3話 詳細映像
一つ目の世界を閉じると球体が次の異世界を表示しろという。
まだ何かあるのだろうか。
俺は順番に従ってナナルベグの隣の星をタップした。
二つ目の世界のプロフィールが表示される。
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ラランルルー
世界観:剣と魔法の世界
種族:人族、魔族
現状:小規模の交戦あり
安全度:4
アピールポイント:英雄になれます! 王女様が綺麗です! 魔物娘います! 一夫多妻制なのでハーレムもOK!!
要望:魔族との不和を解決、食糧問題の改善
スキルポイント:300000pt
定員:2名
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映し出されたプロフィールを確認してプロフィールの内容がさっきまでと全然違う事に驚いた。
俺はどう言う事だと球体に向き直ると球体は分かっていたように説明を始めた。
「見て分かる通りプロフィールは世界によって多少の違いがあるのじゃ」
詳細がみんな違かったら比較にならないだろ。
「とはいえちゃんと必ず表示しないといけない項目がある。それは"世界の名称"、"存在する種族"、"安全度"、"スキルポイント"の4つじゃ。どの世界も必ず提示しなければ一覧には表示されん」
必須事項は全部さっき説明したものだな。
「違いが出るのはそれ以外の項目。そこは世界側の自由に表示してよい事になっておる。少しでも転移者を呼び込みたい世界は興味を引くために工夫するし、そんな事をする必要もない世界は必須だけしか書かれておらん」
確かにこのアピールポイントはピンポイントで男性転移者を狙っていてあざとい。
だが間違いなく男は興味は引ける可能性は高まるだろうな。
「この要望っていうのは?」
「今説明するわい。要望というのはさっきお主が質問してきた世界がどうして転移者を呼びたいのかの理由の事じゃ」
そうじゃなくてこの要望には強制力があるのだろうか?
ラランルルーで言うと食糧難を加速させたり、魔族との関係を悪化させたて戦争に発展させてしまったりといった感じの事をしてしまった場合に神罰が下ったりするのか。
「あくまで要望は心がけじゃよ。意図せずそういった状態になる事もあるじゃろうし、人の自由を儂らがとやかく言う事はない。基本自由行動してもらって問題にはならん」
基本?
「世界の存続を危ぶまれる程の問題を起こして世界神側から抗議が来た時、こちらで審議して有罪になった場合、存在自体を消滅させることがない訳ではない。相当好き勝手せねばまずないがの」
消滅という言葉に一瞬ビクンとする。
もし万が一その状況になったらこの球体は世界神よりも偉いと言っていたし、人一人消すぐらい訳なく行える気がした。
要は無茶をしなければいいって事だがどこまでが無茶なのか自分では判断できない以上要望は出来るだけ協力していった方がいいだろうな。
「あとは……定員の説明はいるのかの?」
「そう言えばさっきの話だと定員は必須事項ではないんだな」
「そうじゃな。定員だけは転移者の為ではなく世界側の都合で付けられておる物じゃからの」
定員というのは仲介に出した依頼を取り下げるタイミングを示したものだ。
定員に記載した人数と同じだけの転移者を送り出すと、それ以上依頼が回る事はなくなる。
逆に定員が掛かれていなかった場合、依頼した世界神が取り下げ願を出さない限り提示され続ける。そして希望者がいれば無尽蔵に転移者を送ってしまう。
転移させてしまった後に必要以上に転移者が送られてきたことを抗議しても仲介者側は何の責任も受けないので、そういったトラブルを起こしたくない世界は必ず定員は書かれているそうだ。
ただし定員数が書かれていない世界の中には転移者が溢れているような世界も存在するそうなので全く判断材料にならない訳ではない、と。
正直、転移者が溢れている世界とか何の意味があって異世界転移するのか分からないもんな。
プロフィールを見るにこの世界は魔族とはいえ他種族がいて先程見たナナルベグよりも期待が持てる世界だと思えた。
なのでそのままスキル欄の確認をする。
ポイントの表示はナナルベグよりも多い。
これなら沢山のスキルを覚えられるだろうと期待しつつスキル欄を開いた。
まず魔法。
初級魔法が5pt、中級が10pt、上級が50pt、超上級が100ptであった。
確認するまでもなくナナルベグよりも低い取得ポイントで入手可能だった。
表示されている全属性の魔法を取得してもまだまだポイントは余る。
これは当たりを引いたかもしれない。
しかし表示を補助系スキルに移るとその評価は一変した。
取得ポイントが跳ね上がったからだ。
一番取得ポイントが低いスキルでも超上級魔法と同じ100ptを必要とした。
これではめぼしいスキルを数個取得してしまえばあっという間にスキルポイントは底をつくだろう。
推察するにこの世界は魔法が使える事自体は大したことではなく、強力な補助系スキルを持っている事の方が重要性が高いって事だろう。
これが罠か。
二つ目で早くも世界によっての違いを見せつけられた気がした。
これじゃあこの世界を選ぼうとは思えないな。
よし、この世界は没にしよう。
だが球体は俺がそんなことを決めているとは知らずに話を進めた。
「プロフィールの見方は心得た様じゃな。ここまで来たら後は詳細の確認じゃ」
「詳細?」
また知らない内容だ。
「プロフィールより更に世界の事が分かる様になっておる。世界名をタップすると表示されるようになっておるから気に入ったら見るんじゃ」
もう没にすると決めたけど早めに詳細の方も確認すべきだろうな。
あくまでも今後の参考に。
ラランルルーをタップするとスクリーンが光を放って白い空間が変化した。
映し出されたのは、西洋造りの建物の中であった。
体育館並みに開いた空間に硬そうな鎧を着た大人達が、片膝をついて頭を垂れている。
『皆の者。面を上げよ』
空間内に威厳に満ちた野太い声が響いた。
周りの大人達はその声に従い、一斉に顔を上げて一箇所へと視線を送っている。
視線の先には、金の装飾品や高価な宝石が散りばめられた豪華な服装をした中年の男が偉そうに腰掛けていた。
状況から推察して、ここは謁見の間で、皆の前に座って話をしているのが王様なのだろう。
周りの者達は膝をついた姿勢のまま王の言葉を聞いている。
『ラインディッヒ・レーガン。よくぞ魔族との講和条約を結んでくれた。その褒美としてこの場にて伯爵への陞爵と、白銀騎士の称号を与える』
周りの者達が僅かに騒めいた。
王の言葉を受けて最前列で膝をついていた青年が深く頭を下げるのが見える。
『王都での住居、並びに使用人はこちらで手配させよう。そして余の娘、アンドレを嫁に与える』
王の言葉を聞き青年は顔を上げると王様ではなくその横に視線を向けた。
近くに控えていた人達の中から綺麗な女性が一人前に出る。
(あれが国王の娘、王女様か。確かに美人で綺麗な女性だ)
それに合わせるように青年の方も立ち上がり女性の方へ歩んでいくと二人は人目も憚らずにキスをした。
周囲は拍手喝采となり、謁見の間は二人の祝福ムード一色となっていった。
一体どういうことだ?
「世界の詳細じゃよ。この世界に詳細はプロフィールに載っているアピールポイントが実際に行われている時の状況じゃな」
ようやく球体がこの状況について説明してくれた。
今見ている映像がラランルルーの世界って事か。
「百聞は一見にしかず。詳細な情報を文字で見るよりも実際にその世界を見てもらった方が、これから行く世界の事を理解しやすいからの」
そう言っている間に映像が切り替わり、今度は豪勢な家の中へと移った。そこには先程、王に褒美を貰っていた青年と沢山の女性がいて、彼を囲って仲睦まじく生活している。
この家が先程言っていた褒美の住居なのだろう。素人目の俺でも分かる凄く立派な屋敷だ。
これをタダで貰ったのか。
それに王女様だけではなく、周りの女性陣もみんな綺麗処ばかりだ。
地位、財力、名声、そして女性。
この青年はハーレムの主人として理想形を体現している。
羨ましい。
そう思うと同時にこの世界で成功した時の事例であることに気づく。
つまり上手くやれば俺も同じようになることが出来るという訳か。
確かにこういう風に文字ではなく直接向こうの世界を目にするのは興味心をくすぐられる。
スキルポイントが悪いので没にしたというのに、この世界も有りでいいんじゃないかなと思えてくるもんな。
映像が終了すると風景が再び白一色の部屋に戻った。
スクリーンもラランルルーのプロフィールになっている。
「どうじゃ、詳細を見た感想は?」
「この世界を選ぶ気はないが、悪くはなかったよ」
それに改めて自分の行きたい方向はナナルベグよりラランルルーの方が近いと自覚した。
今回はスキルポイントが悪かっただけでファンタジーな世界はやっぱり憧れる。
"知性がある種族が人間以外に存在してファンタジー要素のある世界"
この方向で探していくのがいいだろう。
そうなるとこの数え切れない星の中から該当しない世界は除外していきたいな。
時間無制限とはいえ作業は早く終わりたい。
該当しない世界もいちいち確認していたら時間をかなり無駄にする。
どうにかできないものか。
「方向性が決まったのなら条件をスクリーンに向かって言うとよいぞ。そうすると条件に合った世界だけに絞ってくれるからの」
そういうのはもっと早くに言ってくれ。
言われた通りスクリーンに条件を言うと、画面に表示された条件に合わない世界の星が次々に消えていく。
思った以上に人間だけの世界は多かった。
この調子で条件を絞りながら自分の好みの世界を探していけば最良の世界はきっと見つかるだろう。
こうして俺の世界選択は本格的に開始された。