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41部 上位魔族


 【絶対者のオーラ】を発動した時に一斉に感じた視線の多さ。

 威圧感は幹部魔族のよりもないけどこんな数でみられたことがないのできちんと歩いているつもりだけど緊張感が半端ない。


 この困惑した動揺が周りに伝わらないように装えているだろうか?


 進路方向にいる魔族達は、俺が近づくと慌てた様子で道を開けてくれる。

 魔王なのだから当たり前か。

 とにかくそのお蔭で魔族の波に揉まれる事なく、目的の場所まで到着した。


 エリティア達の前までやって来て立ち止まると、魔族達は何も言っていないのに勝手に平伏し出した。

 立っているのは俺とエリティアのみ。


 視線を向けて大丈夫かの確認をするとエリティアはただ頷いた。

 戦闘で怪我をしていないのは見ていたので大丈夫という意味だろうと解釈して魔族達を見る。 


 まずは頭を上げさせるべきだな。


「面を上げよ」


 この場にいる全員に聞こえる声を上げる。

 すると魔族の三体が顔を上げた。


 全員のつもりで言ったのに。


 顔を上げたのはエリティアと一触触発になりそうだった上位魔族達。



 魔賢猿 レベル625


 石眼鳥 レベル597


 黒炎狼 レベル633



 彼らは幹部魔族グロウリーの部下で警備部隊に就いている。

 警備部隊とは王都の治安管理を任されている部隊で偶々ここへきたのではなく仕事できたという訳だ。

 ただし仕事に忠実という訳ではないので今も随分前からいたようなのに決闘の流れが面白そうだからと傍観していたのを確認している。


 それで彼らの強さだが、見て分かる様にレベルは俺達の倍近くある。

 こいつらが特別強いという訳ではない。

 ただの上位魔族でも今の俺達よりも強いのだ。


 魔王ブローを倒したのにその部下の部下に勝てないなんて可笑しな話だが。


 それともう一つ。


(桃太郎かっ!?)


 犬、猿、雉って。

 俺は魔王ブローの姿をしているので鬼に見えるから余計にそう連想させられるんだけどっ!?

 もし攻めて来たら勝てる気しないよ。


 そんなどうでもいい事を考えていたら沈黙に耐えられなくなった上位魔族の方が声を上げた。


「あの……魔王様。……どうしてこちらに?」


 震えながら声を発したのは、三人の中でリーダー格に見えた黒炎狼。

 【絶対者のオーラ】を使った時に地面へとダイブした魔族だ。


 まだ顔は土で汚れているが、拭く事もせずに俺へと質問をしてきた。


「俺がここにいては何か悪いのか?」


「いえ、滅相もございません」


 一瞥して質問を質問で返すと、黒炎狼は震えながら顔を落とした。


「別に怒っている訳ではない。お前達は外出の話は聞かされていないのか?」


 黒炎狼は首を傾げて隣にいる魔賢猿と石眼鳥を見るが、どちらも首を横に振る。

 マークスの話では噂が流れる程度には知れているはずなんだが。


「は、初耳で御座います」


「そうか。では覚えておけ。俺はこれから頻繁に城下や王都の外へと足を運ぶつもりだ。ここにいたのは街の外へ丁度出ようとしていた所にこの騒ぎが聞こえたからだ」


「なるほど。それは大変お見苦しい所をお見せしました」


 疑問が晴れると黒煙狼が俺の後ろに控えているエリティアに視線を移動させた。


「ですがなぜその女を庇うのです? その女は既に三体の同胞を殺しています。ただで帰す訳にはいきません」


「そんな事も理解できないのか」


 ……というかこいつら本当にエリティアの事を覚えていないのか。

 勇者戦でも王都の襲撃でも顔を見てるはずなんだがな。

 誰も気にしていないのか。 


「まずこいつは俺の女だ。そしてそこの魔族を殺すように命令したのも俺だ」


「一体なぜですか!?」


「その死体になっている奴は俺の作ったルールを破ったからだ」


「ルールを破った?」


 状況が読み込めない上位魔族。

 ただ魔族が冒険者ギルドから奴隷を買ったとしか思っていない。

 彼ら上位魔族は専用の奴隷がいるから冒険者ギルドを使わないから分からないのか。


 仕方ないので説明も兼ねて集団に紛れてしまっている当事者に話しかけた。


「そこの女」


「わ、私?」


 急に俺に話を振られたリンスは戸惑った様子であたふたしながら返事を返した。

 魔族達の視線も俺からリンスへと移動する。


「お前はギルドの職員だろう?」


「そうです。う、受付をしています」


 その答えに満足して黒煙狼達に向き直る。


「冒険者ギルドは専用奴隷を持てない魔族にも一時的とはいえ平等に奴隷を持てるようにするためのシステムだ。ではなぜおまえたちにその運営を頼まないのか分かるか?」


「人間を有効活用する」


「だったら他でもそうしている。そうしなかったのは出来なかったからだ。運営をしようにも冒険者登録から受け渡し、書類整理に至るまでの管理は魔族では理解できる者が少なかった。そこで元職員をそのまま登用したんだ」


 それに運用が出来ても態々奴隷を渡す仕事をしようと思う魔族がいないというのもある。


「もしそのギルド職員がいなくなったらどうなる? 運営は滞り、冒険者ギルドは閉鎖しないといけなくなる。ギルド職員には手出しを禁止させている意味が分かるだろう?」


 ここに集まった全ての魔族に聞こえる様に言葉を発した。

 理解できない物もいるだろうが、職員を狙うと魔王ブローが怒るとだけ理解していればそれでいい。


「それをこの馬鹿は破ったんだ。ずっと言っていたはずだ。『自由に生活する事は許す。だがルールを破れば潰す』と、それともギルドというシステム自体を潰せばよかったか?」


 魔族達が息を呑む音が聞こえる。

 視界に入る魔族達の顔だけでも冒険者ギルドが潰されることに対して反対するような顔になっている。


「だが一応お前の言う通り同胞だからな。無条件に殺すのは可哀想だと思った。だから俺の奴隷に勝つ事が出来たら無罪にしてやろうとチャンスを与えた。そのチャンスを掴めなかった結果がそこの死体だ


 大嘘もいい所だけど、これで一応の辻褄合わせは出来た筈だ。

 上位魔族達は、周囲にいる魔族達に確認を取り、本当だと知ると納得したように頷く。


「それを笑って見ていたお前ら」


 周囲の温度が氷点下になったかのように一斉に固まる。


「本来なら俺のルールを破っている事に気づいていながら止めなかったお前らも同罪だ。だが欲に塗れて俺の所有物に襲い掛かった馬鹿共よりもマシって事で今回は見逃してやる。だが覚えておけ。俺がルールだ。それを守れなかった奴は例え同胞だろうが殺す」


 俺の采配を聞いて緊張から解放された魔族達は各々の返事を返した。


「魔王様」


「ん? まだ何か言いたいことがあるのか。え~と」


 黒炎狼は種族名であり、本名ではない。

 何て名前だったか。


「ザジです。それで言いたいのは、そこの女の事です。魔王様のものという事ですが、その女には奴隷の首輪が着けられておりません。魔王様のルールでは奴隷に首輪を着けるのは義務の筈です」


「……ザジ。お前はなぜ奴隷に首輪を着ける事を義務付けているか知っているか?」


「いえ、知りません」


「それはな。本来なら奴隷である人間は全て俺の所有物としても何ら問題はない。だがそれではお前達も面白くないだろう。だからお前達でも奴隷を持てるようにした。奴隷の首輪を着けさせて誰が主なのかを分かる様にしてな。つまり奴隷の首輪っていうのは俺の奴隷をお前達に与えた証明なんだ。そうなると元から俺の所有物に奴隷の首輪を着ける意味はあるか?」


「……ありません」


 理由を聞いて思う所があるのだろうが、ザジは何も言い返してこない。


「前までは首輪を外せば言う事を聞かない可能性があったが、見ての通りもう首輪なしにでも言う事を聞く。首輪を着ける必要もなくなったんだ。ならばつける必要性は無いだろう?」


「その通りです」


 よし、論破完了。

 実際、首輪を着けるのを義務付けたのはそんな大層な理由ではないのだが、今後を考えてもこの理由付けは悪くはないだろう。


「もういいか?」


「はい。後片付けは私達でやっておきますので」


 質問が終わった様なので解散を促した。


「さて……」


 俺の視線の先にいるリンスが視線に気づいて身を細めた。

 身体が震えている。

 さっきはちゃんと質問に応えられていたのに。


 それでも話をする為に近づくとリンスの顔がどんどん真っ青になっていく。

 正直凄く落ち込むんだけど。


「女。名は何という?」


「え?」


 既に名前は知っているが、俺は話の切り口として敢えて名前を聞いた。


「リンスと言います。魔王様」


「そうか。ではリンスよ。今回は済まなかったな」


「え?」


 先程と同じ反応がより大きな声になって返ってきた。

 魔王が人間に謝罪をするのが信じられないといった反応だ。


 実際、魔王ブローなら謝る事はしない。


「今回の件はあの魔族の暴走だが、部下を抑えられなかった俺のミスでもある。被害者のお前には申し訳なかった」


「いえ、助けていただいたので問題ありません」


「そうはいかん。リンス、もしよければ王城へ来てくれ。今回の件の詫びをしよう」


 ただこれから街の外へと出るので来日するのは帰って来てからにして欲しいと伝えてリンスを冒険者ギルドへと戻した。


 片方の門が壊れた防壁門を通って外へと出た。

 それから暫くの間無言で歩みを進めていき、完全に魔族がいなくなった事を確認できると立ち止まった。


 多少予定が狂ったとはいえ時間にしたら1時間にも満たない。

 このまま目的地にいって動けば大した影響もないだろう。


「助かったエリティア。ありがとうな」


「私としても新しい武器のいい試し斬りが出来たからいいわよ」


 そう言って愛刀を撫でるエリティア。

 どうやら刀を気に入ってくれたみたいだ。


 俺は抜刀の仕方と武器の特徴を伝えただけなのに牛の魔族を真っ二つにしたからな。

 俺を見て本当に背筋が凍ったわ。


 それじゃあ目的地に行く前にやる事をやっておこうか。


「エリティア、悪いが少し立ったまま我慢してくれ」


 魔王ブローの姿のままエリティアの額を触る。


「な、何をしているの?」


「自己保身の為にやっておかないといけないんだ。これを怠ると外の世界では致命傷になる」


 エリティアに施しているのは、ステータスの鑑定を無効化する防衛スキルだ。


 武器庫でエリティアが話していたようにステータスというのはその人の戦略を映す鏡だ。

 ステータスを敵に知られれば非常に拙いものになる。

 魔族の間ではそのステータスを盗み見る行為が平気で行われている。というよりもそう言った対策を施すのが当たり前で見られる方が悪いとなっているのだ。

 鑑定だけでなく、遠視や盗聴のスキルへの対策も同様、こちらは既に俺の周囲数kmをに渡って防御スキルが発動している。


「街ではそういったスキルをもろもろ防ぐ結界が張ってあるから心配はいらないが、外に出るとその庇護下から外れる。だから街から出る場合は自分で情報漏洩を防ぐしかない」


「待ってっ! 遠視のスキルは知っているけどそんな遠くまで見えるものなの?」


 エリティアが驚いているのは、遠くを覗くスキルが例によって低Lvでは全く役に立たない事でゴミスキル認定されているからだ。


 Lv1で薄い紙一枚分、エリティアが知っている最高レベルでも隣の部屋を覗くのが精々だ。

 それが連合軍側のの常識。


「【遠視】でも国内を見るだけならLv8で見えるようになる」


「……Lv8」


 Lv8というのはかなりの修練が必要なLvで早々成れる物ではない。ましてやゴミスキルと言われているスキルをそんなに育てるなんてただの変態だ。


「上位魔族ともなればその位のLvも珍しくはないし、スキルでなくとも魔道具でも同じことが出来るからな」


「……あっ!?」


 こちらにはすぐに該当する物を思い出した様だ。


「玉座の横に置かれている鏡」


「あの魔道具は『覗き見鳥の瞳』と呼ばれる魔道具で、この国どころか他国まで見渡す事が出来る。魔王ブローはこの鏡を使って部屋を一歩も出ずに色々な物を見てきた。そう、例えば勇者の動向とかね」


「それって」


 エリティアだって疑問に思っていたはずだ。

 何故自分が勇者パーティーと離れて一人になっているのを知っていたのか。

 それも町から町に行き来する中間地点という絶好のタイミングで狙えたのかを。


 なんてことはない。


 どちらも【遠視】と【盗聴】で勇者パーティーの動向が筒抜けだったからだ。


 今までは魔族が強者としての傲りからそういったアドバンテージを有効利用してこなかったが、魔王ブローは勇者という玩具を手に入れる為に手段を選らばなかった。

 魔族としてのプライドよりも欲求が勝り情報を有効利用したからこそ連合軍を物の数カ月で壊滅させられたのだ。


(連合軍と魔族軍の戦いは勇者がやられた時点で終わり。あのクズはどうせ勝ち残れなかったろうからどちらにしても連合軍の敗北は避けられなかったろうけど)


 そんな説明をしている間にエリティアへの施しが終わった。


「これでエリティアのステータスも鑑定できなくなった。改めて目的地へと向かおうか」


「そう言えば目的地ってどこなの? 私まだ教えてもらっていないんだけど」


 そう言えば伝え忘れていたっけ。


「これから向かうのは、『ベラルーガの森』だ」

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