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30話 奴隷の首輪

 魔王ブローの作り出した奴隷の首輪。


 言うまでもなくこの奴隷の首輪は異常な物である。


 その効力は多々あるが、その中でも凶悪なのが装着者を魔族の手先に堕とす怨念。

 それともう一つ、怨念と並んで連合軍が苦しんだのが、『首輪の解除不可』であった。


 通常の奴隷の首輪の解除方法は二つ存在する。


 それは"装着者の所有権を持つ人物が自ら外す"か、"他者に解除魔法で外してもらう"かだ。


 前者は期間の経過や借金の返済などで外したりする時に見られる。

 契約に基づく奴隷になった場合の解除方法だ。


 なので前者の方法は戦場では見られない。


 なぜなら仮に主人となっている者を生け捕りで捕まえる事が出来たとしても奴隷を自分から解放しようとはしないからだ。

 そういう訳で解放には必然的に後者の方法が取られる。


 解除魔法は施錠を外す魔法。

 通常の奴隷の首輪は嵌める際に拘束レベルが決まっている。

 そのレベルよりも高い魔法を使うと奴隷の首輪は外す事が出来る。


 だが魔王ブローの作り出した奴隷の首輪は解除魔法を使っても外す事が出来ない代物だ。

 解除魔法を使う術者のレベルが低い、解除魔法のLvが足りない、という従来の解除できない条件とは関係なく、解除魔法では外す事ができないのだ。


 嵌められたら外す事が出来ない奴隷の首輪。

 それも嵌められた者は怨念による寝返って敵になってしまう。


 これが戦争でどういう結果になるかは想像しやすい。

 遊戯で例えると魔族が将棋と連合軍はチェスのルールで戦っている様な物だ。


 更に魔王ブローはこの奴隷の首輪を絶対的な物にする為に手を打っている。


 勇者を捕縛後、魔王ブローは奴隷の首輪を量産して各魔王に大量に配って回ったのだ。

 それは奴隷堕ちを増加させて勇者敗北で指揮の低迷している連合軍に大打撃を与えたが、それは飽くまで結果だ。

 魔王ブローが奴隷の首輪を配布した理由は別にある。


 ではなぜ奴隷の首輪を独占せずに配ったのか。

 ここに解除方法の答えがあった。


 魔王ブローの奴隷の首輪は確かに解除魔法では解除できない。

 だがそれは外す方法が解除魔法ではないからだ。


 魔王ブローの奴隷の首輪の解除方法、それこそ『浄化魔法』だ。


 浄化魔法はアンデットが生まれる土地を元に戻したり、この地に留まった悪霊を払う時などに使用される魔法で、神官などの聖職者が使用できる。


 奴隷の首輪は魔王ブローの特殊能力である怨念魔法を組み込むことによって出来上がっている。

 解除魔法で外せないのもこの怨念による縛りが強いからだと考えられる。


 その怨念を『浄化魔法』は払えるので外す事が出来るという訳だ。


 魔王ブローもこの解除方法に気づいていた。


 だからこそ他の魔王達に奴隷の首輪を配った。

 なぜなら神官は人族しかいない職業で他の種族では使われない魔法だ。

 戦争を早々に終焉させ、人族を支配してしまえば永遠に解除方法は分からないと思ったのだろう。

 事実、魔法に長けているはずのエルフも『浄化魔法』には精通していないから解除方法が未だに分かっていない。


 そうした魔王ブローの策略もあり、災厄の道具となっている。




 ◆




「……んぐっ」


「気づかれましたか?」


 最後の一人が目を覚ました様だ。

 俺は玉座の間に座って起きた使用人達を見下ろす。


 最後に起きたのは俺が気絶させた男性の使用人で体を起こすと周囲を見回して俺と目を合わせてきた。

 しっかりとした視線でこちらを捉えてくる。


 全力で顎にアッパーをくらわせた後遺症とかはなさそうだな。


 ではみんな起きたようだし話を……。


「魔王……ではないですな。これはどう言う事ですか?」


「奴隷の首輪を外された事、彼らが敵ではないという事以外は何も」


「詳しくはこれからです」


 そろそろ話をしてもいいか?


「三人とも静かにしなさい」


 切り出すタイミングに悩んでいるとエリティアが三人を黙らせた。

 使用人達はエリティアを見て暫くすると姿勢を正して話を聞く体勢を取った。


 もういいだろう。


「まず初めまして。俺の名前はタスク。分かっている様だけど魔王ブローではないです」


 エリティアの時の失敗を生かして自己紹介から始める。


 ただきちんと話を聞いているのは一人だけだ。

 残りの二人は表情も視線も変えていないけど今の状況を整理するために意識が上下左右に動いている。


 少し失礼ではないだろうか?


「そしてこれからこの世界に安息の地を造る独裁者だ」


 そう言うと残り二人の意識も俺に向いた。

 ようやく話を聞く気になったようだ。


 ……あれ?


 なんかみんなこいつは何を言っているんだという顔で首を傾げている。


「独裁者というのは彼の国の王の在り方の名称です」


 困っていると再びエリティアが助け舟を出して独裁者について説明してくれた。

 説明を受けた三人の表情が元に戻った事から独裁者という言葉が分からなかったみたいだ。


「そういう者って事でよろしく」


 独裁者についてを詳しく語る必要もないのでエリティアの説明のまま話を進める。


 さて何から話をしようかな。


「三人も名乗りなさい」


 ……そうだよね。

 こっちが名乗ったんだから向こうも名乗る必要があるよね。


 使用人達はエリティアの言葉に従って名乗りを上げた。


「王都第三メイド班副メイド長ナタリー・D・アルクストと申します」


「同じく第三班のシャロット・G・ストーンです」


「執事長補佐役マークス・レバンドと申します」


 三人についてはスマホで事前に調べ終えている。


 王都の使用人は配置によって班分けがされている。

 第三班は王族の身の回りを任せられる使用人のエキスパート集団が配属される班である。

 中年女性のナタリーさんは副メイド長を務めているので当然優秀。

 ただの班員であるシャロットも年齢21歳の若さでこの班に配属されるだけの力を持っている。


 そしてマークスの就いていた執事長補佐役は執事側の班長達に指示できる立場であり、後継者の育成がメインの仕事の役職だ。

 その地位につくには長年班長を務めた上で代替わりの時に他の班長達より評価されていないといけない。

 つまり執事のトップ。


「先程のパンチは実に見事な一撃でした」


「覚えていたか。乱暴な一撃になって済まなかったな」


「構いませんよ。それで状況から判断しますと我々はあなた様に解放された。更に言えば魔王ブローを倒す、又は封印してエリティア様も解放された、と言った所でしょうか?」


「流石マークス。話が早くて助かるわ」


「お褒めに預かり光栄です」


「魔王ブローは死んだ。疑うなら死体を見せるが?」


「その必要はありませんよ。それよりも本題の話をした方がいいでしょう」


 そうか?

 なら話を進めさせてもらおう。


 因みに残りの二人はマークスよりも早く起きたので先に状況説明をしている。

 そして魔王ブローが死んだことに対してなかなか信じてもらえず死体を見せる必要があった。


 これからの内容はまだ話していないのでようやくこれで使用人三人の情報が一致した状態である。


「これから魔族に対して反撃を始める。そのために協力してもらいたい」


「協力ですか。予想通りの提案ですが、なぜ我々だったのでしょう? 私は見ての通り片腕を失った老いぼれ、二人も戦闘はお世辞にも強いとは言えない。正直仲間にするには足手纏いではないかと愚考します」


「その答えをお前はもう導いていると思うが?」


 マークスは否定せずに考える仕草をした。


「ある程度の予想は立っております。ですが確証はありませんのではっきり口に出すのはいささか」


「それで構わないから二人にも分かる様にその予想について話して見てくれ」


「ふむ。そうですな。……まず第一に城から脱出する気はないでしょう。この城で生活する事を前提として動いている。次に魔王ブローが死亡しているにも拘らず私達は襲われた時魔王ブローの姿があった。たぶんですがタスク様は魔王ブローの姿に変わる術をお持ちであり、魔王ブローとして魔族達を欺きながら行動していくのではと考えました。これであれば我々を仲間に加える事で得られる利がございます。ただ」


「【絶対者のオーラ】についてを気にしているのだな。だがそれに関しては既に解決している。そして見事だ。よくこの短時間でそこまで見抜いたな」


「そこまで褒められるような事ではありません。情報は多々ありましたし、今言ったのは飽くまで予想の範囲を出ませんでしたしね」


 そんな事はないと思うぞ。

 少なくとも横にいる二人はかなり困惑している。


「マークスの言う通り俺はこれから死んだ魔王ブローの代わりに魔族達の頂点に立ち内側から人々を救っていくつもりでいる。その手助けをしてもらう為にお前達を奴隷から解放したんだ」


「あの手助けって具体的には何をすればいいのでしょう?」


「それは簡単でしょう。我々は使用人。魔王ブロー本人の命によって城の中で生活するのが当たり前になって魔族から警戒されていない。その利点を生かして諜報活動をすればいいのです」


「うむ、その通りだ」


 白い空間内で必要な情報は粗方調べ尽くした。

 しかしそれは飽くまでも俺が転移する前の情報でしかない。

 時間が経てば経つ程情報はすぐに劣化していく。

 この情報もいつかは過去のものとなってしまう。


 それを解消するには常に新鮮な情報を得ていくしかない。


 だが魔王ブローの姿では確証の高い情報しか報告されず、聞き込みも行う事が出来ない。

 そこで彼らだ。

 彼らは城内の整備、雑用で城の中を魔族に怪しまれる事なく自由に徘徊する事が出来るし、魔族達の話を盗み聞きする事もできる。

 俺では得られない情報を集められるのだ。


「それから物資も頼みたい。手に入れられるもので構わないから」


「我々の見返りは?」


「奴隷の首輪からの解放と今後の身の安全の保証」


「あなたは私達にこれからまた魔族達のいる場所で働けと言っている。その危険度と内容の重要性から見てその見返りでは不服であると私は思いますな」


「マークスさんっ!?」


 なかなか強欲だな。

 どちらの立場が上か分かった上で強気に出ている。


 ナタリーが声を上げて注意し、シャロットは驚いているのでこちらは普通に助力してくれそうだ。


「つまり俺に協力は出来ないという事か?」


「強力するには足りないと言っているのです」


「ここで協力を断った場合、俺達の秘密を魔族にバレない様にきさまを亡き者にするのも致し方ないと思っているのだがな」


「そうなったら全力で抵抗はさせていただきます」


 ……まぁ、そうなるよね。

 マークスの強さは俺とエリティアの二人掛かりで襲えば難なく倒せるだろう。

 だが窮地の状態でマークスが最悪な方法を取る可能性がある以上これは最終手段だ。


 戦闘を避けるなら報酬を寄越さないといけない。

 なんか足元を見られている感じだな。


「はぁ、分かった。協力するに足る報酬を渡そう」


「まだ若輩のあなたに私の欲を満たす事が果たして出来ますかな?」


 報酬の話に応じた瞬間、報酬がマークスの欲を満たすものにまでグレードアップさせてきた。


 なるほど、マークスは既に欲しい報酬が決まっていてその報酬を貰えるように誘導しているのか。

 だがそう予想通りには動いてやらない。


「では報酬を渡すので少し待っていろ」


 俺はそう言ってスキルを発動させた。

 発動するスキルは浄化魔法の際に使用した【限界突破】、【魔力増大】、【詠唱短縮】に加えて、更に【効果増大】と【効果超促進】の5つ。


 【効果増大】は同じ魔法でも『お前のその魔法、どう考えても初級じゃないだろう』って叫ばれるレベルに魔法の効力を高めてくれるスキル。効果攻撃である【愚者の一撃】や効果が固定の【浄化魔法】には意味を成さなかったが、今回は問題なくその効果を発揮してくれる。


 【効果超促進】も回復魔法の治療時間を大幅短縮することのできるスキルで、超がつくのは【効果促進】が更に進化してレアスキルになったからだ。

 正直Lv極で十分OKだと思ったんだが、効果は神のお墨付きをもらえるほどぶっ飛んでる。


 これが【限界突破】、【魔力増大】、【詠唱短縮】と組み合わさった状態で発動される。


 発動した魔法は再生魔法。


「超位再生魔法――――『リザルク』」


 魔法の発動と同時にマークスの身体は光に包まれていく。


 光に遮られてマークスの姿は見えなくなり、光の中からマークスの悲鳴が響いた。

 その瞬間、ナタリーとシャロットが助け出そうと動くのを察したエリティアがマークスへ向かうのを阻むように立ち塞がった。

 二人掛かりで挑んでも二人の実力ではエリティアを抜けて近づく事はできない。


 二人の事はエリティアに任せて俺は魔法の方に集中する。


 回復魔法なら詠唱後に発動したら後は治るのを待つだけでいい。

 だが再生魔法はここからが本番だ。


 効果時間はわずか数秒。

 なのにその消費魔力は膨大で湯船の栓を抜いたようにみるみる魔力が減っていく。

 その消費スピードは今にも浄化魔法の消費量を抜く勢いだった。


 やっぱり全快で行うべきだったか。


 だがすでに魔法は発動してしまっているから止めようがない。


 残りの魔力残量は30%……25%……20%……15%……っ!?


 そこでようやくマークスを包んでいた光が薄くなり始めた。


 あと少しだ。

 もう少しで終わる。


 マークスの包んでいた光が完全に消えると額に冷や汗が流れた。


 ……あ、危なかった。もう少しで気絶するところだった。


 残りの魔力量が少なくて身体は怠い。

 それでも何とか意識は保っていられるレベルで踏み止まれた。

 一人治すのに浄化魔法三人分のよりも魔力を消費するとか想像以上に燃費の悪い魔法だ。


 再生魔法に悪態を付きつつマークスの様子を疑う。

 光が消えた所でエリティアは妨害を止めた様で彼の元にはナタリーとシャロットが近寄っていく。

 マークスはナタリーとシャロットに支えられながら自分の変化を確認していた。


 変化は外から見ても一目瞭然だろう。


 マークスの失っていた片腕は見事に復活していた。

 見掛け倒しなんかではなく、きちんと自分の意思で動く正真正銘の元の腕だ。


「嘘ぉ……」


「まさかっ!?」


 信じていなかったメイド二人が驚きの声を上げる。

 本人の確認もなく、腕を触り本物かどうか確認していた。


 しかし治してもらった当の本人の反応が薄いな。

 もっと喜ぶなり、悔しがったり感情を表に出していいんだよ?


 それとエリティアは揺さぶるのやめてっ!

 凄い、凄いって褒めてくれるのは嬉しいけど、魔力切れ寸前の意識が少しふわふわしている状態でそんなことやられると、気持ち悪くて……うぷっ。


「タスク様」


「んっ?」


 何とか吐き気をを飲み込んでエリティアを引き剥がして視線を戻すと、マークスは跪いて頭を下げていた。


「先程は試すような真似、誠にすまなかった」


 下がっている頭を更に深々と下げる。

 この格好は普通の臣下の礼だ。


「つまり俺の配下となることを認めるという事でいいんだな」


「そもそも魔族から解放して下さった恩もあるのに、それを返さずにいる事も執事として許しがたい事、その上更に恩を上乗せされればあなたの元で一生掛けて返していくしかありません。この命果てるまで絶対の忠誠を誓います」



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