表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/94

42話 経験値大量の魔物

 『ベラルーガの森』

 エリカーサ王国内で一番面積の広い森でベラルーガの滝やベラルーガの丘と名所も多い。

 緑豊かな自然に溢れているので色々(・・)な生物が住むのに適している。


 俺達に必要な物を得るにはもってこいの場所だ。


 ただしベラルーガの森は王都からウォーナガルを経由して更に数日進んだ先にある。

 普通に歩いていたら一週間以上、休みなく走っても4日は掛かる。

 往復するだけで外出期限をオーバーしてしまう。




「ここってベラルーガの森?」


 現在、ベラルーガの滝壺付近にいた。


 ベラルーガの滝というネーミングの所為でどでかい滝を想像していたんだけど実物は高さ10m、幅は7mぐらいと低くてこじんまりした感じだ。


 こんな滝なら他にもありそうなのにエリティアはよくこの滝でベラルーガの森だと判断したものだ。


「一体どうやったの?」


「転移魔法"エターナルテレポーテーション"。長距離を瞬間移動する魔法だ」


「ログボールの魔法版。……でもあれは特定の都市にしか飛べなかった」


「正しくは転移魔法を誰でも使えるように魔道具にしたのがログボールだね」


 でもあの魔道具は欠陥品だ。

 ログボールは勇者の帰還などで使われていたけど魔族の治める都市には障壁が張られていて使えないからだ。

 もし使えれば片道分の魔力が節約できるから凄く助かったのに。


「って、いきなりベラルーガの森に転移したことも驚いたけど本当にここなの?」


「ああ、ここで狩りをする」


「私の記憶だとここにいる魔物はそんなに強くないわよ」


 ベラルーガの森の魔物のレベルは50以上70未満。

 エリカーサ王国内では中の下。

 狩りの場としていまいちの場所だ。


 エリティアの実力ならスキル無しでも容易く倒せる。

 しかし経験値はレベルの高い魔物程多く入る。

 更にレベル差があると入る経験値が減ってしまう。

 幾ら沢山倒す事が可能でも実の入りが少なければ意味がないのだ。

 だから強い魔物を普通なら狩りに行くのが普通なのになんでベラルーガで狩りをするのよ。


 ……ってエリティアの言いたいことを予想するとこんな感じだろう。

 それを分かった上で俺はここを選んだ。


 その説明は口で言っても理解しにくい。


 まずは信じてもらう為に目的の魔物を探すべく【探索】を使用した。


 自分の中心に見えない円が展開して中に入った物の情報が頭に入ってきた。

 頭が痛い。

 意外と近い。

 エリティアに後をついて来てもらいながらその魔物の元に向かった。

 気づかれない様に慎重に進むと姿を視認できた。


「あれが今回の獲物だ」


 草むらから覗いたエリティアはがっかりした。


「あれって"はぐれスライム"じゃない」


 エリティアは一目見ただけで魔物名を言い当てた。

 俺にはただのスライムにしか見えないよ。


 しかしエリティア、声が大きいよ。

 はぐれスライムはエリティアの声に俺達の存在に気づいて物凄い速さで逃げていった。


「わ、悪かったわよ」


 はぐれスライムは森の中へと消えていくのを確認してエリティアを見た。

 何が言いたいのか伝わったようでエリティアは釈然としないながら謝罪した。


「次に気を付けてくれよ」


「ねえ。本当にはぐれスライムが今回の獲物なの?」


「そうだけど」


「スライム種は数ある魔物の中でも最弱に位置する魔物よ」


 知っている。

 この世界でもスライムはやゴブリンは最弱の魔物として代名詞だ。


「はぐれスライムって名前は変わってもあいつらは逃げ足が速くなっただけで強さは普通のスライムと変わらないわ。とてもいい獲物には思えないのだけど」


「その速さもエリティアなら十分に追いつけるだろう? 苦になる事はないんだし、物は試しで一匹仕留めてから判断してくれよ」


 再び【探索】を使用してはぐれスライムを探す。

 幸い近くにいたのですぐに見つける事が出来た。


 今度のはぐれスライムは食事中だった。

 まったくこちらに気づいていない。


 逃げ足以外スライムと同じ。

 攻撃さえ当ててしまえば簡単に倒せる。

 如何に気づかれずに当てやすい技を使うかだけど。


 などと考えているうちにエリティアが草むらから飛び出した。

 当然はぐれスライムその音に瞬時に反応して逃亡を謀るが、エリティアの方が速度は上で、瞬く間に追いつくと刀で切り裂いた。


 まさに先程言っていた言葉の通りになった。


 しかし俺の方は先陣切ろうとして先越されてかなり格好悪い感じになった。


「タスク、素材はどうするの?」


「まだ余裕があるから取っておくよ」


 素材を受け取るとアイテムボックスに放り込む。

 今の所スライムの素材で具体的な使い道は思いつかないが、何かに使えそうな感じがするので持っておいてもいいだろう。

 それに何と言っても冒険が始まってからの初めての魔物の素材だ。

 自分で狩った訳ではないけど記念として取っておきたいと思った。

 だって今のアイテムボックスの比率は90%が食料なんだもん。


「それよりステータスを確認して見てくれ」


 とにかく一匹狩ったんでエリティアに変化を実感してもらう。

 いきなりステータスを見ろと言われて戸惑いながらステータスを確認し出したエリティアの表情が驚きの顔に変わる。


「凄いわよ。たった一匹スライムを倒しただけなのにもうレベルが上がったわ」


 ステータスの確認が終わったエリティアは見て欲しそうに腕を引っ張る。

 見ようにもステータスのステルス機能が解除されていないので見れないという事も忘れてしまうほどの喜びようだ。

 どうやら予想通りの変化が起こったらしい。


 もう説明するまでもないと思うが、はぐれスライムとはゲームで見られるレベル上げモンスターとしての性質を持っているのだ。

 どういった理屈で倒しただけで大量の経験値が入るのかは全くの不明。

 ただ同格の敵を倒すよりも確実に経験値が手に入るのは確実だ。


「エリカーサ王国の高ランクの魔物を倒すよりも経験値が入ると思う」


 そうは言ってもレベルが上がるにつれてレベルアップに必要な経験値が上がっていく上に獲得できる経験値量も減っていく。

 通常時であれば大量経験値といってもレベル差のあるはぐれスライムを1匹倒したところで、連合軍が誇る勇者パーティーの一員であったエリティアのレベルを上げるなんて事は出来ない。


 もう一つ、レベル上げに貢献したものがある。


 それは【平等分配】というスキルだ。


 このスキルは街に出てすぐに行った鑑定無力化の防御スキルをステータスに施した際に一緒に登録しておいたレアスキルで、一人が倒した経験値を登録メンバーで分け合う。

 簡単に有効活用の説明をすると寄生して強くなれる。

 戦う力を持たない貴族や商人が上位者に寄生してレベル上げる時に使われるスキルだ。


 ……というかこの世界ではそれ以外で使われていない。


 登録メンバーが最大6名なので冒険者などでも重宝されるのかというとそうでもない。

 共闘による討伐はスキル無しでも経験値が分配されるので頑張った者が損をするだけで大した効果が得られないからだ。

 これだけでは今のエリティアの倒したはぐれスライムの経験値を俺が半分奪っただけになってしまうからだ。


 ではどうしてエリティアのレベルが上がったのかというとこのスキルには実はもう一つ利点が存在する。

 この世界の住人が知り得ないもう一つの効果。


 『経験値上昇系の共有』である。


 このスキルはパーティーメンバーが獲得した経験値を一度集めて一度再分配される。

 その際に各メンバーの持つ経験値上昇系のスキルが反映されるのだ。

 仮に倒した者が経験値上昇系スキルを持っていなくても登録者の中で持っている者がいれば経験値の量が増える。

 更に本来なら重ね掛けが出来ない筈の同系統スキルの効果を相乗できる。


 つまりエリティアが倒したはぐれスライムの経験値は一度集められた時に俺の持つ【経験値上昇】Lv極や【戦闘ボーナス】Lv極といった経験値上昇系スキルの恩恵が与えられた後に俺達二人に分け与えられた。

 だから通常の数倍となった経験値でレベルを上げたのである。


 エリティアのレベルが上がったとなると半分を貰っている俺のレベルも上がっている可能性が高い。

 何もしていないでレベルを上げてもらうのって罪悪感を感じる。


 俺も倒していかないと。


 そのことをエリティアにすべて伝えると、


「はぐれスライムがそんな魔物だったなんてっ! だったら狩って狩って、狩りまくりましょっ!」


 凄くキラキラした瞳で刀を抜いた。

 彼女の瞳は熱く燃えているのだが、その瞳の奥底にゲームのキャラ育成に燃える時に見せる情熱と同じものを感じた。


「言われるまでもない。それで説明したけど【平等分配】は共闘したら意味が半減してしまう。だからこれから別れて討伐していく」


「そうなるわね」


「それで提案だけど夕刻までの間にどちらがより多くのはぐれスライムを狩れるかで勝負をしないか?」


「いいわね。勝負するからには何か賭けるんでしょう」


「お互い欲しい物は違うだろうから商品ではなく、一つ言う事を聞いてもらえる権利ってところかな。勿論を無理なお願い事は無しでどうだろう?」


「賭けるのはお互いの命令権ね。それで討伐数はどうやって把握するの?」


 そういえば考えていなかった。

 経験値は分配されちゃうし、数を数えておくだけだと数え間違いや水増しで申告される可能性もある。

 ステータスに討伐数とか表示されればいいんだけどそういった便利機能はないからな。


「スライムの死体の数でどうだ?」


「それだと【アイテムボックス】を持っているタスクが断然優位じゃない」


「エリティアにはこれを貸しておく」


 そう言って懐から小さなバックを取り出す。


「これって魔法袋?」


「マークスに頼んで用意していた物だ。容量は結構あるからこの勝負で一杯になる事はないと思う」


 魔法袋はアイテムボックスの劣化版で収納機能はあるが保存機能はないという品物だ。

 いや、アイテムボックスに真似て作ったというよりも他にあった収納系スキルに真似て作った物


 アイテムボックスはスキルで魔王ブローは持っていなかった。

 それなのに突然ものを出せるのは可笑しいので収納系のアイテムをダミーにしたのだ。

 でも今は魔族もいないし、必要性があまりないのでエリティアに渡しても問題ない。


「分かったわ。これで勝負は成立ね」


「スキルや魔法の制限は無しでいいな」


「ええ、全力で勝負しましょう」


 その瞬間、開始の合図も無しにエリティアが森の中へと飛び出していった。


「……こっちの世界にはよーいどんでスタートしないのかっ!?」





(――――ふふふ、悪いなエリティア)


 この勝負既に俺の勝ちは決まっている。


 俺にはエリティアにはない圧倒的なアドバンテージがある。


 一つ目が今も使用している【探索】。

 先程までは数kmの範囲で見つけた魔物を一体一体調べて判別していたが、慣れてきたお蔭ではぐれスライムか、そうでないか、を瞬時に判別できるようになった。

 更に上手く使える様になればはぐれスライムだけを探索できるようになる。


 今の段階でも周囲を探索しながらはぐれスライムを探さないとならないエリティアと比べたら大きな差になるのは間違いない。



 ――――と言っている間に最初の一匹発見。


「『火の矢』」


 無詠唱で放った火の矢がスライムの核へと当たる。


「……しまった。火だと死体が溶けちゃうのか。そうなると水……は不安だから風か土で攻撃するべきか」


 それともう一つのアドバンテージが今見せた魔法による遠距離攻撃。


 近づくと逃げられるはぐれスライムだけど気づかれない距離からの魔法攻撃に弱い。

 耐久性、体力共にスライム並みだから初級魔法で倒す事が可能なので魔力切れの心配もないし、集団でいたとしても一体に絞らないといけないような事もない。


 エリティアは攻撃魔法が使えない。

 俺の前でやったのと同じように全て自分の足で追いついて仕留めなければならないのだ。

 これも大きなアドバンテージだ。


 探索ではぐれスライムを見つけ出し、魔法で苦も無く狩る。

 完璧なサーチ&デスが出来上がった。

 これで負ける事はない。


「勝利報酬を使って俺はエリティアがどう思っているのか。その真意を聞き出すんだ」


 マークスに言われてからエリティアの言動を意識するようになった。

 しかし未だにエリティアが俺のことを恋人として見ているのか、共謀者として見ているのか見極める事が出来ずにいる。

 そもそも見ただけで判断で来ていたらマークスに言われなくても判断できたはずだ。


(こんな方法を取って本心を聞くのは卑怯かもしれない。でも……)


 一応勝負で内容は承諾してもらった。


 先程のミスを生かして今度は風の矢で射貫く。

 意外と数が多くてこのペースなら100体は超えられそうだな。


 この勝負俺の勝ちだ。




 夕刻、ベラルーガの滝で合流すると今日の成果をお互いに数え始めた。

 どう考えても勝負は決まっているが、一応きちんとした数字を出しておきたいからだ。


 俺の討伐数は、予想通り100体を優に超えた。


 その結果、


「今回の討伐数勝負は、エリティアの勝ちだ」


 俺は自ら自分の敗北を告げた。


 自分の行った作戦にミスはない。

 ただエリティアの討伐数が、307体。

 俺の3倍近い討伐数を狩っていたのだ。それもはぐれスライムだけでなく他の勝負に関係のない魔物も相当数狩っている。


 エリティアの実力は俺と拮抗している。

 普通ならこんなに差は出る事はない。


 自分が大きな間違いを犯していたのだ。


 もっと早く気づくべきだった。

 お互いの討伐数が、100体と300体という数字からしておかしいだろう。

 討伐時間は昼前から始めたとはいえ精々6時間弱。

 1時間で50体もはぐれスライムに遭遇している。

 これでは普通のスライムやゴブリンと変わらないじゃないか、という事に。


 つまり俺のミスとは、はぐれスライムをゲームと同じレアモンスターだと認識して遭遇率は低いと勝手に決めつけていた事だ。


 戦争中も無視されて討伐されず、戦争が終わって早1年ずっと繁殖を続けていたとなれば数が増えて当然。

 歩けば簡単に見つかるのであれば探索のアドバンテージはないに等しい。


 結果、機動力の差がそのまま数字になって現れた。


 完全に俺の計算ミスだ。


「完敗だ。約束通りなんでも一つ言う事を聞くよ。何が望みなんだ?」


「う~ん、今の所特にないからお願い事が出来たらでいいかしら」


「……期間の提示はしてないから構わないよ」


 平静を保っているが内心ではあれだけ自信満々だったのに負けてかなりのショックを受けていた。

 その為、願い事の保留を申し出た時のエリティアの表情が赤面していたのを気づく事が出来なかった。


「日が落ちきる前に、火を焚いて食事の準備をしようか」


「それじゃあ私が薪を集めておくわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ