29話 物資の当て
球体の加護という形で【絶対者のオーラ】の問題は解決。
魔王ブローのなりすましは可能になり、計画は継続できるようになった。
「【絶対者のオーラ】が使えるのは分かったわ。それで魔王ブローのフリをしてこの城で生活するのね」
「そういう方針だ。構わないか?」
「私の事は気にしなくてもいいわ。話を聞いた限り闇雲に逃げ回る方が危険そうだと判断したからタスクの案で問題ないわよ。それにここで嫌だって無策で言われても困るでしょ?」
確かにそういうのは一番困る。
「そう言う事だからこの方針で進めていいわ」
エリティアからも了承が頂けてホッと一息つく。
正直寄生は騎士道的には良くない行為なので、もっと抵抗されると思っていた。
次の話に移ろう。
「知っているだろうけど魔王ブローの元に来訪者ほとんど来ない」
「そうね。脱出する必要がないなら時間はまだあるわね」
あり得ない事だが魔王ブローという魔王は基本玉座の間から出ずに惰眠を貪るいわば重度の引きこもりだ。
引きこもっている理由は普通の引きこもりとは違っているが何もしていないという点は変わらない。
「俺はこれから魔王ブローに変わって行動する訳だが逆転として魔王ブローの行動から大きく逸脱したことは出来ない」
「いきなり活動的になったら怪しまれる物ね」
「そう。あくまでも魔王ブローとして行動しても怪しくないように動かないといけないから街の改善や専用奴隷の解放なんかは出来ない」
「だから大人数を助けられないって言うんでしょ。理解できるから大丈夫よ」
奴隷解放宣言とかできたらかっこいいんだけど残念ながら魔王になったからといって好きにできるという訳ではない。
「まず自分達の行動範囲を拡大する事と物資を揃える事から始めないとな」
「行動範囲の拡大は兎も角物資の調達は魔王だと少々厄介よ。私も出来そうにないし難しいんじゃないかしら」
「それについては当てがある」
「当て?」
「俺達に足りないのは実力と物資、そして人材だ」
「つまり物資の調達が出来る人を仲間にできる当てがあるって事ね」
正解。
ついでに助ける人間の目星もついている。
「でもそっか。奴隷の首輪を解除できるんだからどんどん解放できるのよね」
「無差別に大量解放はしないぞ。城内で解放するのは信用できるものを数人だけだ」
「魔族に気づかれないように少数精鋭にするって事?」
「それもあるけど獅子身中の虫を作りたくないんだ」
敵の真っただ中で行動するのだから少しのミスが致命的になりかねないのでミスが多い者や言う事を聴けない人間は仲間に加えたくないのは当然だ。
だがいくら優秀でも自己主張の強い者や私欲に走る者も駄目だ。
派閥を作って組織を二分するかもしれないからな。
今回の戦争で例を挙げるならエリティアの父親がまさにそれだ。
自分の国王着任中に自国に勇者が誕生したことで、私欲に駆られて味方の連合国から援助金を搾り取り、勇者の育成も満足に行わずにいた。
国単位ならば裕福になったと喜んでもいいが、連合軍全体から見ると害を及ぼしているだけだ。
そういった人間を味方にしてしまうと敵以上に厄介な存在になるので味方にする人間は慎重に選別していかないといけない。
「仲間にするのは能力と技能はあるに越したことはないが、第一に俺達に従ってくれる人間を増やしていきたい。ある程度優秀で恩に報いる義理堅い人物が理想的だ」
そうして俺の独裁組織という一枚岩にしていくのだ。
「でもそんな人間そう簡単には」
「いるさ。それもすぐに解放できるところにな」
◆
Side:?
太陽の日が昇ったのを確認して声を掛けた。
「準備は出来ましたか?」
「出来ております」
「では行こう」
私は後ろに仲間を二人連れながら部屋をノックした。
「失礼します」
私達は扉を開いて入室した。
この部屋は王城で最も畏きお方である魔王ブロー様が居らせられる場。
私達はそんな名誉ある場所の掃除を行う為にこの部屋に訪れたのです。
玉座の間に入ると部屋の様子を窺う。
(……いつもより汚れていますね。それにいくつかの真新しいキズが見られる。暴れられた? いえ、戦闘を行った形跡がある。摸擬戦でもされたのか)
いつもと様子が違っていますが、逆にこれだけ汚れていると掃除のし甲斐があるというもの。
そして最後に玉座の間に座っている魔王ブロー様は起きていられますね。
私達はすぐに掃除を始めず玉座の間まで言って敬礼した。
(……っ!?)
その頭を下げて視界が狭まった瞬間、後ろに控えていた同僚二人を何者かが襲った。
同僚二人は戦闘は不得手。
私の気配を掻い潜って動く相手に反応する暇もなく気絶されてしまいました。
相当の手練れ。
私はすぐに距離を取り襲撃者から魔王様を守るように位置を取る。
この位置取りなら相当遅れを取る事はない。
っ!?
気配がもう一つ。
それも後ろからですと。
「ま――――」
魔王様、と叫びながら振り返った私の視界に映ったのは人間の男性でした。
そして衝撃を加えられた私の意識はそこで失った。
◆
完璧な不意打ちからの顎へのアッパーがクリーンヒットしておじさん執事は後ろに吹き飛んだ。
起き上がっては……来ないな。
よしっ。
何とか自分も仕事を完遂できたことにホッとする。
「いい拳よタスク。片腕になったとはいえ元執事長を一撃で気絶させるなんて見直したわ」
「いや加減が分からなくてとにかく全力で殴っただけだよ。それより最小限のダメージで気絶させているエリティアの方が凄いだろ」
「こんなのコツさえあればすぐにできるようになるわよ」
そう言って褒めてくれながら慣れた手際で気絶させた二人を縛り上げていく。
取り敢えず状況を整理しよう。
彼らは使用人。
現在ではなく、王都陥落前からこの城で働いている使用人だ。
王都陥落で魔王の支配下となった後、城は魔王の物となったが、魔族達に掃除、洗濯、ごみ処理などの雑用仕事は出来ず、かと言って放置すればたちまち城は腐敗してしまう。
そこで城に住んでいた使用人を使い続けることにして残っているのが彼らだ。
エリティアと同じように魔王ブローの奴隷の首輪で隷属化させた上で、この城の管理を任せている。
彼ら三人はこの玉座の間の清掃担当で毎日訪れる唯一の人間だ。
日の出と共に訪れる。
「それじゃあ早速解除を始めよう」
「私一人で限界だったのに本当に大丈夫?」
「任せとけ」
今とあの時では状況が違う。
何たってスキルが使えるんだから。
「【限界突破】、【魔力増大】、【詠唱短縮】」
気絶しない為のスキルを発動する。
【限界突破】は勇者専用スキルであり、勇者ユクスがエリティアの救出を遅らせてまで修業を行っていたスキルだ。
効果はLv1で既に2倍。ここからレベルが上がるにつれて4倍、6倍と他のスキルが霞んで見えるほどチートスキルになっていく。
ただし絶大な上昇値とは対照的に効果の持続時間はスキルと取得者の相性によって変わり、この時間はLvアップでは上昇しない。
転移者であっても勇者ではない俺は相性が良くない為、短い時間しか使用できないとはっきり言われてしまった。その為、高いスキルポイントを払う事はせずにLv1から育てていく事にした。
しかしこのスキルの最も恐ろしいのは、この上昇値ではない。
最も恐ろしいのは他の上昇系のスキルを重ね掛けできることだ。
このスキルはどの上昇スキルとも属していない為、同系統のしがらみが発生しないのだ。
だからこそ次のスキルも有効なのだ。
【魔力増大】
名称通り、魔力上昇系スキル。
このスキルはLv10で3倍。
だがLv極はそれを更に超えて4倍も上昇する。
これが【限界突破】で膨れ上がった魔力を更に上乗せで上昇させるのだ。
この時点で既に三人の奴隷の首輪を解除するだけの魔力量は余裕で確保できた。
【詠唱短縮】
効果内容はそのままだが、なぜ無詠唱にしないのかが疑問だろう。
なぜ無詠唱ではなく短縮にしたのかの説明をしよう。
【無詠唱】は効果が低い下級や中級魔法には効果的だが、上級以上になると失敗する可能性が高まるのだ。
その上、失敗した場合も魔力は消費してしまうので、思っていたほど使い勝手のいいスキルではなかった。
だから安定して確実な効果が見込める【詠唱短縮】を使用するのだ。
そうこう言っている間に詠唱短縮によって詠唱は完了する。
エリティアは気絶させた女性の一人に狙いを定めて魔法を発動させた。
「超位浄化魔法----『セイクリッド・ヘイト』」
【限界突破】Lv1
能力値が全て2倍になる。レベルの上昇に比例して効果も上昇。
【魔力増大】Lv極
魔力量の4倍に増加させる。
【詠唱短縮】
詠唱時間を短縮する。
【無詠唱】
魔法の詠唱を破棄して発動できる。効果が高い魔法ほど失敗し、初めて使用する魔法では効果がない。