38話 馬鹿と暗躍と逃走
お久しぶりです。
今日から差し替えを投稿していきます。
確認していますが、誤字脱字や可笑しな点がありましたら報告してください。
Side:幹部魔族
玉座の間を退出した6体の幹部魔族は誰が声を出す事もなく進んでいった。
幹部魔族全員が入場してすぐに放たれた【絶対者のオーラ】の重圧に対する恐怖と緊張が解けずいたのだ。
玉座の間から離れた中庭へと辿り着くと全員が立ち止まった。
沈黙を破ったのはディアドスだった。
「凄まじかったな」
何が、とは言わずとも全員が何を言っているのか理解した。
「あぁ、流石は魔王様だ」
「勇者戦でも国盗り戦でもその御力を魅せる間もなく勝利してしまわれた所為で最近感じる事がなかったが、改めてその凄さを実感させられたよ」
スキル名【絶対者のオーラ】
魔族の中でも魔王の資質を持った者のみ取得を許されているとされる上位者であることを認定するスキル。
そのオーラはまさに魔族にとって畏怖その物。
魔族の本能が無抵抗に屈服させられる。
だが今話題になっているのは効果の方ではなく力の方だ。
【絶対者のオーラ】の出力はLvによって調整可能になっているが、魔王によって同じLvで放ったとしても重圧の強さが違う。
この出力の差は魔王の質に直結すると考えられており、事実強い魔王ほど出力の高い絶対者のオーラを放つ。
当然、タスクと魔王ブローの絶対者のオーラにも差が出ていた。
幸いなことにタスクの方が数多のスキルの発動の御蔭で魔王ブローよりも高い出力が出す事が出来たが、もし魔王ブローより弱かった場合魔王ブローでないことをバレなかったとしても見限られていただろう。
まぁ誰だって自分の仕える主が弱かったら認めたくないよね。
「あれだけの御力を我々に見せた事に何か意味があると思うが」
「そうだね。このタイミングで我らを集めて力を見せた。ただの気晴らしのような要求を命令するだけのために使ったとは考えにくい」
「我々の忠義をいま一度確認するためだと考えると巡回は我々の力を確認するため。そう考えると今回の集会は本題の前の準備という事ではないか?」
「街の確認の後に何かあるか。……ありえるな。そうなるとやはり街の状態か」
「問題ないだろう。俺は魔王様に頂いた領地をきちんと管理している。何の心配もない」
「その自信はどこから来るんだろうね。私から見たら一番問題のある統治をしているのは間違いなく君の領地だというのに」
「んだとっ!?」
ウォーガルが発言したディアドスを睨み付けるが、他の幹部達もディアドスの意見に賛同するように頷いている。
周囲の反応にディアドスは勝ち誇った顔? になった事でウォーガルは怒りで殺気が充満し出した。
このままではいつウォーガルが暴れてもおかしくはない。
シュリアン・ガーが慌てて話題を変えた。
「魔王様の考えよりも俺はグロウリーの褒美の方が気になるんだが」
だがその発言は場を鎮めるどころか、更に空気を殺伐とさせた。
一人の殺気だったのが、複数の殺気の渦へと変わったのだ。
言った本人まで殺気を放っている。
ただ全員嫉妬からの殺気なので暴れる心配は無さそうだが。
「そうだったな。魔王様が手放したのも驚きだが、その渡す相手がなぜ俺ではない?」
「お前では女体化できんからだろう」
「そう言う意味では俺こそ最もふさわしいと思うのだがな」
「デモンズ・カーハ。貴様の力は肉体より精神の変化だろう」
「バルバゾスの配下でも計画は難航しているんだ。魔王様もそこまで急いだ成果を求めていない。それこそ上手く行ったらいいという軽い気持ちだったと思うぞ」
「つまり誰が貰っても良かったのだな」
全員が貰えるチャンスがあった。
そうなると余計に貰ったグロウリーへの嫉妬の視線が濃くなる。
何故幹部魔族達は勇者をそんなにも欲するのか。
それは勇者が魔族の天敵であり、魔王と同等の強者な所為で生け捕りにするのも困難で、生まれてくるのも人間の中からたった一人だけという期間限定のプレミアムな最高級玩具だからだ。
「わ、私はやることがあるので先に戻らせてもらいます」
グロウリーは身の危険を感じて、すぐさまその場から立ち去った。
「ちっ、逃げたか」
背を向けて逃げるグロウリーに対して全員が舌打ちをした。
魔王から直接褒美を頂戴したとしても、それで納得するような者は魔族ではない。
自分の欲望のためならどんな手段でも行使する。
それが魔族である。
もしこのタイミングでグロウリーが逃げなければ幹部一丸となって無理矢理にでも勇者女体化計画の助力を確約させていたはずだ。
標的がいなくなり、嫉妬の混じった空気は拡散して元の雰囲気に戻った。
「ビュランダ、俺達はこっちだろう」
「ん? ……あぁ、そうだったな」
「悪いが、俺達もここで失礼するよ」
グロウリーが別れたのを機にデモンズ・カーハはビュランダを誘導しながら他の幹部達に一言残して去っていく。
ビュランダは何も残さずにデモンズ・カーハの後をついて行った。
「あの二人は本当に仲が良いな」
「そうか? まぁ、いつも一緒にいる所を見るが」
「少なくともお互いが互いに利用し合うぐらいには仲が良いだろう? シュリアン・ガーもそう思わないか?」
「二人とも小細工が好きという点で話が合うのではないかな。力の差がある相手にも態々奇襲を仕掛ける変わり者だからな」
シュリアン・ガーはビュランダとデモンズ・カーハの領地占拠の際に助力したことを伝えると、ウォーガルが思い出したように口を開いた。
「そう言えば二人ともたまに俺のことを馬鹿を見る目で見てくる時がある」
「それは自分もあるな。失礼な奴らだと思う」
「……お前達、それは本当に馬鹿を見る目で見られているんだ」
「「なんだとっ!?」」
他の幹部達の声が聞こえなくなった頃、デモンズ・カーハは声を上げた。
「それで準備の方はどうなっている?」
「無論、順調だ。……と言いたい所だが、もう少し準備が必要だ。それにもう少し慎重に進めていった方がいいかもな」
「お前もか。俺も丁度そう思っていた」
ビュランダの答えにデモンズ・カーハも肯定する。
一括りに魔王と言っても魔王の実力は個体によってそれぞれ違う。
魔王ブローの実力は魔王の中でも上位に位置し、配下になる部下もその強さに見合った魔族達が付き従っていく。
その為、魔王ブローの幹部の実力は、低級魔王よりも強い。
デモンズ・カーハ達もその事には気づいており、魔王ブロー相手でも勝つ事は叶わなくても手傷を負わせるぐらいはできると考えていた。
しかし今回の重圧の増した【絶対者のオーラ】と本物の魔王ブローが秘密主義で自分の実力を幹部達にも隠していた事から、彼らの中での魔王ブローの実力は今まで想定していたよりも高くなっていた。
「計画を見直すよりも計画自体を練り直すのも一つかもな?」
「このタイミングでか? ……いや、正直今のまま準備が完了した所で敗北する光景しか思い浮かばない。その方が安全か」
ビュランダの意見にデモンズ・カーハは一人で納得した。
そして暫く考えた後、再びビュランダへと質問した。
「今回の件、お前はどう見ている?」
「魔王様の巡回の件か? 正確には散歩だが」
「何かある。それには賛成だが、どうも腑に落ちない」
「どういう事だ?」
ビュランダはデモンズ・カーハの質問の意図が読めずに聞き返した。
デモンズ・カーハは歩みを止めて窓の外を見る。
そこには荒くれ者の魔族がひしめく城下の街並みが広がっている。
「俺は魔王様は何かあったのではないかと思った」
「何かってなんだ?」
「そこまでは分からない。ただあのぐうたらな魔王様にしては積極的過ぎるような……。少なくとも勇者パーティーの女を拉致してきた時とは違う気がしてな」
「それは覇気の違いじゃないか? あの時の魔王様のやる気は相当だったからな」
「……そうかもな」
ビュランダの答えに腑に落ちないながらも納得したデモンズ・カーハは再び歩みを進めた。