて」
「ありがとうございます」
結局この場で結論を出す事が出来なかったリンスは苦渋の保留を選んだ。
その後に呑んだ紅茶は全く味が分からなかった。
◆
「……と、タスク様が件の受付嬢を助けた事で元から溝が深まっていたギルマスと副マスの派閥争いを激化させることになりました」
冒険者ギルド内の対立は知っていたけど受付嬢を助けただけで事態がそんな急速に進むとは思わなかった。
だけど……リンスがギルマスに仕立て上げられるのは何が問題なんだ?
なんかマークスの言い分だと何か手を打つ必要があるような言い方だよな。
「あの今の話はどこが問題なのですか?」
ナイスだ、シャロット。
「そんな事も分からないのですか。あなたも城に仕えるメイドでしたらもう少し物事の流れを読む力を磨きなさい」
「うっ」
「ま、まぁ分からないのであれば教えてあげればいいだろう。冒険者ギルドの対立が進むとどうなるか説明してやれ」
「承りました」
今更「俺も知りたい」などとは言えず叱責されたシャロットを庇ってマークスに説明を促した。
「そもそも冒険者ギルドの事をシャンリーはどのように認識していますか?」
「えっ……魔王ブローに奴隷斡旋所にされた施設?」
「まぁ現状だけ見ればその見解で間違いないでしょう。ですがそれでは表面しか見ていない。よく考えなさい。王都内での優先度は最上位。冒険者ギルドを支配下に納めれる事が出来れば我々以上に重要度が高くなるのですよ」
「え? そうなのですか?」
「そうですよ。なんせギルドは既に魔族の生活の一部となっているのですから」
ああ、そう言う事か。
冒険者ギルドは魔王ブローの政策で魔族の奴隷斡旋所に変わったが、ものの見方を変えると魔族の生活に向こうから招き入れている様なもの。
冒険者ギルドを支柱に納める事が出来た時、王城しか活動できないマークス達よりも有用な働きをしてくれるようになる。
「ただ今のままでは例えタスク様の正体を告げて協力させてもそれほど役に立ちません。魔族に知られないよう隠密に我々の都合のいいように変える必要があるのです」
「つまりギルマスと副マスが対立したままだと」
「その政策が滞ってしまうのです」
それでも外出前であればまだギルマスは緊急時なら働いてくれると副マスも話を聞いたかもしれない。
しかし今はギルマスに行っても副マス側が素直に従ってくれるか不安だ。
「それから冒険者ギルドがもしも魔族ではなく職員のせいで営業停止になった場合、王都が大混乱になります」
「それは私も分かります。冒険者ギルドは下位の魔族が冒険者ギルドに押しかけて今回以上の騒ぎになりますね」
「これからもタスク様は外出をしないといけない状態で王都に爆弾を残しておくのはあまりにも危険というものでしょう」
なるほどな。
確かに王都に釘づけにされるとニート状態に逆戻りになってしまう。
それは現状一番なって欲しくないな。
「では対処する必要があるんですね?」
ここまで説明されればシャロットも冒険者ギルドを放置するのが愚策だと思う。
「落ち着いてくださいシャロット。ここまでの展開はタスク様が予想されていた事です。既にタスク様は解決の一手を打っておられます」
(……ん? 対立の激化を今知ったばかりなのにいつの間にか解決したんだろう)
何を言っているか分からずマークスの説明中ボロが出ない様に極力発言をしなかったような男がそんな既に解決策を講じている訳がない。
どう考えてもマークスの勘違いだ。
腕を再生させてからというものマークスは全てお見通しの完璧な主の様に見てくるが、至って平凡な一般人ですよ。
「タスク様はエリティア様の戦闘が終了した後、すぐにその場を立ち去らずに受付嬢の元へ赴き城への招待をしました。このタイミングで彼女を城に呼んでも何ら不思議ではありません」
「彼女をここへ呼んで舵を取るのですね」
「その通りです。突然起きた事件であったはずなのに逆に利用して冒険者ギルドの問題を解決する案を思いつくなんて流石でございます」
全くそんなこと考えてなくてただ怖い目に遭わせたから招待しただけなんです。
偶々そうなっただけだと吐露してしまいたい。
しかし――――。
「流石エリティア様が人族の救世主とお認めになった方です」
「強さしか能がなかった勇者とは大違いですね」
勝敗が既に決した後に魔族に勝とうとするのはあまりにも無謀な事だ。
今回の作戦だって魔族ではなく同族の人間が相手だった。
彼らが安心して行動するためには優秀な先導者がいる。
たとえ本性が平々凡々のどこにでもいる一般市民でも彼らの眼には優秀であると映っていないといけないのだ。
だから間違っても「偶々」なんていえない。
あぁ、胃が痛い。
賛辞されるのがこんなに胃に来るなんて……。
「理解できたのなら早速準備を進めるぞ。受付嬢リンスに招待状を送る。名目上は危険な目に遭わせてしまった事に対する詫びに食事と謝罪の品を送りたい、だ」
全て計画通りを装いつつ命令を出す。
詰まる事なく言えた事を褒めて欲しかった。
「了解しました。タスク様はこの後の予定は?」
「この後グロウリーとの謁見が入っている。一応あれだけの女を連れてきた説明が必要だろう。あとは次の外出の日程も打ち合わせておかないとな」
正直さっさと休みたい所だがこればかりは替えがきかないからな。
「ああ、それとお前達の食事――――ごっ、はぁ!」
腹部に衝撃が走ったと同時に背中が玉座の背もたれに叩き突けられる。
これでもレベルが上がったのでただの物理的な衝撃では痛みはないに等しい。
それでも反射的に痛みを覚悟して目を閉ざしてしまう。
あまりに突然の事に上手く思考が回らない。
玉座の間に攻撃をするような刺客はいなかったはずなのになぜ攻撃を受けたのだ。
「ん、ん」
目を開けると呆れた顔をしたマークスと戸惑ったナタリーの姿を捉えた。
彼らの様子から見て刺客の攻撃ではないと二撃目の警戒を解いた。
衝撃の来た腹部に目をやると予想通り自分を攻撃、ではなく抱き付いてきたシャロットの姿があった。
「どうしたんだ、シャロット」
「もう我慢できません」
質問した瞬間、シャロットの抱き付きが強まって柔らかな物体が押し付けられる。
(はいっ!? どうしてシャロットは野獣のような熱情を感じさせる表情を浮かべている。それに「我慢できません」って一体何を我慢できないんだ。流石に二人の前では不味いだろ。……というか二人も呆れて見てないでシャロットを止める為に動いてくれ)
離れるだけであれば筋力で劣ったエリティアを無理矢理引き剥がす事は可能だ。
しかし女性であるシャロットを乱暴に引き剥がすのは忍びない。
それにエリティアほどではないにしろシャロットもなかなかのものをお持ちで自分から離れるのは非常に惜しいと抵抗が掛かる。
「タスク様っ!」
「ど、どうした。何をするつもり」
「もう――――お腹が空き過ぎて我慢できません」
……………………ん?
宣言と同時に下の方からきゅるきゅると可愛らしい音が鳴った。
(……空腹かよっ!!)
予想の斜め下な申し出に冷静さが戻った。
食事をあげるから離してくれというとシャロットはすぐに離れてくれる。
「どうしてこんな空腹になっているんだ? 食事は出ているはずだろ」
「タスク様が悪いんですよ。我慢していたのにあんな美味しい物を与えるから魔族の物じゃあ我慢できなくなってしまったんです。本当にもう駄目なんです。早く、早く、タスク様の長い物をください」
目に狂気が宿っている様なシャロット。
もしもここで御預けなんていったら本当に襲い掛かって来そうな狂気を感じる。
すぐにアイテムボックスから食料を取り出した。
「お疲れ様です」
「お前こうなる事を知っていたな」
「はい。ですが特に害がある訳でもありませんし、シャロットの言う通りこうなった原因はタスク様のせいですので仕方がない事だと受け入れて下さい」
そうだが……いや、いい。どうせ何を言っても意味がないのは分かる。
それよりも外出の度にこうなっては堪らない。
「食材を預けられるようにして置け」
「ではバックかポーチを用意しておきましょう」
そうしてくれ。
シャロットの御蔭でなんかいろいろと気が抜けてしまった。
ついでに胃の痛みはきれいさっぱり忘れられたが、この後グロウリーと合わないといけなかったので中々気を引き締め直すのが大変だった。